ニューヨーク・マンハッタンの高級アパートメントに同じ男に捨てられた女が2人。奇妙な共同生活の行方は如何に!?
映画『ニューヨーク最高の訳あり物件』がシネスイッチ銀座他にて全国順次公開されています。
『ハンナ・アーレント』が日本でも大ヒットした知性派監督とニューヨーカーの脚本家が今を生きる全ての女性に贈るウィットとユーモア溢れる作品です。
映画『ニューヨーク最高の訳あり物件』の作品情報
【日本公開】
2019年公開(ドイツ映画)
【監督】
マルガレーテ・フォン・トロッタ
【キャスト】
イングリッド・ボルゾ・ベルダル、カーチャ・リーマン、ハルク・ビルギナー、ティンカ・フュルスト、フレドリック・ワーグナー
【作品概要】
『ハンナ・アーレント』(2012)などの社会派映画で知られるマルガレーテ・フォン・トロッタ監督が、初めてコメディに挑戦。ひょんなことからニューヨークに高級アパートメントで共同生活を送ることになった性格もライフスタイルも違う2人の女性が巻き起こす騒動を描く。ニューヨークを舞台にしたドイツ映画。
映画『ニューヨーク最高の訳あり物件』のあらすじとネタバレ
結婚10年目のある日、ジェイドは突然夫のニックから別れ話を聞かされショックを受けます。若いモデルと恋に落ち、既に新居で一緒に暮らし始めているというのです。
ソファーに顔をうめて一晩泣き暮れたジェイドでしたが、朝になると、びしっと服装を整え、相手のモデルが誰かつきとめると女性のところに乗り込んで行きました。
撮影中のモデルはニックと愛し合っていると言い、ジェイドにあなたは過去の人よと言い放ちます。ジェイドはこのモデルがニックの最初の妻・マリアに似ていると感じます。
そのころ、その元妻マリアはバスを降り、ニューヨークに到着したところでした。彼女がやってきたのは、ジェイドの住む高級アパートメントです。
自分が住んでいた時とまったく部屋の様子が違っているのに、マリアは驚きますが、そのまま奥へ入っていきました。
ジェイドはモデルとして活躍していましたが、40歳となった現在、モデル業だけでなく、ファッションデザイナーとしてのキャリアもスタートさせようとしていました。
しかし、夫の愛情を失ったことのショックが原因で、彼女は終始イライラして仕事どころではありません。
夜遅く家に戻ると人の気配がするので、ニックが帰ってきたと思ったジェイドは人影に駆け寄りますが、それがマリアだと知って驚きます。
マリアはニックとの契約で家の権利の半分は自分のものなのだと主張し、どっしり腰を落ち着けてしまいました。
ジェイドが仕事にでかけ、一人家に残ったマリアが冷蔵庫をのぞくと冷凍食品がぎっしり詰め込まれていました。戸棚にはダイエット食品がぎっしり。マリアはそれを全てゴミ袋に捨てると、市場に行き、新鮮な野菜をたっぷり買い込みました。
仕事から帰ってきたジェイドは、冷蔵庫を開けてびっくり。マリアのところに飛んでいき目を釣り上げて抗議します。
マリアが作った食事も拒否しますが、夜、こっそり、彼女が作ったケーキを食べてみて、あまりの美味しさに驚くのでした。
マリアが40歳の時にニックはジェイドに走り、離婚。マリアは故郷のドイツに帰り暮らしていました。ニックとの間に生まれた2人の子は既に成人し、孫も一人います。
子育てが終わり、ドイツで20世紀文学の博士号をとった彼女はニューヨークで職を探そうと、ある学校に面接に行きますが、子育てでキャリアを築けなかったことを同情され、アメリカでは女性は早くから自立を学ぶのだと嫌味を言われてしまいます。
ジェイドはデザイナーとして初のコレクションを準備していましたが、働く女性が気楽に着られる服という彼女のコンセプトを理解できる人がなかなかおらず、イライラは止まりません。
家に帰るとマリアが食事を作ってくれていましたが、ジェイドが大切に飾っていた食器が使われており、ジェイドは悲鳴を上げて「これはアートなのよ!」と叫ぶのでした。
ニックを未だ愛しつつも、もう2人の仲は元に戻ることはないと感じたジェイドはコレクションへの資金援助もあきらめ、アパートメントを売ることに決めました。
しかし、マリアは売却を断固拒否。挙げ句にドイツから娘と孫を呼び寄せます。
マリアはニックの娘(義理の娘)であるアントニアが身につけている服からインスピレーションを受け、コレクションにふさわしいデザインを仕上げ、スタッフからも絶賛されます。
さらにアントニアが植物学者で高校の教師をしており、趣味で香水を作っていると聞き、自分の名前のブランドで香水を開発しようと誘います。
アントニアは喜んでプロジェクトに参加しますが、その間、息子のパウルはマリアが預かることになり、マリアは仕事探しどころではありません。
香水は無事出来上がり、専門家からも絶賛されました。
ジェイドは「フルタイムで契約しない?次は石鹸を作りましょう」とアントニアを誘います
そんなとき、突然、マリアが家を売るのに同意します。お金のためじゃないわ、アントニアを石鹸作りから開放させるためよ、とマリア。
アントニアはジェイドに「この環境が息子にとって良いかどうかわからない」と答えました。お金と成功が全ての国で生きていたくないとも言い、自分のために勝ち気な母が鍵を差し出したのだと言って、息子を連れてドイツに帰っていきました。
「別れた父より、あなたは彼女と長く過ごした」とマリアはジェイドに言い、ジェイドは驚きます。
2人は洗練されすぎた部屋を売れやすい部屋にするべく工夫し、ごっそりと手数料を取る不動産屋には頼まず、自分たちで見学外を開きました。いつの間にか2人の間には友情のようなものが芽生えていました。
映画『ニューヨーク最高の訳あり物件』の感想と評価
監督のマルガレーテ・フォン・トロッタは、ドイツ・ニュージャーマン・シネマの騎手として知られ、長らく第一線で活躍してきた女性監督です。
ナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し”悪の凡庸さ”と表現したことから、世間からバッシングを浴びることとなったドイツ系ユダヤ人の女性哲学者ハンナ・アーレントの真っ直ぐな生き様を描いた2012年の作品『ハンナ・アーレント』は日本でも大ヒットしました。
社会派映像作家として地位を確立しているマルガレーテ・フォン・トロッタですが、今回挑戦したのは初のコメディ映画です。
40歳になって夫に捨てられた元妻と、同じく40歳で夫に別れを切り出された現在の妻が、ニューヨークの高級アパートメントで一緒に暮らす羽目になるという意表をつく物語が展開します。
性格も、ライフスタイルもファッションセンスもまったく正反対の2人のぶつかり合いが、見どころの一つとなっています。
ダイエット食品を少しかじって、モデルとしての体形を保とうとやっきなジェイドと、豊富な瑞々しい材料で、美味しい食事をこしらえ、食べる喜びを満喫するマリア。
そんな2人の趣味の違いが、共同スペースに掛けられている絵を巡る攻防として表されます。
お世辞にもセンスがいいと言えない大型の絵をマリアは撤去させ、ジェイドがもとに戻すという場面が、まだ続いているの!?と呆れるくらい何度も繰り返されて笑いを誘います。
何度も何度もしつこいくらいに同じことを繰り返すのはまさにコメディ映画の王道そのもの。
ジェイドを演じるイングリッド・ボルゾ・ベルダルのやや大げさな演技は、マリアを演じるカーチャ・リーマンの一見余裕綽々にみえる佇まいと対称的で、コメディエンヌ的な良い味を出しています。
そんな中、次第に作品には女性の生き方への様々なメッセージが含まれていることが見えてきます。
子育てのためにキャリアに空白がある女性が就職を断られるシーンでは、Netflixのドラマ『オザークへようこそ』の一場面を思い出してしまいました。
オバマの大統領選挙でのボランティア経験をもとに選挙のボランティアの面接を受けた主人公の妻は、オバマの時代はもう古くあなたの経験は今の選挙にいかせないと採用されません。
『ニューヨーク最高の訳あり物件』でも同様に仕事をしたくてもできない厳しい現状や、仕事と子育ての問題がクローズアップされています。
さらに、女性が年をとることについても触れられています。何しろ、このニックという夫は、どちらの女性も40歳で捨てて、若い女に走っているのです。まるで40歳を過ぎたら女ではないとでもいうかのようです。
社会派として知られるマルガレーテ・ファン・トロッタは、そんな現状を憂い、問題提起しながら、40歳を過ぎた女性たちの逞しさを眩しいくらいに生き生きと描き出します。
時に反発を招きながらも、また、これがアメリカニズムだという皮肉や批判を背負いつつも、ジェイドが仕事に打ち込む姿は、観ている者をワクワクさせるエネルギーに満ちています。
自分のキャリアをいかすために、有名書店に貼り紙をして、しっかり生徒を集めたり、やっかいな排水管の故障を自分で直してしまうマリアの姿も素敵です。
結末も爽やかで、今を生きる女性たちにエールを送る、見どころたっぷりの作品になっています。
まとめ
ジェイドを演じたイングリッド・ボルゾ・ベルダルは、1980年ノルウェー生まれ。舞台で女優デビューした後、『コールドプレイ』(2006/ローアル・ユートハウグ)で映画デビューを果たしました。
アクションアドベンチャー大作『ヘラクレス』(2014/ブレット・ラトナー)やSFドラマ『ウエストワールド』などに出演。本作ではこれまでとがらっと違った役に挑戦しました。今後はもっとコメディに出演していきたいと述べていて、活躍が期待されます。
一方、マリアを演じたカッチャ・リーマンはドイツを代表する女優の一人として知られています。フォン・トロッタ監督作品には何度も参加していますが、今回はフォン・トラッタ監督のこれまでにない作品で、軽妙な魅力を発揮しています。
映画の中で、夫ニックの新しい恋人のモデルがマリアに似ているとジェイドが感じるシーンがありますが、モデルに扮したパウラ・ロミーは、実際に、カッチャ・リーマンの娘なのだそうです。
舞台となるアパートメントはニューヨークのマンハッタンでもイーストビレッジと呼ばれる一角にあります。マリアが訪れる本屋もイーストビレッジ周辺にある有名な“ストランド・ブックストア”です。
チェルシーやソーホーなど、ロウアー・マンハッタンとミッドタウンの間に位置する魅力的な町並みをたっぷり楽しむことが出来ます。