誰にでもある大切な日「誕生日」。
それは、自分の世界がほんの少し広がる日なのかもしれません。
劇場版アニメ『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』にて、世界中の大人を泣かせた原恵一監督の、自ら自信作と語る作品『バースデー・ワンダーランド』を紹介します。
原作は、柏葉幸子の名作児童文学「地下室からのふしぎな旅」。児童文学の世界を、原監督が大胆に料理し、大人も楽しめる感動の冒険ファンタジーアニメに仕上げました。
「できっこない」が口癖の少女アカネが、冒険を通して成長していく物語。少しの勇気が自分の世界を大きく広げます。
映画『バースデー・ワンダーランド』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【原作】
柏葉幸子「地下室からのふしぎな旅」
【監督】
原恵一
【キャスト(声の出演)】
松岡茉優、杏、麻生久美子、東山奈央、藤原啓治、矢島晶子、市村正親
【作品概要】
柏葉幸子の名作児童文学「地下室からのふしぎな旅」を原作に、『百日紅Miss HOKUSAI』『河童のクゥ』の原恵一監督が映像化したアニメーション映画です。
キャラクターデザインを担当したのは、ロシア出身の新進気鋭のイラストレーター、イリヤ・クブシノブ。可愛らしいキャラが続々と登場します。
主人公アカネの声は、『勝手にふるえてろ』『万引き家族』と話題作への出演が続く松岡茉優。少女だけど大人っぽいアカネの容姿にぴったりの声です。
映画『バースデー・ワンダーランド』のあらすじとネタバレ
良く晴れたの朝、庭には花が咲き誇り蝶や虫たちが楽しそうに飛び交っています。
その様子を部屋の窓からポケーッと見ている、パジャマ姿の少女がいました。12歳のアカネです。「バカみたいにいい天気で泣けてくる」。
明日はアカネの誕生日です。
母のミドリが、アカネを起こしにやってきます。アカネはベッドに潜り込み、具合が悪いと嘘を付きました。
友達からのLINEにもうんざり。学校では仲間外れにならないように無理に皆に合わせ、自分の思ったことも言えない。そんな自分にもうんざり。
アカネは、常に自分に自信がなく、できっこないが口癖になっていました。
ズル休みを分かっていたかのように、いつも通り接する母のミドリ。ミドリは庭のブランコに乗りながら気持ちよさそうに風に吹かれています。
「明日、アカネの誕生日でしょ。チィちゃんの所にプレゼントを頼んであるの。行ってきて」。ミドリに頼まれアカネは「ヤダヤダ」と首を横に振ります。
チィちゃんとは、アカネの叔母で自由人。「ちゅうとはんぱ屋」という世界中から集められた骨董品のお店を経営しています。アカネは、魔女のチィちゃんと密かに呼んでいました。
結局は押しに弱いアカネ。ミドリに見送られ、チィちゃんの所へ向かいます。アカネを見つけたチィちゃんは、思いっきりハグで歓迎してくれました。
アカネは、チィちゃんのことが苦手でしたが、チィちゃんの店は大好きでした。色とりどりのランプ、キラキラ輝くアクセサリー、謎の置物、世界中の骨董品が所狭しと置いてあります。
その中で、手形の押された石板が目に付きます。何気なくその手形に手を合わせるアカネ。ぴったりです。
しかし、離そうとすると、石板から手が離れなくなっていました。慌てるアカネ。チィちゃんに助けを求めるも拉致があきません。
その時です。「トントン」。どこからかドアをノックする音が聞こえます。どうやら、それは地下室から聞こえてくるようです。
地下室の扉から現れたのは、黒のスーツにシルクハット、カイゼル髭姿の紳士でした。彼の名は、ヒポクラテス。向こうの世界の大錬金術師です。
同時に、手形の石板の側にいた小人がしゃべり出しました。彼は、ヒポクラテスの弟子・ピポと名乗りました。
ヒポクラテスは、地下室で繋がっている向こうの世界からやって来たと言います。そして、向こうの世界を救うため一緒に来て欲しいとアカネを誘います。
事の次第が信じられず、自分には無理とアカネは拒否します。アカネとは反対にチィちゃんは、すんなり向こうの世界を信じたようです。むしろ私じゃダメですかと行く気満々。
「できっこない」後ろ向きなアカネに、ヒポクラテスは碇の形のネックレスを授けます。
そのネックレスはヒポクラテス作「前のめりの碇」。気持ちが後ろ向きになると前に重く傾き、前のめりに導きます。
前のめりの碇で半ば強制的に連れ去られるアカネ。チィちゃんも後を追います。
時空を操るクモの道を通り、たどり着いた先は塔のてっぺん、ピンクの大鳥の巣でした。カラフルな卵を守る親鳥が、驚き襲ってきます。
そこに突進してくる瓦礫の戦車、「鎧ねずみ」です。鎧ねずみは前を走る車を狙っているようです。車を倒し鉄を回収します。
そのままアカネ達のいる塔へと近づき、階段の鉄をもぎ取ってしまいました。
ヒポクラテスは、「羊じゃらし」を鳴らします。すると、どこからともなく羊の大群が現れました。
もふもふの毛でまん丸の羊たちに囲まれた鎧ねずみは、手も足も出ず退散していきます。
アカネの暮らす世界と繋がる向こうの世界。そこは、澄み渡る青空、広がる草原、そして真っ赤なお花畑が美しい、色に溢れた世界「幸せ色のワンダーランド」でした。
アカネはヒポクラテスから、ここに連れてこられた理由を聞きます。
ワンダーランドでは色が失われる危機に瀕していました。命の源の水が沸く「時なし雨の井戸」の異変が原因です。
この世界の王は雨を司る一族で、代々「時なし雨の井戸」を守ってきました。
しかし、王と王妃がいっぺんに亡くなり、現在は幼い王子だけが取り残されていました。悲しみで王子は弱り、井戸も枯れていきました。
そして、この「時なし雨の井戸」の異変は、600年前にも起きていたのです。その時この世界を救ったのは、「緑の風の女神」と呼ばれたひとりの少女でした。
今回も緑の風の女神、すなわちアカネがこの世界を救ってくれると皆が期待していました。
「できっこない」。アカネは相変わらず後ろ向きです。しかし、「前のめりの碇」が無理やりアカネを前に引っ張ります。
アカネとチィちゃん、ヒポクラテスとピポは一緒に王子の元へと向かいます。
一方その頃、ニビの町の鍛冶工房に「鎧ねずみ」に乗ったゴロツキ、ザン・グとドロポの姿がありました。
ザン・グとドロポは鉄くずを集め溶かし、大砲を作らせていました。何が目的なのでしょうか。
映画『バースデー・ワンダーランド』の感想と評価
児童文学「地下鉄からのふしぎな旅」の映像化ということで、教科書的な絵を想像してしまいますが、『バースデー・ワンダーランド』のビジュアルは、今どきでポップです。
キャラクターデザインを担当したのは、ロシア出身の新進気鋭のイラストレーター、イリヤ・クブシノブ。
主人公のアカネを始め、チィちゃんや母のミドリと女性の美しさに惹かれます。力強い眼差し、クルクル変わる表情が魅力的です。
また、小人のピポやドロポ、もこもこの羊、関所の猫たちと個性豊かなキャラが続々と登場します。
それぞれのキャラは服装や仕草がいちいち可愛らしく、胸キュンすること間違いなしです。
ワンダーランドの世界は色であふれている美しい世界です。それは、観る者が忘れていたもうひとつの世界なのかもしれません。
人工的なものが増える世界で、自然本来の色を忘れがちになっています。ワンダーランドには忘れていた幸せの色がありました。
主人公のアカネは、「できっこない」が口癖の消極的な女の子でした。錬金術師により「前のめりの碇」をかけられたことで、気持ちが前向きに変わっていきます。
元の世界に帰る時、アカネはヒポクラテスに「前のめりの碇」を取ってと言います。しかし、「前のめりの碇」はすでに消えていました。アカネは自分の力で前向きな決断をしていたのです。気は持ちようです。
少しの勇気と、相手を救いたいと思う心の優しさが、世界を救う大きな力となりました。
まとめ
名作児童文学「地下室からのふしぎな旅」を、劇場版アニメ『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』にて、世界中の大人を泣かせた原恵一監督が映像化したアニメーション映画『バースデー・ワンダーランド』を紹介しました。
主人公アカネの声に松岡茉優。アカネと一緒に旅をするチィちゃん役に杏、アカネの母ミドリ役に麻生久美子と、魅力的な女性陣が声を担当しています。
それぞれの可愛らしいアニメのビジュアルに、ぴったりハマった声に聞き惚れて下さい。
また、ワンダーランドの大錬金術師ヒポクラテスの声を市村正親が担当しています。凄い人物なのにどこかお茶目で愛らしい姿が、本人とリンクしキャラの魅力を引き立てています。
誕生日の前日に母から贈られたプレゼント。自分に自信の持てない後ろ向きな女の子が、冒険を通して成長し、自分の世界を広げていきます。
少しの勇気で、世界が広がっていく感覚。いくつになっても忘れてはいけない感覚なのではないでしょうか。
あなたの家の地下からも繋がっているかもしれません。幸せ色の国・ワンダーランドへ。