映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』は、2019年1月18日(金)より東京・テアトル新宿ほか全国順次公開。
【俳優:三上博史】
俳優、劇作家としても活躍する宅間孝行が監督・脚本を務める本作は、臨場感溢れる役者陣の演技を軸に繰り広げられるスリリングな展開が、コミカルなタッチで描かれるワンシチュエーション・ドラマです。
公開に先駆けて、主演の刑事・間宮役を務めた三上博史さんにインタビューを行いました。
本作の映画としての魅力やリハーサルと撮影時のエピソード、また役者や人生観に至るまで、円熟したベテラン俳優として多くを語ってくれました。
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全てが役者に託される現場
──本作はまるで舞台を観ているかのようで、役者さんたちの力量が存分に発揮される作品でした。
三上博史(以下、三上):監督の宅間さん自身が役者さんで、役者の弱さや強さ、ズルさとか全部知っているから、それをどうやって使ったら一番効果が発揮出来るかということを分かっていますよね。
それじゃなかったらこんな撮り方しないですよ。全て役者に任せるなんて普通、映像作家はしないと思いますよ。
でも彼はまるごと役者に任せる。それは役者を信用して、その上で役者と遊びたいと考えたからなんでしょうね。
それってある種の賭けで、それがハズレる可能性もある訳です。でもそっちが本気で遊びたいなら、こっちも本気で遊ぶぜっていうような意気込みがあって、そこに酒井若菜さんや、波岡一喜くんがいたりと、本当に幸せな現場でした。
三浦萌えちゃんもとても大変だったでしょうね。でも彼女にとって今回の経験は凄く良い体験になったんじゃないかなと思います。
それとストーリーが結構緻密なので、伏線の貼り方をかなり綿密に打ち合わせました。
僕は伏線フェチなので(笑)、演じる側の人間がストーリーに於ける伏線をどの程度狙ってネタバレさせながら進めていくかとか、逆にココは全く見せないでおこうとか、そういった悪巧みは、稽古で逐一、宅間さんと話しました。
ですので、2回観ると「だからココでコレやってるのね」という事が分かると思います。そういう仕掛けが随所にある作品です。
──普通の映画ですと、カメラワークによる映像的な演出がありますが、本作の場合は、全て役者さんたちの機微や、行動で映像的演出をつくっていました。演じる上で他の映像作品と違いはありましたか?
三上:手法としては、僕が隠しカメラを部屋に持って来るところから始まって、そのカメラの映像だけで映画は展開されるので、僕が隠しカメラが入っている鞄を一度置くと、そこがフィックスになってサイズも変えられないし、次にカメラを移動するまでカットも変えられない。長いところだと40分以上のカットが2つあるんですね。
これはもう、役者にとってはとても大変な事ですよ。舞台で2時間近く出突っ張りでやってるじゃないかと言われるんですけど、映像にはそれとは全く違う緊張感と疲労とがあるんです。
映画と舞台
──舞台とは違うというのは?
三上:日常的な舞台もあるとは思いますが、舞台って非日常なところがあって、例えば照明が変化して劇的な場面になるだとか、スポットライトになって、自分は暗がりの中にいるだとか、そういった舞台空間の演出の中で、演者は何処かで息をつける場所があったりするんですね。
演技にしても、舞台では敢えて誇張した演技をしたりする場合もありますが、この作品は生々しい映像作品なので、本当の生身でやらないと通用しないんですよね。
僕は舞台上で本当に泣いてはいけないと勝手に自負しています。ある程度遠くの席の人たちにも芝居を届けなきゃいけない時に自分の範囲内で泣いているだけでは駄目で、遠くまでその心情を届けるためには身体を使って誇張もしなくてはいけない。
でも、それを映像では出来ない訳です。嘘を付くとそれも映ってしまうので、本当に心からその心情をドロっと出さないとバレてしまう。
それを40分以上、出し続けなければならないという事は僕にとってみると物凄いことなんです。
僕は舞台でも、どちらかというと、今回のような手法でやってしまう方なので、舞台が1か月程の長丁場になるとヘロヘロになっちゃうんですけど、今回はそれをもっと究極にした感じですね。
魅力的な共演陣
──本作からはそんな役者のエネルギーの塊が溢れ出ていたのを強く感じました。
三上:出演者のみんなが素晴らしかったですよね。波岡くんがそういうところを引っ張ってくれた功績は大きいですし本当に感謝しています。
──酒井若菜さんとの丁々発止のやり取りも凄く面白かったです。
三上:酒井さんとは連続ドラマなどでもご一緒していたから気心も知れているし、既に信頼関係が出来ていたので、やりやすかったですね。
酒井さんは特に生っぽさを出すのが得意な女優さんで、その中にちょっとしたコメディのロジックを持ってきたりするので、共演していて本当に楽しいですよね。
そんな役者たちの個性がそれぞれ違う中、あそこに集結した時にアンサンブルが取れたというのは宅間さんのおかけですね。
本気で遊ぶ
──稽古はどの位されたのですか?
三上:2週間くらいの稽古期間があったんですが、僕は丁度、毎年青森で行っている僕の師匠である寺山修司の朗読が稽古期間にぶつかって何日か抜けていたり、この稽古の直前まで連続ドラマを撮ってたりというのもあって、もうセリフを入れるのに必死でした。
波岡くんとか稽古の最初からセリフが入っているし、凄いなあとか思いつつ稽古していました。
──先ほどもかなり綿密に仕掛けていくところがあるとおっしゃっていたように、カメラアングルだったり、役者の動きだったりと緻密な稽古をされたのではと想像しますが。
三上:当たり前と言えば当たり前ですが、カメラを置く位置ひとつをとっても、稽古の時からしっかりと決めていました。
ここに置いてこの角度だと、ここまで見えて、この先は見えないというような暗黙の了解があったり、どうやって入ってきて芝居をするのか、このセリフはバストアップにしたいからカメラからこれくらい離れてとか、寄りにするならここまで来なきゃいけない、ふたりでやり取りをグチグチ見せたいなら此処で、でもそこまで行くのにソファがあるから、飛び越えていくと不自然になるので、時々回りこんで行って奥の方でセリフを始めるとか、そういうのが全部決まってるんです。
でも、いざ撮影となるとその通りにはいかないですよね。
例えば、デリヘルの支配人と僕の押し問答のショットがあって、本番では勢いあまって本来の立ち位置に止まれなくて、ちょっとカメラ寄りの場所になっちゃたんです。そうすると首から上は切れちゃって見えてないんですよ(笑)。
他にも、僕のセリフが酒井さんの次のセリフになっているキッカケのセリフを忘れていて、僕は床を拭きながら、なんで酒井さん出て来ないんだろうって思いながら、ずうっと床を拭いてるんですよ。そうすると、酒井さんが目で訴えていて、「ああっ!」てセリフを思い出したりだとかありましたね(笑)。
でも監督の宅間さんはそれさえも良しとしているんですね。それは狙ったカットでは無いですけど臨場感として成立させる訳です。
──そのまま使ってるんですか?
三上:それはそれで面白いでしょということで、そのまま使ってます。そういうのが随所にあります。
とにかく、40分回して、最後の方で失敗したらイチからやり直しで、そんなこと出来ないのでやるしかないですよね。
──伏線の張り方にしても、役者さんの演技に全てかかっているというのは観ていてとても楽しかったです。
三上:伏線て、良い意味で作り手のトラップだったりするので、そういう悪巧みを皆んなで一緒にできて僕も楽しかったですね。
──大の大人が映画を使って遊び倒している感じですね(笑)。
三上:しかも本気でね(笑)。
役者・三上博史
──三上さん演じる駄目な刑事は、こんな三上博史は今まで観たことがないと感じてちょっとビックリしました。
三上:この台本を読んだ時に「お、来た来た、嬉しいぞ」というような気持ちはありましたね。ちょっとやんちゃな役をやりたかったという事もあったので。
ただ、どこかで三上博史の変な品が邪魔をしていて、僕は反省しているところもあって、もっとどうしようもない役にできたんじゃないかなと思ったりもします。
でもこの役は出来損ないだけど、知能犯でもあるので、それはそれで良しとするかという感じですが。
──逆に三上さんの持ってらっらしゃる品があった事で、だからこそ、この役は三上博史だったのだなと合点がいくところもありました。ある清潔感みたいなものがあって。
三上:そうなんですよ。それが凄く邪魔してるなあって。
作品としては成立していると思いますけど、僕のチャレンジとしてはそこまでやってみたかったなというのはあります。
自分に忠実に生きる
──三上さんが役者として大切にしていることは何ですか?
三上:逃げない。絶対に逃げない。今ちょっと逃げちゃうかもという精神状態とか体力だったらその仕事を断ります。
そうしないと役者は弱いしずるいから逃げるんですよ。型(カタ)で逃げたり、ごまかしたり絶対にするんです(笑)。
僕はお会いしたことはないですけど、渥美清さんとか、絶対に逃げたりしなかったと思うんです。緒形拳さんもそうでしたね。逃げないしごまかさない。
僕は緒方さんの背中をそういう風に見て感じてきました。渥美さんの背中は直接見たことはないですけど、僕もこれからあと何年かは、そんな背中を残せたらいいなと考えています。
そんな風にやってたら割に合わないのに馬鹿じゃないの、みたいなことを言われて大いに結構って(笑)。馬鹿だもんて(笑)。
──何か凄く突き抜けたスピリットを三上さんから感じます(笑)。
三上:人生の時間て大して長くないんですよね。だったら自分に忠実に短い時間を駆け抜けちゃった方が良くて、もし神様がいて、この世に産んでくれたのだとしたら、もういっぱい楽しんでちょうだいと言ってくれてるような気がするんです。
自分の中でプライオリティーを付けるのであれば、まず一番はじめのプライオリティーをひとつ大事にするだけで充分だと思うんですよね。
それだけを大事にしているだけで70年、80年の人生終わっちゃうんじゃないのって。あっちもこっちも心配している時間はないですよね(笑)。
そこだけを大事にしていたら、どうしようもない人間になる事はないし、そうやって生きていくと、キワキワのところで次の仕事がきたりとか救われたりと、なにか自然とそうなるんです。
「でもそうならなかったらどうするの?」って言われても、そうしたらその時は求められてないんだから、それはしょうがないんじゃないっていう風に考えています。
でも不思議と僕が諦めない限りは誰かしら、何かしらが拾ってくれるんですよね。
──そんな三上さんのスタンスが役にも反映されていたようにも感じます。
三上:成立させることで目一杯になっちゃって、成立させる為に役者の技を使ったりとか逆に遠回りな気がして、もっとダイレクトにやる事で整合性をみつけることの方が大切で、だからやっぱり逃げないということなのかな。ちゃんと向き合うということですよね。
──最後に本作の魅力とはなんですか?
三上:映画としてはちょっと変わった作りですけど、だからこそ焼き付けられている「本当」が随所にあると感じています。
それはもしかすると、見てもらう皆さんには直接関係のない役者の意地だったりとか、役者の「本当」であったりしますが、それが役の「本当」だったりします。
そんな役の「本当」が映っている作品ですのでそれを楽しむだけでも充分に価値のある映画になっていると思います。残念ながらR15作品で子供たちは見れませんが、大人たちが舌を出して「えへ、俺たち見れるもんね」と楽しんでもらえれば嬉しいです(笑)。
映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【脚本・監督】
宅間孝行
【キャスト】
三上博史、酒井若菜、波岡一喜、三浦萌、樋口和貞、伊藤高史、ブル、世戸凛來、柴田理恵、阿部力
【作品概要】
三上博史が14年ぶりに映画主演を果たし、劇作家や俳優として活躍する宅間孝行監督のワンシチュエーション作品。
共演のキャストに酒井若菜、波岡一喜、三浦萌、柴田理恵、阿部力たちが参加し、群像劇をコミカルに演じています。
映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』のあらすじ
新宿歌舞伎町にあるラブホテル828号室。
刑事の間宮は、慣れない手つきでビデオカメラを撮影しながら部屋に入ります。
乱暴に靴を脱ぎ捨てた間宮は、手持ちのカバンに細工した穴にビデオカメラをセットします。
間宮は室内での行為が、しっかりとビデオカメラに残せるように企んでいました。
そこに、いつものように呼び出したデリヘル嬢の麗華がやって来ます。
麗華の若い身体を求めようとしますが、小娘ながら間宮よりも一枚上手の麗華は、それに応じようとはしません。
しかも、今日に限って間宮は、デリヘルを40分のショートコースで麗華を呼び出していただけに、気は焦るばかり。
不甲斐ない間宮は、麗華のいいなりであり、弱みを握られていました。
この日の間宮は、麗華に入れ知恵された方法で横領した現金を彼女に手渡し、なおも麗華の身体を求めます。
それでも麗華は間宮を拒みますが、やがて彼が持ち込んだケチャップたっぷりのハンバーガーを食べた後、間宮と麗華は激しくまぐわいながら楽しむことになりました。
なんと、そこに間宮の妻で婦警の詩織が踏み込んできます。物凄い剣幕で怒りを露わにする妻の詩織。
夫婦ゆえに抑えられない感情で間宮と麗華に罵声を浴びせ、取り調べさながらの勢いで2人の交際関係の月日を問いただします。
間宮は必死で詫びを入れ、詩織の機嫌を取り繕おうとしますが、デリヘル嬢の麗華を巻き込みながら夫婦喧嘩は、さらにエスカレートしていきます。
しかし、状況が一変。
妻から責められ、麗華に愛想を尽かされた間宮は取り乱し、刑事として手持ちである銃で麗華を撃ってしまいます。
慌てる間宮と詩織。
死体を処理して遺棄するしかない状況で間宮が呼んだのは、かつて犯罪行為を見逃したことで弱みを握っているヤクの売人ウォン。
中国人のウォンがやって来ると、手慣れた手つきで解体用の刃物や道具を並べる彼に、間宮は驚きますが、その時、部屋のチャイムが鳴ります。
デリヘルの40分ショートコースが終わっても、麗華と連絡が取れないことにシビレを切らしたマネージャーの小泉が、彼女を探しにやってきたのですが…。
まとめ
少年のような輝きを放ちながら、本作での体験から、ご自身で大切にしていることなどを、余すことなくお話してくれた三上博史さん。
ストイックに役と向き合い、役者として更なる挑戦をし続ける姿勢と、今回の役作りに自身の持つの品さえも嫌い、内面をさらすことから逃げないという覚悟には、役者というものの奇特さと厳しさ、その先にある悦びを強く感じさせられました。
深く考察しながら紡ぎだす言葉の端々には、「本当」のプロフェッショナルな姿を見せ、その一方で自分の人生を遊びつくそうという軽やかな三上さん本来の無邪気さが垣間見え、役者・三上博史を自分自身が遊び楽しんでいるかのようにもみえました。
本作は、等身大の三上博史と、役者としての三上博史が相まって、役に留まらない「役者」というものの不思議な魅力が詰まっている作品です。
インタビューでも三上さんが仰っていたように、映像的演出から、伏線の張り方に至るまで、全てが役者に託されている本作は、見るたびに新たな発見があることでしょう。
映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』は、2019年1月18日(金)より東京・テアトル新宿ほか全国順次公開です。
役者と監督が本気で遊び倒した本作を是非映画館でご覧ください!
インタビュー/大窪晶
三上博史(みかみひろし)プロフィール
東京都生まれ。高校在学中、オーディションで寺山修司に見いだされ、寺山自身が監督・脚本を手がけた、フランス映画『草迷宮』(1979)に主演し俳優としてデビュー。
1987年公開映画『私をスキーに連れてって』(馬場康夫監督)で脚光を浴び、その後「君の瞳をタイホする!」(1988/CX)など数々のドラマに出演。一世を風靡します。
映画では『スワロウテイル』(1996、岩井俊二監督)『月の砂漠』(2001、青山真治監督)などに主演、舞台では「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(2004)、「あわれ彼女は娼婦」(2006)に主演するなど、以降映画、ドラマ、舞台など多岐にわたって活躍しています。