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映画『どこへ出しても恥かしい人』感想とレビュー評価。友川カズキの家族と競輪が人生をあぶり出す|だからドキュメンタリー映画は面白い37

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第37回

生まれたときから、途方に暮れている──

今回取り上げるのは、2020年2月1日(土)より新宿K’s Cinemaほか全国で公開の、佐々木育野監督作『どこへ出しても恥かしい人』。

伝説のミュージシャンとしてその名を轟かせる、友川カズキの2010年夏の記録です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『どこへ出しても恥かしい人』の作品情報


(C)SHIMAFILMS

【日本公開】
2020年(日本映画)

【監督・編集】
佐々木育野

【プロデューサー】
酒井力、田中誠一

【製作】
志摩敏樹

【撮影】
高木風太

【編集】
宮本杜朗、松野泉

【キャスト】
友川カズキ、石塚俊明、永畑雅人、及位鋭門、及位然斗、及位玲何、大関直樹、安部俊彦、林秀宣、六兵衛鮨、菊池豊、万里伊さん

【作品概要】
『生きてるって言ってみろ』、『トドを殺すな』などの曲を発表する歌手にして、画家・詩人の顔も持つアーティスト、友川カズキの競輪三昧の日々と、その合間の表現活動を追ったドキュメンタリー。

人に左右されない生き方を送る、友川の2010年夏を余すことなく捉えます。

監督は、大学在学中から自主映画の制作を始め、山小屋業務を収めた映像作品『或る山』が、『第2回恵比寿映像祭』に出品された佐々木育野です。

映画『どこへ出しても恥かしい人』のあらすじ


(C)SHIMAFILMS

1974年にレコードデビュー以降、『生きてるって言ってみろ』、『サラリーマン哀歌 哀愁の一丁がみ小唄』などのメッセージ性の強い歌を発表する友川カズキ。

テレビドラマ『3年B組金八先生』第1シリーズでは本人役で『トドを殺すな』を熱唱すれば、ちあきなおみに『夜へ急ぐ人』を楽曲提供。

歌手以外に画家・詩人としても活動し、芥川賞作家の中上健次や、映画監督の大島渚や三池崇史といった文化人からの賛辞を浴びた友川ですが、現在は川崎の小さなアパートでひとり暮らしをしています。

彼の一日の大半は、競輪に費やされます。

競輪場に出向くか、家でのレース予想に時間を割き、時には久々に会う息子にギャンブルの極意を指南。

しかし、彼の予想はことごとく外しまくり…。

本作は、そんな友川の日常から、2010年夏の部分を切り取り、記録します。

youtubeで発見された“神様”友川カズキ


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初めて友川カズキの存在を知ったのは、2012年5月放送のラジオ『ナインティナインのオールナイトニッポン』でした。

パーソナリティの岡村隆史が、「youtubeを見てたら神様を見つけた」と、友川の歌『夜へ急ぐ人』、『生きてるって言ってみろ』、『トドを殺すな』を紹介したのです。

その、魂をかき鳴らすような友川の歌声や歌詞に、最初こそ「なんだこれは!?」と驚き、岡村の相方の矢部浩之同様に思わず笑ってしまったのですが、そのうち、岡村の言う「泣いているみたいな」歌唱法に、圧倒されていきました。

その後も、友川の歌はラジオ内で何度も取り上げられ、ついには番組のラブコールに応える形で本人のゲスト出演が実現。

歌のイメージに反し、ナイナイの2人と気さくにトークを交わす一方で、「言葉(を発するに)は気持ちが勃起しないとダメ」というパワーワードも飛び出すなど、大いに盛り上がりました。

その後、『岡村隆史のオールナイトニッポン』としてリニューアルしたラジオのイベントとなる、2015年開催の「岡村隆史のANN歌謡祭in横浜アリーナ」には友川も出演。

1万人規模の集客が可能なアリーナ内で、『生きてるって言ってみろ』、『トドを殺すな』をギター一本で熱唱した友川は、まさに“神懸かって”いました。

飲む、打つ、描く、歌う


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本作『どこへ出しても恥かしい人』は、時系列的に友川がラジオで注目される前の、2010年の夏を追っています。

本作の率直な感想を一言で表すと、「競輪バカ一代」。

友川の日常には常に競輪があり、酒を飲みながら競輪のコラム連載を書きつつ、レース予想に没頭します。

生活費を競輪で増やしたこともあると事もなげに語り、その賭け方も常に大穴狙いという、筋金入りの一発逆転主義者です。

離れて暮らす家族とのコミュニケーションツールも、やはり競輪。

二男を連れて競輪場へ行き、共にレースの行方を見守るのですが、この時に、息子にも父親の血が確実に流れていると思わせる描写があるのが、なんとも可笑しいです。

あまりの競輪漬けな生活に、これが本職なのではと錯覚してしまいそうになりますが、もちろん歌手として作曲活動したり、画家として絵を描く友川の姿も、カメラは映します。

孤高ながらも背中は雄弁に語る


(C)SHIMAFILMS

川崎市の自宅アパートと競輪場を行き来する日常を繰り返し、「誰かと会うと必ずいつも喧嘩になる」からと、パーティなどの公の場には顔を出さないという友川。

息子の一人からも「自分の父親じゃなかったら近づかない。危ない人にしか見えない」と言われる友川ですが、いざ話せば、彼が軽妙な口調の持ち主だと分かりますし、友人たちとも時折楽しく酒を交わします。

それでも、「時間も生活も何もかもが、他の人と合わない」と自ら語るように、やはりどこか孤高の雰囲気を漂わせます。

本作では、そんな彼の「背中」を捉えたショットを多用します。

競輪レースを見つめる姿、部屋で食事をする姿、絵を描く姿、徒歩でライブ会場に向かう姿、そしてギターをかき鳴らす姿と、要所要所で映される友川の背中。

一つしかない友川の背中どれもが、彼の「生きている今」を語っているように見えてくるのが不思議です。

「何かに酔ってなきゃ、人間じゃない」


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2010年に友川に密着した映像が陽の目を見るまで10年の歳月を要したことについて、監督の佐々木育野は、「撮影に難航した素材をうまくまとめられない自分に絶望し、10年間一歩も進めなかった」とコメントしています。

しかし、久々に彼のライブを見た際、以前と全く変わらない姿を見て、「進歩ってしなくてもいいんだ」と気持ちを切り替えることができたそう。

実は友川も一時期、歌手活動からの引退を考えたものの、『オールナイトニッポン』で紹介されて脚光を浴びるようになり、ライブも若い世代の客層が増えたため、その考えを反故にしています。

若いファンが目の前に次々現れるというのは、インターネットの普及とかメディアの力といった要素もあるんでしょうが、私としては彼らの目にモノを見せてやろうってね、ひたすらやるだけですね。
――友川カズキ著『友川カズキ独自録』より

本作で初めて友川を知った人は、終盤で披露されるライブシーンの凄さに、間違いなく打ちのめされることでしょう。


(C)SHIMAFILMS

劇中、「生まれたときから途方に暮れている」、「人生なんて何てことない」、「人間、下には下がいる」といった、名言ともいえるパワーワードが頻繁に飛び出しますが、その中の一つに「何かに酔ってなきゃ、人間じゃない」があります。

酒をたしなむ友川ですが、彼は競輪でも、絵画でも、詩でも、そして歌でも酔うことができます。

いずれか一つでも欠けると、友川カズキは、友川カズキでなくなってしまうのかもしれません。

そんな友川は、2019年の競輪GPでは、なんと1439倍の車券を的中。

その余勢を駆るかのように、2月10日(月)には、本作の上映館である新宿K’s cinemaにて、翌11日に行われる全日本選抜競輪(G1)の決勝戦を予想するトークショーを開催します。

競輪の予想すらもイベントに昇華させられる友川カズキは、どこへ出しても恥かしいどころか、どこへ出ても恥かしくない、表現者の道を歩いているのです。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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