映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』とは?
2007年に公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の続編にあたる『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』。1995年~1996年にかけてテレビ放映された『新世紀エヴァンゲリオン』を再構築(REBUILD)した「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズ全4作の2作目にあたります。
CONTENTS
映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の作品情報
【公開】
2009年(日本映画)
【原作・脚本・総監督】
庵野秀明
【監督】
鶴巻和哉(アバンタイトル・A・Dパート)、摩砂雪(B・Cパート)
【キャスト】
緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、石田彰、三石琴乃、山口由里子、山寺宏一、立木文彦、清川元夢、麦人
【作品概要】
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』は、テレビシリーズの第8話から第19話までを再構築して描く予定でした。しかし『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』の成功によってその方針は変更され、既存のテレビシリーズの流用だけでなく新たなデザインや設定で描き起こされ、新しい展開へと向かっていきます。
目立った違いとしては、レイと並ぶ人気のヒロイン・アスカの設定変更が挙げられます。テレビシリーズでは母親に愛されなかった過去や加持への思いが描かれていましたが、本作ではそこには触れておらず主人公のシンジに気がある設定になっています。(名前も惣流・アスカ・ラングレーから、式波・アスカ・ラングレーに変更されています。)
アスカの乗るエヴァも「弐号機」から「2号機」へと変わり、デザインや赤の色味などにも変更が加えられています。また真希波・マリ・イラストリアスが新たなヒロインとして大胆に登場。いままでの登場人物とは違う、密命を帯びてエヴァに乗っているらしきマリによって物語はさらに謎めいたものになっていきます。
映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』のあらすじとネタバレ
NERVユーロ支部ベタニアベースに拘束されていた第3の使徒。恐竜の骸骨のような姿をしたその使徒は最終結界を破り地上へ。メガネの少女が操縦するエヴァ仮設5号機が追撃しそれを殲滅。パイロットが脱出したあと5号機は自爆プログラムによって蒸発しました。
日本の第3新東京市。ミサトの計らいで久しぶりに父ゲンドウと、母の墓参りをしたシンジはその帰り道、第7の使徒に遭遇します。水飲み鳥のような姿をしたそれに苦戦するNERVはTASK02を発動、空から降下してきた赤いエヴァ2号機がコアを一撃で撃ち抜きます。
しかしそのコアはデコイ(囮)。使徒はすぐに変形し体制を立て直します。2号機は武器を捨て、コアに蹴りを食らわせてその殲滅に成功しました。
2号機に乗っていたのは式波・アスカ・ラングレー大尉。ミサトとも面識のあるアスカは同じエヴァのパイロットであるレイとシンジに敵意むき出し。「えこひいき」「七光り」とバカにしたように呼びます。
時を同じくしてやってきたのはNERV首席監察官である加持リョウジ。ゲンドウに人類補完の扉を開くとされる「ネブカドネザルの鍵」を渡した彼は、葛城ミサトや赤木リツコの学生時代からの友人でミサトの元カレです。
女性の扱いに慣れているその行動に、ミサトの心中は穏やかではありません。
シンジが学校から帰宅すると部屋にはアスカがいて、大量の荷物が運び込まれていました。ミサトは、今日から3人で暮らすのだと言います。勝ち気な性格のアスカですが、ベッドでは自分の名前入りのパペットに向かって、気持ちを高めるような言葉をつぶやいていました。
ゲンドウと副司令の冬月は月面にあるゼーレの基地へ「Mark.06(マーク・シックス)」(6号機)の視察に向かっていました。しかし上陸許可がおりずそのまま地球に戻ることに。
冬月は、月面に生身の人の姿を視認しますが見間違いだと思い直します。しかしその人影は去っていくゲンドウたちに向かって「はじめまして、お父さん」と声に出していました。
赤く染まった海をもとに戻す研究をしている施設に招待されたシンジたち。厳しい滅菌・消毒のあと施設の中に入ると、そこは水族館のように多くの魚たちが泳ぎまわっていました。
それはシンジたちが見たことのない、セカンド・インパクト前の生き物たちでした。
招待してくれた加持はシンジに、ミサトも研究に没頭して家族を顧みない父親を憎んでいたと話します。セカンド・インパクトのときその父に助けられ、代わりに父は亡くなってしまいました。
ミサトが身に着けている十字のペンダントは、父が亡くなったときにしていたものでした。
そのころ地球の上空には第8の使徒が出現していました。球体状の使徒はまっすぐNERV本部を狙って落下してきています。帰還途中のゲンドウとは通信が途絶えており、ミサトが代わりに指揮をとることに。
手の打ちようのない強力な使徒に対しミサトは半径120㎞の住民を避難させ、初号機・2号機・零号機の3体を同時展開し、ATフィールドを全開にして使徒を手で受け止めるという作戦を立てました。
それぞれの位置からクラウチングスタートで発進した3体は全力疾走で落下地点へ向かいますが、使徒は変形し軌道を変えながら進んでおりアスカの2号機は間に合いそうにありません。
いち早く到達したシンジの初号機は、回転しながら花のように開いていく使徒を受け止めます。そこへアスカの2号機が突っ込みコアを攻撃しますがはずしてしまいました。
力を増していく第8の使徒に押し込まれそうになる初号機。そこへやってきたレイの零号機がコアを掴み、2号機のアスカに次の攻撃を促します。
「わかってるっちゅーの!」。アスカの攻撃で何とか使徒を倒しましたが、その亡骸から出た大量の赤い液体が津波のように街を飲み込むのでした。
戦闘終了後、復活した通信回線から聞こえてきた父ゲンドウのほめ言葉にシンジは驚きます。一方、今までずっと単独で戦ってきたアスカは、ひとりでは何もできなかったと落ち込むのでした。
その夜、寝つけないアスカはシンジが寝ている部屋にやってくると、その布団にそっと横たわります。
動揺するシンジに対し、これからは「アスカ」と呼んでいいと言い、シンジのことは「七光り」ではなく「バカシンジ」と呼ぶことにすると宣言しました。
ともに通っている学校の教室で、弁当を作れなかったシンジをアスカが罵っています。その姿を見てクラスメイトは夫婦げんかのようだとからかいます。次の日、シンジは弁当を4つ作り、アスカやミサトはもちろん、レイにもそれを渡しました。
レイは自宅で弁当箱を洗いながら、弁当を作ってくれたシンジに感謝の気持ちを感じていました。翌日、学校を休んだレイはゲンドウとふたりで食事をしています。
その席でレイは「みんなで食事、どうですか?」と提案。レイに亡き妻の面影を重ねるゲンドウは静かにそれを承諾するのでした。
ある日、学校の屋上でシンジが寝転がっていると、空からメガネの少女がパラシュートで降りてきました。
密入国してきたらしいその少女はシンジにLCL(エヴァのコックピット内を満たす液体。これが肺の中を満たすと呼吸が可能になる)の匂いを感じ取ると「NERVのわんこ君」と呼び、口止めして去っていきました。
ゲンドウやシンジを招待して食事会を開くという目的をもったレイは料理の練習を開始。傷だらけの指をシンジに指摘されるも、内緒にしています。一方アスカも自宅で料理中。それを見てミサトは茶化しますが、レイからの招待状を渡して食事会の計画をアスカに話すのでした。
突然、北米第2支部が消滅したとの連絡がNERV本部に入ってきました。爆心地はエヴァ4号機。それは次世代型開発データ修得が目的の実験機でした。北米に残された3号機は、ゼーレの命により日本に移管されることになりました。
ゲンドウは零号機修復のための追加予算を申請していましたが、3号機を押し付けられたためそれは叶わず、一国のエヴァ保有数を3体までと定めたバチカン条約により2号機を凍結せざるを得ませんでした。
心の拠り所である2号機を奪われたアスカはレイにあたります。そしてレイの言葉から、レイもまたシンジのことが好きなのだと察してしまうのでした。
ミサトは加持にゼーレの計画について探りを入れますがはぐらかされてしまいます。すると、3号機に誰を乗せるのかとリツコから催促の電話がかかってきます。ミサトは悩んでいました。それは、3号機の実験日がレイの企画した食事会の日だったからです。
3号機到着の日。ミサトはアスカと松代にある第2実験場に向かっていました。3号機に乗ることになったアスカに、レイから「ありがとう」というメッセージが届いていました。
テスト用プラグスーツに身を包んだアスカは「最近他人といるのもいいかなって思う」とミサトに心境の変化を伝えるのでした。
映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の感想と評価
トラウマ級の曲使い
多くの人のトラウマになったであろう初号機による3号機(実は使徒)の破壊シーン。『今日の日はさようなら』の歌にのせ、望まぬ戦闘をさせられた挙げ句、友だちの乗ったエントリープラグを噛み砕いてしまう……。
この悪趣味ともいえるミスマッチによって、このシーン、いえ、この映画は強烈な印象となってわたしたちの記憶に刻みつけられました。
小学校でよく流れていたこの曲は、映画を見た者に認知され、悲惨なシーンと融合して記憶の上書きが行われたことでしょう。
また効果的な曲の使い方といえば、壮大な展開の終盤に流れる『翼をください』も、フォークソング世代やそれより下の世代には合唱曲としてよく知られた楽曲であり、この作品に前衛演劇のエンディングのような不思議なカタルシスをもたらしています。
人間的なレイ、デレるアスカ
この作品では女の子のキャラクターに人間味があり、ほのかな恋愛模様などもあって魅力的に描かれています。
レイは無自覚ながらシンジに好意の感情を抱いており、密かな計画によって父ゲンドウと息子シンジを結び付けようとします。結果的に親子関係は最悪の状態になってしまうのですが…。
一度はNERVを去ったシンジでしたが、彼に戻る決意をさせたのもレイだけは助けたい、という思いがあったからでした。
そしてアスカ。アスカは前半過剰なまでに攻撃的で自信家でしたが、やがてシンジを意識するようになり、レイをライバル視し始めます。でもレイの思いを知ったためか、アスカは3号機に乗ることを承諾します。
そのときのミサトとのやりとりが、これがあのアスカ?と思うくらい可愛らしいのですが、そのことでよりその先の展開が辛いものとなります。
碇ゲンドウの思惑
シンジのレイへの思いがサード・インパクトのトリガーになったのですが、そう仕向けたのはほかでもない、父親の碇ゲンドウです。
「せめて、レイだけは助けたい」。それはアスカを失ってしまったからこそ強まった感情でした。そして、アスカ(の乗った使徒)を攻撃するために初号機のコントロールをシンジから奪うよう指示したのはゲンドウです。
アスカが乗ることになった3号機が日本にやってきたこと、そもそも3号機のあった北米第2支部が消滅したこと、そしてアスカの2号機が凍結されたことなど、サード・インパクトを引き起こすことを目的としたゲンドウとゼーレのシナリオ通りなのでしょう。
レイの微笑ましい計画も、アスカの改心とも思える少女らしさも、すべて悲劇を盛り上げるための効果的な演出にされてしまったのです。
まとめ
この作品でくり返される希望と絶望。監督の庵野秀明はあるインタビューで、これはくり返しの物語、前へ進もうとする意思の物語だと語っています。
シンジは父に認められたい、愛されたいと期待しては裏切られます。シンジに限らず、登場人物は悩み、行動し、自問自答をくり返します。
そこにつけこむかのような精神汚染。そしてそれを操る使徒という得体のしれない存在。加持やマリらのスパイ活動。ゼーレの目的とも異なるゲンドウの計画等々。
なかなか明かされない謎の数々ですが、この映画の終わりに上映された映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の予告編によって、さらにわたしたちは煙に巻かれてしまいます。
この『新劇場版』は全てを見終わってからでないと語ることはできないのかもしれません。