連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第25回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介するのは、原田マハのベストセラー小説『総理の夫 FIRST GENTLEMAN』です。このたび、田中圭と中谷美紀の共演で映画化。2021年9月23日(木・祝)公開予定です。
妻が日本初の総理大臣に!? 鳥類学者の夫・日和(ひより)は、史上初のファーストジェントルマンとして注目を浴びることに。
日本の未来のため信念を貫く理想の女性総理・凛子を中谷美紀が、政界という未知の世界で愛する妻を支え奮闘する夫・日和を田中圭が演じます。
監督は、『かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦』『ニセコイ』など、テンポの良いラブコメが大人気、河合勇人監督。
混迷の日本国。税制、原発、社会福祉。待ったなしの日本に、女性総理が風穴を開ける!悪習渦巻く政界で、凛子と日和は明るい未来を築けるのか。
感動の政界痛快エンタメ小説『総理の夫 FIRST GENTLEMAN』。映画公開に先駆け、原作のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。
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CONTENTS
映画『総理の夫』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
原田マハ『総理の夫 FIRST GENTLEMAN』
【監督】
河合勇人
【キャスト】
田中圭、中谷美紀、貫地谷しほり、工藤阿須加、松井愛莉、木下ほうか、長田成哉、関口まなと、米本学仁、国広富之、寺田農、片岡愛之助、嶋田久作、余貴美子、岸部一徳
小説『総理の夫』のあらすじとネタバレ
「20XX年、9月22日晴天。この日を決して忘れまいと、日記をしたためることを思い立つ。今日、私の妻・凛子は、総理になる」。
鳥類学者の相馬日和は、これまでにも野鳥観察日誌を欠かさず付けているものの、自分の妻の日記を書く日が来ようとは考えもしませんでした。
新聞の朝刊の一面には「日本初の女性総理誕生」「42歳最年少の女性総理大臣の誕生」という見出しが躍っています。
結婚10年目を迎えた頃、少数野党「直進党」の党首を務めていた妻・凛子から「ねぇ、日和クン。もしも私が総理になったら、何かあなたに不都合はある?」と聞かれ、「いいや、何も不都合はないよ」と答えた日和。
「日和クンの、そういうところがいいんだよね」と、にっこり白い歯を見せて笑う凛子は、今や本当に日本の総理大臣になろうとしています。
凛子が総理に上り詰めた背景には、新党を立ち上げた「民心党」の党首・原九郎の存在がありました。原九郎は、政治家の中でも野心的で急進的な人物であり稀代の策士でもあります。
前首相率いる「民権党」の衰えを逃さず解散総選挙に持ち込み、自らは党を離脱。新党を立ち上げ選挙を勝ち抜き、多数の議席確保に成功する大躍進を遂げたのでした。
次の総理には原九郎が出馬すると誰もが期待をしたにも関わらず、原九郎が担ぎ上げたのが、まだまだ小さい党「直進党」の党首・相馬凛子でした。
長年、政策秘書として凛子に仕えてきた島崎虎山が、凛子を迎えにやって来ました。「じゃあ、いってきます」。凛子は希望にあふれ、輝きを放つ女神のような笑顔で出陣していきました。
日和はというと、家の前に張り込んでいた大勢のマスコミの取材陣に、もみくちゃにされながらようやく勤務先の鳥類研究所に出勤しました。
どこか天然でおっとり気味の日和は、「総理の夫広報担当」として付くことになった富士宮あやかに「総理の夫として自覚を持ってください」と手厳しく言われる始末です。
とにかく動き出した新しい生活は、日和が驚くことばかり。凛子のファンクラブ「凛子ジェンヌ」に、日和のファン「ひよらー」による追っかけ。総理官邸への引っ越しに、プライベートも常に監視されています。
そんな中、日和の母・相馬嵩子から「一度実家に顔を出しなさい」と呼び出しが入ります。日和の実家、相馬家は日本を代表する大財閥です。
嵩子は、当初、凛子との結婚を渋っていたにも関わらず、相場家から出た総理に嬉しさを隠しきれない様子です。凛子が総理になったのは相馬家のおかげとでも言い出しそうです。
会社経営をする日和の兄・多和は、凛子に親し気にするも、政界の力を意のままにしたいという願望が丸出しです。
凛子が所信表明で掲げた指針のひとつに消費税増税が掲げられています。一部の物の税率を上げる「複数税率」を前提としたもので、日本の財政危機を乗り越えるためにもはや避けて通れない対策です。
多和は、自分の会社の商品が増税対象と知り、政策に口を挟もうとしてきます。日和はこの2人からも凛子を守らなければなりませんでした。
日和の頑張りのおかげとは決して言えたものではありませんが、凛子の人気は凄まじく、常に国民目線で訴える総理演説に、支持率はどんどん上がる一方です。日和も慣れない公務に協力し、妻を支えます。
忙しく過ぎる日々に、日和は疲れ気味でした。祖父から譲り受け、毎朝、野鳥がやって来る護国寺の家は、日和にとって安堵の地でしたが、総理官邸に引っ越してからは官邸と職場の往復だけになっていました。
妻の凛子は総理業に忙しく、顔を合わせて話すこともめっきり減っていました。そんな寂しい日和に優しい言葉をかけてくれるのが、同じ職場の伊藤るいでした。
ある日、日和に伊藤るいから急な連絡が入ります。所長の学会発表のために必要な資料を貸してほしいので、護国寺の家にお邪魔したいという内容でした。
護国寺の家にやってきた伊藤るいは、日和に家族の悩みを打ち明けます。初めて聞く彼女の悩みに日和は胸を痛めます。帰りに一緒に乗ったタクシーでは日和の肩に頭を預け、彼女は泣いていました。
それから程なくして、日和の元に政治界のドン・原九郎から連絡が入ります。以前、凛子と一緒に食事の席に着いたことはあっても、直接連絡を取り合う仲ではありません。
話しは、日和と伊藤るいのスキャンダル写真が撮られたという内容でした。身に覚えのない日和でしたが、写真を見るにあの時のタクシーの様子です。
原九郎は、政治界のスキャンダルを追うフリー記者・阿部久志から手に入れたという写真のもみ消しに、一千万支払うように日和に言います。
日和は凛子に相談すべきか、はたまた誤解だと伝えたい気持ちに駆られますが、凛子はいま最も大事な時期です。自分のスキャンダルで困らせることは出来ません。
日和は、自分でどうにかお金を支払う方法を考えますが、一千万の大金を振り込みとなるとバレてしまいます。
阿部久志に直接会うにはどうしたらいいのだろう。試しにインターネットで検索してみると何ともチャラいHPが見つかりました。怪しいと思いながらもメールしてみます。
映画『総理の夫』ここに注目!
『カフーを待ちわびて』『キネマの神様』など数々の作品がドラマ・映画化されてきた人気作家・原田マハ。この度、日本初の女性総理誕生を描いた痛快エンタメ小説『総理の夫』が映画化となりました。
20XX年、史上初女性で最年少総理に選出された相馬凛子、42歳。その夫・鳥類学者の相馬日和の日記という形でストーリーは進んでいきます。
ファーストジェントルマンとして妻を支えることを決意した日和でしたが、次から次へと襲い掛かるスキャンダルに右往左往するばかり。
どこか天然でそそっかしい日和の奮闘と、曲がったことが大嫌い正義のヒーロー凛子総理の日本改革が、見どころの一冊です。
税制の見直し、脱原発問題、社会福祉の充実。今の日本ともリンクする社会問題を考えるきっかけにもなります。男女に関わらず「本当にこんな総理がいてくれたらいいのに」と思わずにはいられません。
ファースト・ジェントルマン・相馬日和
相馬日和は、日本の経済界に君臨する大財閥の息子でありながら、鳥類学者として野鳥を愛する「鳥オタク」。そして、妻・凛子を「この世の神秘」と称え愛する男です。
日和は凛子に一目惚れをしたその日から、ずっと凛子に夢中です。それは、日記の随所にも書かれており、時には自分で照れてしまうほど。
どこか頼りなさそうに見える日和ですが、凛子への愛とどこまでも正直な性格は、一国の総理となった凛子にとって最大の癒しとなっていきます。
演じるのは、日本の癒し俳優といっても過言ではない田中圭です。まさに、原作の日和のイメージにピッタリの配役となりました。
日本初の女性総理・相馬凛子
父は有名作家、母は世界で活躍する政治学者という2人の間に生まれた凛子。両親を亡くしてから、母の意思を継ぎ政治家への道を歩みます。
その美貌と知能の高さに寄ってくる男性は多いものの、凛子自身は肩書とか財産には興味がないようでした。
日和の優しさを感じ取った凛子は、ぎこちないデートにむしろ好感を抱き、心を許していきます。凛子と日和は、周りからは不思議なカップルに見えましたが、互いに心が通じ合える素敵な関係を築いていました。
そして、注目すべきは、凛子の総理として正義を貫く政治政策です。「一緒に日本を良くしましょう」と先頭に立つ姿は、政界の古いしきたりを払拭し、国民の心をも動かしました。総理演説シーンは見どころのひとつになることでしょう。
演じるのは、凛とした佇まいが本物の総理に見えて来そうな中谷美紀です。日和を演じる田中圭に続き、原作のイメージにピッタリです。
日本の未来
解決していかなければならない問題が山積みの日本。もはや国民は国の現状から目を背け、政治家を批判するばかり。「誰が総理になっても同じ」と興味がありません。
原作は2013年に出版されていますが、この状況は現在でも変わりないのではないでしょうか。むしろ、世界中で苦境に立たされている今、国のリーダーの在り方が問われています。
世界では、すでに多くの女性リーダーが活躍されています。日本では、女性初総理が誕生するのはいつだろうと思わずにはいられません。
まとめ
「ある日突然、愛する妻が総理大臣になっちゃった!?」。河合勇人監督により、田中圭と中谷美紀の共演で映画化となった、原田マハの原作『総理の夫』を紹介しました。
こんな総理を国民は待っていた!国民を信じ、決して裏切らない。ひとりひとりの手を取り、輝く未来に向かって、引っ張って行ってくれるリーダーを。
日本中にパワーを与え、元気を届けてくれる映画『総理の夫』は、2021年9月23日(木・祝)全国公開予定です。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介する作品は、『かもめ食堂』『彼らが本気で編むときは、』の荻上直子監督が2019年に発表した小説『川っぺりムコリッタ』です。
このたび、監督自身の脚本・監督で映画化が決定。2021年11月3日(水・祝)、全国公開予定です。
人と関わることを避けひっそりと生きたいと願う山田は、訳あってやって来た土地で安アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。
山田の願いは空しく、隣の部屋の島田をはじめアパートの住人たちとの交流が始まります。
仏教用語で「ささやかな幸せ」などを意味する「ムコリッタ」。人間が生きる上での、ささやかな幸せとは。人はひとりでは生きていけない。
映画化では、山田役を松山ケンイチ、島田役をムロツヨシが演じます。
映画公開の前に、原作のあらすじと、映画化で注目する点を紹介していきます。