連載コラム「電影19XX年への旅」第11回
歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。
第11回は、『めまい』や『白い恐怖』など、多くの名作を映画史に残したアルフレッド・ヒッチコック監督作品『ダイヤルMを廻せ』です。
元テニススターだったトニーは、妻のマーゴに浮気をされていました。マーゴを殺害し、遺産を手に入れようと目論んだトニーは、大学時代の同級生であるスワンに、殺人の提案をします。しかし、殺人は計画通りに行かず……。
完全犯罪が成立するのかを殺人の計画者側から描いた、本格サスペンス・ミステリー映画です。
映画『ダイヤルMを廻せ』の作品情報
【公開】
1954年(アメリカ映画)
【原題】
Dial M for Murder
【監督・制作】
アルフレッド・ヒッチコック
【キャスト】
レイ・ミランド、グレース・ケリー、ロバート・カミングス、ジョン・ウィリアムズ、アンソニー・ドーソン
【作品概要】
『めまい』(1958)や『白い恐怖』(1945)のアルフレッド・ヒッチコック監督作品。浮気をする妻の殺害を計画したトニーが様々なハプニングに見舞われながらも、完全犯罪の実現のために奔走するサスペンス・ミステリー映画。
『失われた週末』(1945)で、アカデミー賞主演男優賞を受賞したレイ・ミランドが主演し、その妻を『裏窓』(1954)のグレース・ケリーが演じています。
映画『ダイヤルMを廻せ』のあらすじとネタバレ
テニス選手として活躍していたトニーの妻であるマーゴは、トニーのいない間、推理作家のマーク・ハリディと浮気をしていました。
テニスのツアーで世界中を飛び回ることに疲れたのか、マーゴはトニーにテニスの引退を求めます。
トニーはテニスを辞め、真面目に働いていました。マーゴは、トニーが要望通りに変わってくれたことを喜ぶ反面、マークを愛する気持ちを止められませんでした。
マーゴは浮気がバレないよう、マークからの手紙を読んだ後、燃やしていました。しかし一通だけ燃やさず、大事に鞄にしまっていた手紙がありました。
その手紙を、何者かに盗まれてしまいました。現金を渡すよう脅迫されると、マーゴは惜しみなく要求に応えます。マーゴは金持ちの娘でした。
トニーが家に帰ると、マーゴは友人だと言って、マークを紹介します。そして、トニー1人を置いて、食事に出かけます。
2人が家を去ると、トニーは受話器を手に取り、車を購入すると言い出します。車の持ち主であるスワンは、トニーの学生時代の先輩でした。
現金を盗んだことを噂され、現在も悪行で生計を立てている男です。そんなスワンを、トニーは偽名を使い、足を負傷していると言って呼び出します。
スワンが到着すると、トニーは妻が浮気していると話し始めます。マーゴの手紙を盗み、脅迫していたのはトニーでした。そして、数日間スワンを追い、行動を見張っていたことまで伝えます。
スワンは金のため、いくつもの偽名を使い、女性を殺害していました。トニーはスワンに、報酬を1000ポンド、前金100ポンドで殺害してもらうよう提案します。
スワンは割に合わないと怖じ気づきます。トニーは、自身の計画をスワンに聞かせます。階段に鍵を隠し、外出をする。そのすきにスワンは部屋に入り込み、カーテンに隠れる。電話を鳴らし、受話器を取ったマーゴを、スワンが殺害する。
強盗を疑わせるために金になるものを奪い、窓から出入りしたと思わせるために窓を開けておく。
妻は普段から窓に鍵をかけないと、トニーが供述するという計画でした。妻に習慣があるのは本当かとスワンが尋ねると、死体は何も話さないとトニーがすごみます。
計画の実行は翌日。スワンは前金を手に取り、スーツの内ポケットに仕舞うのでした。
翌日になり、トニーはマークと共にパーティーに出かけようとします。妻の鍵を階段に隠すため、鞄を手に取ろうとするトニーですが、マーゴは映画を観に行くと駄々をこねます。
なんとかマーゴをなだめ、タクシー代が欲しいと言って鞄に手を出します。マーゴは慌てて鞄を取り返しますが、なんとか鍵を盗むことに成功しました。
トニーは階段にもたれかかり、スワンに指定した通りの場所に鍵を隠しました。
スワンはマーゴのいる部屋に入り込み、カーテンに隠れます。パーティー会場にいるトニーは時計が壊れ、電話をかけると言っていた時間に間に合いません。
スワンが部屋を後にしようとしていた時、トニーはマーゴに電話をかけました。マーゴは受話器を手に取ると、スワンによって、首を絞められます。
マーゴは必死に抵抗すると、伸ばした手の先に裁縫用のハサミがありました。マーゴはそれを手に取り、スワンの背中に刺しました。
スワンは倒れ込み、死亡します。マーゴは電話に助けを求めると、その主がトニーだと知ります。トニーは計画の失敗を予感し、何もするなと釘を刺します。
トニーは慌てて帰り、計画を変更します。スワンの指紋が付着した手紙を遺体のポケットに入れ、凶器のストッキングも燃やします。
鍵がポケットに入っていると共犯も疑われるため、スワンのポケットを探し、マーゴの鞄に戻しました。
そしてマーゴが殺人したと疑われるよう、マーゴのストッキングを結び、遺体の側に置きました。動機は以前の脅迫によるものだと思われても、不思議ではありません。
映画『ダイヤルMを廻せ』の感想と評価
鍵や100ポンドの前金など、小道具を撮影するカメラは、この作品における小道具の重要性を高めるのに一役買っていました。
要所で長ったらしいセリフを用いず、小道具をどうしたのかという行動で、視覚的に物語を進めています。そしてそれは、作品に小気味の良いテンポを与えていました。
レイ・ミランド演じる完全犯罪を目論んだトニーが、スワンに殺害を提案する場面では、息をのむ緊張感がありました。
足が悪い振りをして杖を持っていたトニーでしたが、気が付くと杖を置き話をしている。ここからは、嘘偽り無く腹を割って話そうという雰囲気が、この杖によって成立しています。
また、前金の100ポンドを受け取る場面でも、計画を受ける言葉がなくとも、100ポンドを仕舞うという動作だけで、スワンの決意が分かるようになっています。
観客を飽きさせることなく、また、展開に振り回されることもなく物語についていかせる、ヒッチコックの制作技術が光ります。
本作品はサスペンス・ミステリーでありながら、犯人は最初に分かっている状態で始まります。しかし計画が思うようにいかないところから、観客も共に犯罪の様子を見ていくような潜入感を味わうことができました。
推理作家のマークが語っていた言葉、完全犯罪は小説の中だけで、現実は些細なミスで崩れるというものも、トニーが辿る結末を示唆しているものだと思われます。
スワンが殺害に失敗し、トニーがマーゴを犯人に仕立て上げるために取り繕った嘘も、小さなミスから綻びが生まれました。
そしてその綻びが積み重なり、結末の種明かしでは、これまでの嘘が暴かれていくといったカタルシスを得ることができます。
まとめ
ヒッチコック監督作品『裏窓』にも出演していたグレイス・ケリーが、本作品では浮気をする妻を演じていました。
『裏窓』では、誰も彼もを魅了する美しさを発揮していましたが、本作品でも負けず劣らずのクール・ビューティーっぷりを放っています。
本来、浮気をする妻という憎まれる立場にあるマーゴですが、被害者としてのグレイス・ケリーの美しさが本能的に、彼女は味方でトニーが悪だと思わせる構図を作っています。
また、トニーを演じたレイ・ミランドの、紳士的でありながら随所で垣間見える悪の笑顔も名演技でした。
当然のようにスワンに手紙を触れさせ指紋を付着させる場面や、表情を変えずに嘘を吐き続ける様子は、十分に恐ろしさを感じさせます。
次回の『電影19XX年への旅』は…
次回は、アルフレッド・ヒッチコック監督作品『サボタージュ』(1963)を紹介します。どうぞ、お楽しみに。