和月伸宏原作の漫画を実写化した映画『るろうに剣心』
明治維新で「人斬り抜刀斎」と恐れられた刺客・緋村剣心は、維新後、斬れない“逆刃刀”を携えて流浪の旅を続けていました。
そんな頃、ふとしたことから、神谷道場の師範代理の少女・薫を救った彼は、ニセ抜刀斎を用心棒に抱える悪徳実業家の陰謀に巻き込まれていきます。
映画を手掛けたのは、『龍馬伝』の大友啓史。緋村剣心に挑んだ佐藤健、神谷薫には武井咲と魅力的なキャストに加え、吉川晃司、蒼井優、青木崇高、綾野剛、江口洋介、香川照之といった実力派も顔を揃えました。
激しい斬りあい、殴り合いの多いアクション時代劇。新時代到来における熾烈な闘いと、その裏に秘められた奥深い人生ドラマを描き出しています。
映画『るろうに剣心』の作品情報
【公開】
2012年(日本映画)
【原作】
和月伸宏:『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』(集英社)
【監督】
大友啓史
【脚本】
藤井清美、大友啓史
【音楽】
佐藤直紀
【キャスト】
佐藤健、武井咲、吉川晃司、蒼井優、青木崇高、綾野剛、須藤元気、田中偉登、奥田瑛二、江口洋介、香川照之
【作品概要】
1994~99年に週刊少年ジャンプ(集英社)で連載され、テレビアニメ化もされて人気を博した和月伸宏の漫画『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』の実写映画版。
伝説の「人斬り抜刀斎」・緋村剣心が明治維新以後、殺さずの誓いをたて、決して人を斬ることのできない「逆刃刀」を携えて町から町へ流浪の旅を続ける姿を描いています。
主人公の緋村剣心に佐藤健、ヒロインの神谷薫に武井咲。敵側には吉川晃司、綾野剛、ボスに香川照之と豪華キャストをそろえ、江口洋介、蒼井優らも脇を固めます。NHK大河ドラマ『龍馬伝』で知られる大友啓史監督が手懸けました。
映画『るろうに剣心』のあらすじとネタバレ
1868年1月。戊辰戦争の真っただ中。京都伏見山中では、討幕派の官軍と佐幕派の武士たちが激しく戦っていました。
その中には、幕府要人や佐幕派の武士達に恐れられた「人斬り抜刀斎」の通り名を持つ凄腕の暗殺者がいました。
「人斬り抜刀斎」(佐藤健)は、神速な剣技と驚異の暗殺成功率をもつ、剣の達人です。新選組の斎藤一(江口洋介)は血しぶきを浴びながら剣を振るう「人斬り抜刀斎」を見つけますが、その時、官軍の勝利が告げられました。
去ろうとする抜刀斎に斎藤は「剣に生き、剣に死ぬ以外、俺たちに道はない」と言いますが、抜刀斎は血濡れた刀を地面に置き、去っていきました。
それから10年の月日が流れ、時は明治11年。
「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心は、人の命を奪うことを良しとしない「不殺の誓い」を掲げ、日本各地を旅しながら、か弱き人々を剣の力で守り助ける‟るろうに”として、穏やかな日々を送っていました。
剣心が東京に流れ着いた頃、中毒性の高い新型阿片の密売と“神谷活心流 人斬り抜刀斎”を語る辻斬りという、2つの事件が起こっていました。
そのころ、悪徳商人・武田観柳(香川照之)の邸では、観柳に囲われている女医・高荷恵(蒼井優)が、新型阿片を開発させられていました。
新型の強力な阿片が完成した時、恵は良心の呵責に駆られて観柳の屋敷を逃げ出します。
観柳は恵を連れ戻すため、配下の鵜堂刃衛(吉川晃司)を差し向けました。恵の逃げ込んだ警察署内で、刃衛は斬殺を繰り広げましたが、恵を取り逃がします。
一方、辻斬りの流派と噂されたために門下生が皆無となった神谷活心流。
「人を活かすのが剣の道」と説く亡き先代師範の父親の教えを頑なに守る師範代の神谷薫(武井咲)は、‟神谷活心流”を名乗る辻斬りに腹立たしい想いを抱えています。
街でみかけた剣心を犯人と勘違いして挑みかかり負けますが、その直後に薫は刃衛と遭遇し、斬られそうになったところを剣心に救われました。
神谷道場へ戻った薫に、今度は別の観柳の手下たちが道場の土地を譲るよう押しかけて、狼藉を働きます。
観柳が禁制品を取り扱う港を新設するために、神谷道場の界隈はうってつけの場所にあったのです。
そこに「逆刃刀」を掲げて剣心が現れ、手下たちを殺さずに皆、昏倒させました。人斬り抜刀斎の剣は「飛天御剣流」。見事な剣さばきに剣心の正体はばれてしまいます。
まもなく駆けつけてきた警官隊は、「廃刀令」を破ったとして手下どもを捕まえますが、剣心は騒動の原因は自分にあって道場は無関係だと告げ、手下ともども警察へ連行されます。
警察で、剣心は警官になった斎藤一と再会。
剣心が抜刀斎であることを知る斎藤一は、彼を山県有朋(奥田瑛二)の元へ連れて行きました。
山県は、陸軍の要職につき剣の腕を新型阿片の捜査協力に貸してくれと頼みますが、剣心はこれを断ります。
「人斬りに戻れ」と斎藤は剣心と一戦を交えて抜刀斎の頃の血を呼び覚まそうとしますが、「もう人は斬らぬ」と剣心は戦いながら「不殺の誓い」で斎藤の誘惑に耐えます。
一部始終みていた山県は諦めたのか、「もうよい」と戦いを中断させ、剣心は釈放となりました。
映画『るろうに剣心』の感想と評価
十字傷の過去と逆刃刀の誓い
凄腕の「人斬り抜刀斎」こと緋村剣心は、頬に十字の傷を持っています。
十字に斬られた2つの切り傷のうち1つは、剣心が暗殺者となって活躍始めたころに斬った若侍につけられたものです。
その侍は愛する人と祝言間近だったため、死ぬわけにいかないと、斬られても斬られても、剣心に向かってきました。
その執念に驚く剣心に気の緩みがでて、最後に侍の剣が頬をかすったのです。
事件現場を後から見に行った剣心は、その侍の遺体に縋って泣き崩れる女性の姿を見ます。
頬の傷と一緒に心もとても痛んだ剣心。後に、その女性からもう一つ頬に傷をつけられたと語る剣心ですが、その過去の出来事は、剣心に十字架を背負わせることになりました。
良き時代を作ろうとしているのに、なぜ罪もない人を斬らねばならないのか。この出来事は、剣心の心に迷いを生じさせます。
そして、新時代の到来。廃刀令も出されますが、落ちぶれた武士はいまだに剣を携え、生きるために権力者に金で雇われます。
剣の腕前はピカ一の剣心がその気になれば用心棒として引く手数多なのですが、彼はその道には決して戻ろうとしません。
剣の刃先を自分の方に向けた「逆刃刀」を愛用して、”殺さず”の剣で悪人を斬り、人を助けるために剣を振るうだけでした。
「人斬り抜刀斎」から緋村剣心へ。彼は自分の損得では決して動きません。
しかし、静かな生活を望む剣心を人斬りに戻して自らの私利私欲に利用したい輩のなんと多いこと。その代償も地位やお金であったり、罪なき者の命であったりします。
剣心が悪の誘惑を断ち切れる秘密は、切ない十字傷のエピソードと「逆刃刀」に込めた‟不殺の誓い”にあったのです。
連続アクションと個性的なキャスティング
恐ろしく腕の立つ緋村剣心を演じるのは、佐藤健。映画冒頭から終わりまで、ほぼ全編にわたって、絶えることなくアクションが続きます。
その殺陣レベルはかなり高く、佐藤健の人並優れた身体能力の高さに驚くことでしょう。
「人斬り抜刀斎」を斬れば、己の剣の腕前が証明されるということで、人を殺したくない剣心の前には、強敵が次々と現れて闘いを挑んできます。
本作での強敵1号は、斎藤一。剣心の宿敵として、人斬り抜刀斎の顔を知る数少ない人物です。
新撰組の信念を貫くため、警視庁の密偵として暗躍しています。
斎藤に扮するのは江口洋介で、敵か味方かわからない無口な斎藤の不気味な存在感を充分引き出しています。
武田観柳に雇われた鵜堂刃衛も、上級の剣の腕前に加えて相手の身体の自由を奪う術を使う、怖ろしい強敵といえます。
刃衛を演じているのは、吉川晃司。白目と黒目が反転している特徴的なルックスは、彼にはピッタリでした。
しかし、最もすごかったのは、悪徳商人武田観柳を演じた香川照之でしょう。
観柳王国を築くのが夢と豪語する憎たらしい強欲男を、特徴的な髪形といやらしい表情で見事に体現。
観柳のテーマともいうべき音楽も用意され、音楽と同化したコミカルな演技が光っていました。
見せ場のひとつである観柳邸での対決では、屋敷に乗り込んだ剣心たちに向け、ガトリングガンで銃撃も浴びせました。
財力に物いわせ、新政府になって生活に苦しむ士族や侍を用心棒替わりに雇い、親衛隊もどきまで作っている武田観柳。お金さえあれば何でもできると思っています。
こんな悪人の薄汚い根性を表情からにじませる演技は、香川照之でしかできないと言っても過言ではありません。
本作は血が噴き出すアクションの映像が多いし、殺陣の見せ場もいたるところにありますが、その反面、初々しい演技の武田咲や妖艶さを醸し出した蒼井優など、女性陣の活躍もありました。
ただの斬り合いだけで終わらない、爽やかな達成感の残る作品となっているのは、原作の面白さに加えて魅力的なキャストの活躍があるからでしょう。
まとめ
和月伸宏原作の漫画を、大友啓史監督が実写化した映画『るろうに剣心』。
‟人斬り抜刀斎”の過去を持つ緋村剣心が、‟不殺の誓い”をたてて生きていく姿を描いたアクション時代劇です。
斎藤、観柳というキャラクターは、実在する人物をモデルにしてつくり上げたものと言います。彼らの存在も物語に一層のリアリティを加えていました。
神谷道場に徐々に集結する緋村剣心とその仲間たち。時代の変革が生んだ歴史の大きな歪の中で、弱い人々の味方となって剣を振るう姿に次作への期待も高まります。
ひときわ印象深いのは、ラストの薫と剣心の微笑ましい会話でした。
「お帰りなさい、剣心」「ただいまでござる」。
人斬りに戻らずに帰ってきた剣心を労わる薫と、それに感謝しこれからも‟るろうに”として生きようとする剣心の決意が現れた、すがすがしい場面となっています。