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Entry 2018/08/17
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映画バットマンの系譜と二次創作のニンジャ・ LEGO・ フラッシュ作品|最強アメコミ番付評3

  • Writer :
  • 野洲川亮

こんにちは! 野洲川亮です。

バットマンと言えば、言わずと知れたアメコミヒーローの代名詞的存在です。

今回は2018年6月15日に公開された『ニンジャバットマン』を通して、近年数多く制作されてきたバットマンの”二次創作”作品と、その魅力を探っていきましょう。

Batman and all related characters and elements are trademarks of and (C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

バットマン初の実写化からジャスティスリーグへの系譜

「バットマン」テレビシリーズ

そもそも今回取り上げる“二次創作”作品とはどういう意味なのでしょう。

まずはバットマンの映像化作品の歴史を簡単に振り返ります。

バットマンは1939年にDCコミックスで初登場しました。

コミック発売から映像化したのは4年後。1943年の映画『BATMAN』で、連続活劇という形式で10~20分の短編を毎週公開という、現在の連ドラを劇場で見るようなものでした。

また1966年にテレビドラマ『怪鳥人間バットマン』がスタート、同年初めて長編が映画化されます、

この時代のバットマンはコメディ要素が強く、当時も賛否分かれたそうですが、現在の深刻そうなバットマンに慣れた人には、楽しみづらいものかもしれません。

一大ムーブメントを巻き起こしたバートン版

『バットマン リターンズ』(1992)

1968年にテレビドラマは終了。20年以上が経過した1989年に新たなバットマンが誕生します。

監督を務めたティム・バートンが作り上げたダークでゴシック、“異形への偏愛”が垣間見えるシリーズは、主にビジュアル面から見どころの深いものでした。

「心に闇を抱えながら悪を討つ」というキャラクター設定、グラップネルガン(=高いところへ移動できるよガン)など、数々のガジェットを使ったアクションも、この作品からバットマン映画の定型文としてお馴染みとなっていきます。

バットマンがあまり躊躇なく悪人の命を奪うという、今、見返すと違和感を覚える場面も見られます。

続編である『バットマン リターンズ』(1992)でも、ティム・バートン監督が監督を務め、『バットマン フォーエバー』(1995)、『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997)のジョエル・シューマッカー監督2作品と、90年代だけで3本もの長編が公開されるほど、人気を博しました。

ただファミリー向けに方向転換したシューマッカー版は、良くも悪くも”軽い”テイストで、特に『Mr.フリーズの逆襲』は興行的、批評的にも大失敗に終わり、シリーズも打ち切りとなります。

リアル路線へ舵を切ったノーラン版

『バットマン ビギンズ』(2005)

21世紀初のバットマンは、2005年『バットマン ビギンズ』に始まる3部作が製作されます。

監督は2000年公開の『メメント』でヒット飛ばし注目を集めていた、新進気鋭のクリストファー・ノーラン監督でした。

キャストにはクリスチャン・ベールを始めとした超のつく実力俳優たちが揃いました。

その世界観はノーラン監督らしく、バットマン誕生のドラマを真正面からリアルに描き、“現実にスーパーヒーローが存在したら”というものでした。

なかでも『ダークナイト』は、ジョーカー役を演じた故ヒース・レジャーのインパクトと共に、ノーラン監督が示したバットマン世界を象徴する出色の出来となっています。

同時に過度なリアル、シリアスムードが、時に批判を浴びることにもなりました。

打倒アベンジャーズ! ジャスティス・リーグの幕開け

『ジャスティス・リーグ』(2017)

ノーラン版のバットマン終了後、ほどなくしてDCコミックヒーロー集結シリーズの『ジャスティス・リーグ』がスタートし、バットマンもメインキャラクターとして登場します。

前段が長くなりすぎるので詳細は割愛しますが、年老いて疲弊した様子が垣間見えるバットマンは、魅力的すぎるワンダ―ウーマンに比べると、スーパーマンと共に存在感がイマイチと言えます。

自身のセクハラ問題で、降板も噂されるベン・アフレックの進退も含めて今後に注目です。

シリーズとしては、アニメ『ドラゴンボール』を彷彿とさせる大仰でド派手で長尺なアクション描写は、ザック・スナイダー監督の得意演出で、ファンには垂涎の迫力です。

二次創作作品とは?バットマン活かした2作品

前述してきたバットマンの正史とは別に、二次創作作品は、原作となるキャラクター設定を流用し、新たな解釈などを加えた作品のことを指します。

スピンオフという呼称もありますが、今回は二次創作に統一し、バットマンの二次創作で印象的な2作品を紹介していきましょう。

的確で真剣で正当なパロディ『レゴバットマン ザ・ムービー』

『レゴバットマン ザ・ムービー』(2017)

世界中で大ヒットした『LEGOムービー』のスタッフが、バットマンをレゴキャラクターの世界で描いた作品が、『レゴバットマン ザ・ムービー』です。

それまで映画やコミックで描かれてきたバットマンの持つ、孤独をこじらせ、他者との繋がりを仮面越しにしか見出せないという部分を膨らませ、原典となる作品たちが描いてこなかった視点を表現していました。

また敵役のヴィランであるジョーカーに「バットマンに最大のライバルと認知されたい」という動機を与えるのも、正史での不敵なジョーカーを踏まえた新たな視点であります。

これらをコメディ的なドラマへ落とし込んでいるところも、この映画の優れた点と言えます。

劇中で過去の映画作品について言及する、メタフィクション的視点も表明しつつストーリーを進めていくので、バットマンの知識はあるだけ楽しめる構造になっています。

もちろん『LEGOムービー』でも素晴らしかったレゴ的アニメーション効果も健在で、ストーリー、演出、アニメーションと、見どころに満ちた”二次創作”作品となっています。

日本の映画ファンにおなじみの、あのアニメがDCとコラボ

『DCスーパーヒーローズvs鷹の爪団』(2017)

合わせて紹介しておきたいのが、TOHOシネマズを利用する映画ファンにはおなじみのフラッシュアニメと、DCがコラボした『DCスーパーヒーローズ vs 鷹の爪団』です。

元々、映画のパロディネタを軸に組み立てられている『鷹の爪団』映画版は、二次創作そのものと言っても差し支えない作品です。

作品の残り予算ゲージを表示し、贅沢な映像、豪華キャストを使うと予算が減少し、全て無くなると映画は途中でも終了し、結末が次回に持ち越されてしまうという、『鷹の爪団』お約束の設定を利用し、DCヒーローズが登場。

いつもの調子で活躍してしまうと、あっという間に予算が無くなってしまう、という構造的ギャグから物語は進みます。

そこでジャスティス・リーグを脱退してしまった資金源であるバットマンを、どうにか復帰させてヴィランたちを退治しようと、鷹の爪団とヒーローたちは奮闘します。

アメコミネタのみならず、他の映画パロディネタも満載なので、映画知識を試験する意味でも楽しめる作品になっています。

クリエーターたちが挑んだ『ニンジャバットマン』

『ニンジャバットマン』(2018)

二次創作の構造と作品を紹介してきましたが、『ニンジャバットマン』は、どのような作品になったのでしょう。

本作は2018年に一躍話題となったテレビアニメ『ポプテピピック』の神風動画が製作した初の長編作品です。

正統派なカッコよさに満ちた作品で、序盤から登場人物の紹介といった時間は設けられていません。

いきなりゴリラ・グロッドが開発したタイムマシンにより有無を言わさず、バットマンとヴィランたちは、現代のゴッサムから日本の戦国時代へとワープしてしまいます。

どのキャラクターが味方か敵なのか、どんな出自、能力があるのか、そのような基本設定は「皆さん、すでにご存じでしょう」とばかりに省略されています。

この辺は二次創作ならではの観客がある一定以上のリテラシーを持っている、という前提でストーリーが語られていきます。


Batman and all related characters and elements are trademarks of and (C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

タイムスリップした先では、すでにジョーカーを始めとするヴィランたちが、時の大名たちから権力者の座を奪い、君臨し始めていました。

単身ジョーカーに挑むバットマンでしたが、現代のテクノロジーが使用できない状況で敗れます。

序盤の説明的なイントロを省略した分、充分なスピード感でバットマン敗北までを描きます。

では、敗れたバットマンがその後どうヴィランたちに立ち向かっていくのか、というのが映画の肝となっていきます。

バットマンに手を貸すのは、戦国時代に生きる飛騨の蝙蝠衆の忍者たちで、テクノロジーを失ったバットマンは、彼らとともに戦国の世の武器を用い、再びヴィランたちとの戦いへ挑んでいきます。

甲冑を身にまとい、刀を振るバットマンは、スタッフが意識的に見せたかったものであり、舞台が日本であるべき理由が、ここに凝縮されていると言えるでしょう。


Batman and all related characters and elements are trademarks of and (C)DC Comics. (C)Warner Bros. Japan LLC

このようなビジュアル面を押さえたポイントを押さえた作品に仕上がっています。

ラストでのジョーカーとの決闘シーンでは、待ってましたとばかりにバットマンが忍術を披露し、名実ともに「ニンジャバットマン」へとなるわけです。

序盤や導入のテンポの良さなどは、バットマンファンとしては、押さえておきたい作品であることは間違いないでしょう。

隠れたオススメのバットマンは映画ではない

『バットマン:アーカムシリーズ』

二次創作作品について『ニンジャバットマン』を中心に紹介してきた作品をすべて観ているという方に、是非オススメしたい二次創作があります。

それは映画ではなくて、テレビゲーム『バットマン:アーカムシリーズ』です。

2010年以降、全6作品がリリースされている人気ゲームで、バットマンリテラシーの高い人には一度はプレイしてほしい完成度の高さを誇ります。

オープンワールドで展開し、ゴッサムという街全体を自由に行き来できるうえに、人気のヴィランたちも、硬質なタッチで繊細かつスタイリッシュにデザインされています。

操作も比較的簡単なものなので、普段ゲームをしないという人にもオススメできますよ。

次回の「最強アメコミ番付評」は…

いかがでしたか。

次回の第4回戦では、『キャプテンアメリカ/シビルウォー』をアントマン&ワスプを中心に紹介していきます。

次回の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『最強アメコミ番付評』記事一覧はこちら

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