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Entry 2018/11/01
Update

特撮ドラマ『怪奇大作戦』考察と評価。ショッキングな怪奇現象の裏にある社会背景とは|邦画特撮大全20

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第20章

今回取り上げる作品は2018年に初放送から50周年をむかえる特撮ドラマ『怪奇大作戦』(1968)です。

すでに来年2019年3月6日に新たにブルーレイボックスの発売も決定しました。

本作は『ウルトラセブン』(1967)の次番組として製作されましたが、ヒーローや怪獣、宇宙人が登場しません。

その代わりに本作で描かれるのは怪奇現象です。頻出する怪奇現象を科学的に解明する特捜チーム・科学捜査研究所、通称“SRI”の活躍を描いています。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

特撮ドラマ『怪奇大作戦』の作品概要

『怪奇大作戦』は円谷英二が特撮監督を務めた『美女と液体人間』や『電送人間』などの流れをくんだ作品だと思われます。

特殊能力を持たない人間が怪奇事件に挑むというスタイルは、円谷プロが初めて製作したTVシリーズ『ウルトラQ』(1966)からの継承です。

本作で怪奇事件に挑むのは科学捜査研究所のメンバーである牧史郎(岸田森)、三沢京助(勝呂誉)、野村洋(松山省二、現:政路)といった顔ぶれです。科学捜査研究所の略称は“SRI(エスアールアイ)”で、本編中の呼称もこちらです。

また余談ですがドラマ『科捜研の女』シリーズで主人公・榊マリコ(沢口靖子)が所属する京都府警科学捜査研究所の略称も、本作とやや表記が異なりますが同じ“S.R.I.”です。

しかし劇中での呼称はタイトル同様に“科捜研”で統一され、“S.R.I.”の表記は彼女らが着るスタッフジャンパーや捜査道具に見られます。

また内容も事件を科学で捜査・解明していく点は共通していますが、本作と違い『科捜研の女』には壁抜けや人喰い蛾など突飛な現象は登場しません。

本作に作風やコンセプトが近いのは『科捜研の女』より、90年代に人気を博した海外ドラマ『X‐ファイル』でしょう。

前述したように本作は『ウルトラセブン』(1967)の後番組ということもあり円谷一や飯島敏宏、実相寺昭雄らが各話を監督。脚本陣も金城哲夫や上原正三、市川森一、佐々木守と、スタッフの多くは『ウルトラセブン』から継続して参加しています。

また本作から今村昌平監督作品『黒い雨』などで知られる石堂淑朗が、円谷作品の脚本に参加しました。石堂はその後、上原や市川らとともに『帰ってきたウルトラマン』、『ウルトラマンA』『ウルトラマンタロウ』などにも参加しています。

ショッキングな映像の釣瓶打ち!!

本作に登場する怪奇現象には非常にショッキングで残酷なものも多いです。代表的な例を紹介しましょう。

まず第2話「人喰い蛾」では、人体が溶けていく様子が描写されます。

実相寺昭雄が監督した第4話「恐怖の電話」に登場する怪奇現象は、電話を受けている人間が突如発火するというものです。

人体が燃え盛り黒焦げになるまでの様子が克明に描写されました。実相寺の妥協のない演出により、怪奇現象の恐ろしさと衝撃度がより鮮烈なものとなっています。

その他ナイフで襲いかかる西洋人形や動き回る生首など、毎回毎回に強烈な怪奇現象が登場します。

当時は東映制作のTVドラマ『悪魔くん』(1966)やアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(1968)などの人気もあり、ショッキングで怪奇性の強い映像は視聴者に受け入れられました。

怪奇現象の裏にある社会背景

本作に登場する怪奇現象はただショッキングなだけでなく、その裏には人間社会の歪みがあります。

例えば第5話「死神の子守唄」は人間が冷凍される事件を描いていますが、その背景には原爆投下による体内被曝の問題があります。

また第15話「24年目の復讐」では太平洋戦争が終戦したと知らず戦闘活動を続ける、いわゆる残留日本兵の問題を扱っています。

第15話制作当時はグアム島に潜伏していた横井庄一元軍曹や、フィリピンに潜伏していた小野田寛郎元少尉らが発見される以前でした。

上記の2話は事件の背景に太平洋戦争がありますがその他、ダム建設に反対する村民が鎧武者の亡霊に扮し祟りを演出する第12話「霧の童話」。理由のない殺人を扱った第16話「かまいたち」。

失われていく景色を守るため仏像を瞬間移動させ盗難する第25話「京都買います」など、現在にも通じるテーマも数多く扱われています。

その後の『怪奇大作戦』

その後円谷プロでは、本作にジュブナイル要素が足された特撮ドラマ『緊急指令10‐4・10‐10』(1972)、オムニバスホラードラマ『恐怖劇場アンバランス』(1973)などが制作されました。土曜ワイド劇場の枠で放送された怪奇ドラマなども制作しています。

2000年代に入ると本作の続編である『怪奇大作戦セカンドファイル』(2007)、『怪奇大作戦ミステリー・ファイル』(2013)がそれぞれ制作されました。

『セカンドファイル』は実相寺昭雄監督が中心となり企画されました。登場人物の名前は前作と同じで、牧史郎を西島秀俊、三沢京助をココリコの田中直樹が担当しました。

監督を務めたのは清水崇、中田秀夫といったJホラーの旗手たち、実相寺昭雄の愛弟子である北浦嗣巳の3人。

北浦が監督した第2話「昭和幻燈小路」は当初、実相寺が監督する予定でした。

しかし実相寺が本作の準備期間中に亡くなられたため、北浦がその後を引き継ぎました。

第2話には清水紘治や原知佐子、堀内正といった実相寺作品の常連俳優たちがゲスト出演しています。

ちなみに清水崇はかつて、本作のタイトルを捩った高橋一生主演の深夜ドラマ『怪奇大家族』(2004)を企画・監督していました。

一方『ミステリー・ファイル』の監督メンバーは田口清隆、緒方明、タナダユキ、鶴田法男といいた顔ぶれです。

『セカンドファイル』同様に登場人物の名前は前作と同じですが、牧に上川隆也、三沢に原田泰造と『セカンドファイル』からキャスティングは一新されています。

参考映像:科楽特奏隊「恐怖の町」ミュージックビデオ

また科楽特奏隊が今年3月に発表したメジャー2ndアルバム『怪奇と正義』には、本作の主題歌をカバーした「恐怖の町」が収録されています。

「恐怖の町」はドラマ仕立てのミュージックビデオが制作され、メンバーがSRIの隊員に扮し怪奇事件に挑んでいます。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は、「ゴジラ」シリーズを特集していきます。

お楽しみに。

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