連載コラム「銀幕の月光遊戯」第17回
今年最後を締めくくり、新しい年を迎えるにふさわしい最高に可笑しくて、ハートフルな映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』をご紹介します。
主役のレネーを演じるのは、今、アメリカで最も熱いコメディエンヌ、エイミー・シューマー。
『25年目のキス』、『そんな彼なら捨てちゃえば?』など多くの名作を手がけてきた脚本家コンビ、アビー・コーン&マーク・シルバースタインが長編映画初監督デビューを果たし、とびきり、パワフルでハートフルな映画を完成させました。
CONTENTS
映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』のあらすじ
体形と容姿を気にして自分に自信が持てないレネー・ベネットは、一念発起し、ダイエットのためにジムに通い始めました。
ところが、周りはみんなスリムで、イケてる人たちばかり。
引け目と劣等感を激しく感じながらバイクを漕いでいると、バイクからずり落ちて、なんとお尻が破れてしまう羽目に。
高級コスメ会社リリー・ルクレアのオンライン部門に勤務しているとはいうものの、仕事場は、五番街にあるきらびやかな本社ではなく、チャイナタウンのビルの地下にある一室。
従業員もたった二人きりで、冴えない毎日です。
悶々とした日々を送るレネーは、ある日、絶世の美女に変身できますように、と願い事をしますが、そんなこと、叶うはずもありません。
再びジムを訪れたレネーは、今度はバイクから派手に転落し、頭を強打してしまいます。
目が覚めたレネーは、自分が絶世の美女に生まれ変わったことを知り、大喜び。実際のところ、それはレネーの思い込みで、何一つ変わっていないのですが…。
理想の容姿とスタイルを手に入れたレネーは自信に満ち溢れ、積極的に人に話しかけ、超絶ポジティブに物事に対処するようになりました。
本社の受付係の募集をしていると聞き、早速応募。面接で受付の仕事に付きたいことを熱くアピールするレネーを見て、CEOのエイヴリー・ルクレアは、彼女の採用を決めます。
そんなある日、レネーはクリーニング店で、受け取りを待っていた男性に「ここは番号で呼ばれるのよ」と番号を書いた紙きれを手渡しました。
男性が「君は何番?」と聞いてきたのを、ナンパだと勘違いしたレネーは、「そんなこといって実は私の電話番号を知りたいのね。いいわ、教えてあげる」と無理やり男性と番号の交換をします。
男性はイーサンという名前でした。後日、「あなたの負担を消してあげたくて電話したのよ」とイーサンに電話をかけるレネー。
イーサンはすっかり忘れていたのですが、レネーは強引に彼をデートに誘い、最初は引いていたイーサン―も、明るくポジティブなレネーに次第に惹かれて行きます。
その頃、リリー・ルクレアは新たな購買層を掴むため、大衆に近寄ったセカンドラインを立ち上げようとしていました。
一般の女性の気持ちがわかるレネーの視点を重宝に感じたエイヴリーは、レネーを重要な会議のプレゼンテイターに抜擢します。
恋に、仕事に、何もかもが順調に進んでいきますが、セレブな生活にばかり目がいくレネーに、昔からの親友であるヴィヴィアンとジェーンは愛想を尽かしてしまいます・・・。
映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』の感想と評価
アビー・コーン&マーク・シルバースタインの名人芸を味わう
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』で長編劇映画の初監督を務めたアビー・コーン&マーク・シルバースタインは、ハリウッド界でも屈指の脚本家コンビとして知られています。
南カリフォルニア大学の映画制作MFA[美術学修士]在学中に知り合い、共同で書いた『25年目のキス』の脚本が20世紀FOXに採用され、脚本家デビューを果たします。
ラージャ・ゴスネルが監督を務め、ドリュー・バリモアが主演した映画は好評を博しました。
その後、『そんな彼なら捨てちゃえば?』(2009/ケン・クワピス監督)、『バレンタインデー』(2010/ゲイリー・マーシャル監督)、『ワタシが私を見つけるまで』(2016/クリスチャン・ディッター監督)などの脚本を担当。
TVドラマの脚本も手がけ、絶妙のコメディセンスで、多くの女性の好感を得る作品を発表してきました。
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』は、最初から自分たちで監督しようと決めていたそうです。
二人は、スタンドアップ・コメディエンヌ、脚本家、女優として活躍しているエイミー・シューマーを、レネー役の第一候補と考えていました。
脚本を読んだエイミーは、すぐに出演を快諾。それは異例の速さだったそうですが、エイミー・シューマー以外の女優がレネーを演じるなんて、もはや考えることはできません。
アビー・コーン&マーク・シルバースタインが描く世界とエイミーの個性が見事に共鳴しあっています。
人気コメディエンヌ・エイミー・シューマーの魅力
エイミー・シューマーは、容姿に自信がもてず、悶々と暮らしているレネーと、頭を打った拍子に美しく生まれ変わって、超絶ポジティブになるレネーを絶妙に演じ分けています。
“入れ替わり”、“生まれ変わり”というのは映画では度々みかけるシークエンスですが、容姿が変わったと思いこんでいるのは本人だけ、というのは案外みかけないパターンです。
エイミーはレネーという女性の感情の起伏を見事にとらえ、レネーを愉快で、共感できるキャラクターに作り上げました。
エイミー・シューマーといえば、『エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方』(2015)をご覧になった方も多いのではないでしょうか。
自身が脚本と主演をこなし、アメリカコメディー映画界の帝王、ジャド・アパトーが監督を務めた傑作コメディー映画です。
参考映像:『エイミー、エイミー、エイミー!こじらせシングルライフの抜け出し方』
エイミーが演じたヒロインは、女好きだった父親のもとで育ったため、恋愛にまっすぐ向き合えない不器用な女性。
多くの男性と一夜限りの関係を持ち、本当に好きな人にも辛辣な態度をとってしまうという一筋縄ではいかない役どころでした。
かわいいだけのヒロインではなく、欠点も何もかも全てさらけだし、笑いの中で、女性はこうあるべきという外圧から、ひとりひとりの女性を解放してくれるような、そんなパワーのある作品でした。
それはエイミー自身の生き方でもありますし、彼女の芸風でもあります。
普段から、自分のふくよかな体形が大好きと言い、体形や、性の話題、下ネタも、あけすけに語りネタにするエイミーを見て、救われてきた人も多いのではないでしょうか。
本作は、『エイミー、エイミー、エイミー!』と比較すると、若干アクは少なくソフトな仕上がりになっています。
ですが、女性が持つコンプレックスという内なる敵をいかに倒し、ありのままの自分の良さにいかに気づくのか、という大きなテーマを笑いの中に内包しており、エイミー・シューマーならではの作品となっています。
ありのままの自分を受け入れること
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』では、主人公のレネーだけでなく、ジムでレネーが出会う美女マロリーや、CEOのエイヴリー・ルクレアの悩みも描かれます。
マロリー(演じるは元モデルのエミリー・ラタコウスキー)は、自尊心が低く、それ故、恋人からもふられてしまい、エイヴリー(ミシェル・ウイリアムズ)は自分の声にコンプレックスを持っていて、それを恥じています。
傍から見れば、マロリーなんて完璧な美しさで、なぜ自信がないのかわからないし、エイヴリーの声だって、確かに特徴的ですが、考えようによっては大きな武器にもなるだろうチャーミングさです(ミシェル・ウイリアムズは自身の飼い犬の声を模倣したそうです)。
でも当人にはそれが、欠点にしか見えないのです。誰もが、自身の良い面を忘れて、欠点にばかり囚われています。
映画はそんな女性たちの悩みを浮き彫りにしながら、見た目で判断されることの多い世の中だけれど、ありのままのあなたたちはとっても素敵よ、と全ての女性にエールを送るのです。
また、女性だけでなく、マッチョイズムを強いられる男性社会にも踏み込んでいます。
レニーが出会うイーサンという男性は、おそらく、アメリカの男社会の中で、内向的な性格ゆえに、居心地の悪さを感じて暮らしていたに違いありません。
レネーと出会うことで、彼もありのままの自分を肯定し、明るく変わっていきます。
イーサンを演じるのは、コメディアン、作家、俳優として活躍しているロリー・スコヴェル。
イーサンがレネーに惹かれ、彼女を愛していく過程がとても自然で、彼の持つ暖かさと優しさには感動すら覚えてしまいました。
まとめ
恋人にふられて泣いていたマロリーがレネーと話をしたことで、元気を取り戻したように、映画を観終えた時、すっかり暖かい気持ちになっていました。
レネーの勘違い具合に爆笑し、ポジティブさに激しく共感し、最後にはほろりとさせられるハートフルなコメディとして、誰にでもおすすめできる愛すべき作品になっています。
日本語吹き替え版では、レネーの声を渡辺直美が担当しています。こちらも要注目です!
『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』は、12月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町他で全国ロードショーされます! お見逃しなく!!
次回の銀幕の月光遊戯は…
次回の銀幕の月光遊戯は、2019年2月公開、シャーロット・ランプリング主演『ともしび』
』を取り上げる予定です。
お楽しみに!