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Entry 2024/05/13
Update

【ネタバレ】トラペジウム|あらすじ感想と結末の評価考察。タイトル意味は?高山一実の原作小説で描く《星》を目指す少女の物語

  • Writer :
  • 糸魚川悟

アイドルになる夢を叶えるため、少女が「計画」を実行に移す

歌手やダンサー、俳優やタレントやモデルと言った各方面に特化した専門職ではないものの、それらすべての要素を求められる「アイドル」と言う職業。

華やかな世界でありながら、第一線で活躍するためには過酷な道程があるだけでなく、人前に出る職業であるがゆえに強いプレッシャーがかかり続ける「アイドル」。

今回は第一線で活躍した「アイドル」の高山一実が執筆した、「アイドル」と言う職業に憧れる少女の物語を長編アニメ化した映画『トラペジウム』(2024)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

映画『トラペジウム』の作品情報


(C)2024「トラペジウム」製作委員会

【公開】
2024年(日本映画)

【原作】
高山一実「トラペジウム」

【監督】
篠原正寛

【脚本】
柿原優子

【主題歌】
MAISONdes「なんもない feat. 星街すいせい, sakuma.」

【キャスト】
結川あさき、羊宮妃那、上田麗奈、相川遥花、木全翔也、久保ユリカ、木野日菜、内村光良、高山一実、西野七瀬

【作品概要】
雑誌『ダ・ヴィンチ』に2016年から2018年まで連載された高山一実による小説を、『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』(2019)で絵コンテや演出を担当した篠原正寛が映像化した作品。

主人公東ゆうの声を、累計発行部数200万部を超える漫画「逃げ上手の若君」のアニメ化作品で主人公の声を務めることになった結川あさきが担当しました。

映画『トラペジウム』のあらすじとネタバレ


(C)2024「トラペジウム」製作委員会

お嬢様学校として知られる「聖南テネリタス高校」に向かう「城州東高校」の東ゆう。

彼女には「計画」があり、そのために他校の中を練り歩き、テニス部で縦ロールの髪を持つ華鳥蘭子と出会います。

蘭子は「エースをねらえ!」のお蝶夫人に憧れテニスを始めましたがテニスの才能は全く無く、蘭子を見て「お蝶夫人」と呟いたゆうを気に入り、友達になりたいと言う彼女の申し出を受け入れました。

「計画」の第一歩が成功したことを確信したゆうは、続いて「西テクノ工業高等専門学校」でロボット研究会に所属する天才的な少女・大河くるみに会いに行くことにします。

しかし、くるみは内気な性格であり、昨年のロボコンでの活躍が話題となったことで急増したファンとゆうを同類とみなし、ゆうの前から走り去ってしまいました。

ゆうはくるみと同じ部活に所属する写真好きの工藤真司と親しくなり、真司のつてでくるみと話す機会を得て、彼女が今年のロボコンの課題となる「水上」の練習場所を求めていることを知り、蘭子の家のプールを貸す約束を取り付けます。

くるみはロボコンの練習のため蘭子の家に入り浸るようになり、彼女はその年のロボコンに優勝し、ゆうは3人の結束が強くなったことに内心ほくそ笑んでいました。

数日後、真司にくるみの写真をお願いしていたゆうは彼に真意を聞かれ、自身の「計画」を語ります。

ゆうは光を放つアイドルに強い憧れを持っているだけでなく、可愛い女の子を見るとアイドルにならなければ勿体ないと考えていました。

オーディションにすべて落選していたゆうは、手っ取り早くデビューを目指す一歩として話題性を求め、「城州内の東西南北の高校から選りすぐりの可愛い女の子を集める」計画を実行に移しており、蘭子とくるみは彼女が意図的に仲良くなるように仕向けていたのです。

真司はゆうの行動力に驚き、自身も写真家としての夢を歩むために彼女に協力することを約束します。

「計画」の遂行のために北の高校の女の子を探すゆうの前に、「城州北高校」に通うゆうの小学校時代の同級生・亀井美嘉が現れます。

美嘉は小学校の際の暗い雰囲気から男が好きそうな見た目の美人に変貌していたためゆうは警戒しますが、彼女がボランティア活動に精を出していることを知ると彼女を友達に加えます。

くるみと蘭子も誘い美嘉の所属するボランティアサークルの会に参加したゆうは、そこで自身を含めた4人を引き合わせ「東西南北」が揃ったことに歓喜。

4人は「西テクノ工業高等専門学校」で行われた学園祭に参加し、真司が開催していた10年後の自分に向けた写真の撮影会に参加するなどして仲を深めていきます。

ゆうの計画は次なる段階に進んでおり、ゲームの舞台地となったことで外国人観光客が増えた城郭のガイドボランティアを4人で受け、遂にテレビの取材にありつきます。

テレビの出演時間は雀の涙ほどだったものの、ADの古賀萌香は「東西南北」の少女たちに興味を持ち、金曜の深夜番組にゆうたちのコーナーを用意しました。

4人はコーナーを順調にこなし徐々に注目度を集めていくと、番組は彼女たちに「東西南北(仮)」と言うユニット名をつけアイドルデビューを約束。

歌とダンスの初お披露目も成功し、事務所への所属も決まった4人はダンスやボーカルレッスンにテレビ出演、ライブ活動が学生生活やボランティア活動に加わり忙しい日々を過ごすことになります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『トラペジウム』のネタバレ・結末の記載がございます。『トラペジウム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2024「トラペジウム」製作委員会

アイドル生活の日々は蘭子に取っては新しい経験だらけの日常で楽しいものでしたが、元から人前が得意ではないくるみの精神を徐々に蝕んでいました。

次の新曲のデモを聞いたゆうは新たな自分たちの演出のために、意気揚々と歌詞の作成を「東西南北(仮)」で行うと事務所の社長に宣言しますが、残る3人はアイドル活動への限界を感じており歌詞案も上がることはありませんでした。

ある日、SNS上で美嘉にデビュー前から彼氏がいることが発覚し、社長は美嘉に彼氏と分かれることを条件に事務所としての処分を行わないことを約束しましたが、怒りに我を忘れるゆうは美嘉に「彼氏がいるなら友達にならなかった」と吐き捨ててしまいます。

翌日、ゆうは美嘉に謝罪しますが、その日から美嘉は笑顔を見せることはなくなり、くるみは苦しい思いをしてまでアイドル活動を続ける意味を見出せなくなっていきます。

数日後、遂に限界を迎えたくるみは事務所内で大声で騒ぎだし、スタッフたちに抱えられるように部屋に連れていかれ、その様子を見て舌打ちをするゆうに対し蘭子と美嘉は自分たちも限界が来たことを告白。

蘭子と美嘉に「みんなを笑顔に出来るアイドルになりたくない人なんていない」と熱弁するゆうでしたが、「近くにいる人も笑顔に出来ないのに」と言葉を返され、ゆうはひとり事務所を飛び出てしまいました。

3人が事務所に契約解除を願い出たことで番組のコーナーは一新され、「東西南北(仮)」としての魅力を失ったゆうに仕事が来ることもなく彼女も退所を余儀なくされます。

ほとんど学校に通うこともせず引きこもりがちとなったゆうは、自身がこれまでどれだけ自分勝手に行動していたのかを知ると同時に、4人で居た日々のことが楽しかったと思い出します。

古賀から連絡を受け、番組のテーマソングを集めたアルバムに「東西南北(仮)」の曲も入ることを聞いたゆうは、ラジオで自分たちの曲をリクエストした少女に勇気づけられ、美嘉に会いに行きます。

美嘉は小学校時代にいじめを受けていましたが、そんな中で唯一分け隔てなく接してくれたゆうに憧れを抱いていた過去があり、美嘉に謝罪したゆうは発売されたアルバムを買い、いつもいた公園のベンチに腰を下ろします。

すると美嘉、蘭子、くるみもアルバムを買って公園に現れ、あの日作ることの出来なかった歌詞を全員で作り切り、それぞれがやりたいことと違ったアイドル活動ではあったけれど、無駄な時間ではなかったことや今後も友人であることを確認し合いました。

ゆうは自分勝手で最悪な性格をしていることを認めながらも、アイドルになる夢を諦められないと言い、3人の応援を受け夢へとまた進むことを決意。

数年後、芸能界の第一線で活躍するゆうは仕事終わりに、久々に揃った美嘉、蘭子、くるみの4人でプロの写真家となった真司の個展に向かいます。

美嘉は付き合っていた男性と結婚し2児の母となり、蘭子はボランティア活動で世界を回り、くるみは就職し日々を目まぐるしく過ごしていました。

4人は個展の中で「トラペジウム」と名付けられた、10年前に「西テクノ工業高等専門学校」の学園祭で撮った10年後の自分に向けた写真を目にするのでした。

映画『トラペジウム』の感想と評価


(C)2024「トラペジウム」製作委員会

「アイドル」が執筆した「アイドル」の世界

本作の原作小説「トラペジウム」を執筆した高山一実は、2021年までアイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして第一線で活躍。

2016年から2018年までの執筆期間中は「アイドル」であった高山一実が「アイドル」の世界を執筆した「トラペジウム」は、他の作品では表現することの出来ないリアリティを放っています。

そんな原作をアニメーション化した本作は動きや映像がつくことによって、主人公の打算や限界を迎え始めるそれぞれの精神と言った眼を背けたくなる「闇」の部分と、アイドルと言う「光」の部分がより明確に描き分けられていました

「アイドル」は「光」なのか


(C)2024「トラペジウム」製作委員会

主人公の東ゆうは「アイドル」を「光」と位置付け、自身がその「光」となるために、周囲を巻き込んで進んでいきます。

しかし、巻き込まれた友人たちは「アイドル」と言う職業の特殊性に押し潰され、精神を擦り減らし笑顔を失う日々を過ごすことになってしまいます。

内側から見た「アイドル」の世界はとても「光」には見えないものの、ゆうを始めとしたそれぞれが「アイドル」を通して別々の「光」を見つけていく本作。

「トラペジウム」とは「オリオン大星雲」の中心に位置する若い星で構成された散開星団。

光り輝き、夢を照らす「若さ」とは本作において何を意味するのか。彼女たちが見つけたそれぞれの「光」の意味が心に染み入る作品です。

まとめ


(C)2024「トラペジウム」製作委員会

本作には原作者である高山一実を始め、元「乃木坂46」の西野七瀬も声優として参加しており、どのシーンに2人が出演したのかを探すことも楽しみの一つとして用意されています。

「アイドル」になるために人の心すらも誘導し、自身の思い通りにいかないことに直面すると憤慨する主人公の東ゆう。

彼女は「アイドル」を目指した末に、「光」を放っていると信じた「アイドル」に何を見て、何を手にするのか。

つらい気持ちになる一方で、人生を生きる上で大切にしたい大事なことを「アイドル」と言うジャンルで再確認できる作品でした。

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