交差する二つの世界と痛みと再生の物語
集英社が配信する漫画配信アプリおよびウェブサイト「少年ジャンプ+」で公開され、一晩で120万以上の閲覧数を記録した藤本タツキによる漫画「ルックバック」。
創作者としてのリアルな感情表現と過激な描写、そして心を抉るような物語が描かれた本作は多方面から高い評価を受けました。
そんな映画好きとしても知られる藤本タツキの漫画が、劇場公開アニメとして2024年に映画化。
今回は原作をそのまま高クオリティアニメーションに仕上げたような映画『ルックバック』(2024)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
映画『ルックバック』の作品情報
【日本公開】
2024年(日本映画)
【原作】
藤本タツキ
【監督・脚本】
押山清高
【キャスト】
河合優実、吉田美月喜
【作品概要】
「チェンソーマン」などの著作で知られる漫画家の藤本タツキが、2021年に「少年ジャンプ+」で公開した短編作品。
アニメシリーズ「チェンソーマン」で悪魔デザインを担当した押山清高が監督を務め、『あんのこと』(2024)で主演を務めた河合優実と『カムイのうた』(2024)で主演を務めた吉田美月喜が声優として本作に参加しました。
映画『ルックバック』のあらすじとネタバレ
小学4年生の藤野は同学年の生徒全員に配布される学年新聞に4コマ漫画を毎週連載し、同級生からだけでなく先生や親からも高い評価を受けていました。
運動神経にも長ける藤野は才能のある自分に天狗になっており、先生から同学年の不登校の生徒である京本も学年新聞に漫画を載せると聞いても自分の方が上であるという自信が揺らぐことはありませんでした。
しかし、京本の載せた4コマ漫画は物語は一切ないものの、画力は藤野を遥かに凌駕しており、同級生たちは「京本の絵に比べると藤野の絵は普通」と評価し、藤野はプライドを傷つけられます。
その日から藤野は絵の上達法である「ひたすら絵を描く」を実践し、寝食の時間も惜しみひたすら絵に没頭しました。
小学6年生、たくさんのデッサンノートを使い潰すほどの藤野の絵に対する執着に同級生だけでなく家族も心配し、藤野に絵を辞めるように説得しますが、藤野は絵を描くことを辞める気はありませんでした。
ある日、配られた学年新聞を見た藤野は数年間絵に没頭し続けた自分より、京本の絵が何倍も優れていることを思い知り、絵を描くことも学年新聞の4コマ漫画も辞め、姉が誘った空手教室や友人との遊びに精を出すようになります。
小学校の卒業式の日、先生から卒業証書を京本に渡すように頼まれた藤野は嫌々ながら京本の家を訪問。
家の鍵が開いていたことから家に上がり込んだ藤野は、京本の部屋の前に積まれた自分の使い潰したデッサンノートを遥かに超える量のデッサンノートを目撃します。
落ちていた4コマ漫画用の紙に京本を題材にした漫画を描いた藤野は手を滑らせてしまい、紙は扉の隙間から京本の部屋へと入ってしまいました。
慌てて家を飛び出た藤野を追いかけるように、京本は部屋から出て藤野を呼び止めると「ずっと藤野先生のファンだった」と言い、自身の半纏の背中にサインを求めます。
天才なのになぜ4コマ漫画を描くことを辞めたのかと問われた藤野は、見栄から「賞に応募する漫画の構想を考えているから」と答え、構想が出来上がったら京本に見せると約束。
遥かに自分を凌駕していると考えていた京本が自身のファンであることに歓喜した藤野は中学に入り再び絵に没頭するようになり、やがて風景や建物の絵に長ける京本をアシスタントとして二人で賞に応募する漫画を書き始めます。
1年が経ち、「藤野キョウ」と言うペンネームで完成させた漫画を「集英社」に持ち込んだ二人は高評価を受け、新人賞で準入選を獲得。
賞金を山分けした二人は街に遊びに出かけ、京本はずっと部屋から出れなかった自分を外に出すきっかけをくれた藤野に感謝を述べました。
その後も漫画を描き続けた二人は17歳にして7本の読み切り作品を完成させたことを評価され、高校卒業を機に週刊誌での連載を編集者に提案されます。
しかし、京本は絵がもっと上手になりたいという気持ちから漫画家ではなく美大に進学することを心に決めており、藤野と同じ道を歩むことはできないと告白。
藤野は引っ込み思案の京本が自分から離れて上手くいく訳がないと京本を引き留めますが京本の決意は固く、藤野は漫画家に京本は美大へと二人の道は分かれることになりました。
映画『ルックバック』の感想と評価
原作通りの物語を描いた映像化作品
漫画や小説の映像化作品と言えば物語に改変が加えられることが多くあります。
媒体の違いによる尺の問題から、映像化として物語の改変は避けることの難しいものですが、短編漫画をアニメ映画化した本作『ルックバック』は、原作漫画をほぼそのまま映像化した作品となっていました。
主人公の藤野がアシスタントと上手くやれていないなどの細かな描写などは原作にないシーンであり、改変と言えなくはない部分ではありますが、物語のベースとなるラインが変わることのないものに終始。
追加されたシーンに関しても、製作陣の原作への理解によってプラスアルファとして違和感のないものになっており、原作ファンとしても安心して鑑賞できる映画でした。
「ルックバック」に込められた意味
本作の原作となった「ルックバック」にはさまざまな意味が込められているとされ、読み手によって受け取る感想は異なっています。
中でも作中に登場する文字をつなぎ合わせることで、イギリスのロックバンド「オアシス」の楽曲「Don’t Look Back In Anger」がタイトルの由来となっていることは有名であり、本作が「オアシス」の楽曲を下敷きにしていることは間違いないと言えます。
一方で本作には「背中」や「背景」と言う「バック」の意味を持つキーワードが多く登場しています。
藤野が半纏の背中に書いたサイン、京本が得意な背景の絵、作中で多く描写される藤野の背中、もうひとつの世界線で京本が描いた漫画「背中を見て」。
一貫して物語内では藤野も京本もそれぞれの「バック」に救いを見出していくことになり、「ルックバック」の意味が身近な人の「背中」を見ると言うことに繋がっていくように考えられます。
まとめ
学年新聞に掲載された漫画を通して運命的に出会った藤野と京本。
物語の終盤に描かれた「もうひとつの世界線」では、二人が出会わなかった未来が描かれ、一見してその未来の方が幸福に見えます。
青春を二人で過ごした「元の世界線」は果たして不幸な世界だったのか。
僅か1時間の上映時間ながら、心を抉る物語を見せてくれる『ルックバック』は、原作ファンにもオススメの高クオリティなアニメーション作品でした。