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Entry 2019/08/22
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映画『オール・ディス・パニック』あらすじと感想。多感な10代少女たちの実態に迫る|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館1

  • Writer :
  • 松平光冬

ニューヨークに住む10代の少女7人が直面する、等身大の葛藤と成長。

2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活する映画館、京都みなみ会館。そのリニューアルを記念して、9月6日(金)から『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が開催されます。

このイベントでは、ポール・トーマス・アンダーソン、ウェス・アンダーソン、アレクサンダー・ペインといった、今や映画界の寵児となったフィルムメーカーのデビュー作を含めた9作品をラインナップ。

その中で、唯一のドキュメンタリー作品として上映されるのが、2016年製作のジェニー・ゲージ監督作『オール・ディス・パニック』です。

【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら

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映画『オール・ディス・パニック』の作品情報

【日本公開】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
All this panic

【監督・脚本】
ジェニー・ゲージ

【キャスト】
デリア・カニンガム、レナ・M、セージ・アダムス、オリヴィア・クチノッタ、アイヴィー・ブラックシャイア、ジンジャー・リー・ライアン、ダスティ・ローズ・ライアン、ケビン・ライアン

【作品概要】
ニューヨーク市のブルックリンで暮らす少女7人を追った、2016年製作のドキュメンタリー映画。

日本では2019年7月からNetflixで配信が始まった映画『アフター』の監督、ジェニー・ゲージが、3年の月日をかけて撮影。

恋愛、セックス、ドラッグ、進路、親子関係といった、思春期真っ只中にある彼女たちの日常に起こる様々な問題や葛藤を追っていきます。

同時に、世間から誤解を受けやすい彼女たちがいかに自信を客観視しているかを、カメラは捉えていきます。

映画『オール・ディス・パニック』のあらすじ

映画『オール・ディス・パニック』

ブルックリンに暮らす、レナ、セージ、オリヴィア、アイヴィー、デリア、ジンジャー、ダスティの少女7人。

彼女たちは、勉学、遊び、パーティー、男女交際、ドラッグにセックスと、それぞれの日常を謳歌しています。

その一方で、次第に大人になっていくことへの期待や不安も抱えていく7人。

もちろん、親との衝突、交友関係の難しさ、自身の性的指向などなど、思春期ゆえの悩みも尽きません。

3年もの期間にわたり、カメラは7人に起こる変容を映していきます。

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ティーンエイジャーの揺れる心を掴むジェニー・ゲージ監督

参考映像:『アフター』予告

監督のジェニー・ゲージは、元々ファッションフォトグラファーとして活躍しており、本作『オール・ディス・パニック』が映画作家デビューとなります。

監督がニューヨークで暮らしていた際、近所にジンジャーとダスティ姉妹が引っ越してきたのを機に、彼女たちの日常にカメラを向けようと思ったのが映画製作のきっかけになったとか。

本作がニューヨークのマンハッタンで開催されるトライベッカ映画祭にて上映され好評を博したことで、フィクション映画製作にも着手。

2019年には、人気ポップスバンド「ワン・ダイレクション」のハリー・スタイルズを主人公に想定して書かれた二次創作小説『アフター』の実写映画を手がけています。

恋人がいる女子大生が、ミステリアスな年下の少年と禁断の恋に落ちるという原作の内容を鑑みても、10代女性の揺れる心情を描く手腕を買われての起用となったのは間違いないでしょう。

なお、ゲージ監督の次回作として、アメリカで2002年に出版された恋愛小説を映画化した『Pages for You(原題)』が予定されています。

10代少女たちの喜怒哀楽を余すことなく捉える

本作で特筆すべき点は、被写体とカメラの距離感です。

カメラが生の被写体に密着するのは、ドキュメンタリーの常。

毎日のようにカメラに密着されていれば、時には煩わしく感じて撮影を拒むことだってあるはず。

にもかかわらず、観ていて演技なのではと錯覚してしまうほど、親と口論している時も、感極まって涙を流してしまった時も、7人の少女はカメラを気にもせずに、等身大の自分をさらけ出します。

ゲージ監督は、被写体との適度な距離感を保つことに細心の注意を払ってカメラを向けたとのことで、そのあたりはファッションフォトグラファーの経験が活きているといえるかも。

ドキュメンタリー映画を撮る際に重要なのは、監督(制作スタッフ)と被写体との信頼関係。

監督が多感な少女たちとの間に強い信頼関係を築けたからこそ、彼女たちの本音を映せたのです。

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映画の“もうひとつの主役”ブルックリン


映画『オール・ディス・パニック』

本作に登場する少女たちが暮らす街ブルックリンは、ニューヨーク市に5つある区のひとつで、“摩天楼”マンハッタンの対岸に位置します。

この地域は、ユダヤ系、アフリカ系、中南米系、アジア系などが混在する、多民族都市ニューヨークを象徴する街。

以前は貧困層が多いとして、治安もあまり良いとはいえませんでしたが、近年では成功を夢見るベンチャー起業家や芸術家の卵たちが住むようになっています。

それでも、決して裕福とはいえない環境下にある人たちも多く存在しており、少女たちの中にも家庭に何かしらの事情を抱えている者もいます。

少女たちを映すと同時にブルックリンという街の今も、本作では映します。

その他のティーンエイジャー密着ドキュメンタリー映画

ここで、ティーンエイジャーに密着した他のドキュメンタリー映画をいくつかピックアップします。

いずれの作品も、異なるベクトルで10代若者たちの生態を追っています。

『子供たちをよろしく』(1986)


映画『子供たちをよろしく』

シアトルの廃墟ビルを拠点に、窃盗や売春をして暮らす13歳から19歳までの少年少女たちに密着したドキュメンタリー。

後年、『アメリカン・ハート』(1992)や『アメリカの片隅で~幸せのかたち~』(1996)で、アメリカの家族の亀裂と再生を描くことになるマーティン・ベル監督が、違法行為をしながらもたくましく生きる本物のストリートチルドレンにカメラを向けます。

『American Teen/アメリカン・ティーン』(2008)

『くたばれ!ハリウッド』(2003)のナネット・バースタイン監督が、アメリカ・インディアナ州の高校に通う10代の若者5人に1年間密着。

プロバスケプレイヤーを夢見るコーリン、映画監督志望のハンナ、ゲームオタクなジェイク、高飛車セレブのメーガン、イケメン人気者のミッチといった個性的な面々が、各々抱える悩みに直面していきます。

『オール・ディス・パニック』の少女たちに匹敵するぐらい、目の前のカメラを気にすることなく、感情をあけすけにする彼らの、ユニーク交じりの成長譚となっています。

まとめ

かつてこれほどまでに、10代少女たちの実態を捉えた映画があったろうか?
(The Guardian-Film News)

『6才のボクが、大人になるまで。』の女の子版。
(Indiewire)

アメリカで本作『オール・ディス・パニック』が公開された際、以上のような称賛レビューが上がりました。

少女たちを真正面から捉えた本作は、同世代の女性のみならず、かつて10代だった老若男女にも共感する面があるはず。

『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』上映で、是非ともチェックしてください!

『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』は2019年9月6日(金)から京都みなみ会館にて開催です。

【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら

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