SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020エントリー・中濱宏介監督作品『B/B』がオンラインにて映画祭上映
埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2020年も開幕。今年はオンラインによる開催で、第17回を迎えました。
そこで上映された作品の一つが、日本の中濱宏介監督が手掛けた映画『B/B』。猟奇殺人、解離性同一性障害といったミステリーの定番テーマを、緊張感あふれる構図とユーモアたっぷりの会話劇で描いたサスペンス・ミステリーです。
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映画『B/B』の作品情報
【上映】
2020年(日本映画)
【英題】
B/B
【監督】
中濱宏介
【キャスト】
カレン、中澤康心、西村風音、騎馬穂乃佳、ひと:みちゃん、佐波太郎、米倉愛
【作品概要】
解離性同一性障害というサスペンスの定番テーマをコミカルな会話劇とともに描いたミステリー。
本作を手掛けた中濱宏介監督は本作では製作、脚本、編集、美術とマルチに活躍し多彩なセンスを発揮しました。また音楽は堀本陸と馬瀬みさきの二人による作曲家ユニットLantanが担当、物語のもつテンション感にさらに深みを与えています。
主演を務めたカレンは昨年の本映画祭SKIPシティアワード受賞作『ミは未来のミ』(19)でヒロインを担当、本作でも目まぐるしく表情を変える難しい役どころを見事に演じ分けました。
中濱宏介監督のプロフィール
北海道出身。大阪芸術大学映像学科で大森一樹監督の下にて映画演出を学びました。
これまでの監督作品には、短編『The Boy Who Defecate With The MOBY-DICK』(17)、中編『SORROWS』(18)など。昨年2019年に発表した『SORROWS』は「湖畔の映画祭2019」で上映されました。
今年2020年に大阪芸術大学を卒業しており、本作はその卒業制作として作られました。
映画『B/B』のあらすじ
2020年、世間では担当大臣の汚職による東京オリンピック中止、新興宗教による毒ガス散布未遂事件が大きな話題となっていました。
一方、そんなふたつの大事件の影で起こったコンビニ経営者惨殺事件がありました。そしてその事件被害者の息子、士郎と交流のあった紗凪は今、まさに刑事から取り調べを受けていました。
解離性同一性障害を患う彼女と彼女の中に存在する人格たちは、それぞれの視点から回想を始め、紗凪自身も知らなかった真相が徐々に明らかになっていくのですが……。
映画『B/B』の感想と評価
古典的モチーフを巧みなバランスで構成
古くはミステリー、サスペンスなどのジャンルでよく使われた解離性同一性障害。
いわゆる多重人格障害というモチーフは、2019年の『ジョナサン ふたつの顔の男』や、映画『水曜日が消えた』など、少し奇抜な取り上げられ方が台頭してきているのが近年の傾向です。
これら作品の特徴は、結果的に一人の人間がもつ複数の人格のいずれをも否定しないこと、どの人格もその人間を構成する一部という点にあります。
一方で本作『B/B』は、どちらかというと古典派ミステリーというポリシーを結末に感じさせており、サスペンスの醍醐味を存分に味わえるものにしています。
そのスパイスとして用いているのが、コメディという笑いのバランスにあります。
複数の人格を同時に登場させるという奇抜なアイデアで、画としては現実と空想世界の境界を描き、コメディとミステリーの均衡を巧みに展開させています。
冒頭のうっすらと見られる不安感に対して複数の人格が現れた際に、一気ににぎやかになるコメディらしい演出。そして「これはやはり“笑わせる映画”なのか」と思わせた矢先に、徐々に満ちてくるミステリー感覚。やがて訪れる結末では何ともいえないブルーな感覚に包まれます。
中濱宏介監督インタビュー映像
「この映画は大学の卒業制作として撮影しました。在学中は幾つかの短編、中編を作りましたが納得の行く作品には為りませんでした。本作にも勿論心残りや妥協点はありますが自分が目指している理想の断片に触れることはできたのかな、と感じています。
「何度も繰り返し観たくなる作品」になるよう心懸けました。1度目は「物語」、2度目は「テーマ」、3度目は「話の筋と関係ない小ネタ」を楽しんでもらえたら嬉しいです。」
妥協を許さないディテール
本作の特徴は、ショット数の多さ、アングルのこだわりがあげられます。
冒頭の主人公・紗凪の尋問シーンでは、ある一室における会話のひと時を描いているだけにもかかわらず、膨大な数のアングルを組み合わせたモンタージュで構成で描かれています。
それはどれも中心線をcm単位でもずらさないほどの正確さと精密さを感じさせる丁寧な撮影だといえるでしょう。
さらにこのシーンで喋るカレンのセリフはかなり長い上に、言葉の一つ一つまでリズムや意味合いに対して、かなりこだわりをもって書き上げたものでもあります。
目まぐるしくショットが変わる場面と絶妙に同調しており、大きな見どころの一つとなっています。
このような編集でのこだわりと、コミカルな場面におけるショット、さらにはクライマックスにおける物語の核心に迫るシーンなどの描き方が、非常に秀でたものを感じさせてくれます。
また画面の色彩感についても、場面の意味毎にホワイトバランスの付け方で変化をつけるなど、とことんまで見せ方にこだわっており、担当したスタッフの妥協のなさも感じられます。
インタビューで中濱監督は、場合によって現場合わせで撮ったというシーンがあったとも語っていますが、奇抜なショットがその特異性を主張していない、必然すら感じさせてくれもします。
役者の表情の一つ一つにまでアドリブ的な要素もほとんど感じられず、中濱監督自身が当初より描いた物語のイメージがいかに強かったかをうかがわせてくれます。
まとめ
映画『B/B』は、ディテールを丁寧に作り上げた作品である一方、長編第一作という点において、フレッシュさを感じさせてくれる映画でした。
それは中濱監督をはじめスタッフ、キャストが映画を作る情熱、妥協を許さないという、信念を強く感じさせる作品です。
そういった点は中濱監督自身も「何度でも見たいと思ってもらえるものを」と語っていることにも表れており、今後制作経験を重ねていく上で、作風がどのように円熟味を増し変化していくのかが非常に興味深く、さらなる新作映画の発表を心待ちにしたい逸材です。