連載コラム「最強アメコミ番付評」第27回戦
こんにちは、野洲川亮です。
『スパイダーマン:スパイダーバース』で、第91回アカデミー賞長編アニメーション部門を受賞したフィル・ロード&クリストファー・ミラーコンビ。
そのふたりが製作を務めた2017年の映画『レゴ バットマン ザ・ムービー』をご紹介します。
“キャラクターの真髄”を理解、解体し、新たな形で観客に評価させてくれるフィル・ロード&クリストファー・ミラーの手腕から、作品の魅力を探っていきます。
『レゴ バットマン ザ・ムービー』のあらすじとネタバレ
ゴッサムシティの平和を長年守り続けてきたスーパーヒーロー、バットマン。
今日もジョーカーや他のヴィランたちが仕掛けた、発電所の爆破計画を見事に食い止めてみせます。
そこで「バットマンの宿敵」を自称していたジョーカーは、バットマンに「宿敵はスーパーマン」だと否定されてしまい、悪役としてのプライドが傷つきます。
そのバットマンは市民の喝さいを浴びる一方、孤独をこじらせ、執事のアルフレッド以外は信頼できる友達も家族も作ろうとしませんでした。
翌日、バットマンはブルース・ウェインの姿でゴードン警察署長の退任、娘のバーバラ・ゴードンの新本部長の就任パーティに出席します。
バーバラに惹かれるブルースでしたが、バットマンに頼らない体制を築く宣言をバーバラがしたのでショックを受けます。
そこへジョーカー率いるヴィラン軍団が乗り込み、突如彼ら全員が警察に自首してしまいます。
ジョーカーの真意を疑うバットマンは、極悪囚人が集まる空間、ファントムゾーンへとジョーカーたちを送り込むことを決意します。
ひょんなことから自分が引き取る羽目になってしまった孤児の少年ロビン。
彼も連れて、ファントムゾーンへの転送に必要なプロジェクターを手に入れるため、スーパーマンの元へ向かうバットマン。
そこでは、自分以外の全ヒーローが招待されたパーティが開かれており、ショックを受けながらもプロジェクターを盗み出したバットマンは、遂にジョーカーたちをファントムゾーンへと送ってしまいました。
構造を楽しませてくれるフィル・ロード&クリストファー・ミラー演出
『LEGO(R) ムービー』(2014)の登場、その大ヒットはCGアニメ映画の新境地を切り開くものとなりました。
全世界で4億6千万ドルの興行収入を稼ぎだすメガヒットとなった『LEGO(R) ムービー』は(日本ではわずか1億8000万円でしたが)、レゴパーツを使ったコマ割り風演出をCGで再現し、メタフィクション的なストーリーテリングを用いた、“子供騙し”どころか、大人までも騙されるクオリティーの作品となっていました。
その『LEGO(R) ムービー』の監督・脚本を務めたのが、フィル・ロード&クリストファー・ミラーのコンビです。
参考映像:『くもりときどきミートボール』(2009)
このコンビの監督作は『くもりときどきミートボール』(2009)、『21ジャンプストリート』(2012)などがあります。
アニメ、実写作品どちらも映画ファンの間ではよく知られる傑作を作ってきていました。
この二人の作品、『LEGO(R) ムービー』や本作『レゴ バットマン ザ・ムービー』でも特徴的な演出として、“映画の構造そのものを楽しませる”ことが挙げられます。
CGで“わざわざ”コマ割り風演出にすると言う、変態的なこだわりを披露し、レゴという人間が操る玩具に人格をもたせてメタ的なストーリーに仕立てるなど(また詳細は伏せますが、映画の世界観がひっくり返る仕掛けもある)、我々観客が生きる現実とフィクションの世界を軽やかに行き来してみせ、スリリングな鑑賞体験を与えてくれます。
そしてレゴの根本的な魅力である、“組み立てる楽しさ、気持ちよさ”も具体的に描写し、そこに主人公が組み立てる腕を磨いていく、ストーリー上の意味合いも付加してみせ、ビジュアル、物語の両面を同時に楽しませてくれました。
最もバットマン映画らしい作品
そして、その構造的面白さは、本作で言えば単なるバットマンパロディに終わらせ無かったこと。
「孤独をこじらせて、他者との関係を築いていくことが出来ない」という、コミックや、アニメ、実写映画で一貫してシリアスに描かれてきたバットマンのキャラクターをイジッてギャグのネタにしてみせ、さらに孤独を克服する過程を物語の核心に据えてみせます。
特に実写映画で“バットマンのカッコいい部分”とされてきた孤独さに、あえてツッコミを入れる。
これは、長年コミック映画に漠然と抱いてきた違和感も解消してくれる手法です。
さらに、“結局いつも負ける”ヴィランたちの存在意義にも焦点を当て、本来は狂気の敵であるジョーカーに「バットマンの自分を宿敵と認めさせる」という承認欲求を抱かせる導入も鮮やかで、これはヴィランたちの新たな魅力、キャラクターの可能性を広げる演出でもありました。
こういった一連の演出に、キャラクターの魅力や真髄をかみ砕いて、ユーモラスで魅力的に描き観客に提示しつつ、より真摯に題材に向き合っている製作者の姿勢がうかがい知れる本作は、最もバットマン映画らしい作品と言えるでしょう。
冒頭で触れた『スパイダーマン:スパイダーバース』でも、監督ではなく製作に名を連ねていますが(フィル・ロードは脚本も兼務)、このコンビの、キャラクターの魅力を正確に把握し、それをより増幅させて観客へ提示してくれる手法には期待が持てます。
スパイダーマンという皆が知っている超有名ヒーローの、気づかなかった新たな魅力を発見できるのではないでしょうか。
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回の第28回戦は、3月8日に公開となる『スパイダーマン:スパイダーバース』を解説していきます。
お楽しみに!