行方不明の祖父を捜しに、少女は“地球のてっぺん”を目指す――
フランス・デンマーク合作による長編アニメーション映画、『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』が、2019年9月6日(金)から東京都写真美術館ホールほかにてロードショーされます。
愛する祖父の名誉回復のため、見果てぬ北の大地を行く勇敢な少女の姿を追った、シンプルにして端麗な画風が目を惹く冒険活劇です。
CONTENTS
映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』の作品情報
【日本公開】
2019年(フランス・デンマーク合作映画)
【原題】
Tout en haut du monde(英題:Long Way North)
【監督】
レミ・シャイエ
【声のキャスト】
原語版キャスト:クリスタ・テレ、フェオドール・アトキン、トマ・サンゴル、レミ・カイユボ、ロイック・ウードレ、オドレイ・サブレ
日本語吹き替え版キャスト:上原あかり、弦徳、吉田小奈美、中西伶郎、前内孝文、石原夏織、伊藤香菜子、徳森圭輔、成澤卓
【作品概要】
19世紀のロシアを舞台に、北極航路の探索で行方不明となった祖父を探すため、14歳の少女サーシャが単身で北極点を目指す様を描いた、2015年製作の長編アニメーション映画。
サーシャの声を担当するのは、『偉大なるマルグリット』(2016)、『ノン・フィクション(英題)』(2019)などに出演するフランス人女優クリスタ・テレ。
日本語吹き替え版では、テレビアニメ『けものフレンズ』や『ノブナガ先生の幼な妻』などに出演する声優の上原あかりが、サーシャを演じています。
監督は、ファンタジーアニメ映画『ブレンダンとケルズの秘密』(2009)で助監督を務めたレミ・シャイエで、本作が長編デビューとなります。
TAAF(東京アニメアワードフェスティバル)2016グランプリ、アヌシー国際アニメーション映画祭観客賞といった数々の栄誉に輝いた注目作です。
映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』のあらすじとネタバレ
19世紀、ロシア帝国の首都サンクトペテルブルグ。
14才の貴族の子女サーシャ・チェルネソフには、気に病むことがありました。
それは、2年前に北極航路の探検に出たきり帰ってこない祖父オルキンの安否。
オルキンが船長を務めていた艦船ダバイ号の行方を求め、懸賞金をかけて探索に当たるものの、依然消息がつかめない状態だったのです。
ついにはチェルネソフ一家の名誉も失墜し、オルキンの名を冠する予定だった科学アカデミーの図書館も開館が危ぶまれる事態に。
そんな折、ロシア高官を務めるサーシャの父イヴァンは、在ローマのロシア大使に任命されることを願っており、それには社交界デビューを控えた娘が、ロシア皇帝の甥トムスキー王子に気に入られるしかないと考えていました。
そのサーシャが社交界デビューする日、彼女はオルキンの部屋から北極点への航路が記されたメモを発見し、その航路が捜索船がたどったルートとは違うことに気付きます。
「ダバイ号は別の場所にいるはずだから、再び捜索船を出して欲しい」とサーシャはトムスキーに嘆願。
しかし、オルキンがかつて叔父を侮辱したことを恨んでいたトムスキーはその申し出を拒んだ上、舞踏会の場でサーシャに恥をかかされたと激高し、その場を離れてしまいます。
ロシア大使への道が閉ざされたとして、イヴァンはサーシャを叱責。
サーシャは落ち込むも、メモを頼りに自ら祖父の居場所を突き止めようと、早朝に一人チェルネソフの屋敷を出ます。
列車に乗り、ロシア北西部の都市アルハンゲリスクの港に着いたサーシャは、そこで知り合った商船ノルゲ号の船長ラルソンにダバイ号の探索を依頼。
併せて自分も乗船させてくれるよう頼み、賃金代わりにオルキンが持っていた宝石のイヤリングを渡します。
ところがノルゲ号の本当の船長はラルソンの兄ルンドで、事情を知らぬ彼は積荷を運ぶため出航してしまいます。
だまされたと知ったサーシャは泣き崩れますが、港の食堂を切り盛りする女主人オルガの手ほどきで、数か月後にノルゲ号が港に戻ってくるまで住み込みで働かせてもらうことに。
始めこそ慣れない作業の連続で四苦八苦するも、生来の適応力の高さを発揮し、オルガに気に入られるサーシャ。
数か月後、港に戻ってきたルンドたちに、サーシャは改めて探索を依頼。
全てはラルソンの嘘が発端で、さらに彼がイヤリングをすでに手放していたため、ルンドはサーシャの乗船を仕方なく許可し、懸賞金目当てに探索に出ることにします。
船乗りの経験がないサーシャを冷ややかな目で見る船員たちでしたが、見習いの少年水兵カッチだけは好意をもって接します。
カッチの助けもあり、船乗り特有のロープワークを独自で学び、船員たちのピンチを救うなどして徐々に信頼を得ていくサーシャ。
旅を続けるにつれ、分厚い流氷がノルゲ号の行く手を阻みます。
流氷をダイナマイトで破壊しつつ、先を進むノルゲ号でしたが、崩れ落ちてきた氷山の塊により船は大破、ルンドは負傷してしまいます。
頑強な設備を誇るダバイ号を見つけて乗り込めば助かると、船員たちは歩いて船があるとされる場所へと向かうことにしますが、想像を絶する極寒が彼らを襲います。
食糧も徐々に減っていき、次第に常軌を逸して仲間割れを起こす船員たちでしたが、それでも、サーシャが計測した方向どおりに目的地を目指します。
自らの足で歩くことができないルンドは、自分を見捨てて先に行くよう命令するも、ラルソンは「今の船長は俺だ」と拒否。
そしてようやく目的地に到達した一行でしたが、そこにはオルキンの姿はおろか、ダバイ号もありませんでした。
映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』の感想と評価
シンプルを追求したベストな表現力
本作『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』を観てまず目が行くのは、その特徴的な画風でしょう。
登場キャラクターには、境界線、いわゆる輪郭線がなくフラットなベタ塗りで描かれており、キャラが着ている服にはボタンやシワもありません。
言葉だけ拾うと、「それって手抜きでは?」と思われるかもしれませんが、キャラクターの感情表現がしっかりと描かれているため、細部の描写が省かれていても全く気になりません。
また、ベタ塗りながら立体感を損なわないよう、陰影表現を上手く使っているのもポイント。
さらにあらすじも、「北極で行方不明となった祖父を孫娘が探しに行く」という分かりやすさ。
と、何もかもがシンプルなつくりながら、根底にある少女の成長譚というテーマをしっかり抑えているので、作品に没入できるのです。
そもそも、1950年代から60年代にかけての日本のアニメ創生期に作られた作品は、絵柄もあらすじもシンプルなものが当たり前でした。
監督のレミ・シャイエが、『白蛇伝』 (1958)や『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968)といった、創生期に製作された東映動画アニメの影響を受けたと公言するのも、決して偶然ではないでしょう。
参考映像:『太陽の王子 ホルスの大冒険』予告
お嬢様から“自立する女性”へ
ロシア貴族という家系ながら、敬愛する祖父を探すべく家出をするサーシャ。
ですが、労働者階級の生活をよく知らないために、アッサリとだまされたり、これまで働いた経験もないために苦労を強いられます。
それでも、持ち前の勇敢さと我慢強さで、“地球のてっぺん”である、祖父がいるとされる北極点を目指していく――そんな、守られる立場のお嬢様から一人の自立した女性になっていきます。
サーシャが男性船員ばかりのノルゲ号に乗って過酷な航海に出るというのも、男性優位社会における女性の進出という現実世界の縮図といえるかもしれません。
もっとも、そうした細かい文脈の読み取りをしなくても、小さいお子さんでも楽しく観られる一本となっています。
まとめ
日本には、優れた日本のアニメーションが数多く存在し、その中で(私の作品のような)海外アニメが興行的に難しいことは理解しています。
本作のパンフレットに書かれた、シャイエ監督のこのコメントが表すように、日本の映画興行におけるアニメ作品は、どうしても邦画作品に注目が集まりがち。
海外アニメも、ディズニーやイルミネーションといった、日本でも配給網が確立された欧米の作品がクローズアップされるのは致し方ないところでしょう。
しかし、ヨーロッパにも優れたアニメクリエーターは存在します。
『イリュージョニスト』(2010)のシルヴァン・ショメや、『アヴリルと奇妙な世界』(2019)のクリスチャン・デスマールやフランク・エキンジなど、フランスには錚々たるアニメクリエーターがいます。
日本でも大ヒットしたラブストーリー『アメリ』(2001)のジャン=ピエール・ジュネ監督も、元々はアニメーター出身者というのをご存知でしょうか。
クレイ(粘土)アニメ分野でも、「ウォレスとグルミット」や「ひつじのショーン」シリーズを手がけたイギリスのアードマン・アニメーションズはよく知られるあたり。
もちろんシャイエ監督も、そうしたヨーロッパの名アニメクリエーターに含まれるのは、本作を観れば納得できるでしょう。
児童文学のようでありながら、シンプルながら力強さも感じる鮮やかな世界を、ぜひとも堪能してください。
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』は、2019年9月6日(金)より東京都写真美術館ホールほかにてロードショー!