連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第23回
アメリカ占領下の沖縄で闘った不屈の男の生涯に迫る――。
今回取り上げるのは、2019年8月17日(土)から桜坂劇場で沖縄先行公開、24日(土)からユーロスペースほかで全国順次公開の、佐古忠彦監督作『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』。
戦後、占領下の沖縄でアメリカ軍の圧政と戦った政治家・瀬長亀次郎の生涯を描いたドキュメンタリーの第2弾となります。
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CONTENTS
映画『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督】
佐古忠彦
【キャスト】
瀬長亀次郎、役所広司(ナレーション)
【作品概要】
第二次大戦後、アメリカ占領下の沖縄で米軍の圧政と戦った政治家、通称“カメジロー”こと瀬長亀次郎の生き様を描いたドキュメンタリー。
数々の映画賞を受賞した『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』(2017)の続編となる本作は、カメジローの生涯をさらに深く掘り下げると同時に、本土復帰へ向けた激動の沖縄を描き出していきます。
監督は、TBSの「筑紫哲也NEWS23」、「報道LIVEあさチャン!サタデー」、「Nスタニューズアイ」などでキャスターを務めた佐古忠彦が、前作に続いて手がけています。
音楽も、前作に続き坂本龍一が担当しており、「Sacco」に加え、新たに「Gui」を楽曲提供。
前作では大杉漣が務めていたナレーションを、本作では役所広司が担当しています。
映画『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』のあらすじ
沖縄県民の間では、“カメジロー”の愛称で親しまれた男、瀬長亀次郎。
彼は、第二次大戦後の占領下の沖縄で那覇市長や衆議院議員を務めつつ、本土復帰へ向けてアメリカや日本政府と戦い続けました。
2017年に公開された『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』は、彼の地元沖縄を中心に、全国の主要都市にて多くの観客を動員、国内外の映画賞で数々の賞を受賞しました。
その続編にあたる本作は、カメジローのパーソナルな面にも触れていきます。
生前に彼が残していた230冊を超える日記をベースに、政治家としての顔、夫としての顔、そして父親としての顔といった、様々な素顔に着目。
さらには、前作では細かく触れることのなかった、カメジローのその他の闘いにも焦点を当てていきます。
前作『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』について
2017年発表の第一作『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』は、カメジローの功績や知られざる人生を、関係者の証言や貴重映像でつづったTBSのテレビドキュメンタリー番組を再編集したものです。
カメジローという人物が、いかに魅力的でカリスマ性を持つ人物だったかを、遺された演説映像や、音源がない箇所は大杉漣による朗読で構成。
新聞記者、那覇市長、国会議員と立場を変えつつも、沖縄人としてのアイデンティティを終生忘れなかった彼の実像に迫ります。
この作品は平成30年度文化庁映画賞・文化記録映画優秀賞、2018アメリカ国際フィルム・ビデオ祭銅賞、2017年度日本映画批評家大賞ドキュメンタリー賞、2017年度日本映画ペンクラブ賞・文化部門第1位など、数々の賞を受賞しています。
膨大な数の日記に記された不屈の男の素顔
そして続編にあたる本作『米軍が最も恐れた男 カメジロー不屈の生涯』では、カメジローの政治家としてだけでなく、夫、父としての顔にも焦点を当てています。
そうした構成のきっかけとなったのが、生前にカメジローが残した230冊もの日記です。
彼の行動力の源となった、「不屈」の精神に加え、彼を支え続けた妻や娘に対する思いや、絶縁状態となってしまった実父との関係といった、これまで公になることのなかった人物像を、彼が記した日記からあらためて検証していきます。
動乱の戦後沖縄史もたどる
さらに本作では、戦後に沖縄で起こった事件や騒動についても触れていきます。
たとえば、琉球政府与党の提案する二つの法案に反対する教職員らと警官隊が衝突した教公二法阻止闘争(1967)や、コザ市(現在の沖縄市)で発生した、米軍兵が起こした歩行者当て逃げ事故に端を発するゴザ騒(1970)。
ほかに、米軍基地に貯蔵の毒ガス兵器撤去を求めた運動(1971)など、沖縄の日本返還へ向かう過程で起こった日米の緊張関係の歴史も描きます。
時の総理大臣との“一騎打ち”
そして、本作のクライマックスとも言えるのが、1971年12月4日の国会におけるカメジローの答弁です。
ここで行われた衆議院沖縄・北方問題特別委員会にて、国会議員となったカメジローは時の首相・佐藤栄作と激論を繰り広げます。
この答弁の映像自体は前作にもありますが、その際は5分にも満たないものでした。
それが今回は12分もの長さという、ほぼ完全版とも言える状態での披露となります。
自身がそれまで受けてきた様々なアメリカ側からの妨害や圧力や、米兵が起こしてきた沖縄での事件に触れつつ、「沖縄返還が、米軍基地の維持が目的となっている。この沖縄の大地は、再び戦場となることを拒否する」と、拳を振り上げて佐藤にぶつけるカメジロー。
この答弁の5ヶ月後の1972年5月15日、ついに沖縄は日本への復帰をはたすこととなります。
まとめ
理想と矛盾が同居する地「沖縄」
カメジローとの討論時に、佐藤栄作は「基地のない、平和な沖縄をつくる」ことを約束しました。
では、現在の沖縄の状況はどうなっているでしょうか。
2019年2月24日の米軍普天間飛行場の沖縄県内移設をめぐる県民投票では、反対票が多数を占め、政府は辺野古の海を埋め立てる移設工事を進めています。
その約2週間前の自民党大会での総裁挨拶で、首相の安倍晋三が「豊かな海に囲まれ、緑に包まれた美しい日本」と評したにもかかわらず、沖縄は理想と矛盾が同居する地となっているのです。
なにより、「沖縄」という地名にこだわったのが、カメジローでした。
「『琉球』という言葉はワシントン政府が沖縄統治の必要から作り出した呼び名」、「『琉球人』という呼び名をぬぐい去り、名実ともに『日本人』として生きる道を見つけ出さなければならない」と、「沖縄」、「沖縄県民」であることを誇りとしたカメジロー。
その沖縄県民はあがき続けます。
2016年12月22日に名護市で行われた北部射撃場の返還式には、菅官房長官や稲田防衛相(当時)らが出席しました。
しかし、沖縄県知事(当時)の翁長雄志は、その約10日前に発生したオスプレイ墜落事故への政府の対応を不服として式を欠席、代わりに同市で行われたオスプレイ撤去を求める抗議集会に参加し、県民の喝采を浴びました。
辺野古の海の埋め立て中止を求める集会では、必ず一つは「不屈」の言葉を掲げたプラカードが上がるといいます。
カメジローの精神は、死してなお沖縄に根付いているのです。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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