連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile143
「SF」映画の中でも特にメジャーなサブジャンルの中に「タイムトラベル」が存在します。
「サスペンス」や「ミステリ」そして「ホラー」など、様々なジャンルとの組み合わせが可能な「タイムトラベル」の包容力は「青春」と言うジャンルにもぴったりとハマります。
今回は青春SFアニメとして長い人気を誇るアニメ映画『時をかける少女』(2006)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
アニメ映画『時をかける少女』の作品情報
【公開】
2006年(日本映画)
【監督】
細田守
【声の出演】
仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、原沙知絵、谷村美月、垣内彩未、関戸優希
【作品概要】
アニメ映画『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000)で監督を務め高い評価を受けた細田守が製作した長編アニメ映画。
『純喫茶磯辺』(2008)や『ゼブラーマン -ゼブラシティの逆襲-』(2010)などさまざまな役柄を演じることで有名な仲里依紗が主演声優を務めました。
アニメ映画『時をかける少女』のあらすじとネタバレ
やりたいことが見つからず自身の進路すら決まらない女子高生の真琴は転校生であり不良気質の千昭、そして秀才の功介の3人でいつも野球をしたりと高校生活を一緒に過ごしていました。
7月13日、真琴は小テストが抜き打ちで行われたり、調理実習で大きな失敗をしたり、中庭で戯れる男子学生に巻き込まれたりするなど、その日一日はいつも以上に運が悪いと感じます。
放課後、日直の仕事のため理科室を訪れた真琴は準備室での物音が気になり準備室に入ります。
誰かの動く音に怯え転倒した真琴は落ちていた胡桃のような物体を肘で割ってしまいました。
その後、真琴は母からのお使いで絵画の修復師である叔母の働く博物館へと向かいますが、坂道で真琴の乗る自転車のブレーキが壊れ電車の迫る踏切に投げ出されてしまいます。
電車に撥ねられた次の瞬間、真琴の時間は巻き戻り、真琴を撥ねたはずの電車は目の前を何事もなかったかのように通り過ぎます。
叔母の和子に起きたことの話をすると和子は真琴に起きた現象を、不可逆な時間を真琴だけが移動した「タイムリープ」であると言います。
腑に落ちない真琴は河川敷で、自転車が壊れた時のようにその身を川に投げ出すと、前日である7月12日に戻ることに成功。
再度の7月13日、その日に起きることを網羅している真琴は抜き打ちの小テストを満点で突破し、調理実習の失敗を同級生の高瀬になすりつけるなどその日を順調に進めます。
その後も真琴はカラオケの時間を伸ばすためや一昨日の鉄板焼きを再度食べるためにタイムリープの能力を使い始めます。
真琴は和子にタイムリープを使い青春を謳歌してることを話すと、和子に「あなたが良い思いをしている分、悪い思いしてる人もいるのでは?」と問われますが、「どうせリセット出来る」と真琴は深く考えることはしませんでした。
ある日の放課後、功介がボランティア部の後輩の果穂から告白されますが、あることを理由に断ります。
その話しで功介と盛り上がった帰り道、千昭と2人きりなった真琴は千昭から告白を受けます。
しかし、「ずっと3人で居たい」と言う思いとの葛藤で答えを出すことができない真琴は、タイムリープで千昭の告白を無かったことにしました。
千昭の告白を無かったことにした真琴は複雑な思いを抱えることになりその日以降、千昭を意識的に避け始めます。
ある日、調理実習で真琴が失敗をなすりつけた高瀬がそのことを契機に同級生にいじめを受けており、遂に耐え切れなくなった高瀬はいじめっ子たちに消火器を噴射し復讐していました。
その様子に割って入った真琴は高瀬に逆恨みされ、消火器を投げつけられます。
真琴を守ろうとした千昭が負傷するのを避けるため真琴はタイムリープし千昭を突き飛ばしますが、代わりに近くにいた真琴の親友の友梨が負傷。
友梨は長く千昭のことが好きであり、その件をきっかけに2人は付き合い始めます。
千昭が自分のことを好きだと告白したことがあるにも関わらず友梨と付き合い始めたことに真琴は動揺を隠すことが出来なくなってしまいます。
その日の夜、真琴は腕に「90」と言う数字が刻まれていることに気づきます。
千昭が友梨と付き合って以降、千昭は友梨と過ごす時間が増え、真琴は功介と2人の時間が増えます。
そのことを和子に話すと、自身の手掛けていた絵画の修復を終えた和子は「功介と付き合って駄目ならタイムリープしてなかったことにすれば良い」と真琴に言います。
人の心情を弄ぶことはできないと言う真琴に対し和子は「今まで散々タイムリープして好き勝手して来たでしょ」と指摘しました。
後輩の果穂から功介が告白を断った理由が自分のタイムリープによる改変にあったことを知った真琴は7月13日に戻り、功介と果穂を事故的に出会わせることに成功。
しかし、腕の数値が「10」に減っており、さらにその数値には底線が引かれており実際の数値が「01」であることも分かります。
メールで功介から果穂に告白され付き合い始めたことと自転車を借りることの報告を受けた真琴は、その日が自転車のブレーキが壊れた日であることを思い出し、居ても立っても居られず自身が電車に撥ねられた踏切へと走りました。
アニメ映画『時をかける少女』の感想と評価
「SF御三家」とも評される作家の筒井康隆が1965年に連載を開始した同名小説を基にしたアニメ映画『時をかける少女』。
この作品で日本のみならず世界各国で高い評価を受けた細田守監督は、続く『サマーウォーズ』(2009)も大ヒットを記録したことで「夏映画」の代名詞として不動の地位を築いていくことになります。
そのきっかけとなる本作は映画そのもののクオリティの高さゆえに、ある「話題性」を手に入れることに成功していたのです。
口コミで上映を伸ばした傑作SFアニメ
全国でおよそ21館のみの上映館と言うミニシアター規模の上映から始まった本作は、作品の圧倒的な完成度によって公開から1月経っても動員数が収まることなく、上映館を増やす対策が取られることになります。
「mixi」などのSNSが普及し始めたばかりと言うこともあり映画好きの中でのみの一大ブームとなった本作でしたが、地上波での繰り返しの放映やさらなる口コミによって一部の世代から絶大な支持を受けることになりました。
非現実的な能力を何気ない日常の中で描く前半が、果てしないほどの絶望が襲い来る中盤の1シーンをより効果的にしており、同手法を用いた『君の名は。』(2016)の存在に繋がったとも捉えられます。
「時をかける少女」の繋がり
世代を越えて愛される筒井康隆の「時をかける少女」は、これまでに9回映像化されています。
各作品に物語上の繋がりは存在しないものの、アニメ映画版である本作は「原作との繋がり」と「後の映画化作品との繋がり」を併せ持っています。
主人公である真琴の叔母の和子は原作小説の主人公「芳山和子」と同一人物であることが明言されており、和子のオフィスに置かれた「ラベンダーの花」や「同級生との写真」が「タイムリープ」の過去を物語り、作中では明言はしていないものの真琴にするアドバイスが彼女自身の経験を基にしたものだと匂わせていました。
本作の主人公の声優を務めた仲里依紗は2010年に公開された映画『時をかける少女』でも主演を務め、本作とは関係しない物語でありながら「原作小説の続編」と言う同コンセプトの作品で再び「芳山和子」と関わっていくことになります。
まとめ
2021年4月10日、4DXでの上映として再び劇場で公開されることになったアニメ映画『時をかける少女』。
細田守監督の得意とする表現である「入道雲」が印象的に、そして効果的に使われる本作はまさしく「夏映画」。
「SF」映画好きの方にも「青春」映画好きの方にも、一度は見て欲しいアニメ映画『時をかける少女』を劇場で鑑賞し、一足早く「夏」を体感してみてはいかがでしょうか。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile144では、続編の製作が決定したニール・ブロムカンプ監督による映画『第9地区』(2010)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
次回の掲載をお楽しみに!
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