連載コラム「銀幕の月光遊戯」第43回
映画『バオバオ フツウの家族』が、2019年9月28日(土)より新宿K’s cinemaを皮切りに全国順次公開されます。
赤ちゃんが欲しい2組の同性カップルの姿を見つめ、新しい家族の形を描いた台湾映画です。2018年秋、台湾で同姓婚を巡る是非の国民投票が話題となっていた中、公開され反響を呼んだ作品がついに日本公開です!
CONTENTS
映画『バオバオ フツウの家族』の作品情報
【公開】
2019年公開(台湾映画)
【原題】
親愛的卵男日記(英題:BAOBAO)
【監督】
シェ・グアンチェン(謝光誠)
【キャスト】
エミー・レイズ、クー・ファンルー、カゲヤマユキヒコ、ツァイ・リーユン、ヤン・ズーイ
【作品概要】
妊活に励むレズビアンカップルとゲイカップルという2組のカップルを通じて、家族の新しい形を問う台湾映画。
ウェイ・ダーション(魏徳聖)、トム・リン(林書宇)、ヤン・ヤーチェ(楊雅喆)などの監督を排出した新人登竜門として知られる脚本賞のコンペから生まれ、映画化された。
2018年秋、台湾で同姓婚を巡る是非の国民投票が話題となっていた中、公開され反響を呼んだ。
映画『バオバオ フツウの家族』のあらすじ
台湾出身で現在ロンドンに住むシンディには、同性の恋人ジョアンがいます。
会社員としてばりばり働くジョアンと画廊で働くシンディは、知り合うと同時に互いに惹かれ、同棲を始めました。
シンディは子どもを持ち家庭を築きたいと望み、ジョアンは、そのために、新しい環境のいい家を購入することを決意します。
ある日、ジョアンは、取引先の友人、チャールズの恋人で植物学者のティムが研究のためにロンドンにやってきたのを祝してパーティーを開きました。
同性同士の2組のカップルが初めて顔を合わせた夜でした。
チャールズとティムも子どもを持ち、家庭を築くことを望んでいました。特にチャールズは、ティムの子どもを授かって、孫を切望するティムの母親に2人の関係を認めてもらいたいという思いを募らせていました。
4人は妊活する計画をともに考え始めました。
最初に生まれた赤ちゃんはジョアンとシンディが、2番目の赤ちゃんはチャールズとティムが育てるという約束が交わされました。
シンディは、自分の生む赤ちゃんを手放すことに抵抗を感じますが、ジョアンと衝突する中、皆の気持ちを受け取り、提案を受け入れます。
しかし自分たちの手では思うようにいかず、病院での体外受精に望むことになりました。
ジョアンとシンディの卵子にチャールズとティムの精子を注入してできる2つの受精卵をシンディの子宮に戻して男の子と女の子の赤ちゃんを産もうというのです。
やがてシンディは双子を妊娠し、ジョアンは歓びを爆発させました。シンディとジョアンは二人の結婚パーティーを催し、友人たちから祝福を受けました。
ところが、ある日、シンディはギャラリーで仕事をしている際、出血し、1人を流産してしまいます。
もう1人は無事でしたが、シンディは、生まれてきたその子が奪われる悪夢にうなされるようになりました。
そんな矢先、ある小切手を目にしたシンディは、ジョアンが生まれてくる子をチャールズとティムに譲るつもりだと誤解し、1人、家を飛び出します。
シンディは生まれ故郷の台湾に帰ってきますが・・・。
映画『バオバオ フツウの家族』の解説と感想
本作品を生み出したスタッフたち
本作は2018年の8月~9月に開催された「第五回台湾国際クイアフィルムフェスティバル」のオープニング作品として上映され、その秋に台湾で一般公開されました。
国立台湾大学大学院に在学中だった(デン・イーハン)が書いた脚本「我親愛的遺腹子」が、台湾の新人登竜門として知られる脚本コンペで優秀賞を獲得。プロデューサーのリン・ウェンリー(林文義)の目にとまり、映画化されることになりました。
リン・ウェンリーは、台湾出身でロンドン国際映画学校を卒業した同性愛に詳しいシェ・グアンチェンを監督に起用。本作はシェ・グアンチェン監督の長編劇映画デビュー作です。
シェ・グアン監督は、台湾、ロンドンという都市を行き来する2組の同性カップルを優しい眼差しでみつめ、4人の繊細な心の内を丁寧に描き出しています。
当初はロードムービーにすることを目論んでいたというだけあって、車窓風景や、それぞれの街が魅力的に映し出されているのも本作の見どころの1つです。
LGBT運動の先進国・台湾
台湾におけるLGBT運動は、90年代に生まれ、2003年には台北でLGBTパレードが始まりました。パレードはその後、高雄、新竹など台北以外の街にも広がりをみせています。
映画においてもLGBTをテーマにした作品が製作され、ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)の『青春神話』(1992)、アン・リーの『ウェデイング・バンケット』(1993)が好評のうちに迎えられ市民権を獲得。『藍色夏恋』(2002)、『僕の恋、彼の秘密』(2004)、『花蓮の夏』(2006)、『GF*BF』(2012)といった青春映画に多数の名作が生まれています。
音楽の世界でも、歌謡大王・翁立友の曲「不能講的秘密」のMVが女性同士の愛をテーマにしており、話題を呼びました。
また、LGBTの象徴とされるレインボーカラーを意味したタイトルを持つ阿密特(張恵妹)の「彩虹」といった大ヒット曲が生まれるなど、台湾はLGBTの先進国という顔を持っています。
2019年5月には、同性間の結婚の権利を保証する特別法案が可決されています。
本作は、大人のカップルの今をみつめ、信頼するパートナーとともに、新たな家族を迎えたいと願う彼ら、彼女たちの真摯な姿を描き、LGBT映画の、そして台湾映画の新しい一ページを開いた作品となりました。
キャラクターに生命を吹き込んだ4人の俳優
重要な役割を果たす4人の出演者のうち、シンディを演じたのは、日本とフランスのハーフで司会者として人気の高いエミー・レイズです。本作で初めて本格的な演技に挑戦し、繊細な役どころを初々しく演じています。
ジョアンを演じたのは、アイドルドラマから、アート映画まで幅広い演技経験のあるクー・ファンルーです。大都会で活躍する女性の強さと弱さを説得力ある演技でみせてくれます。
男性カップルのうちのひとり、チャールズには、台湾で活躍する日本人の蔭山征彦が扮しています。大ヒットした『KANO(KANO 1931~海の向こうの甲子園)』(2014)では出演の他に、若手の演技指導、演出補をこなすなどマルチな才能をみせました。
激しい感情を内に秘めた静かな演技が共感を呼ぶものとなっています。
ティムを演じるのはダニエル・ツアイ。ティムというキャラクターの持つ温かな人柄を、全身で表現しています。
4人の演技からは、同性のカップルがそれぞれ子どもを持ちたいと願う感情がリアルに伝わってきます。
また、ジョアンやチャールズのように、祖国を離れ、異国の地で身を埋めて暮らそうとする人々の静かな闘いも垣間見ることができます。
作り物ではない、まるでドキュメンタリー映画を見ているような切実さが伝わってきます。
まとめ
同性のカップルがそれぞれの子どもを持ちたいと願い、葛藤する姿にすっかり引き込まれてしまいました。
体外受精の医学的進歩の様子にもとても驚かされました。
後半、こうしなければならなかったのだろうかと考えてしまう展開もあるのですが、そのことに関しても、映画は最大限の誠実な姿勢を見せています。親世代が醸し出す静かな困惑もきっちりと描かれています。
繊細なテーマに果敢に挑んだ本作は現在、新宿K’s cinemaにて絶賛公開中です。今後、全国順次公開も予定されています。
次回の銀幕の月光遊戯は…
ユーロスペースにて現在絶賛公開中の『セカイイチオイシイ水~マロンパティの涙~』をお届けする予定です。
お楽しみに!