FILMINK-vol.14 John Cameron Mitchell: Vive Le Punk
オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。
演出をつけるジョン・キャメロン・ミッチェル監督
「FILMINK」から連載14弾としてピックアップしたのは、2017年に公開され好評を博した映画『パーティで女の子に話しかけるには』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督です。
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CONTENTS
映画『パーティーで女の子に話しかけるには』とは
ジョン・キャメロン・ミッチェル監督作『パーティーで女の子に話しかけるには』は、ニール・ゲイマンの同名短編小説を原作に、パンク精神を祝い、パンチのある会話を呼び戻そうとする野心的な映画です。
大ヒットミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001)、露骨なまでに過激で性的な『ショートバス』(2006)、落ち着いた作風の『ラビット・ホール』(2010)とミッチェル監督はいつも限界を押し広げてきました。
本作でミッチェル監督は、1970年代のロンドンを舞台に切り広げられるSF恋愛小説を脚色しました。
パンクとエイリアン付きの『ロミオとジュリエット』
映画『パーティーで女の子に話しかけるには』海外版予告編
――原作者であるニール・ゲイマンの小説は今までに読んだことがありましたか?また、ファンでしたか?
ジョン・キャメロン・ミッチェル(以下ミッチェル):『サンドマン』を除いてあまり彼の小説のことは知りませんでした。ですが私はコミックが大好きなんです。今では彼と作品について話すことができるようになり、この映画を好きだとコメントを頂けて最高です。
彼の作品を元に映画を作ったのは『パーティーで女の子に話しかけるには』が初めてですね。他の作品はどうにも多額のお金が絡むもので…。
――原作の短編小説は映画では冒頭の部分ですね。後の物語は『ロミオとジュリエット』といったところでしょうか?
ミッチェル:始まりの部分、それはパーティーだけでエル・ファニング演じるキャラクターも登場しません。脚本家のフィリッパ・ゴスレットはニールと協力しあって次の展開を決めて行きました。パンクとエイリアン付きの『ロミオとジュリエット』をね。
『ロミオとジュリエット』の様に危険が発生するまではドタバタコメディです。そしてまた、初恋の物語なんです。初恋とは、いつも運命付けられているもの、それが特別に感じさせる理由でもあります。それに永遠に続かないからこそいつまでも覚えている。
アレックス・シャープが演じたエンの性格は私の思春期時代にちょっと似ているんですが、私の場合はゲイなのでもう少し厄介でしたね。
衣裳デザイナーのサンディ・パウエルはエイリアン
――初恋は人気のある題材ですよね。
ミッチェル:以前ほどは取り上げられない題材に感じます。
衣裳デザイナー、サンディ・パウエルの超健康的なラバー・グローブ。私の過去作品『ショートバス』と比べると本作はかなりマイルドになっています。
――衣裳デザイナーであるサンディ・パウエルとの連携はいかがでしたか?
ミッチェル:実は最初は『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のコスチュームを担当したアリアンヌ・フィリップスにオファーしたんです。
本作には保護者的存在が登場するんですが、実はそのキャラクターはエイリアンなんです。サンディはキャリアも実績もあるため、私たちは彼女を“保護者サンディ”と呼んでいました。
衣裳についてはサンディとこんなやりとりがありました。「もうすぐ別のシーンを撮るんですけど、衣裳の準備はできていますか?」と聞くと、彼女は「ごめんなさい、準備はできないの」って。「でもスケジュール通りに進めているんですが…」「絶対無理、資金は十分にないし」「だったらボディースーツ!シンプルなボディースーツ!それでいこう」こういった勢いとインスピレーションに溢れていて、彼女は私を素晴らしい意味で、驚愕させました。
80年代のデレク・ジャーマンの映画『カラヴァッジオ』以来あまり楽しい仕事をしていないと言っていましたが、サンディは現代の映画界で最高のデザイナーかもしれません。
本作に込めた政治的な意味合いについて
――物語の舞台、クロイドンでは何を作りましたか?
ミッチェル:若いころに、スコットランドでわずかですが過ごしたことがあります。私の母はグラスゴー出身です。ですから地方の70年代のイギリスの街は私にとって親しみのあるものですが、よく知らない人にとってクロイドンはパンチラインの様なものでしょう。アメリカ人にとってのニュージャージーの様に「ああ、彼はクロイドン出身ね、ああ」といった感じですね。
ですから、エイリアンがそんな街を訪れるということはますます奇妙なんです。郊外のパンクシーンがあるところでもありますが、ロンドンの中心部の様にクールではなく少し遅れている。ニコール・キッドマンのキャラクターは、自分がクロイドンで立ち往生していることに焦りといら立ちを抱いています。
――あなたの映画を政治的な意味合いで言及される事についてはどう思われますか?
ミッチェル:私は好きですよ。なぜならこの物語は、未だに多くの人が壁に囲まれた閉鎖的な場所、居留地で立ち往生していることを示しているからです。登場するエイリアンたちは自殺協定の様なものに入っています。私は人が心を閉ざしてしまうのは死ぬことと似ていると思っています。同じアクセントの人々、同じ肌の色の人々と死ぬ。
この物語の、ウイルスが蔓延して人類を健康的にするというメタファー全体が私にとって重要です。今トランプが政権を握っていますから、私たちは彼というウイルスから生き延びなければならないわけです。私はトランプがパンクだとは思いませんが、進化するか死ぬかは私たち次第なんです。
物語のキャラクターたち、エイリアンもパンクキッズも進化して新しい品種を生み出し、最後にはパンクエイリアンの赤ちゃんが生まれる、それは希望のある結末です。
多くの若い人がこんなパンク精神と希望を必要としているんじゃないでしょうか。なぜなら今彼らはトランプ政権が起こした奇妙な物事に直面しているわけですから。年配の方たちは今パンクで、「トランプ!昔に戻ってロックンロールってのがどんなもんかわからせてやる!」と声を上げていますね。妙なことに、大人たちが怒れるパンク集団になってしまいました。
映画には計らずもイギリスEU離脱に関する少し変わったメタファーがありました。ユニオンジャックを身につけたエイリアンたちがこう言うんです。「あなたが出て行ったら、二度と戻ってこれませんよ」そして彼らは建物から飛び降りるんです。
サンディ・パウエルは私に「どうして彼らはジュビリー・ユニオンジャックを身につけないの?」と問いました。私が「彼らが建物から飛び降りるのなら、それだけで何かの比喩になるんじゃないでしょうか?」と答えたら、彼女は「私にはどんな意味になるか分からないけど、ユニオンジャックをつけたまま飛び降りたらファビュラスだと思うわ」と提案してくれたんです。
そして映画完成から1年後、イギリスのEU離脱のニュースによって意味を成したという訳です。
パンクスタイルのニコール・キッドマン
――どのようにしてニコール・キッドマンをパンクにしたのですか?
ミッチェル:私はパンクを求めたんですが、彼女の意思とは少し反していて、「私はパンクじゃないわ、田舎者の西洋人なんです」と初めは否定的でした。「やったら絶対好きになるよ!」と説得したら、ニコールは「今までに演じたことがないのよね」と乗り気になってくれました。
あるシーンで誰かがギターで彼女の頭を叩くのを見て、「どんな感じになるかわからないけど、とにかくニコールは最高!」と確信しました。ニコールは自分のキャラを崩壊させて、ずっと笑いながら叫んで爆風みたいに楽しんでくれました。
――以前の彼女との映画『ラビット・ホール』とは全く違ったものでしたか。
ミッチェル:亡くなった息子についての映画ですね。ええ、私とニコールは良い関係を築いており、一緒に出来ることをお互いに見つけようとしています。
――パンクはすぐに消滅しましたが、あの時代を恋しく思いますか?
ミッチェル:哲学的な意味合いで懐かしく思います。明らかにそこには今とは異なるパンク哲学があったんです。
私のお気に入りは“ブリティッシュ・インカーネイション”の時代。ニコールが言うように抑圧者を打ち砕き、オリジナルな存在であろうとし、自分自身と権力に挑戦し、創造し、表現し、コミュニティの中にいた時代で、最高のアナーキズムです。
現在では、無政府主義についての政治を描き、その他の場合は少しの政治的要素と自分の両親がいかにクレイジーか、といった感じで取り上げられることが多いですよね。例え懐疑的であっても、愛を持って世界を見る方法が少なくなっている様に思えます。
パンクは常に物事を良くしようとすることに向かっています。時々は何かを燃やさなきゃいけないかもしれませんが、私はいつも再生する前には破壊的な物事があると考えています。
エル・ファニングは“星”そのもの
――エル・ファニングが演じたザンのキャラクターを通して、本作はフェミニスト映画という見方ができるでしょうか?
ミッチェル:ちょっとドジな少年の主人公は置いておいて、メインキャラクターたちはほぼ女性たちです。ニコールとエルのキャラクターは母であること、娘であることについてよく理解しています。エイリアンの中で最強の存在はエリザベス女王に髪型を似せた両性具有のキャラクター。ルース・ウィルソン演じるキャラクターは最もセクシーなエイリアンです。
私はこれがフェミニスト映画とは考えていません。強い女性キャラクターがたくさんいますが、エルのキャラはエイリアンですし、彼女が本当はどんなジェンダーか知りようがない。
彼女は星そのものだったんです。星はジェンダーになることができるかもしれないけれど、ジェンダーは星になれませんからね。
FILMINK【John Cameron Mitchell: Vive Le Punk】
英文記事/James Mottram and William Tentindo
翻訳/Moeka Kotaki
監修/Natsuko Yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au
*本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。
映画『パーティで女の子に話しかけるには』の作品情報
【日本公開】
2017年12月1日(イギリス・アメリカ合作映画)
【原題】
How to Talk to Girls at Parties
【監督】
ジョン・キャメロン・ミッチェル
【原作】
ニール・ゲイマン
【キャスト】
エル・ファニング、アレックス・シャープ、ルース・ウィルソン、マット・ルーカス、ニコール・キッドマン
【作品概要】
『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督が、エル・ファニングとトニー賞受賞の若手実力派アレックス・シャープを主演に迎え、遠い惑星からやって来た美少女と内気なパンク少年の恋の逃避行を描いた青春音楽ラブストーリー。
オスカー女優ニコール・キッドマンが、パンクロッカーたちを束ねるボス的存在の女性を演じました。
映画『パーティで女の子に話しかけるには』のあらすじ
1977年、ロンドン郊外。
大好きなパンクロックだけを救いに生きる冴えない少年エンは、偶然もぐり込んだパーティで、不思議な魅力を持つ美少女ザンと出会います。
エンは好きな音楽やファッションの話に共感してくれるザンと一瞬で恋に落ちましたが、2人に許された時間は48時間だけ。
2人は大人たちが決めたルールに反旗を翻すべく、大胆な逃避行に出て…。