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Entry 2019/02/04
Update

映画『西遊記 女人国の戦い』あらすじネタバレと感想。香港返還後の現実を映し出したソイ・チェン監督

  • Writer :
  • 加賀谷健

2019年は香港映画が熱い!

これまでにいくつもの映像作品がある『西遊記』。香港の俊英ソイ・チェン監督がシリーズ化した「モンキー・マジック」第3弾『西遊記 女人国の戦い』が日本公開されました。

本コラムでは作品の見どころをご紹介しながら、香港映画の魅力に迫っていきます。

映画『西遊記 女人国の戦い』作品情報 

【公開】
2019年1月19日(香港・中国合作映画)

【原題】
西遊記女兒国 The Monkey King 3

【原作】
『西遊記』

【監督】
ソイ・チェン

【キャスト】
ウィリアム・フォン、アーロン・クォック、シャオ・シェンヤン、ヒム・ロー、チャオ・リーイン

【作品概要】
中国の古典『西遊記』を映画化した「モンキー・マジック」シリーズ第3弾。

監督は香港の俊英ソイ・チェン。最新VFX技術を駆使し、ファンタジーの世界を完全再現。前作に引き続き今回も中国・香港を代表する美形俳優の豪華共演で送るスペクタクル・アドベンチャー。

映画『西遊記 女人国の戦い』のあらすじとネタバレ

 

天竺を目指し旅を続けている三蔵法師と孫悟空、猪八戒、沙悟浄。

雄大な大河を一隻の舟で下っていると川底から突如巨大魚が出現し、一行に襲いかかります。

天からの釈迦如来の助けもあり、間一髪、舟もろとも呑み込まれる寸でのところで逃げ果せます。

しかし安心する間もなく次は断崖絶壁に差し掛かり、あれよあれよと言う間に落下。

その途中、三蔵法師は一人の美しい女性と不思議な出逢いを果たします。

女性は凛々しい牝鹿に跨がり颯爽とその場から去っていきます。

一行は無事に森の中に着地しますが、猪八戒の姿が見当たりません。

猪八戒を探しながら三人は鬱蒼とした森へ分け入っていきます。

その頃、猪八戒は森の奥に女性の声を聞きつけ、助平心からその声の元を探り当てます。

するとそこでは美しい女性たちが水浴をしていました。

猪八戒は早速美男子の姿に変身し近づこうとしますが、怪力の彼女たちにあえなく痛めつけられてしまいます。

猪八戒の悲鳴を聞いた三蔵法師たちも気づけば武装した女性たちに取り囲まれています。彼らは女性だけが暮らす“女人国”に迷いこんだのでした。

彼らの前に現れた女王というのが、何と先ほど三蔵法師が不思議な出逢いを果たした牝鹿の女性だったのです。

ところが、女人国では男は“毒”であると古くからの言い伝えにはあり、冷酷な国師が三蔵法師一行の死刑を主張。

生まれて初めてみる男に興味を持ち始めている若き女王は国師の進言を退き、ひとまず尋問が行われることになります。

すぐに調査を開始すると、古文書にはやはり男は女を騙し、狂わせるという記述が明記されていました。けれどもその文書には実は欠けた部分があったのです。

牢に閉じ込められた一行は、悟空の力で簡単に脱出に成功します。

空から国境を超えようとするものの、強力な境界を突き破ることが出来ずに押し戻されてしまいます。

仕方なく元の牢に戻り、別の脱出法を探ることに。そこへ女王たちが尋問にやって来るのですが、三蔵法師に好意を持っている女王は一緒に脱出口を探すことを約束します。

翌朝、予定通り刑が執行されます。しかし女王が事前に弓矢に細工を施し、三蔵法師たちは死んだふりをして何とか危機を乗り切りました。

女王たちと落ち合った三蔵法師たちは、女人国の女性たちが生命を授かったという河に秘密を探りに行きます。

そこで悟空が古文書の切れ端を見つけますが、魔法をかけられている古文書はすばしっこくてなかなか捕まえられません。

さらに河を守る二匹の巨大蠍が一行に襲いかかります。激闘の末、手に入れた切れ端を読むと、男と女に関する重要な記述があり、女王たちは初めて“愛”という言葉を知ります。

ところが、三蔵法師、猪八戒、沙悟浄の三人が突然腹痛を訴え始めます。何と河の水を飲むと妊娠してしまうというのです。唯一人妊娠しなかった悟空は堕胎薬を探しに行きます。

悟空が堕胎薬を手に入れ戻ると、三蔵法師たちは母性に目醒め、お腹の子を産と言い出しているのです。

たまりかねた悟空は無理矢理薬を飲ませ、堕胎させます。三人は落胆しますが、三蔵法師は特に後悔の念が拭えず、一人写経を始めます。

それをみた女王もたまらず写経に加わり、二人の仲はいよいよ深まります。

しかしそれも束の間、国師に見つかってしまい、三蔵法師は再び捕われてしまいます。

国師は死刑にはしないと約束しますが、三蔵法師は小舟に乗せられ、そのまま海へ放たれてしまいます。

寸でのところで牝鹿に跨がった女王が颯爽と現れ、小舟に乗り込みます。思わぬことに国師も女人国の人々も動揺しますが、すでに遅く、二人の乗った舟は海の彼方へと流されていくのでした……。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『西遊記 女人国の戦い』ネタバレ・結末の記載がございます。『西遊記 女人国の戦い』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

三蔵法師と女王を乗せた小舟は、流されれば決して陸へは戻ってこられないという苦海を進んでいました。

すでに数日が経過し、喉の渇きと飢えが彼らの精神を疲弊させます。

すると三蔵法師が徐に語り始めます、「人は孤島。漂流し続けるしかない。外界には苦しみがあるが、喜びもある」。

その頃、女人国では困り果てた国師が悟空に神通力での捜索を依頼。悟空はあらゆる空を飛び回り、三蔵法師と女王が乗る舟を必死で探しますが、一向に見つかりません。

事態は絶望的と思われましたが、極限状態にあって改めて互いの間に芽生えた“愛”を悟った三蔵法師と女王は苦海の先についに境界を見つけます。

「愛を知れば門は開く」三蔵法師が呟きます。ところが、二人で外界へ出ようとした瞬間でした。王女だけがなぜか境界を抜けられないのです。

辺りに暴風が吹き荒び、女人国の人々と王女は一瞬のうちに石化してしまいます。三蔵法師はなすすべもなく、王女の石化は解けたものの意識が戻ることはありませんでした。

女人国の人々は、女王の意識が戻るように国を挙げて祈祷しました。三蔵法師も女王の側に付きっきりで様子を見守ります。悟空だけが旅の中断を心配していました。

すると三蔵法師の肩から袈裟がずり落ちてしまいます。悟空が何度も付け直しても自然と外れてしまうのです。

悟空の危惧は的中するのですが、その夜、三蔵法師に観音菩薩から、「袈裟を付けた時に旅は再会する」というお告げがあったのです。悟空もその言葉を信じて今は女王の回復を待つことにします。

一方、国師たちは祈祷を続けていましたが、突然大地が揺らぎ始め、河の神が出現します。

実は国師と河の神は過去に“愛”を分かち合った仲で、20年経った今、河の神は国師を迎えにやって来たのでした。

思わぬ出来事に国師の心は揺らぎますが、女王を守り国を支えるという使命を背負う国師は河の神の誘いを断ります。拒絶された河の神は簡単に引き下がるはずもありません。

怒りが最高潮に上り、河の神は巨大魚に変身しあっという間に女人国を大津波で呑み込んでしまいます。悟空と猪八戒、沙悟浄が応戦しますが歯がたちません。

しかし三蔵法師と女王の“真実の愛”を天は見放しませんでした。釈迦如来が天から強力な光線を浴びせ、河の神は退治されたのでした。

女王の意識が戻ると、三蔵法師の肩にも袈裟が自然と付けられます。出発の時です。

「また来世で……」運命的な邂逅の思い出を胸に天竺への長い旅を続けることを選んだ三蔵法師は涙を湛えながら、静かに呟きました。

映画『西遊記 女人国の戦い』の感想と評価

2019年は香港映画の注目作がいくつも公開されます。中でも『西遊記 女人国の戦い』の重要性はここ数年の香港映画を見渡してみても特筆すべきものです。

本作は『西遊記』を題材にしたファンタジー娯楽大作として十分すぎるくらい楽しめる作品ですが、それだけでは到底おさまりがつかない側面があります。

本作をより楽しむためにはまず香港の歴史を知る必要があるでしょう。

中国に返還された香港の現在


©︎おさぴー

周知のように香港はイギリスの統治下で目覚ましい経済発展を遂げた“自由都市”でした。

1997年、中国に返還された後も特別行政区として自由と民主は維持されました。ところが徐々に中国政府は直接支配の姿勢を強めるようになっていくのです。

すると香港では再独立を望むグループが増え始め、共産党の政治介入を非難するようになりました。

当然、中国側はさらに締め付けを強化します。

2014年に起きた「雨傘革命」は決定的でした。独立を主張する民主派の暴動を鎮めるために軍が武力弾圧をしたのです。

この事件によってそれまで民主派だった人々も中国政府の力を恐れて親中派となっていきました。香港の自由と民主は事実上失われてしまったのです。

こうした政治状況と並行して映画ビジネスも大きく変化しています。

香港映画界への影響と変化

『ザ・ミッション 非常の掟』(1999)

2004年に香港と中国の貿易が自由化すると、多くの作り手が新たな活路を求めて大陸向けの映画製作に舵を切り始めたのです。

さらに中国政府の検閲強化によって香港国内での製作本数自体が落ち込んでしまっているのが現状です。

香港映画には、50年代と80年代に黄金期がありますが、それは香港という都市に活気があったからで、時代の空気がそのまま映画の雰囲気をつくり、画面は自然と熱気を帯び始めました。香港映画は“自由都市”という母体があってこそ成立する表現なのです。

とは言え、香港に留まり続けている映画人も確かにいます。『ザ・ミッション 非常の掟』(1999)で世界的注目を集めたジョニー・トー監督です。

彼の孤高の精神は作品のキャラクターたちにも受け継がれています。カンヌの常連監督でもあるトー監督は後進の育成にも力を入れています。

参考映像:『アクシデント-意外-』(2009)

2009年のプロデュース作品『アクシデント-意外-』は停滞しつつあった香港映画に新しい流れを作り、大きな評価を得ました。

この作品を監督したのが本作『西遊記 女人国の戦い』のソイ・チェンです。

『アクシデント-意外-』の成功によってソイ・チェン監督は、有望な若手として香港映画の未来を一身に背負うことになったのでした。

ソイ・チェン監督の「西遊記」は現実を映し出す鏡

これまで80年代の香港映画を模倣するかのように鮮明でリアルなロケーション撮影に拘ってきたチェン監督が、最新のVFX技術を駆使して映像化した「西遊記」シリーズは、現実を映し出す鏡として寓話的な機能を果たしているように思います。

女人国の物語には間違いなく中国政府によって自由と民主を奪われた香港人たちの苦しみが投影されているでしょう。

そのため『女人国の戦い』はシリーズ中最も政治色の濃い作品にならざるを得ませんでした。

女人国の人々は外の世界を知りません。同様に今自由を奪われている香港人たちも思想弾圧によって価値観が限りなく一辺倒に締め付けられています。

前世では自由の光に満ちていた香港も現世は暗闇です。これまであまりに豊かな自由を享受しすぎたからでしょうか。

しかしここで思い出すべきなのは映画のラストで三蔵法師が呟いた一言です。

「また来世で……」三蔵法師は悟空と出逢うために何度も転生を繰り返しています。何度も苦難を重ねなければ現世での幸福は得られません。

来世を志向する三蔵法師のこの言葉には現代の香港人への強いメッセージが込められているのだと思います。

これまで香港が歴史のどんな局面でも繁栄し続けてきたのは、たとえ苦境にあってもより幸福な来世を望む心を決して失わなかったからです。

物理的な自由は失っても、精神の自由まで失う必要はありません。香港人の上昇志向はあの高層ビル群をみれば明らかです。

さらなる高みを目指して香港人は何度でも転生するのです。“自由都市”の生命力と連動して香港映画も必ず生まれ変わるはずです。

ソイ・チェン監督の『西遊記 女人国の戦い』はそんな未来(来世)への大きな希望となっているのです。

まとめ

一見、大衆的な娯楽作品にしかみえない本作にもソイ・チェン監督の並々ならぬ情熱が随所に込められています。

ただのおとぎ話にしないところにこの監督の創意と工夫、そして覚悟があります。

本作の画面をみていると、ジョン・ウー監督を筆頭に才能ある監督たちがひしめき合い、目まぐるしい勢いで映画製作に打ち込んでいた80年代の香港映画の熱気が再燃しているかのような錯覚を覚えてしまいます。

この作品をきっかけとして香港映画が自由と民主(活気)を取り戻してくれることを祈るばかりです。

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