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映画『君の名は。』から新海誠の「セカイ」を輪郭を読む|新海誠から考える令和の想像力1

  • Writer :
  • 森田悠介

連載コラム「新海誠から考える令和の想像力」第2回

序章では「セカイ系」の定義(特徴)をひとまず「ひとり語りが激しい=自意識」という点と「きみとぼくの関係が世界の危機に直結する」という点に求めました。

しかし、これは評論家などの他者からみた“セカイ”であり、数多くの「セカイ系」作品を手がけてきた新海誠監督自身がどのようにそれをとらえているのか、すなわちどんな文脈で《世界》という言葉を用いているのかを確認する必要があります。

そのため、今回は新海監督自身の“セカイ”観を探ります。

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映画『君の名は。』における新海誠監督の“セカイ”観


(C)2016「君の名は。」製作委員会

興行収入250億円超えるという歴史的な大ヒットを記録した前作『君の名は。』(2016)。

ここでは新海監督の言葉を取り上げながら、『君の名は』時点での新海監督の“セカイ”観を読み取ってゆきます。

映画『君の名は。』のあらすじ

1000年ぶりという彗星の接近を1ヶ月後に控えた日本で、山深い田舎町で暮らす女子高生の三葉(上白石萌音)と、大都会の東京に住まう男子高生の瀧(神木隆之介)が、互いの夢のなかで心身が入れ替わる現象が起きます。

最初は戸惑いながらも、メッセージ代わりのメモを携帯電話や体に残すコミカルな交流をしていくうちに、互いに打ち解けていく2人。

夢の記憶を頼りに三葉に会いに行こうとする瀧でしたが、やがてそれぞれの生きる時空が異なっていることに気づきます。

三葉は3年前の時間にいて、“現在”を生きる瀧の時間軸では、そこは彗星が衝突して消滅した地域となっていました。

その事実を知った瀧は、三葉の身体でやがて起こる災害を告げてまわり、一刻も早く住民を避難させようと必死に説得をします。

結果として、生き残る分岐に進んだ三葉は、数年後に東京の街の一角で瀧と“再会”を果たし、相手の名前を尋ねて涙を流しました。

監督インタビューから見えてくる“セカイ”観


KADOKAWA/2016

『新海 誠Walker』のインタビューから、新海監督が「世界」と発言している箇所を抜粋していきます。

新海監督は「『君の名は。』は僕にとって、今までの40年ちょっとの人生すべてをぶつけたような渾身の一作です(P17より)」と言い、さらに「5年違ったらこの作品はできなかっただろうし、僕が5歳若かったら、無理だったでしょうし(P22より)」と述べたうえで、本作をこのように位置づけています。

新海:今でなければ作れなかった作品ですし、2010年代の日本で生きていなければ、僕はこういう作品を作れなかったと思います。なんだか大げさな言い方ですけど、この映画を多くの方に見てもらうことで、ちょっとでも世界がいい方向に進んでいく助けになればいいな、と思います。(P19より)

当時の「5年前」は2011年。東日本大震災が日本を襲った年です。そのため、『君の名は。』劇中で描かれる「彗星の衝突」は「震災の被害」と重ねられることが多々あります。

ただ、本作における「彗星の衝突」という現象の意味をそれだけに絞ってしまうのは、新海作品全体を見渡すには不十分です。

新海:『君の名は。』に出てくる彗星もそうですけど、自分のコントロールを外れた巨大なものが人生に影響を与えることが僕の抱えている世界観でもあるし、ほかの人も抱えているような気がするんです。(P83より)

上記の監督の発言から分かるように、つまり、『君の名は。』における新海監督にとっての“セカイ”観とは、「自分ではコントロールのできない情況」そのものなのです。

そして、監督は「その不条理な環境下における個人のドラマ」をいつも意識している、ということです。

そのドラマは、往々にして「すれ違い」を描きます。新海監督も「僕は『いかにして引き裂くか』に興味があるので(笑)(P84より)」と自身で言っています。

この種のドラマ性はもちろん『君の名は。』を貫いていますし、公開が待たれる新作『天気の子』の「天気」も「コントロールを外れた巨大なもの」の代表格であるのは言うまでもありません。

それを補足すべく、今度は別の角度から、本作と最新作『天気の子』の音楽を担当した人気ロックバンド「RADWIMPS」との関係から、新海監督の“セカイ”を見てみましょう。

新海監督とRADWIMPSが作り出した“セカイ”観


(C)2016「君の名は。」製作委員会

新海監督はつづくRADWIMPSのメンバーとの対談で、彼らのことを「僕たちが普段暮らしていてもわからない、宇宙的な秘密みたいなものを知っている人たち、自分たちが宇宙とつながっていて、そこから流れてくる特別な情報を歌にしている人たちっていう感覚があって(P21より)」と表現しています。

宇宙、秘密、特別な感覚……いずれも初の劇場公開作『ほしのこえ』(2002)から頻繁に登場するモチーフです。

『君の名は。』に関しては、RADWIMPSが全編にわたって音楽を担当していることからもうかがえるように、より密接な結びつきを感じて制作に臨んでいます。

新海:例えば「スパークル」の“うつくしくもがくよ”っていうひと言であったり。「あ、僕はこういう映画を今回作りたかったんだ」と言うのを、改めて気付かせてくれたんです。(P21より)

コントロールを外れたところで、うつくしく、もがく。

新海作品の“セカイ”観が、より具体的にみえてきました。その像をより克明に結んでくれるのが、監督の以下の発言です。

新海:たとえば「トレモロ」の、「悲しみが悲しみで終わらぬよう、せめて地球は回ってみせた」という歌詞。人間の感情という小さなものと、宇宙という極大なものがつながっていく音楽です。「こんな音を奏でられる映画を作りたい」っていつからか思っていたんでしょうね。(P22より)

「人間の感情という小さなものと、宇宙という極大なものがつながっていく音楽=映画を作りたい」。

最終的には、「中間項を挟まない」という、他人が与えた“セカイ”系の定義に近づいてきました。これは今後、新海誠を“セカイ”系の文脈で語ることを許容するものとして受け止められます。

次回の『新海誠から考える令和の想像力』は…

次回、第1章・第2節にあたる『新海誠から考える令和の想像力』では、監督本人が「いつからか思っていたんでしょうね」と振りかえるように、新海監督から“セカイ”を論じるための足場を固めるため、『君の名は。』以前の監督の過去作をたどっていきます。

【連載コラム】『新海誠から考える令和の想像力──セカイからレイワへ──』記事一覧はこちら


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