連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第6回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回、紹介する作品は、映画『記憶屋 あなたを忘れない』です。
織守きょうやの小説『記憶屋』が、平川雄一監督により、山田涼介と芳根京子の共演で映画化となりました。
人の記憶を消すことが出来るという都市伝説「記憶屋」の存在。もし、自分の大切な人の記憶が消されてしまったら…。その記憶を取りもどすことは出来るのでしょうか。
映画と原作の違いを比較し、より深く映画を楽しみましょう。
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CONTENTS
映画『記憶屋 あなたを忘れない』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
織守きょうや『記憶屋』
【監督】
平川雄一朗
【キャスト】
山田涼介、芳根京子、佐々木蔵之介、蓮佛美沙子、泉里香、田中泯、杉本哲太、佐々木すみ江、櫻井淳子、戸田菜穂、ブラザートム、須藤理彩、濱田龍臣、佐生雪、稲垣来泉
映画『記憶屋 あなたを忘れない』のあらすじとネタバレ
満月の夜、吉森遼一は「記憶屋」をググっていました。ネット上の都市伝説好きが集まるサイトでは、日々情報交換が行われています。
「記憶屋は本当に存在するのかな?」。遼一が記憶屋を探しているのには訳がありました。
それは、恋人だった澤田杏子の記憶の中から、遼一の記憶だけが失われたからです。
同じ大学に通う杏子にプロポーズをし、OKをもらった矢先の出来事に、遼一は信じられない思いでした。そこで、記憶屋の存在を思い出します。
幼い頃、幼なじみの真希が連続幼女誘拐事件に巻き込まれ、目の前で男に連れ去られたことがありました。
しかし、戻ってきた真希は事件のことを何も覚えていませんでした。当時、都市伝説と化していた記憶屋の仕業だと噂が広がります。
辛い記憶が消えたことで、真希は明るく活発な女の子に育ちました。遼一と同じ大学に合格し、広島から上京した真希は、相変わらず遼一の後を追いかけまわし、世話を焼いています。
ある日、遼一は、大学の特別講座でやって来た弁護士・高原と知り合います、彼もまた都市伝説サイトの住人で、記憶屋を探している人物でした。
高原は、落ち込む遼一を誘い、杏子がバイトしている喫茶店に連れて行きます。遼一の記憶がない杏子は、何度か声を掛けてくる遼一を不審に思っていました。
高原の後押しで、遼一はもう一度、杏子と向き合う決心をします。「俺が記憶を取りもどすじゃけ」。
遼一は、高原と助手の七海の協力で、本格的に記憶屋探しを始めます。
高原もまた、記憶屋を探しているのには理由がありました。高原は余命わずかでした。離婚はしているものの、娘の愛莉はパパが大好きです。
愛莉を悲しませたくない、新しい父親と幸せに暮らして欲しいという思いから、娘の記憶から自分を消して欲しいと願っていました。
遼一と高原は、過去の真希の事件を調べていました。2人は、当時、真希を保護した警察官、真希の祖父・慎一に話を聞きに、広島に向かいます。
慎一に会い、遼一は謝りたいことがありました。真希が誘拐された日、遼一たちは町の花火大会に向かう途中でした。
子供たち同士で会場を目指す途中、幼い真希が足手まといに感じた遼一は、真希を置いて先に行ってしまったのです。戻った時には、真希はすでに男に連れ去られていました。
泣きながら懺悔する遼一に、慎一は言います。「忘れないと生きていけない人もいる。辛い記憶は忘れりゃ、前に進めるんじゃ」。
帰り道、遼一は考えていました。杏子がもし、自ら望んで記憶を消したのなら。辛い思い出したくない記憶があるのだろうか。
『記憶屋 あなたを忘れない』映画と原作の違い
原作の『記憶屋』は、日本ホラー小説大賞で読者賞を受賞した作品です。ホラー部門ではありますが、記憶屋を巡って繰り広げられるエピソードは、人間の記憶について考えさせられる人間ドラマとなっています。
映画化にあたり、この人間ドラマが一層深堀りされ、より感動的によりドラマチックな展開になっていると感じました。
いくつか違いをあげていきましょう。
原作と違うキャラ設定・高原智秋の場合
原作と違うキャラ設定一人目は、記憶屋を探す登場人物のひとり、弁護士の高原智秋(佐々木蔵之介)です。
原作では、高原に家族はおらず、関わりのある人間は助手の外山という男性と、慕ってくる弁護人の娘・七海だけです。
映画では、高原の元妻(戸田菜穂)と子供・愛莉が登場します。外山(ブラザートム)は、喫茶店のオーナー、七海(泉里香)は高原弁護事務所の助手という、原作とは違う役どころになっています。
原作での、高原と助手の外山とのやり取りや、関係性が素敵だったので、映画では違う設定になっていたのが少し残念です。
また、高原が記憶を消して欲しい理由も大きく変わってきます。
原作では、自分がいなくなった後、心の弱い七海が後を追わないか心配し、七海の中から自分の記憶を消して欲しいと願います。映画では、娘の愛莉を悲しませず、新しい家族との幸せを願ってのことでした。
どちらも、「大切な人から自分の記憶を消して欲しい」という願いは一緒です。
しかし、その結果の違いにも驚かされることになります。
原作では、七海の中から高原の記憶は消され、普通の高校生活を送る七海が描かれています。
映画では、愛莉の中から高原の記憶は消されませんでした。それは記憶屋が、愛莉に父親のことを忘れて欲しくなかったからです。この結末には、胸をなでおろしました。
原作と違うキャラ設定・澤田杏子の場合
主人公の遼一(山田涼介)の恋人・澤田杏子(蓮佛美沙子)のキャラ設定も、原作と大きく異なっています。
原作での杏子は、遼一の大学の先輩で、互いに惹かれ合いますが、お付き合いはしません。トラウマからくる極度の夜道恐怖症に悩み、記憶屋に頼みます。
映画での遼一と杏子は、結婚を約束した恋人同士です。プロポーズを受けた杏子が、次の日から遼一の記憶を失くします。
遼一は、記憶屋に一方的に記憶を消されたと、記憶屋を憎むことになっていきます。
しかし、それには不幸な出来事が隠れていました。原作とは違う、衝撃的な展開に驚かされます。
幼なじみ真希の消された記憶
原作では、幼なじみ真希が、記憶屋に消された記憶は、両親が浮気をしていたという記憶でした。
映画では、真希が過去に体験した連続幼女誘拐事件の被害者だったという記憶が消されています。
また映画では、真希の他にも、遼一の恋人・杏子と、女子高生・操の消された記憶に違いがあります。
原作では、杏子は夜道恐怖症の記憶を、操は幼なじみの要から振られた記憶を消しています。
映画では、共に連続女子強姦事件の被害者とし辛い記憶を消してもらっています。
何かしらの辛い経験を持たされた映画版。残酷な犯罪が増える現代にあり、胸に迫るものがあります。
記憶屋の行方
記憶屋の正体は、幼なじみの真希(芳根京子)でした。真希は「記憶屋」を祖父から継ぎ、ひとり苦しんできました。
ずっと思い続けてきた遼一は、最後まで振り向いてくれることはありませんでした。
原作ではラスト、正体を知られた真希は、遼一の記憶を消し「ごめんね」。と呟きます。
映画では、そのあと、真希は町を去ります。遼一は、杏子の元へと帰っていきます。
真希は、いや、「記憶屋」は、次はあなたの町に行くかもしれません。
まとめ
『記憶屋』の原作と映画を比較し、違いを紹介しました。
小説では、その後の10年後を描いた『記憶屋Ⅱ』と『記憶屋Ⅲ』と続きます。また、映画化を受け、原作『記憶屋』のスピンオフ版として『記憶屋0』も発売となっています。
映画版での登場人物の過去を描いた『記憶屋0』も合わせて読むと、さらに深堀りできること間違いなしです。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介するのは、2020年初夏公開予定の映画『朝が来る』です。
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