家族と平和を求め、少女アヴリルが奇妙なパリの街を駆けめぐる!
2019年7月開催の「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2019」(通称「カリコレ」)での限定公開で好評を博し、ユジク阿佐ヶ谷でも9月28日(土)から上映が決定したアニメ映画『アヴリルと奇妙な世界』。
行方不明の家族を捜す少女アヴリルと飼い猫ダーウィン。彼女らが異次元のパリで繰り広げる奇想天外なストーリーは、アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリを受賞しました。
『アデル ファラオと復活の秘薬』の原作者ジャック・タルディがビジュアル総監督を務めた『アヴリルと奇妙な世界』の感想評価と見どころをご紹介!
CONTENTS
映画『アヴリルと奇妙な世界』の作品情報
【日本公開】
2019年(フランス・ベルギー・カナダ合作映画)
【原題】
Avril et le monde truque/April and the Extraordinary World
【監督】
クリスチャン・デスマール、フランク・エキンジ
【声の出演】
マリオン・コティヤール、フィリップ・カトリーヌ、ジャン・ロシュフォール、マルク=アンドレ・グロンダン、オリビエ・グルメ、ブーリ・ランネール、アンヌ・コエサン
【作品概要】
1941年の、蒸気機関の時代が続く“もしも”の世界となったフランス・パリを舞台に、国家規模で行われていた秘密の発明をめぐる騒動を描くアニメーション映画。
原案・脚本ベンジャミン・ルグラン、ヴィジュアル総監督ジャック・タルディという、フランスのマンガ界の作家たちが生んだ、スチームパンク世界での冒険が繰り広げられます。
主人公アヴリルの声をアカデミー賞女優のマリオン・コティヤールが担当しており、消息不明となった家族を見つけるために奔走するヒロインを熱演しています。
本作は、まず2017年に開催の「東京アニメアワードフェスティバル2017」の長編コンペティションで日本初上映(当時の邦題は『エイプリルと奇妙な世界』)され、2019年の新宿シネマ・カリテで実施された「カリコレ2019」で一般公開されました。
アニメ映画祭の最高峰とされるアヌシー国際アニメーション映画祭で、見事グランプリに輝きました。
映画『アヴリルと奇妙な世界』のあらすじ
1870年、時のフランス皇帝ナポレオン3世は、不死の効能を持つ血清の開発を秘密裏に進めていました。
血清の開発を担っていた科学者ギュスターヴは、試作中の薬をトカゲに投与する実験を行っていましたが、その様子を見に来たナポレオンは完成を急かします。
ところがそこで起こった不慮の爆発事故で室内の人間は全員死亡、実験は闇へと葬られます。
その後、息子のナポレオン4世がプロイセンと友好条約を結び、戦争は回避されましたが、そこから世界中の科学者が失踪する事件が多発したことで、産業革命は起こることなく、世界は蒸気機関頼りのスチームパンクと化していました。
そんな1941年のパリでは、ギュスターヴの遺児で同じく科学者のポップスとその息子ポール、そしてポールの妻アネットは、密かに不死の血清づくりに進めていました。
夫妻の娘アヴリルや、実験の末に言葉を喋れるようになった猫ダーウィンが見守る中、ついに血清を完成させた3人ですが、そこへピゾーニ警部補率いる警官隊が押し入ります。
警察に追われ、家族と離ればなれとなったアヴリルは収容所に入れられるも、隙を見てダーウィンと脱走。
成長したアヴリルは、消息不明となった家族を探し続けます…。
映画『アヴリルと奇妙な世界』の感想と評価
フランスのコミック界の巨匠たちによる空前絶後な世界
本作『アヴリルと奇妙な世界』には、「バンド・デシネ(bande dessinée)」と呼ばれるフランス語圏のマンガ(グラフィックノベルとも称される)で活躍するクリエイターが揃っています。
まず、原案と脚本を担当したベンジャミン・ルグランは、氷河期に突入した近未来世界を描いた映画『スノーピアサー』(2014)の原作「Le Transperceneige」を手がけた人物。
そしてヴィジュアル総監督として参加したジャック・タルディも、ルグランとの共作「ごきぶりを殺す人々(原題)」や、令嬢冒険家が活躍する『アデル/ファラオと復活の秘薬』(2010)の原作「Les Aventures extraordinaires d’Adèle Blanc-Sec」などを発表した、バンド・デシネの大家です。
そんな両者の過去作と照らし合わせると、主人公が女性で、なおかつディストピアな世界が舞台の『アヴリル』が生まれるのも納得がいくというもの。
そびえ立つ2つのエッフェル塔が象徴するように、ユーモアと終末感が同居する“もしも”の世界となったパリ。
「『インディ・ジョーンズ』とジュール・ヴェルヌの小説を融合させた」という共同脚本のエキンジ監督の言葉どおり、想像を絶するスチームパンクな世界が展開します。
パッと見は可愛くない…でも次第に可愛く思えてくるヒロイン、アヴリル
そんなスチームパンクなパリを駆け回るのが、主人公の少女アヴリル。
おそらく、彼女のキャラデザインを初めて目にした方は、「あんまり可愛くない…」と思うかもしれません。
美少女が頻繁に出てくる日本製アニメに見慣れていると、どうしてもそうした弊害が出てしまうものですが、監督のクリスチャン・デスマールによると、アヴリルの容姿を可愛くしなかったのは意図的なものだったそう。
「『見た目が可愛い少女だから恋にも落ちる』といった、ありきたりなストーリーになることは避けたかった」と語っています。
監督の言葉どおり、アヴリルは幼くして家族と生き別れる上に、病気予防のために坊主頭にされるなど、冒頭から散々な目に遭います。
しかし、成長して喜怒哀楽を表す姿を見ていくうちに愛らしく思えてくる――つまり、容姿云々以前に、アニメでも「実際に生きている(血が通っている)」と思わせるキャラ造形をしっかり抑えているからこそ、アヴリルに感情移入でき、可愛くなっていくのです。
こうしたキャラ造形の巧さは、『アリータ:バトルエンジェル』(2019)のヒロイン、アリータにも通じるものがあります。
そんなアヴリルが情熱的に初恋に目覚める描写などは、いかにも“恋愛に生きる国”フランスならでは。
本作を観終わった頃には、アヴリルを「可愛くない」どころか、「とてもチャーミング」なヒロインと認識していることでしょう。
あふれ出る宮崎アニメへのリスペクト
本作への海外レビューの中に、以下のような文があります。
「Miyazaki Meets PIXER!」
(アメリカのニュースサイト「ザ・ヴァージ」)
「宮崎駿とピクサーの融合!」と評されているように、本作からは名高いアニメクリエイターへのリスペクトが感じられます。
特に手に取るように分かるのが宮崎駿へのリスペクトで、監督のデスマールも、「『ルパン三世/カリオストロの城』(1978)や『ハウルの動く城』(2004)から多大な影響を受けた」と公言するほど。
『魔女の宅急便』(1989)の黒猫ジジを思わせる、言葉を話す猫ダーウィンを筆頭に、蒸気機関による大気汚染で街の人々が咳き込む描写は『風の谷のナウシカ』(1984)での腐海を、さらには宮崎が手がけたテレビアニメ『未来少年コナン』(1978)っぽい兵器ガジェットまで登場したりと、とにかく細かく挙げるとキリがないぐらいです。
また、スチームパンクな世界が舞台という点では、大友克洋の『スチームボーイ』(2004)にも通じます(もっとも、大友自身がバンド・デシネの影響を受けた人物なので、発想の原点回帰をしたとも言えますが)。
まとめ
参考映像:『アヴリルと奇妙な世界』メイキング
2015年に製作されてから4年後の「カリコレ2019」で、日本でもようやく陽の目を見た『アヴリルと奇妙な世界』。
限定公開の「カリコレ2019」で観られなかったのを悔やむ方への朗報として、9月28日(土)から東京のユジク阿佐ヶ谷での公開が決定しました。
アヴリルとダーウィンのコンビに、彼女の祖父ポップスやピゾーニ警部補、そして謎の青年ジュリウスといった、「気持ちのいい連中」が織りなす冒険アニメ。
公開規模としてはまだまだ小さいながらも、評判の高さが浸透しつつある本作を、是非ともお見逃しなく!