タフガイ俳優のバート・レイノルズがゴールデングローブ賞に初ノミネートされた作品
俳優バート・レイノルズは、1961年ハリウッドで映画デビューを果たし、1970年代はタフガイ・セックスシンボルのイメージで人気を博しながらキャリアの絶頂期を迎えます。
この時期に反骨する男を描くことで知られる名匠ロバート・アルドリッチ監督の『ロンゲスト・ヤード(1974)』に、バート・レイノルズが主演を務めました。
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映画『ロンゲスト・ヤード(1974)』の作品情報
【日本公開】
1975年(アメリカ映画)
【原題】
The Longest Yard
【監督】
ロバート・アルドリッチ
【キャスト】
バート・レイノルズ、エディ・アルバート、エド・ローター、マイケル・コンラッド、ジム・ハンプトン、ジョン・ステッドマン、リチャード・キール、チャールズ・タイナー
【作品概要】
人気絶頂期のバート・レイノルズが、刑務所の囚人チームを率いて看守チームと戦う、今も不朽の人気を誇るスポ根コメディ映画です。
2005年にはアダム・サンドラー主演でリメイクされ、そちらではバート・レイノルズは、元アメフト選手の囚人チームのコーチ、ネイト・スカーボロ役で出演しています。
映画『ロンゲスト・ヤード(1974)』のあらすじとネタバレ
かつてはプロのアメフトスター選手として、スタークォーターバックと活躍し、最優秀選手に選ばれたこともあるポール・クルー(バート・レイノルズ)。今は金持ち女のヒモとして、自堕落な生活を送っていました。
ある日別れ話がこじれ、女の車を盗んで飛び出したクルー。警察の追跡をかわし、車を海に沈めた彼は、窃盗・飲酒運転・警官への暴行の罪で逮捕されます。
シトラス州立刑務所に入れられたクルー。元スター選手の彼は看守にからかわれますが、初対面の看守長クナウナー(エド・ローター)はいきなり彼に暴力を加え実力を見せつけます。
シトラス刑務所には看守が選手を務める、セミプロのフットボールチームがありました。クナウナーはがクルーに、刑務所長が看守チームのコーチを務めるよう依頼しても、断るよう脅します。
看守長の立ち合いで、ヘイズン刑務所長(エディ・アルバート)と面会したクルー。所長は刑務所のセミプロチームが、5年連続2位だとクルーに打ち明け、コーチになってくれと頼みます。
現役を離れ8年になるので、と依頼を断るクルー。所長はチームの為に、方々に手を回しクルーをこの刑務所に収監させていました。コーチを引き受ければ、刑務所暮らしは快適なものになると、説得するヘイズン刑務所長。
それでもコーチを引き受けないクルーに、所長は沼地作業を命じます。クルーを部屋から出すと、所長は毎年チームは2位だと、看守チームのコーチ兼選手のクナウナーを叱りつけ、今年優勝しなければお前も看守チームの全員も、クビにしてやると脅します。
ヘイズンは何としてもクルーに、看守チームに協力させるよう看守長に命じます。クルーは所長と看守長の間で板挟みになります。
沼地で白人と黒人の囚人を分けて働かせる中、クルーは黒人の囚人クランビルと共に働かされます。看守からも囚人からも目を付けられているクルー。彼は皆が興味を持つアメフトチームに協力しないので、孤立していました。
クルーの味方と言える囚人はファレル、皆から便利屋(ジム・ハンプトン)と呼ばれる男と、長年沼地の作業場で囚人の世話を任されているオヤジさん(ジョン・ステッドマン)位です。
オヤジさんは30年前にヘイズンを殴り、その後刑務所長となったヘイズンは、現在まで彼を釈放せずにいました。しかしどこで死ぬのも一緒だと、と悪びれずに話すオヤジさん。
過酷な労働に倒れかけたクルーを、オヤジさんが支えます。絡んで来る若い囚人ロッカと、泥の中格闘し皆を沸かせたクルーは、ようやく囚人仲間から認められます。
皆が見つめる前でクナウナー看守長に反抗したクルーは、懲罰で独房送りとなります。
独房から出たクルーを、ヘイズン刑務所長が呼び出します。ヘイズンと看守チームの練習を見たクルーは、強くするには勝てる相手との、仕込み試合が必要と話します。
その話を聞いたヘイズンは、クルーに看守チームに勝たせる相手として、囚人チームを作るよう命じます。あと18ヶ月で仮釈放されると断るクルーに、看守長を殴った罪で2年から5年は刑期が伸ばせるぞと脅すヘイズン。
囚人チームを作るのに与えられた期間は4週間。やむなくクルーはチーム作りを引き受けます。
クルーは囚人チームの参加者を募集します。囚人たちは試合で怪我をすれば入院して楽が出来る、何より看守を叩きのめすチャンスだと、ロッカたち暴れ者の囚人がチームに参加します。
その一方黒人囚たちは、味方を裏切ったクルーは信用できないと、参加を拒否しました。
素人の集まりである囚人チームを見て、元アメフト選手の囚人ネイト・スカーボロ(マイケル・コンラッド)が助力を申し出ます。彼は看守チームの強さも弱さも知り尽くしていました。
クルーは彼をヘッドコーチに任命し、便利屋や親父さんと共に囚人の経歴を調べ、チームに必要な人材を集め始めます。彼らが集めた大男の中に、サムソン(リチャード・キール)もいました。
看守チームにどう勝つかを考えるネイトに、無謀な考えを捨て、生き残る事だけを考える様に話すクルー。しかし14年間刑務所で暮らしてきたネイトの考えは違いました。
囚人を支配する刑務所長にも、俺たちから奪えないものが2つある。それは“金玉”さ、と看守チームに正面から挑む事を望むネイト。その話をクルーは、黙って笑いながら聞いていました。
プロ経験者もいる黒人囚にもクルーは声をかけますが、チームに参加する者はいません。しかし沼地で彼と働いたクランビルだけは、参加を表明します。
まともに技を磨く時間の無い囚人チームに、クルーは反則にならない限り何でもやると宣言します。彼をネイトを使って、危険な裏技を囚人たちに伝授します。
便利屋の働きで、看守も手を出さない危険な囚人、コニー・ショークナーをチームに加えたクルー。彼にチームのマネージャーにするよう、看守の手先である放火犯の囚人アンガー(チャールズ・タイナー)近づきますが、クルーは断ります。
徐々に形になっていく囚人チームの姿を、クナウナー看守長に報告するアンガー。クナウナーは試合の前に、黒人のクランビルを潰すよう看守に指示します。
他の囚人の前でクランビルを挑発する看守。しかしクランビルは耐え抜きます。その姿を見た黒人囚も、クルーのチームに参加します。
クルーはヘイズン刑務所長に直接会い、アンガーに練習を監視されていると訴え、看守チームにバレない環境で練習したいと申し出ます。何か企んでるのかと問うヘイズンに、試合に尊厳を与え、チームに希望を与えたいだけ、と説明するクルー。
試合までの特別待遇に意気上がる囚人チーム。便利屋はクルーに、3つの贈り物があると話します。新品の練習用具、看守チームの実戦記録映画、もう一つは秘密にされました。
もっとも、実践記録映画のフィルムを手に入れる条件は、クルーが所長の秘書と関係を持つ事でした。
ショークナーは危険な技を、親父さんはサポーターを凶器に帰る方法を、便利屋は看守チームの医療記録を手に入れ、体の弱点をチームに伝授します。
ネイトは相手の弱点を的確に攻撃する方法を、クランビルはフォーメーションの中で相手を倒す戦術を伝え、チームは試合本番を待ち望む様になります。
便利屋が調達した酒を、彼と酌み交わすクルー。便利屋はクルーが、なぜ現役時代八百長に手を染めたのかを尋ねます。彼はその事実によって、多くの者から信用を失っていました。
目の悪い父親の老後の為に、ひとヤマ当てたかったと話すクルー。しかしその父も死んでしまったと語ります。クルーは俺の悩みは、悩みが多いことだ、と打ち明けます。
クナウナー看守長は、手先として使ったアンガーを、クルーが所長に看守チームの手先だと訴えたと説明します。囚人仲間から責められかねない立場のアンガーは救いを求めますが、自業自得と拒絶するクナウナー。
クルーを恨んだ放火犯のアンガーは、彼の監房の電球に仕掛けを施します。クルーの部屋に入った便利屋がその仕掛けに引っかかり、焼死してしまいます。
便利屋の葬儀は、囚人チームの面々が見守る中で行われました。
看守チームと囚人チームの試合の日がきました。試合は特設放送で刑務所中に流されます。
試合前のロッカールームで、囚人チームにヘイズン刑務所長が訓話を行いますが、それは試合会場に武装した看守が配置されていると、警告するものでした。
便利屋がクルーにもう一つ残した贈り物は、それは新しいチームのヘルメットとユニホームでした。それを身に付けて、囚人チームは試合に臨みます。
映画『ロンゲスト・ヤード(1974)』の感想と評価
ロバート・アルドリッチの反骨精神が光る作品
あらすじを読まれた方は、いかにもベタなスポ根コメディとの印象を持つでしょう。しかしそう単純な物語ではありません。
クルーは様々な事情を抱えて、八百長を強要されますが誰にも理由を語りません。それを語った方が敵味方が明確で、判りやすいお話になるでしょう。
しかしロバート・アルドリッチ監督はそれを許しません。あえて男は語らず、行動で周囲を納得させるという姿勢を見せ、男臭い物語にする事を選びました。
バート・レイノルズ演じるクルーも、クナウナー看守長もヘイズン刑務所長も、自分の小さな世界を守る人物として、激しくエゴをぶつけ合います。
参考映像:『北国の帝王』(1973)
大不況時代、放浪者仲間のため列車の無賃乗車を繰り返し、“北国の帝王”の異名を持つ男リー・マービンと、プライドにかけ意地でも阻止しようとする、鬼車掌のアーネスト・ボーグナインの対決を描いた映画、『北国の帝王』はこの前年の映画です。
自分の小さな世界を、自分の誇りをかけて守ろうとする男たちの対決。端から見てそこまでする価値があるのか、とも思われますが、そこにこだわるのがアルドリッチ監督の描く男の真骨頂です。
そんな男臭い人物を、男の魅力を最も発揮していた時期のバート・レイノルズが演じる、貴重な作品が『ロンゲスト・ヤード』です。
まとめ
囚人チームが看守チームをボコボコにし、最後に勝利を納める姿は痛快です。そして映画の中で殴り合った同志は、何らかの和解と共感を手にする、実に男臭い展開です。
その中で自分の手を汚さず、権力を欲しいままにしていたヘイズン刑務所長。この人物こそ真の敵と見定め、最後に真っ向挑戦を決意するバート・レイノルズ。将に男の中の男像です。
このヘイズン刑務所長は、傍らにいる側近に会話をテープに録音させる権力者。当時ウォーターゲート事件の渦中にあり、『ロンゲスト・ヤード』の全米公開直前に辞任した、ニクソン大統領への風刺が感じ取れます。
また試合シーンで多様される画面分割シーン、ブライアン・デ・パルマの映画同様、70年代映画らしさを感じさせるテクニックです。
この映画のラフプレイ、騒ぎになったどこかの国の大学アメフト部より、実にとんでもない行為ですので、くれぐれも真似しないように。