名キャメラマンとして知られる木村大作が、『劔岳 点の記』『春を背負って』に続き、監督第3作目となると時代劇『散り椿』。
『雨あがる』などで監督としても活躍する小泉堯史を脚本に迎え、直木賞作家である葉室麟の同名小説を実写した作品。
また、主演を務めた岡田准一は、スタッフとして殺陣師としても参加。
映画『散り椿』に込められた意味を知ったとき、四季を彩る静寂が心に染みてきます。
日本映画だからこその美しい時代劇です。
映画『散り椿』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【原題】
『散り椿』
【脚本・監督】
小泉堯史、木村大作
【キャスト】
岡田准一、西島秀俊、黒木華、池松壮亮。、麻生久美子、緒形直人、新井浩文、柳楽優弥、芳根京子、駿河太郎、渡辺大、
石橋蓮司、富司純子、奥田瑛二、豊川悦司(ナレーター)
【作品概要】
原作は「蜩の記」で直木賞を受賞した葉室麟の名作「散る椿」
朴訥で不器用だが精錬に生きようとする侍の”凛とした生き様”そして愛するもののために命を懸ける”切なくも美しい”愛をテーマに、黒澤組の日本映画界の巨匠木村大作が監督・撮影に挑みました。
初監督作『剣岳 点の記』(2009)で33回日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝き、黒澤組のカメラマン助手としてキャリアを重ね、映画人生60年目という節目に初の時代劇に臨みました。
主演は幅広い世代から絶大な支持を受ける岡田准一、共演には西島秀俊、黒木華、池松壮亮、富司純子、奥田瑛二ら日本を代表する豪華俳優陣が揃いました。
映画『散り椿』のあらすじとネタバレ
享保15年(1730年)、吹雪の中真っ白な小径を静かに踏みしめてゆく一人の武士の姿があります。
名は瓜生新兵衛、かつて藩の不正を訴え出ましたが、認められずに故郷扇野藩を追われました。
雪道で刺客に囲まれながらも一瞬にして斬り倒し、黙々と帰路に向かいます。
連れ添い続けた妻の篠も京の隠遁生活で慎ましく過ごしていたのも束の間、病に伏せています。
部屋の中で、篠は「庭を見たい」と起き上がり、いつもより元気な様子で話を続け、「春になれば、椿の花が楽しみです」というと、新兵衛は「散り椿か」と答えます。
篠が新兵衛が寄り添うと、咳き込んだ後、吐血。その手を見て自分の死期を悟った篠は、新兵衛に最期の願いで「采女様を助けていただきたいのです」と託します。
采女は新兵衛が若きし頃に平山道場で鎬を削った剣の四天王と呼ばれた一人であり良き友でしたが、離郷に関わる二人だけの因縁がありました。
采女と篠は当時お互い心惹かれていましたが、采女母親の猛反対に合い二人の中は破談になりました。
篠はその後も釆女と文を交わしていることを告げました。
篠の最後の願いとは、榊原釆女を助けること、そして郷里の散り椿を自分の代わりに見てほしいことでした。
新兵衛は篠が亡くなった初夏、篠の最期の約束を果たしに故郷扇野藩に向かいます。
映画『散り椿』の感想と評価
冒頭、新兵衛に篠が最期の願いを伝えますが、篠が話している時キャメラは新兵衛の表情を捉えています。
話し手ではなく聞き手を見せ、聞き手の表情で全てを語らせるのです。
大切な人に真摯に向き合う時、どれだけ真意が伝わるのか、言葉を聞き手がどう捉えるか、そこがこの映画の美しさの根底にあるように感じます。
そして映画の後半に、なぜ篠が新兵衛に最期の願いを託したのかが分かってきます。新兵衛と采女が決闘する場面です。
采女が受け取った篠の文に「くもり日の影としなれる我なれば 目にこそ見えぬ身をばはなれず」と書かれてありました。
采女は当初、離れても自分のことは忘れないという意味に捉えていたと話します。実際新兵衛も同じ思いでした。
だからこそ決闘に及ぶのですが、ところが采女は続けます。
「(新兵衛の)姿が見えなくなってもお主と離れずついていくと、自分(采女)と決別した文だ」
それを聞いている新兵衛の表情をキャメラは追いかけています。
采女は、新兵衛の納得していない表情に、篠の後を追って死ぬ覚悟を感じ、「篠はお主を死なせたくなかった。お主を救うために心にもないことを言ったのだ」と告げます。
その後二人の立つ奥に、五色の散り椿が映ります。
もう一つ、この映画の見所は岡田准一の今までにない殺陣です。
木村監督に「今までにない新しい殺陣を」と告げられた岡田准一は、自分の格闘技やアクションを取り入れ、跪くような獣のような構えから、低く瞬時に刀を斬りつけます。
ある時は首を抑え、またある時は素手で相手を倒します。
かつて、三船敏郎や勝新太郎が革新的な殺陣を試みてきた歴史のなか、今の時代の殺陣もその素晴らしい伝統を守りながら、その上のチャレンジしていきたいと岡田准一も語っています。
まとめ
こんなに日本の四季が切なくて愛しく美しいのは何故か。何をおいても監督木村大作のキャメラワークゆえのことです。
随所に見られる四季折々の風景は、富山、長野、京都など全編ロケーションで撮影され観るものの心を揺さぶり、あるときは力強くまたある時は儚く切ない心象風景を映像に収められています。
ストーリーの展開に時々挟み込まれる彩る四季の映像で、それまでの経緯や心象が伝わり、自然な呼吸で綴られた物語を辿っていくことができます。
そして「散り椿」の存在。
新兵衛に采女が思いのたけを告げる時、嫉妬に荒れ狂う本音を新兵衛が吐露しはじめると、二人の隙間から何気なく散り椿が映ります。
采女が、篠の新兵衛へ対する深い愛を話した時、また散り椿がふと目に入ります。
最後に采女がこの言葉を新兵衛に言い残します。
「散る椿は残る椿があると思えばこそ、見事に散っていけるのだ」
采女は散る椿として決意したのか、篠の命、そして四天王の非業の死を遂げた篠原三右衛門と坂下源之進の命を思ったのか。
采女は、何度も「生きろ!」と新兵衛に言い放っています。
残る椿として新兵衛のように、散る椿の命のバトンを繋ぐ映画を、ぜひ、ご覧ください。