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Entry 2019/12/24
Update

映画『猿楽町で会いましょう』感想レビューと評価。金子大地と石川瑠華の切実な表情と姿態で見せた“現在の若者”|TIFF2019リポート32

  • Writer :
  • 桂伸也

第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ『猿楽町で会いましょう』

2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されました。


(C)Cinemarche

日本のインディペンデント映画を応援する目的にて作られた「日本映画スプラッシュ」部門。

新鋭監督とベテランが相まみえる布陣となった本年度の作品群の一つが、監督・児山隆による映画『猿楽町で会いましょう』

レッドカーペットでは児山監督とともに映画に出演した金子大地、石川瑠華、柳俊太郎、前野健太、小西桜子らも登場、映画祭のスタートを飾りました。さらに映画上映後には来場者に向けたQ&Aもおこなわれました。

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら

映画『猿楽町で会いましょう』の作品情報

【上映】
2019年(日本映画)

【英題】
colorless

【監督】
児山隆

【キャスト】
金子大地、石川瑠華、柳俊太郎、前野健太、小西桜子

【作品概要】
鳴かず飛ばずのフォトグラファーが、あるきっかけで出会った読者モデルの恋と青春を描いたラブストーリー。監督は、本作が長編映画デビューとなる児山隆。『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』『殺さない彼と死なない彼女』の金子大地と『イソップの思うツボ』『恐怖人形』の石川瑠華がダブル主演を務めるほか、柳俊太郎、前野健太、小西桜子といった面々が名を連ねています。

児山隆監督、石川瑠華のプロフィール


(C)Cinemarche

児山隆監督(写真左)

映画監督・林海象の助監督を経て、監督としてCMなどの広告作品を多く担当。初の映像作品として第2回未完成映画予告編大賞出品作の『猿楽町で会いましょう』がグランプリと小原信次賞を受賞しました。

そして2019年に本編の製作が決定、長編商業映画デビューを果たしました。

石川瑠華(写真右)

埼玉県出身。2017年8月の舞台「SUGAR WORKS」でデビュー、第2回未完成映画予告編大賞出品作の『猿楽町で会いましょう』のヒロイン・ユカ役で映像デビューを果たします。

また2019年8月公開の映画『イソップの思うツボ』の主演・亀田美羽役に抜擢後注目を浴び、本作のほかに『恐怖人形』、2020年公開の『闇國』など、急速に出演作を増やしています。

映画『猿楽町で会いましょう』のあらすじ


(C)2019オフィスクレッシェンド

なにを撮ってもパッとしないフォトグラファー、小山田修司(金子大地)。ある日彼は自身の作品を作るためにモデルとしてアプローチした読者モデルの田中ユカ(石川瑠華)と出会います。

撮影を通じて徐々に距離を縮めていく二人でしたが、ユカはなにか秘密を抱えている様子を見せる一方で、修司に体を許すことは決してありませんでした。そんな中で、小山田は自分が撮った作品を、自分のインスタグラムにアップ、この写真がのちに二人の運命を大きく変えていくことになるのでした。

映画『猿楽町で会いましょう』の感想と評価


(C)2019オフィスクレッシェンド

スチールカメラに映し出された、あるいはそのスチールに映し出されたかのような石川瑠華の表情。本作のあちこちに登場するその面構えは、本作のおおまかなプロットとなり、映画を構成しているようでもあります。

石川の演技はどちらかというとナチュラルで、それほど思いの強さが出ている感じではなく、それがまさしく物語に描かれている「どこに着地する感じでもない」田中ユカというキャラクターの顔つきをうまく体現しています。

それと対照的なのが修司らをはじめとした、ユカを取り巻く人たちの表情。そのバランス感覚がユカという存在がある意味浮世離れした存在としており、彼女を置いてけぼりにしてドラマの時間軸は進行していきます。

修司とユカ、二人のキャラクターはどちらも自分の居場所を見つけられない現代の若者のリアルな一側面を描いているもので、最終的にそれぞれは全く別の道に進んでいくわけですが、どちらの側面、要素も若者の心の中には存在するのではないか、そう思わせてくれる説得力を醸し出しています。

修司の姿はどちらかというと現実的な面、逆にユカの姿はもっと現実離れした、妄想のような面と、対照的なキャラクターであるようにも見え、石川のその印象的な姿はまるで若者の複雑な心の奥底を描いているようでもあります。

上映後の児山隆監督×石川瑠華Q&A

本作の映画祭での上映時には児山隆監督と石川瑠華が登壇。舞台挨拶をおこなうとともに、会場に訪れた観客たちからのQ&Aに応じました。


(C)Cinemarche

──ヒロインの石川さん抜擢は、石川さんの当時のインスタグラムを見てスカウトされたとうかがいましたが、その経緯を改めて教えていただけますか。

児山隆(以下、児山):本作のキャラクターは見た目の説得力というか、実在感みたいなものが絶対的に必要だと思っていたんです。そこで石川瑠華さんのインスタグラムを見てとても気になりました。

そのキャスティングする直前に、石川さんが舞台に出演されていたので、こっそり観劇に行ったのですが、僕にはその役にどうにも納得していないような感じというか…本人は納得していたかもしれませんが、うまくその役に「ん?なんでだ?」みたいな感じを見せていて、変なちぐはぐ感を覚えたんです。

下手とかではなく、しかっりと一生懸命演じられていましたが、その瞬間に自我、自意識みたいなものがすごく見て取れたんです。でも、僕にはそれが石川さんの良い部分だと感じました。その後、ダイレクトメールを送って出演を打診しました。

──いきなり来たダイレクトメールには、石川さんとしては不信感を持たれたのではないでしょうか?

石川瑠華(以下、石川):そうですね、確かに(笑)。メールの内容も絵文字があったりして軽いなと思ったし、監督のことはわからなかったわけですから。

それでも未完成映画祭というのは確かにあって、それに出したいという意思は伝えていただいたことで、あのときは「私でよければ」と返信をしました。

──そういう意味では、今回の劇中のユカと立ち位置が似た形で始まっていますね。

児山:それがあったからあの映画が撮れたんだなと思うと、確かに結果論としてそのようなところはあるかもしれません。


(C)Cinemarche

──石川さんは脚本を読んでどう思いましたか?

石川:未完成映画から1年半くらい経って、新たに脚本をいただいたんですが、最初は若干嫌だなと思いました。私はユカを演じるという前提で脚本を読んだんですが、そのときの印象は「これって、すごく悪者を演じればいいのかな、映画の中の悪者を」という感じでした。

でも、そうはしたくないなと思ったんです。スクリーンで観たときに自分が「嫌いだ」と思うものを演じたくない。だから監督を何回も呼び出して「ここはどうなんですか?」みたいに何回もしつこく聞いたりしていました。(笑)

──今回、石川さんが演じるにあたりすんなり入っていけた部分と、難しかった部分を教えていただけますか。

石川:女優としての入り口みたいなところに立ったとき、私は誰かにスカウトされたわけでもなく、誰かに求められていたわけでもなかったんです。ユカみたいにフワフワした状態で、自分からその世界に飛び込んだんです。

その手始めがワークショップでした。もしかしたらユカのような道を進んでいたかもしれない。だから始まりの部分は同じようだったので、その部分はすんなりといけました。自分の弱さを最後まで認めずにずっと嘘をつき続けるというのは、自分の中ですんなり落とせない部分でもあったんです。さらに絶対自分がユカのことを嫌いになったらダメだなと思ったので、そこは心情には難しさを感じました。


(C)Cinemarche

──女性心理として、嘘とわかり切っていることを嘘じゃないんだと通すところは、一つの核となるところではありましたね。

児山:そうですね。石川さんが演じるにあたり嫌う、嫌わないというところもですが、僕がすごく心掛けたことは、小山田にもユカのどっちにも肩入れしないようにしようとしました。

つまりユカという人を断罪するようには絶対にすべきではない。意外と小山田に対してもそうだし、ユカに対してもそうだし、その一定の距離感というのを常に保ち続けて、最終的には二人との距離というのをずっと意識しながら映画を作っていました。

──撮影中や演技をしていく中で、金子大地さんに好感を持たれたポイントがあれば教えていただきたいと思っています。

児山:映画の撮影初日から金子大地という人が素晴らしいと思いました。この物語のはじめのショットは金子さんの顔から始まります。当初脚本上ではバック・ショットから小山田が出版社に入っていくシーンを書いていました。でも金子大地さんという人はすごい人になるんじゃないかなと思い、あのようになっていきました。

あの撮影は3日目だったんですが、そのときに「この人のこの顔から映画を始めたい」という衝動に駆られたんです。だから僕の感情や思いの集合がトップショットに現れたのだと思います。


(C)Cinemarche

──石川さんからは、金子さんにはどのような印象をもたれましたか?

石川:撮影当初、私たちは全くしゃべれなくて…私も人見知りで向こうも人見知りで(笑)。役ではポンといけたんですが、人としてあまりしゃべっていなかったです。

でも撮影の中盤くらいで少し話す機会をいただいたんですが、そのときにすごく私のことを見ていると気づいたんです。いろんなことを言っていただいて。私のことをこんなに見て、すごく周りも見られて、信頼も置けて頼りがいがある。素敵な俳優さんだと思いました。

──映画の予告編を作っている段階で、長編として改めて制作するときの完成形はどのくらいまで想定されていたのでしょうか?

児山:おおまかなプロットはもともとありました。この話は男性と女性が出会って別れるという話なので、実はすごくシンプルな三部構成で、脚本を書いているときから決まっていました。長編にするときにそこの部分はとても苦労もしました。予告編を作っているときにイメージしていたものがうまくいかなくて、大舵を切ったりしました。

その構成を変えていく中で、結末が僕の予想しない方向にどんどん進んでいったので、自分でやりながら「ああ、こうなっていくんだ」みたいな、新鮮な驚きのようなものはありました。


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──石川さんから見て、児山監督はどんな監督でしたか。

石川:答えを与えてくれない監督です。現場では一定の距離がある中で、やっぱり自分の役を自分で考えさせてくれる監督さんだな、と思いました。

NGを出されてもただ「ダメ」と結果だけ、なにがということを教えてくれないんです。だから自分にちゃんと考えられて、OKが出たときは「これか」と思う感じでした。

──児山監督は、これからやってみたい映画とか、こういうテーマをやりたいというのはありますか?

児山:やりたいのは「スポ魂」ですね。しかもやりたいのはカーリング(笑)。カーリング映画を撮りたいと思います。誰か紹介してください、お願いします(笑)


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まとめ

先述のとおりこの映画は、かつて第2回未完成映画予告編大賞に児山監督が出品した予告映像が基となり、長編作品として作られました。

その予告映像で見られる石川の表情は、まさしくこの作品で見られる表情のイメージと一致していますが、石川以外の役者が違うということとともに、脚本にも若干ストーリーの変更をおこなったことがわかる片鱗が見て取れます。

そういった面で児山監督がこの物語に対しどのような思いをもって向き合い作り上げたのかを、予告映像を合わせて見ることでさらに深く感じられるかもしれません。

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら

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