Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2019/01/29
Update

映画『ジュリアン』ネタバレ感想とラスト結末までのあらすじ。ルグラン監督が参考にした名作シャイニングとの共通点

  • Writer :
  • 白石丸

11歳の少年ジュリアンは隔週ごとに別居した父と会わなければいけなくなり、母親の情報を聞こうとしてくる父から母を守ろうとしますが…。

監督は本作でデビューした“第二のグザヴィエ”と呼ばれる俊英グザヴィエ・ルグラン。

家庭内暴力の恐ろしさを描いたある意味ホラーな一作です。

フランス映画だからと文芸的作品を期待していると強烈なパンチを食らわしてくる衝撃的映画です。

映画『ジュリアン』の作品情報


(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

【公開】
2019年(フランス映画)

【原題】
Jusqu’a la garde(英題:CUSTODY)

【監督・脚本】
グザヴィエ・ルグラン

【製作】
アレクサンドル・ガヴラス

【撮影】
ナタリー・デュラン

【キャスト】
レア・ドリュッケール、ドゥニ・メノーシェ、トーマス・ジオリア、マティルド・オネヴ

【作品概要】
フランスで社会問題となっているDVを扱った映画。

離婚調停で共同親権となった両親の間で揺れる息子ジュリアンを描きつつ、物語は意外な方向へ梶を切っていきます。

2012年に短編映画『すべてを失う前に』を発表したグザヴィエ・ルグラン監督は本作で長編デビュー。

同一キャストが本作にも出演しています。

映画『ジュリアン』のあらすじとネタバレ


(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

夫アントワーヌの家庭内暴力が原因で離婚したミリアム。

判事に呼び出され、お互いの弁護士も同席しながら娘のジョセフィーヌと息子のジュリアンの親権について話し合っていました。

アントワーヌには、かつてジョセフィーヌに暴力をふるった過去があるため、姉弟揃って父親のことを嫌っています。

しかしミリアムが失業中ということもあり子供たちの親権は共同になり、まだ小学生のジュリアンは隔週の週末にアントワーヌと会わなければいけなくなります。

ミリアムもアントワーヌも別居してからはお互いの実家に暮らしていました。

最初の面会の週末、アントワーヌは車でジュリアンを迎えにやってきますが、ジュリアンは体調が悪いと言って逃れようとします。

しかしアントワーヌはミリアムに取り決めを守らないなら訴えるといって無理やりジュリアンを連れてこさせました。


(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

実家で祖父母に会ってもジュリアンは浮かない顔で過ごします。

ミリアムの実家の前に戻った際、アントワーヌはミリアムと話をさせてくれと言いますが、母は今いないと言い張るジュリアン。

アントワーヌはミリアムの連絡先を聞きますが、ジュリアンは携帯ではなくミリアムの実家の番号だけを教え、アントワーヌは仕方なくその番号を通じてミリアムと話します。

その頃、ミリアムは別のアパートに新居を用意しており、アントワーヌから離れるつもりでした。

ジョセフィーヌはすでに両親の問題には興味がありません。

その次の面会日、ジュリアンは相変わらず複雑な表情でした。

アントワーヌはジュリアンの言葉の端を捉えて彼に詰問を繰り返し、アントワーヌの父はそんな息子を諌めようとしますが、元々短気な2人は口論になってしまいます。

父は「お前はいつもそうだ!なんでもぶち壊してしまう!子供たちが会いたがらないのは当然だ!」と怒鳴りました。

アントワーヌはジュリアンを連れて実家から車を走らせます。

彼はジュリアンの態度を不審に思っており、ミリアムの連絡先を教えないのも彼女が引っ越そうとしているのを隠しているのではと見抜いていました。

彼は突然怒鳴り、ジュリアンを彼らの新居まで案内させます。

ジュリアンは嘘の道を教え、車が停まって降りてから隙を突いて逃げ出します。

アントワーヌは追いつけずに諦め、しばらくして戻ってきたジュリアンに「俺だって毎回揉める気はない」と彼を家まで送り届けました。

しかし、実家に戻るとアントワーヌの父は息子に愛想を尽かし、彼の荷物を全て外に出していました。

アントワーヌは母親とも口論し、売り言葉に買い言葉で家を出て行ってしまいました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ジュリアン』ネタバレ・結末の記載がございます。『ジュリアン』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

その夜、ジョセフィーヌの高校のパーティに参加したジュリアンは、姉のバンド演奏を楽しみます。

ミリアムが会場を回っていると、外にアントワーヌの車が停まっているのに気づきます。

何をしているのかと問い詰めに行くと、アントワーヌはまだ妻も子供たちのことも愛していると必死に訴えますが、冷たくあしらうミリアム。

パーティも終わり、その晩ジュリアンとミリアムは新居に泊まっていました。

就寝しようとしていたところにインターホンが何度も鳴ります。

2人が怯えじっとしているとインターホンは止みますが、今度はエレベーターが上がってくる音が聞こえたため飛び起きます。

アントワーヌが部屋の前まで来て、「開けてくれ!話をしよう」とドアを叩き続けており、ドアを蹴破ろうとしてきます。

アパートのほかの住人が異変に気づき警察に連絡しました。

しかしアントワーヌは猟銃を持ってきており、ドアに向かって発砲。

ミリアムたちは家の奥に避難します。

ドアを蹴る音が響く中、ミリアムも警察に電話し、警官からバスタブに隠れるよう指示を受けます。

バスタブで2人が息を押し殺していると、ドアを破壊したアントワーヌが部屋を物色し始めました。

アントワーヌはミリアムの名を叫びながら浴室の前までやってきますが、そのタイミングで警察が間に合い彼を拘束しました。

「ミリアム!やめさせてくれ!家族と会わせてくれ!」

アントワーヌは悲痛な叫びを上げ連行されていきます。

ジュリアンもミリアムも泣き出したところに女性警官がやってきて2人を保護しました。

映画『ジュリアン』の感想と評価


(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

フランスでは離婚した場合、子供の親権は夫婦の共同となることが多く、それが家庭内暴力の温床になっていると社会問題になっています。

人権感覚では非常に進んでいる印象のあるフランスですが、3日に1人は女性が家庭内暴力、所謂DVで死亡しているとの恐ろしいデータまであるんです。

グザヴィエ・ルグラン監督はインタビューでこのようなことを言っています。

「DVはフランス以外でも深刻化している問題です。映画にすべき普遍的なテーマだし、フィクションで作ることでより心に訴えるものになると思った。」

その言葉通り、彼は長編デビュー作として2017年に本作を作りましたが、社会問題を扱っていながらもジャンルはホラーと呼んでも良いものになっています。

ルグラン監督は本作を撮る際に参考にしたと言うある有名映画のタイトルを答えています。

ルグラン監督が参考にしたホラー映画

参考映像:『シャイニング』(1980)

1980年公開、鬼才スタンリー・キューブリック監督の名作ホラー『シャイニング』

雪に閉ざされたホテルでとある一家が怪異に巻き込まれる作品ですが、物語の根底には人生に行き詰った父親による家庭内暴力の闇が描かれています。

その家族間に生じたひずみに霊的存在が付け込んで惨劇を起こしていくのが、ルグラン監督がリスペクトした『シャイニング』です。

本作『ジュリアン』は怪現象も特殊な舞台立ても一切ない、世界中どこにでもありそうな町の風景と何の変哲もない家を舞台に、心底恐ろしい家庭内暴力の実態を描きました。

オープニングの事務的かつあっさりした離婚調停で共同親権が決まってしまう場面にも面喰らいますが、本作の恐ろしさに一番寄与しているのは父親アントワーヌを演じているフランスの名優ドゥニ・メノーシェでしょう。

映画ファンなら『イングロリアス・バスターズ』(2009)の第一章で“ユダヤ人をかくまって尋問されるフランス人農夫を演じたあの人”と言えばわかるはずです。

熊のような恐ろしい風貌で暴走していく後半の演技はもちろん、前半の必死で理性を働かせようとして努力しているさまや、自分を愛してくれない家族、ままならない人生や自分自身に対する葛藤も見事に表現しています。

この映画が恐ろしいのはこの父親アントワーヌを理解不能な人物として描いていないところです。

彼の気持ち、事情、おそらくは昔よりは改善されているであろう点などがしっかり映画内で提示されているにも関わらず、結局終盤には血が凍るような凶行に及んでしまい、容赦なく裁かれます。

ここはどんな事情があっても家庭内暴力は許さないという監督の断固たる思いが現れている部分です。

猟銃を持ち出してしまうという映画的飛躍はありますが、感情表現が苦手で、愛する家族に拒絶され、家も追い出され、自分の怒りをコントロールできない彼のことを完全に自分と切り離して見られる人は少ないのではないでしょうか。

アントワーヌの気持ちも痛いほど伝わってきて、彼には何か救いはないのかと思っている矢先に、ラストのホラー展開がやってくるので、観客はより戸惑い恐怖を覚えます。

93分しかない上映時間にもかかわらず、終盤のアパート襲撃のシークエンスは比重が大きい上に体感時間も長く感じます。

ジュリアンたちが早く警察が来てくれるよう祈っているように、我々も早くこのシーン終わってくれ!と思ってしまう心底恐ろしい場面です。

そしてその後の顛末も一切描かれず映画は終了。

この突き放したような作りが逆にいつまでも心に残ります

ジュリアン役のトーマス・ジオリアに注目


(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

姉のジョセフィーヌがトイレで妊娠検査薬を使い、彼氏のサミュエルとの子供を身ごもったことがわかる場面があります。

その後どうなったのか描かれていないんですが、このように特段期待もされない、予期せぬ命の誕生もあるという事が身も蓋もなく描かれているのも容赦ない部分でもあります。

デビュー作ゆえの歪なところも含めて忘れがたい映画です。

映画的な工夫も多く、ジュリアンからの目線で強大な父アントワーヌを見上げるようなカメラワークも非常に恐ろしいですし、本作でデビューしたジュリアン役のトーマス・ジオリアの怯える演技も非常にリアル

今後に期待な子役です。

まとめ


(C)2016 – KG Productions – France 3 Cinema

スリラーとしても苦いホームドラマとしても秀逸な一作。

ヘビーな映画ですが、誰にとっても無関係とは言いがたい問題を描いており、必見です。

このような社会問題を恐怖として扱う映画はどの国でもいくらでも作れるので、今後も積極的に取り組んでくれることを期待します。


関連記事

サスペンス映画

映画『マッドダディ』ネタバレ感想!ラスト結末の考察と名作ホラーとの関連性とは

ある日すべての親が謎の衝動に駆られ子供を殺しだす!「アドレナリン」の監督が送る予測不能の超ハイテンションスリラー。 荒唐無稽な設定を全力でやり切ってみせたB級の快作『マッドダディ』。 ブライアン・テイ …

サスペンス映画

映画『十二人の死にたい子どもたち』11番マイ役は吉川愛。演技力とプロフィール紹介

『天地明察』で知られるベストセラー作家の冲方丁(うぶかた・とう)の小説を原作とした映画『十二人の死にたい子どもたち』が2019年1月25日に公開されます。 メガホンをとるのは、『イニシエーション・ラブ …

サスペンス映画

Netflix映画『アンカット・ダイヤモンド』ネタバレ感想と考察評価。 A24サフディー兄弟が描くギャンブル中毒男の人生の結末とは

アダム・サンドラーが「ヤバい宝石屋」に扮し、「ヤバい取り引き」が始まる! Netflix映画『アンカット・ダイヤモンド』は、ニューヨークを舞台に、アダム・サンドラーが、一攫千金を狙うギャンブル依存症の …

サスペンス映画

映画『グッドライアー』あらすじネタバレと感想。結末に向けてサスペンス/スリラーを如何に描いたのか⁉︎

映画『グッドライアー 偽りのゲーム』は2020年2月7日より公開。 映画『グッドライアー 偽りのゲーム』は、老齢の詐欺師が裕福な未亡人を狙うヒッチコック調のスリラー映画です。 主演は名優ヘレン・ミレン …

サスペンス映画

映画『ウトヤ島、7月22日』あらすじネタバレと感想。実在の事件を長回しで追体験させる衝撃作

2019年3月8日公開の映画『ウトヤ島、7月22日』 2011年にノルウェーで起きた凶悪テロ事件。 69人の命が奪われた銃撃事件を、72分間の驚異の長回しで描く衝撃の一作『ウトヤ島、7月22日』。 観 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学