『田園の守り人たち』は2019年7月6日(土)より、岩波ホールにて公開!
ミレーの絵画を思わせる美しい田園風景の中、寡黙に働く女たちが描かれます。
それは男たちを戦場にとられた後、代わって女たちが銃後として必死に農園を守る姿でした。
戦争の不条理と時代のうねりに翻弄される女たちの生きる姿。そして、その胸中に渦巻く思いを描いた珠玉の作品『田園の守り人たち』をご紹介いたします。
CONTENTS
映画『田園の守り人たち』
【公開】
2019年7月6日(土)(フランス・スイス合作映画)
【原題】
Les gardiennes
【監督・脚本】
グザヴィエ・ボーヴォワ
【出演】
ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリー
【作品概要】
第一次大戦下のフランスの農村を舞台に、そこで逞しく生きる女たちの姿を通して、美しい田園風景と時代の変遷を描いた作品。
監督は『神々と男たち』で、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したグザヴィエ・ボーヴォワ。
映画に登場する美しい田園風景は、ジャン=リュック・ゴダールにレオス・カラックス、河瀬直美や諏訪敦彦とも組んだ撮影の名手、キャロリーヌ・シャンプティエの手によるものです。
そしてこの映画に音楽を提供したのが、2019年に惜しまれつつ世を去ったミシェル・ルグラン。その旋律が美しい映像を彩ります。
映画『田園の守り人たち』のあらすじ
1915年、第一次大戦下のフランス。2人の息子を西部戦線の戦場に送り出した未亡人オルタンス(ナタリー・バイ)と、その娘でやはり夫を戦場にとられたソランジュ(ローラ・スメット)。
働き手を奪われた母娘は女手だけで、昔ながらのやり方で残された農園を守っていました。冬を前に種まきに備えなければならず、2人は息子や夫に代わる働き手を必要としていました。
そこでオルタンスは、新たな働き手として孤児院出身の娘フランシーヌ(イリス・ブリー)を雇い入れます。誠実に働く彼女は皆の信頼を得て、家族のように暮らし始めます。
前線から一時休暇で農園に帰って来る2人の息子と、ソランジュの夫。オルタンスの次男・ジョルジュは美しいフランシーヌに魅かれ、2人は手紙を交わすようになります。
季節の移り変わりと共に田園は美しく姿を変え、激動する時代が昔ながらの農村の暮らしにも、様々な影響を与えます。そして田園を守る女たちも同様に、様々な経験を重ねていきます…。
映画『田園の守り人たち』の感想と評価
戦争を背景に移りゆく人々の暮らし
人類が初めて経験する、国家の総力戦であった第一次世界大戦。フランスではグランドール(大戦争)と呼ばれています。映画はこの歴史上の大事件を背景に、女たちが守る農村の移りゆく姿を描いています。
男たちを戦場に奪われただけではありません。農村に暮らす人々が、共に力を合わせ大地を耕す昔ながらの営みも、人手不足による新たな働き手の流入や、戦争と同様に機械化の波が押し寄せてきます。
1917年、アメリカが参戦し連合国へと加わりますが、戦闘経験のないアメリカ軍はフランスに駐留すると、長い期間を前線の後方で訓練に励む事になります。
農作業への機械の導入と、新大陸からやってきた若いアメリカ兵たちとの交流が、フランスの伝統的な農村の風景と価値観を、否応なく変えていく様相を映画は描いています。
歴史のうねりの中に身を置いた人々の、様々な視点と行動を丹念に描く事で、映画はグランドールを経て大きく変わった、フランスの姿を描いています。
男たちが戦場にいる間、様々な変化を経験した農村ですが、戦争が終わり彼らが戻ってくると、どの様な姿になるのでしょうか。
時代に翻弄される人々の姿を淡々と描写することで、歴史の中に生きた人々の日常の姿を描いた作品です。
キャロリーヌ・シャンプティエによる美しき田園風景
この映画の一番の魅力は、美しい映像で描かれたフランスの農村の風景です。
まだ機械化が進んでおらず、人と家畜が共に働く昔ながらのやり方で大地を耕し、その恵みを収穫し、得られた産物を自らの手で加工する、牧歌的な風景が美しく描かれています。
それは同時に、多くの労力を要する作業を意味しますが、かつて農村に存在した、自然と共に暮らす人々の姿を見事に再現しています。
この映像を生み出したのがキャロリーヌ・シャンプティエ。グザヴィエ・ボーヴォワ監督のほぼ全ての作品の映像を担当しており、『神々と男たち』ではセザール賞最優秀撮影賞を獲得しました。
『田園の守り人たち』で描かれる農村の風景は、監督自らがロケハンを行い、農村に建つ家を数多く見て回った上で選びだされたものです。その四季折々の姿を、キャロリーヌ・シャンプティエがシネスコ画面に捉えています。
その風景画の様な映像は、自然の風景を際立たせる為に、多くのシーンでBGMを排したスタイルと相まって、時にフランソワ・トリュフォーや、エリック・ロメールの作品を思わせます。
また傾く太陽や様々な色合いの雲を背景にした映像は、映画にフランスの風景画を思わせる、絵画的な美しさを与えました。
本作の優れた撮影技術は、セザール賞・リュミエール賞の両賞にノミネートされています。
ミシェル・ルグランの音楽と戦争の描き方
自然の音だけが流れ、静かに流れる時間が映画の大半を占める中で、ここぞという場面に巨匠・ミシェル・ルグランの手掛けた美しい旋律が流れます。
極めて印象的に使われる音楽ですが、グザヴィエ・ボーヴォワ監督がミシェル・ルグランの楽曲を使用するのは、『チャップリンからの贈り物』に続いて2作目です。
監督はミシェル・ルグランの代表作である『シェルブールの雨傘』を、直接戦争に関わらない人々及ぶ戦争の影響を描いた、一つの戦争映画であると語っています。
『田園の守り人たち』も『シェルブールの雨傘』と同様、直接戦争を描くこと無く、それが同時代を生きる多くの人々に様々な影響を与えてゆく様相を描いています。
まとめ
伝統的な姿を残すフランスの田園風景を、余すところなく描いた映画『田園の守り人たち』。
その美しい映像はこの映画の見所ですが、同時に戦争と時代の流れに呑まれゆく人々の姿を描く、優れた歴史絵巻でもあります。
劇中で母娘を演じた名優ナタリー・バイと、『ブルゴーニュで会いましょう』に出演しているローラ・スメットは実の親子で、息のあった演技を見せています。
重要な役であるフランシーヌを演じたのは、女優の経験は皆無ながら、オーディションで選ばれたイリス・ブリー。ベテラン俳優を相手に引けをとらない演技を見せ、セザール賞・リュミエール賞の、有望新人女優賞にノミネートされました。
他にも映画では、ナタリー・バイの兄役の人物など重要な役を含め、当時の農村に暮らす人々の雰囲気を伝える容貌を持った、多くの人々を探し出してカメラの前で演じさせています。
この様な努力を経て描かれた、第一次大戦下のフランスの田園風景を、当時の歴史に思いを馳せながらご覧ください。