“ただの男”がド派手にブチギレる?! 人気TVドラマ『ベター・コール・ソウル』のボブ・オデンカークが大暴れする痛快、ハードボイルド・アクション映画!
キアヌ・リーヴス主演の大ヒットアクション映画『ジョン・ウィック』の脚本家デレク・コルスタッドと『ハードコア』のイリア・ナイシュラー監督がタッグを組んだ、ハードボイルド・アクション映画『Mr.ノーバディ』。
人気ドラマ『ブレイキング・バッド』とそのスピンオフドラマ『ベター・コール・ソウル』のソウル・グッドマンことボブ・オデンカークが主演を務め、クリストファー・ロイド、マイケル・アイアンサイドらが共演しています。
家に強盗が入っても何も出来なかった地味で平凡な男が、ある日、バスで悪態をつくチンピラたちにブチ切れた! そのことをきっかけにロシアンマフィアに狙われることになるのですが、この男は一体何者?
映画『Mr.ノーバディ』の作品情報
【日本公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
Nobody
【監督】
イリア・ナイシュラー
【脚本】
デレク・コルスタッド
【キャスト】
ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、RZA、マイケル・アイアンサイド、クリストファー・ロイド、J・P・マヌー、ポール・エシェンブル
【作品概要】
「ジョン・ウィック」シリーズの脚本家デレク・コルスタッドと映画『ハードコア』(2016)の監督、イリヤ・ナイシュラーがタッグを組んだアクション映画。
主演を務めるのは人気テレビトラマ『ベター・コール・ソウル』の主人公ソウル・グッドマン役で知られるボブ・オデンカーク。
平凡でさえない男があることをきっかけに過去の自分に戻ってロシアンマフィアに立ち向かうことに!
映画『Mr.ノーバディ』あらすじとネタバレ
ハッチは、妻と子供2人と共に、郊外に居をかまえ、自宅と職場の金型工場を路線バスで往復する単調な毎日を送っていました。
毎週火曜日のゴミ出しにいつも遅れ、妻のベッカからは「まだゴミを出し損ねたのね」と呆れられる日々。そんなルーティーンワークをこなす中、ある日、自宅に2人組の強盗が押し入ります。
息子のブレイクが強盗の一人に飛びかかり羽交い締めにするともうひとりが、銃を向けました。ハッチはゴルフクラブで強盗を殴りつけようとしますが、なぜかやめて、息子にも男を開放してやるように合図します。
強盗たちは、わずかばかりの小銭だけを奪って、あたふたと退散しました。やられっぱなしで事を済ませた父親に息子は納得できないという表情を見せました。
息子には見下され、ベッカにも距離を置かれ、夫婦の会話もほとんどありません。唯一、幼い娘アビーだけが、ハッチに愛情を示してくれていました。
家族皆が寝静まったあと、ハッチは酒を片手に音楽を聴き始めました。すると、スピーカーから誰か男の声が響いてきます。ハッチは男に今日あった強盗の話をして、2人組のひとりが女性だったこと、銃には球が込められていなかったのだと語りました。一体誰と話をしているのでしょうか。
次の日、アビーがお気に入りだったブレスレットがないと騒ぎ始めました。どうやら昨晩、強盗が幾枚かの紙幣と共にそこにあったブレスレットを奪っていったようです。
ハッチはすぐさま家を飛び出しました。老人ホームに入っている父の元を訪ね、棚から父のものと思しきFBIのバッジを掴むとまた飛び出していきました。
彼が向かった先は、タトゥー・ショップです。強盗の手に掘られていた印象的なタトゥーを彼は忘れていませんでした。
最後に訪れた店でひと悶着ありましたが、ハッチの腕の入れ墨を見た店主は「お役目ご苦労さまです」と言って硬直しました。ハッチは「この人物がどこにいるか教えてもらおうか」とあの時のタトゥーの写真を指差しました。
ハッチが強盗の住処に乗り込むと、男女が貧しい食事をとっているところでした。「ブレスレットはどこだ!?」と彼は抵抗する男を殴りつけましたが、奥の部屋から鳴き声が聞こえ、ドアを開けると、そこにはベビーベッドで泣きじゃくる赤ん坊の姿が。ハッチはやれやれという顔をして、その場を離れました。
すっきりしないまま、バスに揺られていると、すぐ側で交通事故を起こした数人のチンピラが車を捨てて乗り込んで来ました。彼らは皆、酒を飲んでいました。乗客にいやがらせをし、一人で乗っていた若い女性を取り囲むチンピラたち。
チンピラの一人がハッチを見て「もうひとりジジイがいるぞ」とふざけて叫びました。ハッチは立ち上がり、女性のドライバーを外に出すと、チンピラたちを血祭りにし、女性を開放しました。
夜中に傷だらけで帰ってきたハッチを見て、ベッカは驚きます。ハッチは、2人が初めて出会った時のことを覚えているかと手当をしてくれているベッカに尋ね、自分は今でもベッカが愛しいと告白します。
冷酷なロシアンマフィアのユリアン・クズネツォフは弟が誰かにやられて瀕死であることを告げられ、病院を訪れます。病院で意識不明で眠る男はハッチがやっつけたチンピラの一人でした。
弟は息を引き取り、ユリアンは復讐を誓います。ユリアンから犯人探しを依頼された女性は、現場に落ちていたメトロ公共交通カードからハッチをつきとめ、彼の父親が、老人ホームにいることをたやすく調べだします。
しかしハッチのことはよくわからず、ペンダゴンの知り合いに調査を依頼します。
結果を知った女性は、ユリアンに自分はもう降りると告げ、ハッチの身元を示す、壮絶な証拠写真を残して行きました。
ユリアンは部下にすぐにハッチの家へと向かわせ、ハッチを連れて来いと命令しました。何台かの車の音に気付いたハッチは、家族を地下室に隠し、家に侵入してきた男たちを次々と始末していきます。
しかし、スタンガンで気絶させられ、手錠をかけられ、車のトランクに放り込まれることに。目を覚ましたハッチは、手錠をはずし、トランクの中に転がっていた消化器を持ち上げます。
後部座席を破壊し、運転席めがけて、消化器を噴射させると、車は電柱に激突し、横転。ハッチはなんとか、車から這い出しました。
ハッチは家族を別の場所に移動させることにしました。妻は「戻ってよ。話はそれから。子どもたちは任せて」と言い、車をスタートさせました。
ハッチは家に戻ると、倒れていたマフィアの面々をソファーに座らせ、身の上を語り始めました。自分は「会計士」だと名乗り、「会計士」は軍隊の各機関で最も恐れられている存在で、法で人を裁く権利がないため、徹底的に敵の命を奪ってきたと語りかけます。
「その中で、必死で命乞いをする男がいた。男は自分がしてきたことを心の底から悔い改めようとしていると判断して俺はそいつを開放してやった。何年もあとに、その男の様子を見に行くと、男は真人間になり、幸せな家庭を築いていた」とハッチは続けました。
「俺はやつが持っているものが欲しくなった」とハッチは言い、マフィアたちに目をやると、彼らは全員息絶えていました。
ハッチは家に火をつけました。火力が強いので、死体も全て焼けてなくなる算段です。ハッチは隣家の主人が自慢していた車に乗り込むとスピードを上げてその場を去りました。
部下たちがハッチにやられたことをニュースで知ったユリアンは怒りに震えて、ハッチの父親を部下に襲わせます。
しかし、父はショットガンで2人の男を射殺。音に驚いてやってきた職員がドアを開けると大きな音で西部劇を観ている父の後ろ姿が見えました。
職員は「もう少し音を小さくしてください」と声をかけて行ってしまいました。父の足元には男たちが絶命して横たわっていました。
ハッチは隠し持っていた金の延べ棒を持ち出すと、それで義父から工場を買い取り、そこをアジトとして武器を集め、決戦に備えての準備を始めました。
映画『Mr.ノーバディ』感想と評価
主人公のハッチが、平凡でさえない毎日を送っていることを表す冒頭の一連の描写はユーモアに溢れ、思わず笑ってしまいます。
月曜日から日曜日まで、ルーティーンワークとしか表現のしようのない寸分変わらぬ日常が続いている様子が、ものすごい早回し感覚で表現されているのです。このスピード感がたまりません。
そんな平凡な毎日に、覆面をして武装した強盗が入るという事件が発生。何度も犯人をゴルフクラブで叩きのめすチャンスがありながら、暴力を振るわない主人公。
かけつけた警察からは何もしなかったんですか?と嘲笑するような態度を取られます。アメリカって恐ろしい。
しかし、ハッチが暴力を振るわなかったのには理由がありました。彼はなぜかステレオ越しに誰かと会話し、強盗の銃には弾が込められていなかったのだと述べています。
あのような場面で、そんな冷静な判断ができるとは、一体?と誰もが疑問に感じることでしょう。
ハッチという人物が、冴えなくて、どこか沈んで寂しげに見えたのは、単なる中年クライシスのせいではなくて、実は本来の自分を抑え込んでいたせいだということが次第に明かされていきます。
アクション映画における「戦士の帰還」という展開自体はさほど珍しいものではありませんが、主人公が本来の自分を取り戻していくことで、精神的に開放されていく過程が、観る者にスカっとした高揚感を呼びさまします。
ストレスフルな時代にストレスから開放されるヒーローは清々しく見えさえします。家族に対して失っていた自信も取り戻していきます。
ただ、相手はロシアンマフィア。しかも数も甚大。ハッチ自身、殴られ、刺され、傷だらけの満身創痍で、スーパーヒーローであり過ぎないところが、また親近感を覚えさせる要因となっています。
「ジョン・ウィック」シリーズのデレク・コルスタッドが脚本を担当しているだけあって、創意あふれるアクションシーンが続出。アジトに施される仕掛けも工夫されていて、手作り感満載。ミシェル・ゴンドリーなどの工作映画的な面白さも醸し出しています。
自宅に火を放つ際に流れるルイ・アームストロングの「What A Wonderful World」や、カーチェイス時のパット・ベネターの「ハートブレイカー」、テーマ曲のように流れる印象的な「Don’t Let Me Be Misunderstood(悲しき願い)」など、選曲も抜群で、めっぽう面白いアクション映画として、心から楽しむことができる一作です。
まとめ
ハッチを演じているのは、ボブ・オデンカーク。『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文章』(2017)の記者、『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』(2019)の四姉妹の父という役柄も印象的でしたが、彼の当たり役と言えば、大ヒットTVドラマ『ブレイキング・バッド』(2009~13)とそのスピンオフドラマ『ベター・コール・ソウル』(2015~)の弁護士ソウル・グッドマンでしょう。
決して悪人ではないけれど、善人とも言えない、口八丁手八丁のお調子者の弁護士役でブレイクした彼が、家族にそっぽを向かれた悲哀溢れる中年男を演じています。
その情けなくも味わいのある様は、ソウル・グッドマンの面影を残すボブ・オデンカークにぴったりのイメージです。
実は、この男、只者ではないのですが、ハンサムで、いかにも強そうな人が演じたら、なんの面白みもなくなってしまったでしょう。意外性、ギャップが強いほど、物語に強度が加わるからです。
しかしもちろん、ハッチはソウル・グッドマンではありません。オーデンカークはこの新しいキャラクターを演じるために、撮影にはいる一年以上前からトレーニングを開始しました。圧倒的に強いけれど、殴られ負傷もする人間らしい「何者でもない」ヒーローを見事に演じきっています。
また、彼の父親を演じるクリストファー・ロイドが実にいい味を出しています。老人ホームでひがな古い西部劇を観ているただのお年寄りだとばかり思っていたら、ショットガンを使って、軽快に確実に敵を倒していくたくましいガンマンで、爽快なアクションを見せてくれます。