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アニメ『イノセンス』ネタバレあらすじ解説と結末の感想考察。人形と人間の違いの意味がわからない不明を詳細に紐解く

  • Writer :
  • 糸魚川悟

美麗なアニメーションと独特のセンスで全世界から評価を受けた第2作

NETFLIXオリジナル作品として製作された連続アニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』のシーズン1を編集した『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』(2021)が公開されるなど、2020年代に入ってもなお冷めることのない「攻殻機動隊」シリーズの熱気。

そんな「攻殻機動隊」人気に火をつけた伝説的名作アニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)は『マトリックス』(1999)など海外の様々な映画に影響を与えており、2017年にはハリウッドで映像化もされました。

今回は『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の正式な続編であり、またも世界から高い評価を受けたアニメ映画『イノセンス』(2004)をネタバレあらすじ含めご紹介させていただきます。

映画『イノセンス』の作品情報


(C)2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD

【公開】
2004年(日本映画)

【監督】
押井守

【脚本】
押井守

【キャスト】
大塚明夫、山寺宏一、田中敦子、大木民夫、仲野裕、竹中直人、榊原良子

【作品概要】
士郎正宗による漫画「攻殻機動隊」を映像化し高い評価を受けた押井守が再び監督を務めた続編作品。

本作には『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993)など押井守監督作品で多く声優を務める竹中直人と榊原良子が参加しました。

映画『イノセンス』のあらすじとネタバレ

草薙素子が失踪してから3年。

公安9課に所属するバトーは「ロクス・ソルス社」の開発した少女型ガイノイド「タイプ2052」通称「ハダリ」の暴走事件を捜査していました。

所有者と警官2名を殺害したハダリを追い詰めたバトーでしたが、ハダリは「助けて」と発すると自壊を始めたため、ショットガンで打ち抜き動作を停止させます。

9課のオフィスに戻ると、バトーは部長の荒巻から短期間で8件もの所有者の殺害を伴う暴走事故が起きたハダリの捜査を引き続き命じられます。

公安が駆り出されることにバトーは疑問を呈しますが、荒巻は全件で遺族とロクス・ソルス社との示談が成立している不審さと、死者に政治家が含まれていることから推測されるテロの可能性を提示。

バトーは9課のトグサとバディを組み、ロクス・ソルス社の回収調査で問題なしと判断されたハダリの捜査を始めます。

手始めにバトーによって破壊された個体を調べるため所轄の鑑識へと足を運んだ2人は検死官のハロウェイから、暴走を起こしたハダリは性的欲求を満たすためセクサロイドとしての特殊改造を受けていたことを聞きます。

遺族が示談を了承した理由に納得の言った2人は次にハダリの最終チェックを行ったはずのロクス・ソルス社の出荷検査官のジャックを取り調べようとしますが、ジャックがボートハウスで何者かに殺害されたと言う通報を受け現場へ急行。

現場では9課のイシカワが現場検証に入っており、ジャックを殺害した犯人は違法改造されたサイボーグであることを突き止めます。

バトーは現場から少女の写真を発見しますが事件との関連は見つけられず、イシカワの車で飼い犬の餌を買いつつ帰路に着きます。

9課の捜査によってジャックの殺害がハダリによって組長を殺害された暴力団「紅塵会」によるものだと判明し、またハダリの被害者に政治的繋がりがなかったことから荒巻は9課での全体捜査を切り上げ、事件をトグサとバトーの2人にのみ継続させます。

荒巻はバトーの精神状態を不安視し、所帯持ちかつ9課の中で身体をサイボーグ化していないトグサとバディを組ませていました。

2人は紅塵会の事務所に事情聴取へと向かいますが組員たちと銃撃戦となり、多くの組員を射殺後、若頭とジャック殺害の実行犯を確保。

バトーは若頭からロクス・ソルス社との間に出荷検査官の居場所を差し出すことで手打ちとする取り決めをしたと言う情報を聞きだします。

トグサはバトーの乱暴な捜査に苦言を呈しますが、バトーはロクス・ソルス社が事件の糸を引いているなら確実に何か手を打ってくると紅塵会での銃撃戦が意図したものだったと言います。

犬の餌を買うため馴染みの商店へと寄ったバトーは自分を尾行していると思わしき相手との激しい銃撃戦となり、複数の銃弾を受けます。

しかし、その光景はバトーが電脳に侵入を受け幻覚を見せられていたものであり実際はバトーが1人で自身に銃弾を打ちこみ暴れていただけでした。

暴走するバトーは彼の様子を不審に思い尾行していたイシカワによって制圧されます。

病院で治療を受けたバトーのもとにトグサとイシカワが現れ、公安のスキャンダルを狙った工作だろうと推測。

公安と言う稼業でありながら、犬を飼い、特定の商店でしか売っていないエサを与えると言う攻撃を受けやすい習慣を叱責するイシカワは、2人でロクス・ソルス社のある北端に向かうように命じます。

犬をトグサの家に預けることにしたバトーはトグサと共に択捉島へと向かいました。

多国籍企業が密集し犯罪率の高い択捉経済特区でハッカーのキムの情報を仕入れた2人は郊外に建てられた屋敷内でキムと会います。

しかし、キムの屋敷には疑似体験を電脳に送り込む罠が仕掛けられており、2人は屋敷内に入りキムの部屋へと行く過程を繰り返し体験させられてしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『イノセンス』のネタバレ・結末の記載がございます。『イノセンス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

自身が死亡する体験を見せられたトグサでしたが、バトーがいち早く疑似体験を見抜き脱出を果たしており、トグサに電脳鍵を差し込むことで救い出します。

自力で疑似体験の迷宮から抜け出したバトーにキムは驚愕しますが、バトーは「守護天使」からヒントを得たと言い、キムの攻勢防壁を破り気づかれずに侵入出来るレベルのハッカーの存在を匂わせました。

正気を取り戻したトグサはキムがロクス・ソルス社と組み捜査を行うバトーをハックし商店で暴走させたことを確信し、キムを確保したことでロクス・ソルス社の捜査妨害を立件できると言います。

しかし、バトーは捜査妨害と電脳倫理違反だけではく、ハダリによる暴走事故の企業責任を問うためにハダリ暴走の物証を抑えることを宣言。

捜査の手から逃れるために主権不在の航海上に浮かぶロクス・ソルス社のハダリ製造船に侵入することにしたバトー。

相棒であることを自負するトグサはキムの電脳を使い船のセキュリティに不正アクセスしバトーの侵入を手助けしますが、船のセキュリティ班に探知されキムの電脳が破壊されてしまいます。

キムは自身の死後にハダリが暴走するウイルスを船に仕込んでおり、不正に起動されたハダリが乗組員を殺害していきます。

ハダリに対し応戦するバトーは圧倒的な数に苦戦を強いられますが、バトーを手助けするハダリが現れます。

付近のハダリを動作停止に追い込んだバトーは手助けしたハダリの電脳に入り込んだ「守護天使」こと草薙素子と会話。

彼女が自身の援護をしに来たことを理解したバトーは素子と共にハダリを倒しつつ制御用端末へと急行し、素子を端末へと接続しセキュリティの制圧を求めます。

素子は圧倒的な電脳戦の実力でセキュリティを制圧し、船内の全てのハダリを停止させました。

法の及ぶ某国へと船を動かし、この船をロクス・ソルス社の不正の証拠とすることを報告する素子はバトーをハダリの暴走事故の原因を示す場所へと連れていきます。

電波を完全に遮断した部屋へと入ったバトーはハダリが「ゴーストダビング」によって作られたものだと知ります。

「ゴーストダビング」はゴースト(人間の意識や自我にあたる部分)を劣化移植する技術ですが、本体のゴーストが致命的な損傷を受けるため禁止とされていた技術でした。

ロクス・ソルス社は紅塵会が誘拐した子供を「ゴーストダビング」しハダリを製作しており、人間に近いゴーストを持つハダリは高い評価を受けるガイノイドとなっていましたが、そのことに良心を痛めた出荷検査官のジャックが出荷前にプログラムを暴走するように改変。

そのことがロクス・ソルス社に露見したことでジャックは紅塵会に売られ、殺害されたのでした。

バトーはジャック殺害現場で拾った写真の子供が装置に入れられながらもまだ生きていることに気づき救い出します。

ジャックと手を組みハダリを暴走させたことを嬉々として語る少女に「犠牲者が出ることは考えなかったのか」と意識を入れられた上で暴走させられたハダリも犠牲者であると叱責しますが、少女は「私は人形になんかなりたくなかった」と泣き崩れます。

その様子を見た素子は「意識を持たされた人形は人間になんかなりたくなかったと言うでしょうね」と呟くとバトーに「あなたがネットに接続するとき、私はいつもそばにいる」と告げ、ハダリの電脳から去ります。

事件が解決しトグサの家に預けた犬を迎えに行くバトーは、トグサが娘に買い与えた人形を見て複雑な想いを巡らせていました。

映画『イノセンス』の感想と評価

暴走事故に隠された陰謀を暴くSFミステリ

GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』からの地続きの作品となる本作は、主人公が草薙素子から相棒のバトーに変わっているため物語のテイストも大きく変化しています。

物語は少女型ガイノイドが暴走し所有者を殺害すると言う事故を相棒のトグサと共に捜査する刑事モノであり、事故の裏に潜むおぞましい真実に驚愕するミステリとしても良質な本作。

登場人物を大幅に削った構成であり直接登場しない事件関与者が多いため、事件の様相が複雑に思われがちですが、真相の描写だけを切り取ると実はかなりシンプルにまとまったものになっています。

独特な世界観から難解であった前作に比べ、本作の物語と演出は完成度の高さが絶賛されており、日本SF大賞を受賞しただけでなくカンヌ国際映画祭でアニメーション映画として初となるコンペ部門ノミネートを果たしました。

「演出」と言う本作最大の魅力を省いても魅力溢れる1作であると言えます。

理解すればするほど面白くなる唯一無二の会話劇

本作の最大の特徴は登場人物同士の台詞回しにあり、この特徴こそが本作を難解にする要因でもあります。

本作はバトーやトグサを始めとする登場人物が多くのシーンで偉人や哲学者の言葉を引用し会話を繰り広げますが、引用された言葉について意味が説明されることがほとんどありません。

初鑑賞時には混乱を生む要素ではありますが、引用された言葉はそれぞれのシーンでその言葉を発する人物の心情を意味しており、言葉の意味を理解することで登場人物が何を感じたかが分かります。

常に頭がネットに繋がっている世界観であるからこそあり得るかもしれない独特の会話劇は、再鑑賞の面白味を引き出す独特の演出となっていました。

まとめ

人形はなぜ人の形に似せて作られるのか、そして人と人形の違いは何なのか。

自分が自分であることを証明できる意識や自我以外の全てが機械化可能な未来の世界で、人間とアンドロイドの明確な差はあるのか。

様々な哲学的な問いを投げかけながらも進んでいく暴走事故の捜査の果てにどんな事実が待ち受けているのか。

『イノセンス』は「攻殻機動隊」と言う枠組みを外して、一つの作品として鑑賞してもその高い完成度に満足いくこと間違いなしの作品です。

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