俳優、水谷豊が『TAP THE LAST SHOW』に続き、監督を務めたサスペンス映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』。
轢き逃げ事件を軸に、人間の内面を描いた本作をご紹介します。
映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』の作品情報
【公開】
2019年5月10日(日本映画)
【監督・脚本】
水谷豊
【製作総指揮】
早河洋
【キャスト】
中山麻聖、石田法嗣、小林涼子、毎熊克哉、水谷豊、檀ふみ、岸部一徳
【作品概要】
結婚式を控えた秀一が、親友と起こしたひき逃げ事件を、加害者と被害者、それぞれの視点で描くサスペンス。
主演は、オーディションで選ばれた中山麻聖と石田法嗣、脇を檀ふみ、岸部一徳などの実力派が固めています。
映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』あらすじとネタバレ
結婚式の打ち合わせに向かう為、車を走らせる宗方秀一。
助手席に乗っている親友の森田輝が遅れて来た為、約束の時間から大幅に遅れていました。
焦った秀一は、小道に入り近道をする事にします。
猛スピードで車を走らせる秀一。
ですが、喫茶店「スマイル」の前の小道に出た瞬間、路上に立っていた女性を轢いてしまいます。
路上に倒れ、動かなくなった女性。
秀一は「人生が終わった」と絶望しますが、輝は周囲に目撃者がいない事を確認し、逃げる事を提案します。
秀一は戸惑いますが「ここで終わりにしてはいけない」という、輝の説得に心が動かされ、倒れた女性を放置し、その場から立ち去ります。
結婚式の打ち合わせを終えた秀一、帰宅してテレビを点けると、自身が起こした轢き逃げ事件に関するニュースが流れていました。
放置した女性は死亡、警察の捜査が開始された事を知った秀一は、現実から逃げるようにお酒を飲み続けます。
翌日、秀一は出社しますが、轢き逃げ事件が気になり集中できません。
そんな中、副社長の娘である早苗と結婚する秀一を、周囲は冷やかし、上司は厳しい態度を取ります。
会社に居心地の悪さを感じた秀一は、輝と外で時間を潰し帰宅しました。
次の日は土曜日、日曜日の結婚式の事だけに集中しようとした秀一ですが、差出人不明の封筒が届きます。
封筒には、さまざまな動物の目の写真が貼り付けられた、不気味な紙が入っていました。
同様の紙を受け取った輝が、秀一の部屋を訪ねてきます。
秀一は、不安な気持ちを打ち消すように、独身最後の土曜日を輝と過ごし、思いっきり遊ぶのでした。
そして、秀一と早苗の結婚式当日。
司会を務める輝は、差出人不明の不気味な電報を読み上げます。
電報の内容は「最高の最悪な日にならなければいいですね」という内容でした。
結婚式を終え、早苗と共に休暇を満喫する秀一。
ですが、前田と柳、2人の刑事が秀一を尾行していました。
映画『轢き逃げ 最高の最悪な日』感想と評価
『TAP -THE LAST SHOW-』で監督デビューを果たした、水谷豊が2本目に制作した作品は、轢き逃げという重いテーマの作品です。
本作の特徴として、轢き逃げ事件の加害者視点と、娘を失った被害者視点の、2つの構成で話が展開する点です。
轢き逃げの加害者である秀一は、結婚を前に事件を起こしてしまい、罪の意識に悩みながらも、隠蔽する事を決断します。
そして、轢き逃げにより、娘の望を失った光央は、望が戻って来ないという現実を受け入れながらも、真相を解明する為に動き出します。
本作は、加害者と被害者の心情を描く事で、人間の持つ複雑な心情を表現しているのです。
それは、本作のテーマが「嫉妬」である事からも分かります。
本作のラストでも語られていますが、人間の抱く嫉妬心というのは、ネガティブな感情であると同時に、何かを成し遂げる為の活力にもなります。
この矛盾した感情とも言える「嫉妬」で、狂ってしまったのが輝です。
輝は大学時代から、親友であり憧れでもあった秀一の、困った顔を見たいが為に、彼にとっては悪戯を仕掛けます。
ですが、その悪戯が轢き逃げ事件に繋がってしまいます。
ラストに輝は語ります「秀一の事は嫌いではないし、陥れるつもりもなかった、秀一がいなくなると自分は1人になる」と、ですが、全てを完璧にこなす秀一の、困った顔は見たかった。
この滅茶苦茶とも思える輝の自供ですが、実は少しだけ理解できる部分があり、恐怖を感じてしまいました。
「嫉妬」というのは、誰にでもある感情です。
ですが、普通の人は何故、輝のように嫉妬に狂わず、感情をコントロールできるのでしょうか?
今作は、水谷豊がプロデューサーから「水谷さんの作るサスペンスが見たい」という言葉から始まった企画です。
ですが、サスペンスといっても、犯人探しや謎を追いかける内容ではなく、人間の内面を描き「何故、まともでいられるのか?」という人間の持つ不思議な部分を描いています。
「社会も時代も人間が作る、だから人間が1番面白い」と考える、水谷豊ならではの目線ではないでしょうか?
水谷豊は「60代の内に、3本は映画を作りたい」と公言しており、次回作はどんなジャンルで、人間のどの部分を描くのか?
楽しみですね。
まとめ
水谷豊と言えば、近年では『相棒』の杉下右京を連想する方も多いのではないでしょうか?
杉下右京は、事件に自ら介入し、犯人に対して「どんな理由であれ、罪を犯す事は許されない」と断罪します。
杉下右京を長く演じてきた水谷豊が、轢き逃げ事件の犯罪者側を主役にし「犯罪者側にも理由があるし、大事な人だっている」というメッセージの映画を制作したのは、興味深い部分でもあります。
必ずしも勧善懲悪では語れない、人間という存在についての、水谷豊から杉下右京へのメッセージのようにも感じる作品です。