Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

ゴジラ映画の感想と考察。シリーズ初代の由来と1984年版とシンゴジの共通点を徹底解説|邦画特撮大全21

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第21章

昨年2017年東宝は11月3日を“ゴジラの日”に制定し、日本記念日協会から認定を受けました。

これは東宝が製作した特撮映画『ゴジラ』(1954)の公開日、昭和29年(1954年)11月3日にちなんだものです。

本コラムではその記念日にちなみ11月中は“ゴジラ”シリーズについて特集していきます。

アニメ版ゴジラの最終作『GODZILLA 星を喰う者』の公開が間近に迫り、2019年にはハリウッド製作の『ゴジラ キング・オブ・モンスター』の公開が控えています。

これを機に過去のゴジラ作品を振り返ってみましょう。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

そもそも『ゴジラ』とは

ゴジラは東宝映画に初めて登場した怪獣です。

設定ではジュラ紀から白亜紀にかけて生息していた海棲爬虫類と陸上哺乳類の中間に位置する生物で、原水爆実験によって復活しました。名前は“ゴリラ”と“クジラ”をかけあわせたものです。

ゴジラが製作されたきっかけには第五福竜丸事件があります。

1954年の3月1日にアメリカが南太平洋のビキニ環礁で行った水爆実験で、日本の漁船・第五福竜丸が被曝した事件です。

この事件からヒントを得た田中友幸プロデューサーが、“核の恐怖”をテーマに企画しました。

つまり『ゴジラ』は怪獣が登場する特撮映画でもあり、行き過ぎた科学に警鐘を鳴らす社会問題を扱った映画でもあるのです。

映画自体は大ヒットし成功をおさめましたが、公開当時評論家やメディアからの評価は低い物でした。

一方で公開当時に『ゴジラ』を高く評価した文化人に、作家の三島由紀夫がいます。またに映画監督の小津安二郎、漫画家の手塚治虫と水木しげるといった面々も後にゴジラを絶賛しています。

特に水木しげるは本作からヒントを得たと思われる貸本漫画「怪獣ラバン」(発表当時は東真一郎名義)や、『墓場鬼太郎』の一編「ないしょの話」などを発表しています。

ご存じの通り『ゴジラ』はシリーズ化され人気作品となり、2018年現在アニメーション作品も含めると32作の映画が製作されました。

1984年版『ゴジラ』の概要

今回、主に扱うのは『ゴジラ』(1984)です。ファンの間では“84年版”と呼称される作品ですので、本コラムでは以降本作を“84年版”と呼称することにします。

本作はゴジラ30周年記念作品として製作されました。当時は『メカゴジラの逆襲』(1975)を最後に、ゴジラシリーズの製作は中断されていました。

メインスタッフは監督に『さよならジュピター』(1984)の橋本幸治、脚本に『野良猫ロック』シリーズや『蘇える金狼』(1979)などの作品で知られる永原秀一、特技監督は『メカゴジラの逆襲』から続投の中野昭慶といった布陣で固められています。

84年版は原点回帰を目指したため、登場する怪獣はゴジラのみです。

本作ではシリーズ第2作『ゴジラの逆襲』(1955)から『メカゴジラの逆襲』までの設定がリセットされ、本作のゴジラは第1作目の昭和29年の日本上陸から30年ぶりに出現したという設定になりました。

また第1作目では50mだったゴジラですが、本作では80mに変更されています。これは50mを優に超す高層ビルが、80年代当時には林立していたからです。

『シン・ゴジラ』との共通点

84年版は一昨年に公開され大ヒットとなった『シン・ゴジラ』(2016)との共通点が数多くあります。ではそれらを見て行きましょう。

まず両作とも政府閣僚を中心に物語が展開する点が共通しています。これはリアリティを重視した作劇をとるためで、両作とも政府閣僚による会議が重点的に描写されました。

84年版では三田村総理役の小林桂樹をはじめ、織本順吉や加藤武、小沢栄太郎、金子信雄といった癖の強い名優たちが政治家に扮しています。一方『シン・ゴジラ』でも大杉漣のほか、柄本明や余貴美子、平泉成、矢島健一などといった実力派の俳優たちが顔を並べます。

次にゴジラ駆逐のため日本が諸外国から圧力を受ける点も共通しています。

84年版ではアメリカ・ソ連の両国から、ゴジラ駆逐のため核攻撃を決定し日本に対し強硬な姿勢を見せます。

『シン・ゴジラ』でも同様の理由で、アメリカを中心に結成された多国籍軍による熱核兵器によるゴジラ攻撃を決定されてしまいます。ゴジラとの戦いだけでなく、それを巡る諸外国とのやり取りも作品の緊張度を高めているのです。

その他、細かい点を挙げるとゴジラが都心に現れた際に市民が地下鉄構内に避難する点や、有名人のカメオ出演なども共通しています。

ここまで共通点を挙げていきましたが、もちろん相違点もあります。両作ともリアリティを重視した作品ではありますが、84年版には東宝特撮おなじみのメーサー車や首都圏防衛戦闘機・スーパーXといった超兵器が登場します。

しかし『シン・ゴジラ』にはそういった架空の兵器は登場しません。

そして両作で決定的に違うのは、最終的にゴジラをどのような方法で倒すかです。『シン・ゴジラ』では血液凝固剤による凍結によってゴジラを倒しています。

驚異的な破壊力を見せていましたが、『シン・ゴジラ』では最終的に人間の手によってゴジラが凍結されてしまいます。

一方84年版ではゴジラの帰巣本能を利用して三原山に誘導し、人為的に起こした噴火によってゴジラを倒します。

つまり84年版でのゴジラは、人間の手ではどうにもならず自然の力を借りなければ葬れない存在として扱っているのです。

共通点の多い84年版と『シン・ゴジラ』でしたが、それぞれゴジラの存在の解釈が違っているのです。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は、金子修介監督による『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』(2001)を特集します。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』感想と考察評価。実話映画化でピアニスト音楽家ジョアン・カルロス・マルティンス半生を描く|心を揺さぶるtrue story3

連載コラム『心を揺さぶるtrue story』第3回 2020年9月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて『マイ・バッハ 不屈のピアニスト』が全国公開されます。 本作は20世紀で最も偉 …

連載コラム

韓国インディーズ映画『K大OOに似たような93生まれ.avi』あらすじと感想解説。新人監督チョン・ヘウォンが描く“性犯罪と若者の現在形”|インディーズ映画発見伝26

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第26回 日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見 …

連載コラム

『笑いのカイブツ』映画原作ネタバレと結末までのあらすじ。ツチヤタカユキのお笑いネタと若林の関係も披露される私小説|永遠の未完成これ完成である33

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第33回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、ツチヤタカユキの私小説『笑いのカイブツ』。この度、岡 …

連載コラム

【2020年映画ランキングベスト5】感動と泣かずにはいられないヒューマンドラマを選ぶ!《シネマダイバー:星野しげみ選》

2020年の映画おすすめランキングベスト5 選者:シネマダイバー星野しげみ 2020年は新型コロナウィルス感染拡大防止のために、映画館への外出も規制がかかりました。それでも厳しい現実をものともせずに、 …

連載コラム

【ネタバレ感想】シークレット・チルドレン 禁じられた力|ティモシー・シャラメ主演のSF青春スリラー|未体験ゾーンの映画たち2019見破録22

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第22回 今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」では、珍作・怪作から見逃すには惜しい佳作まで …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学