独創的な映像で自我への葛藤を描いたSFアニメ映画の金字塔
「超能力によって半月型に壁が凹む」という描写を世界で初めて描いたとされる大友克洋による漫画『童夢』。後に大友克洋は漫画とアニメーションで『AKIRA』を手掛け世界に名を知られるようになります。
このように日本はアニメーションや漫画の分野で世界に影響を与え続けており、名作と呼ばれる作品が数多く発信され続けてきました。
今回はその中でも「SF」という分野において、名だたる映画監督やハリウッドを代表する大ヒット映画に影響を与えたとされる『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
アニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の作品情報
【公開】
1995年、2008年(攻殻機動隊2.0)、2021年(4Kリマスター版)
【監督】
押井守
【脚本】
伊藤和典
【キャスト】
田中敦子、大塚明夫、山寺宏一、大木民夫、仲野裕、玄田哲章、家弓家正
【作品概要】
「アップルシード」や「ドミニオン」などの著作で知られる士郎正宗による漫画『攻殻機動隊』をアニメ映画化した作品。
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)や、『機動警察パトレイバー the Movie』(1989)で高い評価を受けていた押井守が監督を務めました。
アニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のあらすじとネタバレ
人の脳をインターネットに繋ぐ「電脳化」と呼ばれる技術が一般化した未来社会。
公安9課に勤める草薙素子少佐は、公安6課が捜査を進めるプログラマーのガベル共和国への亡命を阻止するため、外交官を光学迷彩を使い射殺します。
数日後、外務大臣の通訳の女性が電話回線を経由し、電脳をハッキングされる事件が発生。
巷で噂される国際的なハッカー「人形使い」がガベル共和国との秘密会談を襲撃する算段だと疑う公安9課の荒巻は、草薙にハッキングツールの利用者を拘束するように命じます。
公安9課のトグサが運転するトラックで武装準備をする草薙は、人形使いの裏にいるのはガベル共和国の前軍事政権の長だったマレスなのではないかと疑っていました。
公安9課のイシカワとバトーはハッキングが公衆電話を使って行われており、犯人がゴミの回収業者であることを突き止めます。
回収業者の男性は自分の妻の電脳をハッキングするという名目で、外交官の電脳のハッキングを手伝わされており、彼を操っていた男は、公安9課の存在に勘付き市場を逃げ回りますが、草薙に拘束されます。
しかし、拘束した男も回収業者の男性も人形使いによって偽の記憶を植え付けられており、彼らから人形使いを追うことは出来ませんでした。
ある日、深夜の高速道路で「メガテクボディ社」で作られた義体(サイボーグ)が発見され拘束されますが、その義体には電脳が差されていないにも関わらず「ゴースト」が存在しているようでした。
いくつもの攻性防壁を突破し、工場で違法に義体を作っただけでなく、AIにゴーストを持たせるプログラムを作り出せる高い技術力を持った人間が犯人であり、草薙は強い興味を惹かれます。
荒巻の元に公安6課の中村が現れ、拘束した義体の回収を要求します。
トグサは公安6課の人間の入館時の映像を不審に思い、申請された2人以外に光学迷彩を使ったサイボーグが侵入していることに気づき、草薙に忠告。
一方、中村が連れてきたウィリス博士は義体の中にいるゴーストが、人形使いであることを公安9課に話します。
すると拘束されていた義体は突如喋りだし、自分が人形使いであることや自分の意思で公安9課の前に現れたことを話し始めました。
すると、突然その場を光学迷彩を着た何者かが襲撃し、人形使いは連れ去られてしまいます。
トグサは人形使いを連れ去ったバンに発信機を打ち込み、バトーが車を追跡します。
トグサの推理を聞き、この騒動の首謀者が公安6課の中村であることに気付いていた草薙は公安6課の狙いが人形使いであることに気づきます。
アニメ映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の感想と評価
名だたる映画に影響を与えたSF映画の名作
人の脳が直接インターネットの世界に繋がるという世界観を描いた士郎正宗による漫画『攻殻機動隊』は、押井守によって映像化され日本のみならず世界で話題となりました。
ハリウッドで活躍する著名な映画監督の中にも本作のファンは多く、ウォシャウスキー姉妹が『マトリックス』(1999)を製作するうえで本作を参考にしたことは広く知られています。
技術が明らかに現代よりも発展している未来でありながら、廃墟だらけの市街が描かれるサイバーパンク的な要素と、発砲し続けることで銃内部の部品であるバレルが高熱化し、交換の必要が発生すると言う戦闘描写まで、マニアックな知識をふんだんに取り入れた本作。
しかし、その一方で原作のコミカルな雰囲気をなくし、淡々と物語を進めることで原作と映画での明確な線引きを行っており、『攻殻機動隊』の持つ哲学性にフォーカスを置いた作品となっていました。
「人形使い」と「ゴースト」
「ゴースト」とは身体のみならず脳までもが機械化および電子化される劇中世界において、自己や自我を構成する、人が人であるための「魂」のような概念を指しています。
プログラムによって作られた高度な人工知能が制作可能になった未来では、AIと人間とを明確に区別するのは「ゴースト」の有無のみ。
ですが「ゴースト」を持つAI「人形使い」が登場したことで、主人公の草薙素子の中にはある疑念が生まれることになります。
全身が政府所属の義体(サイボーグ)である彼女は、政府の所属を抜けると記憶も義体も失うことから、自分自身の「個」を構成するものに対し、疑問を覚えていました。
一方で、「人形使い」も「ゴースト」を宿した自分を「生命」であると考え、生命を持つものとしての運命を全うすることを望みます。
2人の自我への葛藤はシリーズ通しての命題とも言え、草薙が人形使いと出会わなかった世界を描いたアニメシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』にも引き継がれています。
哲学者デカルトの残した「我思う故に我在り」を、未来社会をテーマに描いたような哲学的テーマが魅力的な作品でした。
まとめ
『ブラック・ウィドウ』(2021)のスカーレット・ヨハンソンが主演し、ハリウッドで実写化もされた映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』。
草薙とバトーの再会の合言葉「2501」が重要な意味を持つことになる本作の続編映画『イノセンス』(2004)も高い評価を受け、「攻殻機動隊」シリーズは世界で存在感を高めています。
そのきっかけともなった本作は、2021年9月17日(金)より全国劇場で4Kリマスター版上映予定。
公開から25年以上経っても未だ色褪せることのないSFアニメの名作を、是非とも4K画質で鑑賞してください。