アイドルになる夢を叶えるため、少女が「計画」を実行に移す
歌手やダンサー、俳優やタレントやモデルと言った各方面に特化した専門職ではないものの、それらすべての要素を求められる「アイドル」と言う職業。
華やかな世界でありながら、第一線で活躍するためには過酷な道程があるだけでなく、人前に出る職業であるがゆえに強いプレッシャーがかかり続ける「アイドル」。
今回は第一線で活躍した「アイドル」の高山一実が執筆した、「アイドル」と言う職業に憧れる少女の物語を長編アニメ化した映画『トラペジウム』(2024)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『トラペジウム』の作品情報
【公開】
2024年(日本映画)
【原作】
高山一実「トラペジウム」
【監督】
篠原正寛
【脚本】
柿原優子
【主題歌】
MAISONdes「なんもない feat. 星街すいせい, sakuma.」
【キャスト】
結川あさき、羊宮妃那、上田麗奈、相川遥花、木全翔也、久保ユリカ、木野日菜、内村光良、高山一実、西野七瀬
【作品概要】
雑誌『ダ・ヴィンチ』に2016年から2018年まで連載された高山一実による小説を、『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』(2019)で絵コンテや演出を担当した篠原正寛が映像化した作品。
主人公東ゆうの声を、累計発行部数200万部を超える漫画「逃げ上手の若君」のアニメ化作品で主人公の声を務めることになった結川あさきが担当しました。
映画『トラペジウム』のあらすじとネタバレ
お嬢様学校として知られる「聖南テネリタス高校」に向かう「城州東高校」の東ゆう。
彼女には「計画」があり、そのために他校の中を練り歩き、テニス部で縦ロールの髪を持つ華鳥蘭子と出会います。
蘭子は「エースをねらえ!」のお蝶夫人に憧れテニスを始めましたがテニスの才能は全く無く、蘭子を見て「お蝶夫人」と呟いたゆうを気に入り、友達になりたいと言う彼女の申し出を受け入れました。
「計画」の第一歩が成功したことを確信したゆうは、続いて「西テクノ工業高等専門学校」でロボット研究会に所属する天才的な少女・大河くるみに会いに行くことにします。
しかし、くるみは内気な性格であり、昨年のロボコンでの活躍が話題となったことで急増したファンとゆうを同類とみなし、ゆうの前から走り去ってしまいました。
ゆうはくるみと同じ部活に所属する写真好きの工藤真司と親しくなり、真司のつてでくるみと話す機会を得て、彼女が今年のロボコンの課題となる「水上」の練習場所を求めていることを知り、蘭子の家のプールを貸す約束を取り付けます。
くるみはロボコンの練習のため蘭子の家に入り浸るようになり、彼女はその年のロボコンに優勝し、ゆうは3人の結束が強くなったことに内心ほくそ笑んでいました。
数日後、真司にくるみの写真をお願いしていたゆうは彼に真意を聞かれ、自身の「計画」を語ります。
ゆうは光を放つアイドルに強い憧れを持っているだけでなく、可愛い女の子を見るとアイドルにならなければ勿体ないと考えていました。
オーディションにすべて落選していたゆうは、手っ取り早くデビューを目指す一歩として話題性を求め、「城州内の東西南北の高校から選りすぐりの可愛い女の子を集める」計画を実行に移しており、蘭子とくるみは彼女が意図的に仲良くなるように仕向けていたのです。
真司はゆうの行動力に驚き、自身も写真家としての夢を歩むために彼女に協力することを約束します。
「計画」の遂行のために北の高校の女の子を探すゆうの前に、「城州北高校」に通うゆうの小学校時代の同級生・亀井美嘉が現れます。
美嘉は小学校の際の暗い雰囲気から男が好きそうな見た目の美人に変貌していたためゆうは警戒しますが、彼女がボランティア活動に精を出していることを知ると彼女を友達に加えます。
くるみと蘭子も誘い美嘉の所属するボランティアサークルの会に参加したゆうは、そこで自身を含めた4人を引き合わせ「東西南北」が揃ったことに歓喜。
4人は「西テクノ工業高等専門学校」で行われた学園祭に参加し、真司が開催していた10年後の自分に向けた写真の撮影会に参加するなどして仲を深めていきます。
ゆうの計画は次なる段階に進んでおり、ゲームの舞台地となったことで外国人観光客が増えた城郭のガイドボランティアを4人で受け、遂にテレビの取材にありつきます。
テレビの出演時間は雀の涙ほどだったものの、ADの古賀萌香は「東西南北」の少女たちに興味を持ち、金曜の深夜番組にゆうたちのコーナーを用意しました。
4人はコーナーを順調にこなし徐々に注目度を集めていくと、番組は彼女たちに「東西南北(仮)」と言うユニット名をつけアイドルデビューを約束。
歌とダンスの初お披露目も成功し、事務所への所属も決まった4人はダンスやボーカルレッスンにテレビ出演、ライブ活動が学生生活やボランティア活動に加わり忙しい日々を過ごすことになります。
映画『トラペジウム』の感想と評価
「アイドル」が執筆した「アイドル」の世界
本作の原作小説「トラペジウム」を執筆した高山一実は、2021年までアイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして第一線で活躍。
2016年から2018年までの執筆期間中は「アイドル」であった高山一実が「アイドル」の世界を執筆した「トラペジウム」は、他の作品では表現することの出来ないリアリティを放っています。
そんな原作をアニメーション化した本作は動きや映像がつくことによって、主人公の打算や限界を迎え始めるそれぞれの精神と言った眼を背けたくなる「闇」の部分と、アイドルと言う「光」の部分がより明確に描き分けられていました。
「アイドル」は「光」なのか
主人公の東ゆうは「アイドル」を「光」と位置付け、自身がその「光」となるために、周囲を巻き込んで進んでいきます。
しかし、巻き込まれた友人たちは「アイドル」と言う職業の特殊性に押し潰され、精神を擦り減らし笑顔を失う日々を過ごすことになってしまいます。
内側から見た「アイドル」の世界はとても「光」には見えないものの、ゆうを始めとしたそれぞれが「アイドル」を通して別々の「光」を見つけていく本作。
「トラペジウム」とは「オリオン大星雲」の中心に位置する若い星で構成された散開星団。
光り輝き、夢を照らす「若さ」とは本作において何を意味するのか。彼女たちが見つけたそれぞれの「光」の意味が心に染み入る作品です。
まとめ
本作には原作者である高山一実を始め、元「乃木坂46」の西野七瀬も声優として参加しており、どのシーンに2人が出演したのかを探すことも楽しみの一つとして用意されています。
「アイドル」になるために人の心すらも誘導し、自身の思い通りにいかないことに直面すると憤慨する主人公の東ゆう。
彼女は「アイドル」を目指した末に、「光」を放っていると信じた「アイドル」に何を見て、何を手にするのか。
つらい気持ちになる一方で、人生を生きる上で大切にしたい大事なことを「アイドル」と言うジャンルで再確認できる作品でした。