東京フィルメックス2022『石門』
第23回東京フィルメックス(2022年10月29日(土)~11月6日(日)/有楽町朝日ホール)のコンペティション9作品のひとつとして上映された『石門』。
妊娠をテーマにした本作では、監督をホワン・ジー&大塚竜治が務めました。
『卵と石』(2012)『フーリッシュ・バード』(2016)に続く「女性の性問題」を扱うジーの作品の主人公にはヤオ・ホングイ。
ヤオ・ホングイの成長とともに、複雑な女性心理を捉えた作品『石門』をご紹介します。
【連載コラム】『東京フィルメックス2022』記事一覧はこちら
映画『石門』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【英題】
Stonewalling
【監督】
ホワン・ジー&大塚竜治
【出演】
ヤオ・ホングイ
【概要】
2022年・第23回東京フィルメックス・コンペティション部門出品作品のホワン・ジーと大塚竜治という監督たちの共同作品『石門』。
女性の妊娠・出産を題材にした『石門』には、『卵と石』(2012)から続けてヤオ・ホングイを主役に起用しています。
2022年度のヴェネチア国際映画祭ヴェニスデイズ部門を皮切りに、トロント国際映画祭、NY映画祭など、アジア映画として大きな躍進を続けています。
映画『石門』のあらすじ
英語を学びながら、客室乗務員を養成するための学校に通っている20歳のリン。
彼女は同じ学校に彼氏ができ、妊娠に気づきますが、子供を持つことも中絶も望みません。
彼氏には中絶したと告げ、診療所を経営している両親の元へ戻ります。
その頃リンの母親は、診療所で死産の医療訴訟に巻き込まれ、資金繰りに悩んでいました。
リンはそんな両親を助けるために、ある決意をします。
映画『石門』の感想と評価
妊娠をテーマに女性の生き方を描く
主人公の20歳のリンは、客室乗務員を夢みる学生です。しかし予期せぬ妊娠が発覚し、それを期に未来が変わり始めるリンの姿を描き出した『石門』。
作品を手がけたホアン・ジー&大塚竜治監督とリンを演じるヤオ・ホングイは、彼女が14歳の時に『卵と石』(2012)に出演してからずっと共同作業を営んでいたと言います。
ホアン・ジー&大塚竜治監督は、気心の知れたヤオ・ホングイの持つ存在感と魅力を存分に活かし、実際に妊娠から出産に至るまでの主人公の10ヶ月を、静謐な演出で捉えていました。
妊娠に気が付いて悩むリンですが、台詞も少なくその心理描写もほとんどないのが、本作の特徴と言えるのかもしれません。
また、作品の登場人物は全員ノンプロと言います。
農村の様子も町の様子もとても現実的に撮影されているうえに、ストーリーもリアリティに溢れている本作。キャストが作り物ではない素の行動から出している存在感にも注目です。
2人の監督が語る製作エピソード
本作は、望まぬ妊娠が判明した女子学生の選択を粘り強いカメラワークで捉えています。
製作のきっかけは、ホアン監督の娘が5歳の頃に「ママはどうして私を生んだの?」と尋ねたことだといいます。
答えに困った監督は、少女から大人になりかけている女の子が出産するか否かで悩む姿を撮ることで、答えを導こうと考えたそうです。
よりリアルな作品にするため、撮影には妊娠期間と同じ10カ月をかけています。
役者が全員素人のためそれぞれの状況や撮影できる時間によって撮る内容を変えたという大塚監督。脚本に頼らない製作プロセスは独特なセンスを放っています。
また、「石門」という題名の意味も興味深い。
タイトルについて、ホアン監督は「女性を取り巻く環境には妨げる壁があるような気がしています。打ち破りたくても、なかなか突破して先に進めない。主人公もそんな状況にいます。彼女のお腹の赤ちゃんは石の門を突き破ってこの世界に出て来ることができるのか。そんな意味を込めました」と語りました。
映画全編から受ける「石の門」の固くて壊しにくいイメージは、監督が訴えたかったこととわかるコメントです。
まとめ
第23回東京フィルメックス(2022年10月29日(土)~11月6日(日)/有楽町朝日ホール)のコンペティション9作品のひとつとして上映された『石門』をご紹介しました。
妊娠から自分の将来を見つめ直す女性リンを描いた『石門』。
大きな騒動もなく粛々とストーリーは進みますが、出産までの10カ月の間に自身を見つめるリンに共感も覚えます。
社会の中では女性を取り巻く環境には石のように固い壁が存在することを改めて教えられる作品でした。
また、ホワン・ジー&大塚竜治監督ならではの共同作品の魅力もたっぷりとご覧いただけます。
【連載コラム】『東京フィルメックス2022』記事一覧はこちら
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。