連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第11回
ヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、ジャンルと国籍を問わない貴重な映画、計58本が続々上映中です。
第11回では、アルゼンチンのホラー映画『テリファイド』紹介します。
世界各国のファンタスティック映画祭で上映されるや、ホラー映画ファンを驚愕させた話題の新感覚・ラテンホラーが登場。
あのギレルモ・デル・トロの製作でハリウッドリメイクが決定した、衝撃の新感覚ニュー・ホラー・ムービーです。
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CONTENTS
映画『テリファイド』の作品情報
【公開】
2019年(アルゼンチン映画)
【原題】
Aterrorizados
【監督】
デミアン・ラグナ
【キャスト】
マキシ・ギオーネ、ノルベルト・アマデオ・ゴンサロ、エルヴィラ・オネット、ジョージ・ルイス、 アグスティン・リッタノ
【作品概要】
ブエノスアイレスのとある住宅街に、次々と発生する怪奇現象と、その謎を解明しようとする研究チームを描いたホラー映画。
下水道から湧き上がる声、宙を舞う血まみれの女性、歩く子供の死体、そしてポルターガイスト現象。
警察官のフネスは対処に悩みますが、現実に怪奇現象は目の前で起きています。
そこに現れたパラノーマル現象の研究者たち。フネスは彼らと力を合わせ、謎を解明すべく恐怖の館に乗り込みます。
この作品の監督・脚本を手掛けたデミアン・ラグナは、ハリウッドリメイク版の監督への内定が発表されています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『テリファイド』のあらすじとネタバレ
ブエノスアイレスのとある一軒家。女がキッチンの排水口から洩れる聞こえる音に、耳をかたむけています。
女は帰宅した夫、ホアン(アグスティン・リッタノ)に台所から声がして、私を殺すとささやく声がしたと訴えます。
壁を叩く音が響きます。隣りから響き渡る音にホアンは、隣人のウォルターに抗議しますが、彼の家のインターフォンに返事は無く、ただ不気味な音が流れます。
自宅に戻ったホアンは、またも壁を叩く音を聞きますが、今度は音が浴室から響いている事に気付きます。
浴室でホアンが目にしたのは宙に浮きそして、何度も壁に叩きつけられる妻の姿でした。
なすすべの無いホアンの目前で妻は絶命します。
警察に連行されたホアンに話しかける人物たちが、あなたは殺していないと彼に告げます。
彼らはホアンに1998年アメリカで起きた、同様の事件の写真を見せ、この2週間に身の周りで何があったかを尋ねます。
家の近くで事故があったこと、臨人のウォルターがリフォームを始めたことをホアンは答えます。
物語は少し前に戻ります。ウォルターは電話で、自分の家で起きた怪奇現象を必死に訴えています。しかし望む相手である超常現象の研究者と話が出来ません。
やむなくウォルターはベットに入りますが、ベットは彼を乗せたまま動き、暗い屋内を何かが走り去ります。
恐怖にシーツを被るウォルター。そのシーツを触る何者かの手。
翌日ウォルターはまた電話しますが、電話の相手は証拠が無いと博士は動けないと伝えます。
誰にも理解されない恐怖を抱えた彼は、騒音の原因を尋ねるホアンに、リフォームを始めたと返答して誤魔化します。
ウォルターは証拠をとる為に室内にビデオカメラを設置して眠ります。しかし彼は物音で目覚めます。
カメラの映像を再生すると、眠るウォルターを見下ろす様に立ち、去ってゆく不気味な男の姿が映っていました。
巻き戻して確認すると、その男は、彼のベットの下から這い出ていました。
ウォルターの悲鳴が響き渡ります。
翌日、ウォルターの家に近づく少年の姿がありました。家の中に不審を感じた少年は、家から何者かの声を聞きます。
怯えて後ずさりし、思わず道路に出た少年は、ホアンら近所の住人の目前でバスにはねられ、命を落します。
数日後、刑事のフネス(マキシ・ギオーネ)は一軒の家にいました。今起きている事態を漏らさぬよう、部下に口止めしています。
家の住人、アリシアの元に、先日のバスの事故で死んだ息子が帰ってきました。今は無言で食卓に座っている少年。しかし警官たちは、確かに動くのを見たとフネスに証言します。
家族の遺体を傷心の遺族が持ち去るのはありうる事。しかし残された足跡も、少年が自ら帰ってきた事実を示しています。
超常現象に関心のある検死官のハノ(ノルベルト・アマデオ・ゴンサロ)は、確かに少年は死んでいると確認します。
では何故、どうして少年がここに存在するのか。フネスが少年に声をかけても返事はありません。
ハノは家の外にいたアルブレック博士(エルヴィラ・オネット)に気付きます。ハノは彼女が著名な超常現象研究家と知っていました。
ウォルターの家の調査に訪れた彼女を、アリシアの家に案内します。ウォルター、ホアン、アリシア宅は隣接していました。
アルブレック博士は長年追っていた怪奇現象が、今まさにこの場所で起きていると確信します。
一方警官のフネスは耳も悪く体調も崩し気味、退職間近に遭遇した怪事件に頭を悩ませます。
検死官のハノは、かつての経験をフネスに語ります。自分も生き返った死体を見てきたが、多くは見て見ぬふりをしたと。
若き日に死者の蘇りを遺族に伝えたが、それは不幸な結果をもたらす過ちであったと語ります。
何も知らずやって来た少年の友人が遺体を目撃するなど、周囲の人々も事態に気付き始めます。
どうにか事態を収めようとフネスとハノは相談します。
フネスらは少年の遺体を屋外の冷蔵庫に隠し、アリシアを入院させている間に、再度埋葬すると決めます。
その姿を近所の何者かが撮影していました。少年を収めた冷蔵庫からは物音が響きます。
事態を目撃したアルブレック博士は、協力者のローゼットック博士(ジョージ・ルイス)に連絡し、応援を要請します。
フネスとハノは両博士と共に、この怪事件の真相究明に動きます。
妻の殺害容疑で逮捕されたホアンも、超常現象の遭遇者と思われます。
こうして冒頭の、ホアン尋問のシーンに戻り、彼から自宅の調査の許可する書類にサインを得ると、その夜4人は調査を開始します。
アルブレック博士はホアン宅で観測機器を並べ、ハノはアリシア宅で待機。フネスはローゼットック博士と共にウォルター宅を調べます。
さっそくフネスたちの周りで周囲の物品が動きだします。ここは本物だと語ったローゼットックは手を傷つけ、その手が棚から離れなくなります。
そしてフネスに、棚の中の何者かが血を吸っていると訴えます。フネスが棚を開けると、そこには何もいません。
ホアン宅、アリシア宅でも、それぞれ奇妙な現象が起きています。
ウォルターの寝室のベットの下には、何もいない事をフネスは確認します。
しかしローゼットックは空っぽではない、視点は一つではないと告げます。
フネスが彼の位置からベットの下を見ると、そこには白い2本の足があり、フネスはたまらず外へ飛び出します。
ホアン宅を調査していたアルブレックは、壁に裂け目を見つけローゼットックに連絡します。
アリシア宅のハノの元に来たフネス。しかしここも異音がしていました。調べても怪しい音の原因は判らず、フネスの補聴器にうめき声が聞こえてきます。
ハノは突然壁の中に引きずりこまれます。努力むなしく彼を救えなかったフネスは、アルブレック博士の元へと向かいます。
ホアン宅に来たフネスに、アルブレック博士は語ります。
ここは探し求めていた異なる次元が共存する場所で、異なる次元には我々に敵対する何かが潜んでいる。
そう語る博士は、壁の裂け目から伸び出た何かに撒きつかれ、引き込まれます。
あまりの恐怖に倒れるフネス。胸を押え苦悶する彼に、不気味な何者かがしのび寄ります。
映画『テリファイド』の感想と評価
問答無用!遠慮なく見せるショック描写
映画に登場する幽霊やモンスターは闇に潜んで登場し、登場人物に徐々に忍び寄り、ここぞというシーンで観客の前に登場!この演出がホラー映画の定番です。
同様にホラー映画のショックシーンの多くは、「緊張させて、油断させて、驚かす」という公式にしたがって組み立てられるのが普通です。
しかし『テリファイド』のショックシーンは、この映画製作者と観客の暗黙の了解を、見事にぶち壊して登場します。
冒頭の壁に叩きつけられる女性は、観客への挨拶状代わり。遠慮も無く物が動き回るポルターガイスト現象に、ベットの下からは堂々と怪人が登場。
場内の観客は緊張させられる前に、おおっぴらに登場する怪現象の数々に、驚くやら噴き出すやら、場内は様々な反応に包まれていました。
『テリファイド』はコメディでも、パロディでもありません。映画全編はオーソドックスなホラー劇映画の構成です。
この斬新なショック演出が、各国のホラー映画ファンのハートをつかみました。
意図して描かれた、恐怖に潜む違和感と笑い
このようなホラー映画のお約束壊しは、ショックシーンの演出だけに行われた訳ではありません。
事故で死んだ少年の死体が何故か帰ってきて、白昼堂々食卓に座っているシーン。
映画では母親の衝撃と悲しみ、周囲の戸惑いが劇的に描かれています。
しかし生活空間に、白昼堂々と遺体がある違和感。残念ながらこの遺体が、何かメッセージを発する訳でもありません。
不条理極まりない状況を、実に真面目に描いたこのシーンは、観客に笑いすら誘います。
参考映像:『LOFT ロフト』(2005)
このシーンを見た時の観客は黒沢清監督の『LOFT ロフト』で、動くミイラという無茶な存在に逆切れして叫んだ、豊川悦司の心境に近いでしょう。
ホラー映画という舞台で、不条理を観客に突き付ける『テリファイド』にはJホラーからの影響がうかがえます。
襲い来る怪奇現象の正体は何だったのか
『テリファイド』は怪奇現象に対して、科学者チームが対決する図式で描かれています。
対決する者が、時に霊能者や取材クルーであったりしますが、この対決の図式もホラー映画の定番の1つです。
しかし本作の科学者チームは思わせぶりに活躍しますが、怪奇現象の正体は明かしてくれません。
チラシには“最恐の悪霊”と書かれていますが、ちょっと違う存在です。
人に害を成し、死者を操る存在ですから、正体は悪霊だとか悪魔だとか映画の中で宣言すればそれだけで観客は納得できるものです。
謎が判明しない、もやっとした本作のラストに不満を感じる方もいるでしょうが、あえて推測するならクトゥルフ神話のような、別次元の存在を描いたコズミックホラーと受け取る事ができます。
また欧米のホラーでは、別の次元が開いた時に“地獄”が現れる、という設定の作品が多数あります。
この設定はホラーに限らずSF映画の世界にも登場しています。
参考映像:『イベント・ホライゾン』(1997)
映画『バイオハザード』シリーズで有名な、ポール・W・S・アンダーソンの初期作品で、カルト的な人気を持つ映画『イベント・ホライゾン』はその一本です。
『テリファイド』の脚本も担当したデミアン・ラグナ監督は相当のホラー映画通に違いありません。
まとめ
『テリファイド』のチラシに記された“ニュー・ホラー・ムービー”の文字には、確かに偽りはありません。
こういった作品に多用されがちな、POV方式の撮影やモキュメンタリー演出を避け、劇映画形式で製作された結果、ショックシーンの数々は真正面から楽しめます。
原題の『Aterrorizados』、そして世界展開の為に付けられた英題『Terrified』は共に、「怖い」「恐怖」といったストレートな意味を持つ単語で、製作者が映画で描いた数々の恐怖シーンに込めた意図は明らかです。
ギレルモ・デル・トロが惚れた映画『テリファイド』。大いにショックシーンの数々を自分流に受け取って楽しんでください。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第12回はクローン技術の歪んだ暴走を描いた『エリザベス∞エクスペリメント』を紹介いたします。
お楽しみに。