2020年の映画おすすめランキングベスト5
選者:シネマダイバー桂伸也
新型コロナウィルスの猛威という未曽有の障害が全世界を覆った2020年、感染拡大防止策のために人々の生活はさまざまな面で大きく制限され、特に映画をはじめエンタテインメント業界は非常に厳しい状況に追い込まれました。
こうした状況において、いずれやってくるであろうと予想された映像配信への移行も加速され、映画業界は有無を言わせず大きな転機に「迫られる」状況にあります。
それは逆にこれまで行われてきた映画の在り方を見直し、新たな時代を迎えるにあたりどのような作品を作っていくべきなのか、どういった作品が求められているのか、作り手にその真価が問われる時期にあるとも見られます。
“暇つぶし”的な作品はどんどん淘汰され、例え厳しい時代であっても求められる作品、作り続け人々に見せていく価値の作品作りを意識していくことが、今後は必要なのではないでしょうか。このような観点から、今年特に印象に残った作品のベスト5をご紹介します。
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CONTENTS
第5位『海辺の映画館~キネマの玉手箱』
【おすすめポイント】
広島・尾道の海辺にある映画館の、最後の営業日に訪れた若者3人が突然スクリーンの世界にタイムリープし、近代日本で起きた戦争の歴史におけるさまざまな場面に遭遇する様を描いていきます。
複雑に構成されながら、いつしか心を奪われるカラフルな映像は、まさしく「映画で世界を平和にしてみせる」という言葉を残した大林監督の集大成。
見ているといつしか気持ちをグッと捕まれ、平和への願いを込めた監督のメッセージが心に深く刻まれることは間違いありません。
第4位『君がいる、いた、そんな時。』
【おすすめポイント】
ある町に住む、フィリピン人の母を持つハーフの少年が心に影を持つ女性と変わりものの同級生との出会いを通じて、引け目を感じていた自身の境遇に向き合っていく姿を描きます。
派手さはないものの、センスあふれる二人の子役と役者として心境著しい小島藤子を中心に濃厚な化学反応を見せており、とかく人同士の繋がりが希薄になりがちといわれる今日において、改めてその関係を考えさせてもらえるような物語となっています。
第3位『カセットテープ・ダイアリーズ』
【おすすめポイント】
パキスタンからの移民という境遇に引け目を感じながらも、アメリカのロックスター、ブルース・スプリングスティーンの歌声に大きく触発され、自身の未来を切り開いていく姿を描きます。
逆境を乗り越えていくという点において大きな共感を呼ぶストーリーに加えて、現在世界的に大きな影響力を持つアメリカに対して、緊張状態にある中国以外の人種から発せられた辛辣なメッセージを持つ作品として今、非常に大きな意義を持った作品です。
第2位『彼女は夢で踊る』
【おすすめポイント】
広島にある実在のストリップ劇場とそれを営む劇場支配人をモチーフに、ストリップに魅せられた人たちの絡み合う人生のさまを群像劇として追っていきます。
社会的にも正視されることは難しく、近年では斜陽的な興行と見られがちなストリップに情熱を傾ける人たちを美しい映像の中で余すところなく映し出したその映像は、人が自身の追い求めるものに疑問を抱いたときに、改めて原点に立ち返らせてもらえるものとなっています。
第1位『はちどり』
【おすすめポイント】
激動の時代を迎えた1994年の韓国、その一方で多感な年頃を迎えた一人の少女の平凡な生活の目線を繊細にとらえ、さまざまな人との関係を生き生きと描きます。
物語では韓国でこの時期に発生した大きな事件をエピソードに取り上げながら、少女の大きく揺れ動く心を印象的にとらえており、世界的に大きな問題が発生している現在に生きる人たちに大きく共感するものを与えてくれるでしょう。
2020年注目の監督とキャスト
監督賞:中濱宏介
女優賞:坂本いろは
男優賞:ヴィヴェイク・カルラ
【コメント】
監督賞として選出した中濱宏介監督はまだ今年大学を卒業したばかりの新鋭監督でありますが、10月に行われたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020にて長編国内部門にノミネートされた映画『B/B』において、まだ粗削りな作風ながらテーマに対するイメージの作り方、やテンポ感、バランス感に優れたセンスを感じさせました。作品の選出はかないませんでしたが、今後の成長に伴う新たな作品を大いに期待したいところです。
また女優、男優に関しても今後の活躍に注目したい意味で『君がいる、いた、そんな時。』で映画初出演ながら、貫禄すら感じさせる優れた表現力を見せた子役の坂本いろは、『カセットテープ・ダイアリーズ』の演技で作品のメッセージ性を色濃いものとするのに貢献した新人で主演のヴィヴェイク・カルラを選出しました。
まとめ
深刻な社会状況で映画館の運営すら制限され、映画業界は厳しい状況でありましたが、そんな状況下でも多くの映画作品が発表されたことからは、やはり映画というものが人に求められているものだと改めて感じられます。
その意味で順位付けということでかなり悩んだ一方で、上位5作のほかにも添い寝屋という特殊な職業から人とのつながりを描いた『クローゼット』、時事的な焦点から印象深さを感じさせた『コリーニ事件』『はりぼて』『南スーダンの闇と光』『おかあさんの被爆ピアノ』など、この状況下で「今見るべき」を意識させる作品も多く発表されたこと、そして新しい形での映画祭が積極的に行われたことは、新しい時代を迎える映画界には好材料であったといえるでしょう。
また業界に大きな転換を迫られているいまだからこそ、新たなセンスが求められる時期でもあり、その意味で新人による作品でインパクトのある作品を多く見られたのも非常に印象的であり、来年以降にまた新たな刺激を放つ作品が登場することを期待したいところであります。