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Entry 2020/05/17
Update

『劇場』小説ネタバレと結末までのあらすじ。映画化原作の又吉直樹の第2弾は恋愛がモチーフ|永遠の未完成これ完成である15

  • Writer :
  • もりのちこ

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第15回

映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。

今回紹介する作品は、『劇場』です。小説デビュー作「火花」で芥川賞を受賞した、お笑い芸人・又吉直樹の2作目となる純愛小説「劇場」が、映画化となりました。

映画公開は4月17日の予定でしたが、新型コロナ感染拡大防止対策の影響で公開日が延期となり、2020年7月17日(金)より公開となりました。

演劇にすべてを懸ける主人公・永田を演じるのは、『キングダム』(2019)の山崎賢人。そんな永田を献身的に支える彼女・沙希を演じるのは、『万引き家族』(2018)の松岡茉優。

監督は『世界の中心で愛を叫ぶ』(2004)『ナタラージュ』(2017)など、これまでにも、情熱的で切ない恋愛映画を撮ってきた行定勲監督。

又吉直樹の純文学の世界を、最も勢いに乗る実力派若手俳優の共演で、行定勲監督がどのように映像化するのか。

映画公開に先駆け、原作のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。

【連載コラム】「永遠の未完成これ完成である」記事一覧はこちら

映画『劇場』の作品情報


(C)2020「劇場」製作委員会
【公開】
2020年(日本映画)

【原作】
又吉直樹

【監督】
行定勲

【キャスト】
山﨑賢人、松岡茉優、寛一郎、伊藤沙莉、大友律、井口理、三浦誠己、浅香航大

映画『劇場』のあらすじとネタバレ


(C)2020「劇場」製作委員会
8月の暑い日、永田は東京の街をひたすら歩いていました。人と眼が合わないように、顔の輪郭が明瞭に見えだしたら下を向きます。

「みんな靴を履いている。どんな人も、靴を買いにいった瞬間があると思うと面白いな」。大勢の人が行き交う東京で、永田は虚弱な幽体のようにさまよっていました。

自分の姿を映し出す画廊の窓ガラスを眺めていると、中に飾られていた月の下で歯をむき出しにした猿の絵が浮かびあがってきました。

ふと隣を見ると、自分と同じように画廊をのぞき込むひとりの女性がいます。永田は、叫びたくなると同時に、泣きたくなりました。

「感情を爆発させたい。この人ならわかってくれるのではないか」と咄嗟に感じた永田は、彼女の後を追いかけます。「靴、同じやな」。

これが永田と沙希の出会いでした。金もなく、汚らしい恰好で、挙動不審にお茶に誘う永田を、沙希は後々「あの時は殺されると思った」と話します。

大阪出身の永田は、学生の頃から一緒に演劇をしていた親友の野原と上京後、劇団「おろか」を旗揚げしました。

しかし結成3年になっても、客足は重く、公演を重ねるたびに酷評を受け続け、演劇だけで食べて行くのは遠い夢のようでした。

沙希もまた青森から上京し、服飾の大学に通いながら女優になるのを夢見ていました。沙希は、永田の斜め上の思考や言動がツボのようです。

2度目に会った時にはもう、心を許し合う関係になっていました。人付き合いが苦手な永田でしたが、自分の話を興味深く聞きいちいち笑ってくれる沙希に甘えていきます。

劇団「おろか」には、永田と野原の他に、戸田、辻、そして唯一の女子・青山が所属していました。ある公演をきっかけに、戸田と辻、青山は「おろか」を辞めたいと言い出します。

「永田さん言ってることもう危ないっすよ」。耳を背けたくなるほどの罵り合いの末、皆は離れていきました。

永田は、知り合いから脚本を頼まれていました。いつも脚本は、書き出すまでに時間がかかるタイプです。

自分は何のために演劇をやっているのか。演劇である必要があるのか。自分への問いから考え出してしまうからです。

ギリギリになって書き上げた脚本を、永田は沙希に見せます。沙希は、涙を流して「すごい感動した」と言ってくれました。

「この主人公は、沙希ちゃんやってくれへんかな」。永田が、沙希を思って書いた脚本でした。

沙希は思った以上に演技力がありましたが、他の役者との掛け合いに慣れていませんでした。丁寧に何度も稽古を重ねます。

公演当日の朝方まで頑張った甲斐があり、公演は客足も良く、高評価を受けました。

そして、公演が成功に終わる頃には、稼ぎがほとんどない永田は、学生で親から仕送りのある沙希の家に転がり込んでいました。

始めは順調だった同棲も、永田の沙希に対する負い目が嫉妬となり、沙希を傷つける言動が増えて行きます。

沙希の両親のことを悪く言ったり、大学の男友達から譲られたという原付バイクを壊したり。沙希はもう演劇をすることはありませんでした。

その暮らしは、沙希が大学を卒業し働きだしてからも続きました。昼間は洋服屋で働き、夜は近所の居酒屋でバイトを始めた沙希。

相変わらず、夕方ごろに起きだし、ふらふら散歩に出掛け、演劇のことしか考えていない永田。

たとえば「ヒモ」などという言葉に身をゆだね、他人から蔑まれる存在になっても恥と思わない男を、一旦は馬鹿にしたうえで羨ましく思う。自分は、彼らと行動は似ているかもしれないが、実態は全然違う。僕には完全に負けきれない醜さがある。

こう思ってみても、やはり永田は立派な「ヒモ」でした。そんな永田を沙希は、尊敬し褒め続け、いつも笑って側にいてくれました。

ある日、永田は野原に誘われ、劇団「まだ死んでないよ」の舞台を見に行きます。はなから批判的な気持ちで鑑賞したにも関わらず、永田は公演後その場を動くことが出来ませんでした。

「まだ死んでないよ」の作・演出を手掛ける小峰という男の存在に、不純物が一切混じっていない純粋な嫉妬を感じます。

帰り道、劇場で自分を見かけたという青山からメールが届きました。青山は、「これから会えないか」と永田を誘います。

壮絶な口喧嘩の末に脱退した青山でしたが、会ってみると以前と変わらない態度でした。現在は、演劇を続けながら、ライターの仕事もしているとのことです。

劇団「まだ死んでないよ」のレポを担当してました。青山は、ライターの仕事を永田に紹介します。永田も、文章を書くことに抵抗はなかったため仕事を引き受けることにしました。

少額ではありますが、原稿料を貰うようになった永田は、沙希の家を出ることを決めます。その理由はまたしても永田の勝手によるものでした。

以下、『劇場』ネタバレ・結末の記載がございます。『劇場』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2020「劇場」製作委員会
永田は、沙希の献身的な態度や自分に向ける優しさやを、どこか疎ましく思うようになっていました。

甘えて寄りかかっていたにも関わらず、仕事の良し悪しを沙希のせいにしてしまう自分。そんな自分を許せない思いもありました。

「仕事のためなら仕方ないね。永くんが頑張れるように応援するよ。さみしくなるぜ」。沙希はとめませんでした。

執筆の仕事が増えることで、永田は酒の席にも顔を出し、慣れない人付き合いもするようになります。

夜中に疲れ切ると、沙希に会いたくなります。沙希の家に向かい、寝ている沙希の布団に潜り込みます。

「疲れたでしょ。梨、買ってあるよ」。沙希はいつでも自分を迎え入れてくれます。「なあ、ここは安全か?」そう聞く永田に沙希は答えます。「ここが一番安全です」。

ある日、青山が沙希を連れて劇団「まだ死んでないよ」の舞台を見に行ったことを永田が知り、激怒する事件が起きました。

永田は劇団「まだ死んでないよ」の小峰に一方的なライバル心を抱いていました。

沙希のバイト先の居酒屋に劇団員がいたことで、打ち上げの場として小峰や青山がよく顔を出していたのです。小峰と沙希が、交流があったということを、永田はどうにも気に入りません。

沙希にはなぜ永田がそんなに怒っているのか分かりませんでした。「永くんが一番すごいの知ってるよ。なんで、ちょっと待ってね。考えるから」。

沙希の前で自分の弱さを怒りという形で表明してしまったことに後から恥ずかしくなった永田。沙希の家を訪れる回数は減り、酔っぱらった時にだけふらっと立ち寄るようになります。

「私は人形じゃないよ」。沙希は次第に家でも酒を飲むようになっていました。そして、仕事も辞めバイトも辞めた沙希は、静かにソファーに座っているかベッドに横になっていることが多くなります。

眠れない日が続き、酒の量も増えていきます。永田は、沙希が自分との関係に疲れ果て憔悴し、周囲の者たちが熱心に相談にのっていたことを知ります。

「永くん、わたし、もう東京駄目かもしれない。永くん、ひとりで大丈夫?ごめんね」。沙希はいつまでも泣き続けました。

どう見ても幸せに見えない沙希。痛みを和らげてあげたいけれど、その痛みの根源は自分でしかない。永田は、どうすることも出来ませんでした。沙希は実家に帰って行きました。

久しぶりに会う沙希は顔色もよく明るい印象を取り戻したように見えました。今日は沙希の部屋の荷物整理をすることになっています。

沙希が実家に帰ってから、東京の沙希のアパートの家賃は永田が支払っていました。戻って来た時のためにそのままにして置きたかったのです。

しかし、沙希は実家で次の仕事を決めました。それは、もうここに戻ってはこないということでした。

沙希と一緒にアパートの荷物整理をする永田。沙希と一緒にやった芝居の脚本が大事に保管されているのを発見します。

「あっ、わたしの宝物だ」。沙希は嬉しそうです。2人は読み合せてみることにします。

懐かしいセリフの間に永田は沙希への謝罪の言葉をアドリブで挟みます。「迷惑ばっかりかえた」。戸惑いながらも付き合ってくれる沙希。

「演劇で出来ることって現実でもできるねん。演劇がある限り絶望することなんてないねん。だからな、今から俺が言うことは全部できるかもしれへんことやねん」。

永田は、沙希との未来を語り出します。「演劇で成功して、沙希ちゃんは元気になって、美味しいものをいっぱい食べに出掛けて、沙希ちゃんの好きなもの全部買ってあげる。楽しい日々があって、俺はまっすぐ沙希ちゃんがいる家に帰るねん。おかえりって、大きな犬と沙希ちゃんが言うねん」。

「ごめんね」。謝る沙希の嗚咽が部屋に響きます。

永田は立ち上がり電気を消し、変な猿のお面を顔にかぶせ、再び部屋の明かりをつけました。

「ばああああ」「ばああああ」体を変な風に動かしながら、しつこく何度も繰り返しました。出会った当初、沙希が笑ってくれた記憶が思い出されます。

沙希は観念したように、ようやく泣きながら笑うのでした。

映画『劇場』ここに注目!


(C)2020「劇場」製作委員会
又吉直樹が芥川賞を受賞した作品「火花」より先に着手していたという恋愛小説「劇場」。

演劇の世界を舞台に描いた理由には、又吉本人が演劇が好きであることと、演劇に向き合っている人たちに興味があったからと述べています。

漫才に没頭する男たちの姿を描いた「火花」然り、ひとつの世界にどっぷりと浸かった人間の現実との葛藤、そして天才的で破滅的な思考を、細かい描写で書きだす又吉純文学の世界。

今作は、演劇の世界に没頭する男・永田を主人公に、彼の才能を応援する沙希との恋愛が描かれています。

関西弁でのらりくらりと話す永田は、読んでいるうちに又吉本人と重なります。この小説は作者の恋愛への憧れが詰まった作品なのではないでしょうか。

理想と現実の狭間でもがきながら、かけがえのない愛に気付く、純愛小説「劇場」の映画化、見どころを紹介します。

劇団「おろか」

主人公・永田(山﨑賢人)と同級生の野原(寛一郎)が上京し旗揚げした劇団「おろか」。

名前のセンスも良いですが、メンバーも実に個性的です。血気盛んな金髪で長身の男・戸田。地味で声が高いのが芝居の邪魔になる丸坊主で細身の男・辻。そして、劇団唯一の女性・青山(伊藤沙莉)。

結局この3人は、永田について行けないと脱退するのですが、鬱憤を爆発させた演劇者同士の壮絶な口喧嘩に笑えます。

中でも女性の青山とは、その後沙希との恋愛についても永田とメールで罵り合うのですが、どちらも見事な戦いっぷりで、憎たらしさ満載です。

「前時代的なフィルターを外せないんですよ」。「独裁的なコンセプトしか掲げられない人」。「ソフィスティケートされてない感覚では、やってけないですよ」。小難しく論ずる青山。

「表現に関わるものは自己顕示欲と自意識の塊やねん。一般論を語りたいだけの奴とは話されへん」。「演出過剰、読むに値せず」。「お前の鈍感さで誰かの人生を汚すな」。理屈攻めの永田。

子供染みた攻防戦からは何も生まれないと分かっていながらも、ヒートアップする喧嘩。最終的に「マジ死ね」という、何とも人間味あふれる虚しさを残します。

言いたいことを言い合える関係性はある意味、羨ましくもあり、演劇という世界で生きている人たち特有の「あるある」なのかもしれないと想像しました。

劇団「おろか」の公演『カギ穴』。ぜひ、見てみたいものです。

永田と沙希

永田と沙希(松岡茉優)の出会いのシーンに注目です。東京という大都会の片隅で、虚弱な幽体のように彷徨い歩く男と、純粋な心を持った可愛らしい女が、どうして出会ったのか。

小説では、相当あやしい永田についていく沙希の心理がどうしても理解できなかったのですが、何か運命めいたものがあるのか、映画化でどのように描かれるのか楽しみです。

沙希は、ヒモ状態の永田に文句も言わず、彼の才能を心底尊敬し、献身的にサポートし続けます。

時に、仕事の邪魔にならないように気を使い、いつ帰ってくるのか分からない彼のために大好きな梨を買っておきます。「ここが一番安全だよ」。

沙希の優しさに甘え、無意識のうちに沙希を支配していく永田。「一番安全な場所」を永田は自ら壊していくのです。

若さゆえの未熟さなのか、成功できない自分への苛立ちなのか、心に余裕がない永田。そんな彼のために、尽くすことが愛だと勘違いしている沙希。

かけがえのない者同士だったはずの2人は、次第に互いを傷つけあう存在となっていきます。

永田は最後まで「演劇でできることは、現実でもできる」と信じています。永田の描く沙希との未来は、現実になるのでしょうか。映画のエンディングに注目です。

劇団「まだ死んでないよ」

永田が、演劇の才能に嫉妬し、勝手にライバル視する劇団「まだ死んでないよ」の小峰という男が登場します。

実写化では、なんと「King Gun」の井口理が演じます。井口は以前にも『ヴィニルと鳥』『佐々木、イン、マイマイン』と映画出演を果たしており、俳優、ナレーターとしても活躍をしています。

今作では、カリスマ性溢れる劇団員・小峰を井口がどのように演じるのか楽しみです。「King Gun」で見せる魅力的なパフォーマンス。見事にハマり役の予感です。

小説では、永田と小峰が直接出会うことはありません。永田は2度、劇団「まだ死んでないよ」の公演を見に行きます。

1度目は、親友の野原に誘われ、鑑賞後動けなくなるほどの衝撃を受けます。2度目は、沙希が疲れ果て、東京を離れてから見に行きます。

その理由は、小峰がその公演に自分と沙希の話を盛り込んでいると、青山から聞いたからでした。

東京でもがく若者を辱める題材として、滑稽に扱われることを覚悟し、腹を立てるつもりで見に行った永田でしたが、小峰の演出は見事なものでした。

次元の違う演劇をまざまざと見せつけられた永田は、妙な心地よさを感じ、この主題は自分なりに取り組もうと刺激を受けるのでした。

才能とは何なのか。努力で手に入るものなのか。自分の才能とは。ライバルの存在は、自分を高めるうえで必要な存在です。

永田の人生に大きな影響を与えるであろう人物・小峰の登場に注目です。

まとめ


(C)2020「劇場」製作委員会
又吉直樹の小説2作目であり、映画化第2弾作品「劇場」を紹介してきました。

自分の才能を信じ夢を追う男と、献身的な愛で彼を支え励まし続ける女。永田と沙希の、切なくて不器用な、心震わせる純愛ストーリー。

恋愛における幸せな部分と背中合わせにある嫉妬や依存。かけがえのない人を、あなたは本当に大切にしていますか。

映画は2020年7月17日(金)より公開です。

次回の「永遠の未完成これ完成である」は…


©2020 「さくら」製作委員会
次回紹介する作品は、2020年秋公開予定の『さくら』です。

原作は、これまでにも多くの作品が映画化されてきた小説家・西加奈子の同名小説です。

『きいろいゾウ』『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』『まく子』に続き、本作が映画化4作目となります。

家族5人と犬の「さくら」が巻き起こす家族の奇跡を描いたロングセラー作品。映画化では、北村匠、小松菜奈、吉沢亮の共演が注目されています。

映画公開の前に、原作のあらすじと、映画化で注目する点を紹介していきます。

【連載コラム】「永遠の未完成これ完成である」記事一覧はこちら


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