連載コラム「最強アメコミ番付評」第30回戦
こんにちは、野洲川亮です。
今回は4月19日に公開される『シャザム!』の作品情報を解説していきます。
DCEUに登場した異色のスーパーヒーローの歴史と、DCEUの路線変更、本国アメリカでの絶賛評などを紹介します。
『シャザム!』のあらすじと作品情報
スーパーマンやバットマンを映画化してきたDCコミックの映画シリーズ、DCEUの第7作。
少年ビリー(アッシャー・エンジェル)は、ある日出会った謎の魔術師から力を授かり、見た目は大人、中身は子どものスーパーヒーロー「シャザム」(ザッカリー・リーヴァイ)となります。
友人フレディ(ジャック・ディラン・グレイザー)と共に、手にした力を試して遊んでいたビリーでしたが、ビリーの力を狙う科学者Dr.シヴァナ(マーク・ストロング)が現れ、フレディを連れ去ってしまいます。
シャザムを演じるのは、マーベル映画『マイティ・ソー ダーク・ワールド』(2013)、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)にも出演していたザッカリー・リーヴァイ、監督は『アナベル 死霊人形の誕生』(2017)のデビッド・F・サンドバーグ。
スーパーマンより先に映画化された“元”キャプテン・マーベル
シャザムというキャラクターを聞いたことのない人は、最近生まれた新米ヒーローと思っているのではないでしょうか?
しかし実際はアメコミ創成期に登場したキャラクターで、コミックでの初登場は1940年、最古のヒーローであるスーパーマンのデビュー、1938年のわずか2年後でした。
ちなみに同じDCヒーローのバットマンは1939年、ワンダーウーマンが1941年、マーベルヒーローならキャプテン・アメリカが1941年、アイアンマンは1963年と、比較してもかなりのベテランキャラクターであることが分かります。
さらに、初めて実写映画化されたのは1941年で、これはスーパーマン初の実写作品『Superman』の1948年よりも早い銀幕デビューでした。
それだけ連載初期から人気が出たキャラクターだったわけですが、なぜその後一般的な知名度を得ることなく現在に至っているのでしょうか?
1つはシャザムの名前が、元はキャプテン・マーベルだったことが挙げられます。
出版社も当初はDCコミックではなく、フォーセットコミックスというところでしたが、元祖であるスーパーマンに比肩するほどの人気を博したキャプテン・マーベルを、DCコミックはスーパーマンの盗作だとして提訴します。
裁判が行われた結果、キャプテン・マーベルの人気は急落し、フォーセットコミックスは1952年に同作を休止します。
20年後の1972年、DCコミックはかつてのライバル、キャプテン・マーベルの権利を買い取り、自社の作品としての再生を狙いますが、ここで新たな問題が発生していました。
1967年、マーベルコミックが『キャプテン・マーベル』という同名、しかし全く異なる作品を出版していたのです。
すでにマーベルコミック版が商標登録されていたことで、DCコミックは変身の掛け声である「シャザム!」をタイトルにすることを強いられます。
ただし変えたのはタイトルのみで、劇中でのキャラクター名はキャプテン・マーベルのままだったので、この時から同名キャラクターが2人存在する事態となってしまったのです。
それからまた数十年、2006年当初は男性キャラクターだったマーベル版『キャプテン・マーベル』で、キャロル・ダンヴァースという女性キャラがキャプテン・マーベルを引き継ぎ、これがブリ-・ラーソン主演で映画化された『キャプテン・マーベル』(2019)の直接の原作となりました。
それを受けてか、2011年にはシャザムもタイトルとヒーロー名を同じにするという改変を行い、ようやくキャプテン・マーベルとシャザムの同名キャラ問題が解決したのです。
その2作品の映画公開時期が非常に近いというのも(『キャプテン・マーベル』全米公開日2019年3月8日、『シャザム!』全米公開日4月5日)、上述したような数奇な運命が引き寄せた事態なのかもしれません。
明るくなって評価激変のDCEU
初期のDCEU作品はクリストファー・ノーランやザック・スナイダーらの手によって、“シリアスでリアル”路線を標榜していました。
しかしこの路線は、批評的、興行的の両面において軌道に乗ることはなく、シリーズ4作目の『ワンダーウーマン』(2017)でのパティ・ジェンキンス監督が、ヒーローのパワーと爽快なアクションを描き好評を得たことで、その後のDCEUは路線を変更していきます。
第5作『ジャスティス・リーグ』でも、仕上げの最終編集を『アベンジャーズ』(2012)のジョス・ウェドンが担当したことで、よりライトで、より分かりやすく、よりカタルシスを得やすい作風へと進んでいきます。
その一つの到達点が本作のコメディ路線であり、『アクアマン』(2019)の痛快アクション路線であると言えるでしょう。
特に『アクアマン』で、ジェームズ・ワン監督が推し進めた路線は、単純明快(過ぎ)なストーリー・キャラクターを作りあげ、その中で画的な痛快さ、爽快さを極限まで高めたアクションとビジュアルをこれでもか!と畳みかける勢いに、観客は(胃もたれするほど)酔いしれました。
翻って本作はどうかと言えば、サンドバーグ監督はインタビューで『ゴーストバスターズ』(1984)や『グーニーズ』(1985)といった、80年代の作品からの影響を語っています。
それは家族で楽しめるようなアクション、笑い、そして他者との絆を深めることの大切さを描いていると、監督は語っています。
同時に80年代の映画に存在した、“程よい恐怖表現”も盛り込まれているそうで、万人に受け入れられるグロ過ぎない表現は、ホラー畑出身である監督の腕の見せ所となるでしょう。
また単に昔を懐かしむようなことに留まらず、劇中ではビリーとフレディがSNSを使ってスーパーパワーを撮影・投稿し、ネット上で話題になるという、いかにも現代的な描写もあり、単純なストーリーの中にも、映画としての奥行を感じさせます。
さらに、フレディにスーパーヒーロー好きという設定を与え、劇中で他のヒーローたちに言及させていくメタ的な演出もされていて、「遠慮のない子供の目線からヒーローたちがどう評価されているのか?」なんていう楽しみ方も出来そうです。
そして詳細は明かされていませんが、ラストでは他のDCEU作品と繋がる仕掛けが成されているそうで、異色のオトナでコドモなヒーローが、今後のシリーズでどう再登場するのかも注目ポイントとなることでしょう。
そんな本作の評価はというと、全米での封切り前の限定公開では、大手映画批評サイトで『ワンダーウーマン』と並ぶ93%を記録し、興行収入でも『アクアマン』の290万ドルを上回る330万ドルという記録を打ち立てました。
本公開後も批評、興行の両面で成功を遂げている『シャザム!』に対し、ワンダーウーマンを演じたガル・ガドットも、絶賛、祝福のメッセージを投稿しています。
果たして、日本では本作がどのように受け入れられるのか、待ち遠しい公開日は4月19日です!
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回の第31回戦は4月26日公開、MCUシリーズ10年の集大成となる『アベンジャーズ/エンドゲーム』の公開前情報を紹介していきます。
お楽しみに!