日本古来の神々がユニークな姿で登場する『千と千尋の神隠し』
宮崎駿監督の代表作の一つでもある『千と千尋の神隠し』。
10歳の千尋は、引っ越しの途中で異世界に迷い込みます。そこでブタにされた両親を助けようと、千尋はその世界を牛耳る湯婆婆の元で働きはじめます。
作画監督の安藤雅司、美術監督の武重洋二、音楽の久石譲など、宮崎アニメの常連が結集して出来上がった本作は、2002年、2003年と数多くの映画賞を受賞し、宮崎駿アニメの代表作となりました。
その人気の秘密を探るべく、映画『千と千尋の神隠し』をネタバレありでご紹介します。
映画『千と千尋の神隠し』の作品情報
【公開】
2001年(日本映画)
【原作・脚本・監督】
宮崎駿
【作画】
安藤雅司
【美術】
武重洋二
【音楽】
久石譲
【声のキャスト】
千尋(柊瑠美)、ハク(入野自由)、湯婆婆/銭婆(夏木マリ)、お父さん(内藤剛志)、お母さん(沢口靖子)、青蛙(我修院達也)、坊(神木隆之介)、リン(玉井夕海)、番台蛙(大泉洋)、河の神(はやし・こば)、釜爺(菅原文太)
【作品概要】
異世界に迷い込んだ10歳の少女がブタにされた両親を助けようと奮闘する物語。原作・脚本・監督は人気アニメを多数手がける宮崎駿です。
宮崎駿監督は本作で、第25回日本アカデミー賞(2002年)作品賞受賞し、監督自身も第52回ベルリン国際映画祭(2002年)金熊賞を受賞しました。
翌年の第75回アカデミー賞の長編アニメーション賞受賞をはじめ、国内でも第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞(今敏監督の「千年女優」と同時受賞)や、第6回アニメーション神戸作品賞ほか受賞も多数。
映画『千と千尋の神隠し』あらすじとネタバレ
10歳の千尋は、両親と共に引越し先のニュータウンへと向かう途中、森の中の奇妙なトンネルから通じる無人の街へ迷い込みました。
そこは観たことのないような建物の立ち並ぶ町で、テーマパークの跡地じゃないかと父は言います。
街の怪しい雰囲気に怯える千尋をよそに、探検気分の両親は食べ物が並ぶ無人の飲食店を見つけ、店員が来たら金を払えばいいと勝手に食べ始めました。
「美味しいから、千尋も食べなさい」と言う両親の誘いを断り、一人で街を散策していた千尋は、宮司のような衣服を身に付けた少年と出会います。
彼から強い口調で「すぐに戻れ」と言われたため、千尋は飲食店に戻って両親を探しますが、店では両親の服を着た大きなブタが二匹、食べ物を食い散らかしているだけでした。
両親の服を着たブタが店員らしき影のお化けにムチ打たれて倒れるのを目撃した千尋は、恐怖のあまりその場から逃げ出します。
千尋は来た道を戻ろうとしますが、大河で塞がれていました。おまけに河の向こうから来た船から怪物のような者たちが降りてくるのを目にしたことで、これは悪い夢だと思い込みます。
悪い夢が消えることを願って自分が消えてしそうになりましたが、さっき出会った少年に助けられました。少年はハクと名乗りました。
ハクは、八百万の神々が客として集う「油屋」という名の湯屋で働いていると言います。
油屋の主人は、相手の名を奪って支配する恐ろしい魔女の湯婆婆で、仕事を持たない者は動物に変えられてしまうと千尋に教えました。
千尋はブタになってしまった両親をなんとか助けようと、自分を雇ってくれるよう湯婆婆に頼み込みます。契約の際に名を奪われ「千」と新たに名付けられ、油屋で働くことになりました。
ハクは、本当の名前を忘れると元の世界に戻れなくなると忠告します。ハクもまた名を奪われ、自分が何者であったのかを思い出せずにいたのです。
しかし、彼はなぜか千尋を知っており、自分の名前は忘れても千尋のことは覚えているのだと言います。一方、千尋にはハクの正体に心当たりがありません。
油屋で働き始めた千尋ですが、彼女は人間であるため油屋の使用人たちから疎まれ、強烈な異臭を放つ汚い客の相手まで押しつけられます。
しかし彼女のまじめな働きにより、その客から大量の砂金が店にもたらされ、千尋は不思議な団子をもらいました。
高い位の神が油屋のおもてなしを調査していたようでした。大満足で帰ったその客をみて湯婆婆は千尋を褒め称え、他の使用人も千尋を見直します。
翌日、ハクは湯婆婆の言いつけにより、彼女と対立している双子の姉の銭婆から、魔女の契約印を盗みだそうとします。しかし、強力な魔力を持つ銭婆はハクに魔法で重傷を負わせ、湯婆婆の息子である坊もネズミに変えてしまいました。
千尋は、不思議な団子を半分にちぎり、ハクに飲ませて助けましたが、ハクは衰弱したままです。ハクを助けたい一心で、千尋は危険を顧みず、銭婆のところへ謝りに行くことを決意します。
映画『千と千尋の神隠し』感想と評価
2つの欲望
宮崎アニメ『千と千尋の神隠し』は、神々が癒しを求めに来る異世界へ迷い込んだ10歳の千尋の物語です。
神々の休憩所として存在するこの世界では、人間は働かなければ動物にされてしまうといいます。日本古来の偉い神様のために一生懸命に働く人々がいるのですが、人の持つ欲望が大きな役割をしています。
まず1つ目の欲は、食欲です。
千尋の両親は、神様の捧げるための食べ物を黙って食べてしまったので、その罰としてブタにされてしまいました。
町に漂うお化けの不気味な雰囲気を察した千尋は、最初からこの町に足を踏み入れたくありませんでした。
けれども、千尋の父と母は、そんな千尋の様子を気にも留めずにさっさと町の中を歩き、挙句の果てに、お店においてある食べ物を手当たり次第に食べ出します。
そして、醜く肥え太ったブタに変貌した両親は、千尋の目の前で、影のお化けにムチで打たれて悶絶。千尋ならずとも悲鳴をあげたくなるほど怖い場面です。
がつがつと食べものを貪り食う意地汚さも見事に演出され、その後に待っている怖ろしい罰にゾッとします。食べる欲と書いて食欲ですが、これもやはり人の欲望の一つと言えます。
2つ目の欲は、物欲。
千尋を慕うカオナシが何とか自分を認めてもらおうと、魔法を使って金貨を一杯用意し、湯屋の使用人たちにばらまきます。
使用人たちはお大臣さまがいらしたと、大もてなし。孤独なカオナシが求めていたのは、千尋の優しさだったのですが、千尋は目の前に金貨を山ほど積まれても、少しも嬉しそうな顔をしません。
その欲のなさは何故なのか、さっぱりわからないカオナシは次第にじれてきます。
千尋が本当に欲しいものは、お金では買えません。お金や物に対する物欲は限りないものですが、両親を助けようとする健気な千尋の想いは、物欲よりも深いものだったのです。
食欲に負けてブタにされた千尋の両親。物欲に負けずに両親を助けようとする千尋。
物語は2つの欲を上手く取り上げて、さらに奥深いものへ進んで行きます。
自分を忘れないこと
異世界に迷い込み、何も分からない千尋にいろいろと助けを出すのは不思議な少年ハクでした。
湯婆婆から千という名前を与えられた千尋ですが、ハクは「本当の名前を忘れると元の世界に戻れなくなる」と忠告します。
自分の名前を忘れないこと。これは自分が何者であるかということを忘れないでいろと言うことではないでしょうか。
いかなる状況においても、自分という存在をしっかり意識していれば、苦難も乗り越えられるという教訓と思えます。
自分の名前を忘れていたハクですが、千尋のおかげで本当の名前を思い出します。千尋が幼い頃溺れかけた川の精だということも記憶に蘇りました。
自分自身を忘れないこと。これは生きるうえでとても大切なことなのです。そして、神、或いは人を敬うという謙虚な心も忘れてはいけません。
ファンタジックな美しい映像には、宮崎監督からのメッセージ性の高い教訓も秘められています。
また、鬼のような湯婆婆が自分の息子の坊にはとても甘いのも見逃せません。過保護な母の愛も一つの欲望と言え、とても人間っぽく描かれた湯婆婆に親近感が湧いてきます。
神様の癒し処で働いているのも関わらず。油屋の使用人たちの持つ人間っぽさも、ユニークに描かれた『千と千尋の神隠し』。
何歳になっても何度見ても、惹きつけられる本作の魅力は、こんなところにもあるのではないでしょうか。
まとめ
ミステリーでもサスペンスでもないのに、なぜか最後までハラハラしながら見てしまう映画『千と千尋の神隠し』をご紹介しました。
神様のお供えものを食べてしまったためにブタにされた両親を、千尋は苦難を乗り越えて無事に助け出すことができました。
千尋が与えられた過酷な試練を乗り越えられたのは、親を助けたいと思う気持と友人たちへの優しさがあったから。
10歳の少女が試練に打ち勝ち、無事に元の世界へ帰れた結末にホッと胸をなでおろします。
ストーリーもさることながら、湯婆婆と銭婆に命を吹き込む夏木マリをはじめ、坊に神木隆之介、番台蛙の大泉洋、釜爺の菅原文太と、キャストの声をつかさどる声優陣も素晴らしい。
大冒険をおえて願いを達成でした千尋に、拍手喝采を送りたくなることでしょう。