世界各国から集めた選りすぐりの危険な映画たち。個性的かつハイクオリティ・スリリングな5作品が一挙上映と、挑発的な宣伝文句で公開された特集上映。
「モースト・デンジャラス・シネマ・グランプリ2018[MDGP2018]が、ヒューマントラストシネマ渋谷で今年もスタートされました!
その第一弾上映作品は『ダマスカス』は、イランで製作されたアクション映画という異色作です。
現在、世界で最も激動する地域を舞台に、いかなる物語が展開されるのか、イラン発の戦争アクション映画を『ダマスカス』をご紹介します。
CONTENTS
映画『ダマスカス』の作品情報
【公開】
2018年(イラン映画)
【原題】
Be Vaghte Sham/Damascus Time/به وقت شام
【監督】
エイブラヒム・ハタミキア
【キャスト】
ババク・ハミディアン、ハジ・ヘジャジファー、リース・モフティ、ピエール・ダハー、カレッド・アルサイド
【作品概要】
ISIS(過激派組織=イスラミック・ステート)が侵攻したシリアを舞台に、難民を首都ダマスカスに避難させようと戦うイラン軍パイロットを描く戦争アクション映画。
2011年に難民を乗せた輸送機を飛ばす任務に志願したイラン空軍パイロットのアリは、シリアの都市パルミラに潜入。そこはISISに包囲された危険な都市でした。
敵の攻撃を受けながらも離陸に成功し、輸送機はシリアの首都ダマスカスへ向けて飛行します。しかし難民の中にテロリストが潜入しており、機はハイジャックされてしまいます。パルミラに連れ戻されてしまったアリは、ISISが輸送機をダマスカスに突入させるという自爆テロ作戦を企んでいる事実を知りますが…。
ヒューマントラストシネマ渋谷で行われた[MDGP2018]にて上映された作品。
映画『ダマスカス』のあらすじ
2011年、シリア内戦の勃発と共にシリア国内や近隣諸国に支配地域を広げる ISIS(イスラミック・ステート)。
その支配地域に取り残された人々への必要な物資を届ける手段は、輸送機による空中投下しか存在しないのでした。
この危険な任務に就いていたイラン人パイロット、アリは実の父である司令官から任務を離れるように命令を受けます。
しかしその時、ISISに包囲された都市、パルミラの飛行場に残された輸送機を使って、避難民を救出する作戦が計画された事を知ります。
この困難な計画に父が参加する事を知ったアリは帰国の途に就く飛行機を降り、父の乗ったパルミラに向かうヘリに強引に乗り込見ます。
それは身重の妻の元に帰る事を諦めた上での、苦渋の決断でした。
パルミラ近郊に降り立ったアリと父は迎えに来た部隊と合流するが、さっそくISISからの攻撃の洗礼を受ける事となります。
それでも何とか空港に到着した2人は、現地の人々と共に夜を徹して輸送機の離陸の準備を進めていきます。
翌日飛行機には様々な人々が避難民として乗り込んで来る老若男女、そして様々な思想や背景を持った人々。
機内の避難民は混迷するシリアの状況そのものである人々で構成されていました。
こうして ISISの手が迫りつつある飛行場から離陸、脱出に成功したかに見えた輸送機だったが、避難民の中に紛れていたテロリストによって機体はハイジャックされてしまいます。
司令官でもあったアリの父がテロリストと必死に交渉した結果、女性・子供の解放させる事に成功。
しかし駆け付けたロシア空軍の戦闘機にも何も出来ず、輸送機はパルミラに逆戻りさせられてしまいます。
そしてパルミラで彼らを待っていたのは、より残虐なISISのメンバーでした。
彼らは避難民など捕虜にした者を集め、世界に向けた処刑の姿を中継しようします。その捕虜の列の中に、アリと父の姿もありました。
何とか処刑を逃れる事が出来たアリだが、輸送機に檻に閉じ込められた状態の捕虜たちが乗せられる光景を目にします。
その捕虜の中に父の姿を目にして愕然とするアリに、 ISISは自爆ベストを身に付けさせた上で、この輸送機を飛ばす事を命じます。
アリはISISが輸送機を利用して、ダマスカスに9.11テロの再来となるテロ攻撃を計画している事を悟ります。
抵抗を封じられたアリは単身テロ計画を阻止する事が出来るのだろうか。
アリは檻に監禁された状態の捕虜たち、そして父を救う事が出来るのか…?
映画『ダマスカス』の感想と評価
[MDGP2018]とは
2018年もヒューマントラストシネマ渋谷に、モースト・デンジャラス・シネマ・グランプリが帰ってきました![MDGP2018]として5本の映画が公開されます。
さてご存知と思いますが、[MDGP]という企画で紹介される映画はジャンルも国籍も、規模も内容もバラバラ。
それだけにユニークな作品、思わぬ作品が映画館で上映される機会であり、映画ファンには気になる存在ではないでしょうか。
その[MDGP2018]のトップを切って上映された作品が今回紹介した映画イラン映画『ダマスカス』なのです。
イラン発のアクション映画の見どころ
イランのアクション映画という事で、どんな映画だろう?という事で気になる方が多数いると思います。
まず戦争映画ファンは中東を舞台に、旧東側陣営の装備が多数登場する映画である事に注目して下さい。
映画の主役である輸送機他、ヘリコブター・攻撃機などのロシア製の実機が登場。戦車・銃器なども多数登場。ユニークなシーンでは、主人公らが飛行場に移動する際にロシア製歩兵戦闘車を利用。その車内の様子を見る事ができます。
また空中の航空機のシーンなどはCGを使用していますが、今やどこの国の映画でもクオリティの高いCGの利用が可能となった時代、本作も他国の大作アクション映画と比べても、見劣りしない作品となっています。
またイラン映画である本作に描かれた、文化的な背景に注目される方もおられるでしょう。イスラム過激派のイメージで中東を一括りにしがちな我々ですが、イラン=主にペルシャ語を使い、シーア派イスラム教が国教の国から見たシリア紛争、対テロ戦争の映画である事も本作の特徴です。
この映画では ISISやテロリストの個々のメンバーの様々な背景描かれており、ごく一般のイスラム教徒とは異なる過激な存在である事が理解できる様になっています。また欧米からの参加者に注目すると、彼らこそ中東の一般の人々が忌み嫌う困った過激派、という一面を理解する出来ます。
ヒロインの活躍にも注目⁈
映画的構成の部分にお国柄が出ていないかを注目すると、まず最初に「この人が当然、本作のヒロインだよね。」という女性が登場するのですが、何と途中退場してしまいます。
以降、随分むさ苦しい映画になるのでは…、と少々焦ってしましました。
しかしご安心を。後半にも別の重要な女性キャラが登場します。
この女性2人が一般的なイスラム教徒の中東の方でない事には文化的な背景があるのでしょうか。
ヒーロー、ヒロインが協力して闘う映画で無い事も注目すべき特徴かもしれません。
映画『ダマスカス』の結末の行方は⁇
改めて『ダマスカス』を振り返ると、実に航空パニック映画の図式で丁寧に作られた映画と実感できます。
戦闘シーンもありますが日本版ポスターのビジュアルは、明らかにお約束の範囲で盛っていますのでご注意ください。
実際には本作は主人公アリが単身、ハイジャック犯から自爆テロを阻止、しかも檻に閉じ込められた捕虜(父を含む)を救出する事が出来るのか、という映画的無理難題に立ち向かう事がクライマックスとなった、本格的なアクション・サスペンス映画として楽しむ事が出来る構成になっているのです。
さてこういったパニック映画には、大きく主人公の超人的活躍で皆が救われるパターンと主人公の自己犠牲で皆が救われるパターンの2つがあります。
イラン映画である本作はどんなラストを迎えるのでしょうか。ぜひ本編を鑑賞してお確かめ下さい。
まとめ
アッバス・キアロスタミ監督の登場以降、何かと文化的・芸術的な作品が世界の注目を集めるイラン映画。
本作のような娯楽作品だからこそ描かれているイランの姿もあるのではないでしょうか。
そんな視点からイラン発の戦争アクション映画『ダマスカス』をご覧下さい。
ぜひ、お見逃しなく!