2019年4月5日より公開の映画『希望の灯り』
旧東ドイツにある巨大なスーパーマーケットを舞台に、そこで働く従業員たちの悲哀に満ちた日常と微かな希望を描いた映画『希望の灯り』。
悲しみという苦痛に喘ぎながらも、それでも生きていく人々の姿に励まされるヒューマンドラマです。
映画『希望の灯り』をご紹介します。
映画『希望の灯り』の作品情報
【日本公開】
2019年(ドイツ映画)
【原題】
In den Gängen
【原作】
クレメンス・マイヤー
【監督】
トーマス・ステューバー
【脚本】
クレメンス・マイヤー、トーマス・ステューバー
【キャスト】
フランツ・ロゴフスキ、ザンドラ・ヒュラー、ペーター・クルト、アンドレアス・レオポルト、ミヒャエル・シュペヒト、ラモナ・クンツェ=リブノウ、ヘニング・ペカー、マティアス・ブレンナー、クレメンス・マイヤー
【作品概要】
旧東ドイツ出身である作家クレメンス・マイヤーが書いた短編小説『通路にて』を、同じく旧東ドイツ出身であるトーマス・ステューバーが映画化。
旧東ドイツにある巨大スーパーを舞台に、そこで働く人々のささやかな日常を描いたヒューマンドラマ映画です。
監督には、中編映画『犬と馬のこと』初長編映画『ヘビー級の恋』に続き、クレメンス・マイヤーとの映画制作は本作で3度目となるトーマス・ステューバー。
脚本には、『おれたちが夢見た頃』『夜と灯りと』などで知られ、多くの文学賞を獲得してきた作家であるクレメンス・マイヤーです。
口下手な主人公クリスティアンを演じたのは、『未来を乗り換えた男』で主演を務め、本作ではその名演によって2018年ドイツ映画賞・主演男優賞を受賞したフランツ・ロゴフスキ。
そして主人公が恋する女性マリアンを演じたのは、『さよなら、トニ・エルドマン』で知られる女優のザンドラ・ヒュラーです。
本作は、第68回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に正式出品されました。
映画『希望の灯り』のあらすじとネタバレ
体のあちこちにタトゥーを入れている口下手な青年クリスティアン。
彼は旧東ドイツのライプツィヒ近郊、周囲には広大な畑地とアウトバーンがある巨大なスーパーマーケットで在庫管理係として働き始めます。
倉庫内における飲料セクションの管理責任者である中年男ブルーノに、仕事のやり方やフォークリフトの乗り方など様々なことを教わりながら、クリスティアンは新たな仕事環境、そして風変わりで、けれど心優しい従業員の人々へと慣れてゆきます。
やがて、彼は飲料セクションと棚越しで隣接するお菓子セクションで働いている、年上の女性マリオンに恋をします。
コーヒーマシーンが置いてある店内の休憩所で、二人はしばしば会うようになり親しくなりますが、異なるセクション、異なる勤務時間のせいでどうしてもすれ違いがちでした。
ある日、クリスティアンはベテラン従業員である中年女性イリーナから、マリオンが既婚者であること、彼女を傷付けないでほしいことを忠告されます。
落ち込むクリスティアンを、同じくその恋心を察していたブルーノは励まします。
ある日の休憩中、クリスティアンはブルーノから、東ドイツ時代のスーパーについて聞かされます。
現在クリスティアンたちが働いているスーパーの建物は、かつて国営のトラック運送会社が経営されていました。
ブルーノをはじめ、店長のルディ、従業員のユルゲンとクラウスは元々その会社でトラック運転手として働いていましたが、ドイツ統一によって会社はなくなってしまい、その後開店したスーパーにそのまま従業員として働き始めたのです。
やがて、クリスマスの季節がやって来ます。クリスマス・イブの営業後、スーパーでは従業員だけのクリスマスパーティーが開かれました。
クリスティアンはマリオンに、スーパーに来る前にやっていた仕事について語ります。
クリスマスの後、二人は勤務時間が変わったことで以前よりも会えなくなり、久しぶりに会っても、マリオンはクリスティアンを突き放します。
そこには、かつてあれ程親しく接してくれていた彼女の面影はありませんでした。そして間もなく、マリオンは仕事に来なくなりました。
映画『希望の灯り』の感想と評価
人間は多くの、それも複雑な感情を持ち合わせています。その中でも、人間が生涯で最も抱くこの多い感情こそが「悲しみ」なのではないでしょうか。
その理由は、「生きる」という行為そのものが、すなわち「何かを失う」という現象に通じているためです。
本作の背景として描かれているドイツ統一によって、それまで東西に隔てられていたドイツの人々は再会することができました。
しかしその一方で、東ドイツという時代、ブルーノにとっての「楽しい時代」は失われました。
そしてブルーノやベテラン従業員たちのように、その喪失によって心が傷付けられてしまった人々が存在するのです。
主人公クリスティアンやマリオンもまた、何かを失ってしまった過去を引きずりながらも現在を生きています。
本作に登場する人々は悲しみを知っているからこそ、他者に対しても優しく、けれども立ち入り過ぎないように接します。
その接し方は、マリオンに立ち入り過ぎてしまったクリスティアンのように、ある意味では正しく、誰にも何も伝えることなく自殺してしまったブルーノのように、ある意味では誤ったものであることを、本作は物語を通して提示しています。
喪失した過去と、喪失への悲哀。そして自己の悲哀、他者の悲哀とどう接してゆくのか。
人間にとって余りにも普遍的なテーマを、映画『希望の灯り』は優しく、丁寧に描いているのです。
まとめ
映画『希望の灯り』には、否定しようがない程に、あらゆる悲しみに満ちています。
しかしながら、その悲しみに苛まれながらも、主人公をはじめとする登場人物たちはスーパーでの仕事を通して、悲しみに耐え忍びます。
そして、遺されたものと小さな幸福に励まされながら、懸命に生き続けるのです。
人生における喪失の悲哀と共に生き続ける人々の姿を真摯に描いた映画『希望の灯り』を、ぜひご鑑賞ください。