一心なのか天真爛漫なのか、純粋無垢なのかおバカなのか。彼の名前は「チャンス」
知的障がいを持つチャンスは、テレビが大好きな庭師です。
数十年間、屋敷の外に出たことのないチャンスでしたが、主人の死で街に放り出されてしまいます。
ひょんなことからチャンスは、大統領にも顔が利くほどの財界のドン、ベンジャミンと出会うのですが、そこから彼のサクセスストーリーが始まります。
原作のタイトル通り「庭師ただそこにいるだけの人」=「チャンス」がもたらす社会現象とは?
映画『チャンス』の作品情報
【公開】
1979年(アメリカ)
【原作】
イエジー・コジンスキー『庭師 ただそこにいるだけの人』
【監督】
ハル・アシュビー
【キャスト】
ピーター・セラーズ、シャーリー・マクレーン、ジャック・ウォーデン、メルビン・ダグラス、リチャード・ダイサート、リチャード・ベースハート
【作品概要】
ジョージ・コジンスキー原作「庭師 ただそこにいるだけの人」の映画化。
数十年間も家から出たことがなく、読み書きも出来ない庭師が、ただそこにいるだけであれよあれよと、政治の表舞台へと駆り出されるコメディ作品。
主演は『博士の異常な愛情』『ピンクパンサー』シリーズでお馴染みの名コメディアン、ピーター・セラーズです。ピーター・セラーズが死の直前に出演し、自身の代表作となりました。
映画『チャンス』のあらすじとネタバレ
知的障がいのあるチャンスは、読み書きが出来ず、屋敷の外に出たことがありませんでした。
チャンスは、庭の草花の手入れとテレビが何よりも大好き。自分は庭師だと誇りを持っています。
いつも通りの朝、テレビを見ながら起き上がり、草花に水をやり、乗ったことがない車を磨き、朝食のテーブルに着きます。やはりテレビを見ながらの朝食のはずでした。
そこに使用人のルイーズがやってきて、チャンスに主人の死を告げます。
しかしチャンスは、死を理解出来ませんでした。テレビに夢中です。
いつも通り朝食を食べ終わり、主人の部屋に向かいます。冷たくなった主人に触れるも、興味は部屋のテレビに。そして、また庭のお手入れに向かいます。
古い邸は主人の死で手放され、使用人は解雇となりました。ルイーズは、チャンスのことを心配しながらも、年上の女性と結婚しなさいとアドバイスを残して出ていきます。
残されたチャンスの元に、弁護人のトーマスとサリーが訪ねてきます。庭師と自己紹介するチャンス。弁護人とは、どうにも話がかみ合いません。
主人の血筋でもなければ、ただの庭師が居続ける理由が分からない弁護人は、とにかくここには居れない。出ていくように告げます。
主人から貰った品の良いオーダーメイドのスーツにハットをかぶり、荷物を丸めて詰めたキャリーケースに傘を持って、チャンスは外への扉を開きます。
今まで屋敷から外に出たことがなかったチャンス。初めて見る外の世界に戸惑います。
「お腹が空いているので何か下さい」「庭師の仕事はどこで出来ますか」街の人々に声をかけます。身なりは紳士、中身は子供です。
店のショーウィンドウでテレビを見つけたチャンスは、熱中するあまり路肩に駐車してあった車どうしの間にはまり、誤ってバックした車に挟まれてしまいます。
その車に乗っていた貴婦人イブによって、手当のため自宅へと招かれます。
車に乗るのも初めてのチャンスは、イブの会話にも上の空、車内のテレビに夢中です。
名前を聞かれたチャンスは「チャンス、ガーデナー(庭師)」と自己紹介しますが、むせたチャンスの言葉をイブは勝手に「チャンシー・ガーディナー」と勘違いしてしまいます。
イブは、財界の大物ベンジャミン婦人でした。主人のベンは重い病気にかかっており、邸宅には病室と主治医が揃っていました。ベンの主治医ロバートに手当を受けるチャンス。
純真無垢で自然な彼の態度に、イブもロバートも初めは不信を抱きましたが、一心でユーモアがある人物と捉えます。
イブがベンにチャンスのことを伝えると、ベンは興味を持ち、夕食に招待しようと提案します。
夕食の席で身の上を聞かれたチャンスは、素直に答えます。しかし、庭師の話を深く取ったベンによって、勝手に同じ財界の事業家だと勘違いされます。
自分の話に耳を傾け、率直な意見を述べ、いつも動じない自然体のチャンスを、ベンはいたく気に入り、常に側に置くようになります。
ある日、ベンの見舞いに大統領が来ることに。
大統領との面会の席にチャンスも同行することに。チャンスはテレビで見たことがある場面に喜びます。
政治の判断をベンに仰ぐ大統領は、チャンスにも意見を求めてきました。
チャンスは同様もせず、庭のことを話します。「庭の成長には四季があります。春には芽が出ます」当たり前のことを堂々と話すチャンスに、意味がわからないと首をかしげる大統領。
しかしこれまた、頭の良い人たちの勝手な解釈で、意味深長なる言葉と捉えられます。
政治に置き換えられたその言葉は大統領演説にも使用され、たちまち助言の主「チャンシー・ガーディナー」に注目が集まります。
ワシントンポストやテレビ局から取材の依頼が入ります。新聞を知らないチャンスは、テレビ局の取材にだけ答えます。
テレビ主演でも、動じず自然体で話すチャンスは評判も良く、政界のご意見番として人気物に成り上がっていきます。
有名になればなるほど、彼の経歴は?何者なんだ?と、チャンスの身元調査が至る方面で起こります。
しかし「チャンシー・ガーディナー」という人物は存在しません。
一方チャンスの本当の姿を知る人、元使用人仲間のルイーズ、弁護人のトーマスとサリーは「チャンス」と「チャンシー・ガーディナー」が同一人物だと気付きます。
本人は正直に生きているだけで、周りの騒動には気付いていませんが、本当のチャンスの正体がバレるのも時間の問題となりました。
映画『チャンス』の感想と評価
知的障がいのある男が、あれよあれよと政治の表舞台に駆り出され、人気物になっていくコメディ作品「チャンス」。
ジャンルはコメディとなっていますが、メッセージ性の強い風刺映画と言えるでしょう。
すべてを知っている医者のロバートに「君は本物の庭師なんだろ」と、声をかけられ「そうだよ」と当然のように答えるチャンスの姿が、この映画のテーマを物語っていました。
彼は最後まで嘘はつきません。一切計算なく正直に生きているだけです。
周りが勝手に純粋なチャンスに魅せられ、祭り上げただけです。いかに政界、財界が欲の塊で嘘だらけの世界かという風刺になっています。
またラストは、湖の上を沈むことなく歩くチャンスの姿で物語は終わるのですが、水の上を歩くキリストを彷彿させます。
純真無垢なチャンスの姿は、利己主義な世の中を嘆くキリストの姿なのかもしれません。
ストーリーの中には、ここまで上手いこと勘違いされる⁈という展開もありますが突き抜けた感じが面白いです。
嘘偽りのない純粋な心を持ち続けることが、人生のチャンスを掴む場面で大切なことなのかもしれません。
貴婦人イブとの恋愛は、中身が子供なチャンスだけに相思相愛とは行きませんが、新たな形の愛の開放となりました。
イブ役は、まだまだ現役の大女優シャーリー・マクレーンが演じています。
チャンスとの可笑しな恋愛で愛の開放を果たす、大女優の貴重な演技にも注目です。
日本では「馬鹿と天才は紙一重」などと言いますが、名コメディアンのピーター・セラーズの演技がまさに、その言葉を表現したもので見極めが付きません。彼の演技は間違いなく天才の方ですが。
エンドロールでは、彼の NGシーンが映ります。何度も同じセリフでハマってしまい笑いが止まらないピーター・セラーズ。お茶目な一面が見れます。
まとめ
ジョージ・コジンスキー原作「庭師 ただそこにいるだけの人」の映画化で、名コメディアン、ピーター・セラーズの代表作のひとつ『チャンス』を紹介しました。
この映画が公開された翌年、ピーター・セラーズは54歳の若さでこの世を去ります。
コメディ映画の枠を超え、当時のアメリカの風刺映画であると同時に、現代にも通じる作品「チャンス」。
ぜひ、純粋無垢な心でご覧ください。