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Entry 2018/08/23
Update

【池脇千鶴インタビュー】映画『きらきら眼鏡』での演技やロケ現場の思い出を語る

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『きらきら眼鏡』は、9月7日(金)TOHOシネマズららぽーと船橋にて先行上映

また、9月15日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開

映画『きらきら眼鏡』ヒロインあかね役を務めるのは、『ジョゼと虎と魚たち』や『そこのみにて光輝く』の代表作で知られた池脇千鶴さん。


©︎ Cinemarche

池脇さんは『そこのみにて光輝く』ではアジア・フィルム・アワード最優秀助演女優賞の受賞をはじめ、あらゆる出演作品で数々の賞を受賞してきた実力派女優です。

池脇千鶴さんの主演最新作『きらきら眼鏡』の公開にあたり、今回インタビューを行いました。

女優としての役作りや作品への思いなど、女優・池脇千鶴さんの魅力に迫ります。

本心で、人間が喋っているセリフにする

(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

ー出演を決めたポイントは?

池脇千鶴(以下、池脇):最初に企画書と台本をいただいて読んだ時に、すごく優しくて切なくて、とても重たいテーマだけど、柔らかい、温かい本だと感じて「あ、これは出た方が良いな」って素直に思えたんです。

ーあかね役にどんな風に向き合いましたか?

池脇:あかねが持っている明るさっていうのがすごく全面に伝わってきたので、それを失わないようにしました。

彼女自身も自分の“きらきら眼鏡”をかけるというポジティブさを忘れないで必死で立ってるっていうところがあったから、私もそれに倣って実践したという感じです。

ー犬童一利監督は池脇さんの明るさのおかげで現場が和やかになったと、とても感謝していましたが。

池脇:そうですか(笑)あかねが明るい役で彼女がいちばん朗らかであったからこそ、私自身が現場でも朗らかでいられたんじゃないかなと思います。

ーあかねを演じる上で特に気を使った点は?

池脇:ほかの人たちは口数が少なかったり、すごく人間味に溢れていて、愚痴っぽいところがあったりイライラしたり、悲しんだりっていう割と日常によくあることを表現していたと思います。

そんな中で、あかねは、そういうところを出さない人で、且つ良いことばかりというか、哲学じゃないんですけど、それに近い人生観をいつも話しているところがある。

それをただ脚本に書かれているものを喋っているようにならないように、彼女が本当に、本心で、人間が喋っているセリフとして聞こえるように心掛けました。

観ている人を不安にさせたくない


(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

ー安藤政信さん演じる末期ガンに侵された恋人、裕二との関係性ではどのようなことに気を使いましたか?

池脇:裕二さんとの関係っていうのは、恋人であり師弟関係のように私は思っています。

例えば最初に明海くんを連れて裕二さんの病室にきた時に、裕二さんの喋る言葉っていうのが独特なんです。

それを私は恋人としてもそうだし、後輩として崇拝しているように彼の考えを全て享受して納得して憧れている、それに連なって行きたいという、恋だけじゃない繋がりがある気がしました。

ー金井浩人さん演じる、恋人を亡くした過去を持つ明海との関係性ではいかがですか?

池脇:あかねは明海に終盤で「試した」というようなことを言うんですが、あかねとしては本当に悪気はなくて、彼が経験した誰かを失ったという気持ちを知りたくてしょうがなかったと思うんです。

そんな彼と一緒にいることで、癒されたかっただろうし、希望が欲しかった。

必死で立ってる自分に対して正解が欲しかった。

だから親密になっていったのではと思っています。

(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

ーすごく積極的な女性にも見えましたが。

池脇:そうですね。女の私からして本を読んでもそうですし、他の女性と(役について)喋ってても小悪魔だよねみたいな(笑)。

私もそう映るだろうなって思いました。

明海くんを本心で利用したつもりはなくて、心根に嘘がある人ではないので、そう映ってしまう彼女の無邪気な部分が、素直に彼を傷つけたんだろうなって思いますね。

ー池脇さんの演技は本作に限らず、他の映画でも心の中の様子をとても繊細に丁寧に表現しているように感じます。

池脇:昔からそうなんですが、自分の志というか目標があって、映画を観てる人を不安にさせたくないんです。

物語に入り込めない、作り物に見えてしまう、ああセリフ喋ってるなとか、演技してるなっていう風に突出して見られたくない。

みんなが安心してこのお話の中に入り込めるのが一番だと思っていて、それだけはずっと目標に持っていることです。

どこから見られても、どこから撮られても、誰と対峙して、誰とお芝居してようと、そこの物語の中に生きている人になりたい、そういう風には思っています。

ホントにちょっとした心持ちだけなんですけどね。

明るく温かくも締めるところは締める現場

(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

ー犬童一利監督とのお仕事はいかがでしたか?

池脇:彼も明るい人だし、優しいですし、私より若いっていうのもあって、とっても気をつかってくれたとも思います。

私がやったことを解ってくれる人だったので、そのまま自分をぶつけれた、出せたという感じはあります。

ー現場では話し合ったりもしたんですか?

池脇:あまりなかったですね。そんなたくさんは話してなくて、最初の顔合わせと本読みの時にいろいろ雑談して、その時から凄くざっくばらんな人で、自分のことをいろいろと話してくれました。

その時、私と金井くんもいて、昔はこんなだった、こんなことしてたとか、そんな世間話を通して割と垣根をつくらないで喋れたので、それが嫌な緊張感を生まずに言いたいことが言える関係ができたんじゃないかと感じています。

ーそういったことがこの映画の温かさ、朗らかさを生み出したのですね。

池脇:そうだと思います。他のスタッフもそうですし、みんながこの物語をそういう温かなものだと思って作ろうとしてくれていたような気がします。

特に撮影カメラマンさんが、根岸さんっていうベテランの方なんですけど、彼がいちばん年長で率先してみんなを温めてくれたり、ほぐしてくれたりしながら撮影を進めてくれました。

でも締めるところは締めるというか、カメラマンさんが私たちにあんまり影響のないところで、まだ若い監督に、こうするんだぞみたいな事をちゃんと言っていたりしていました。

私にはそういうところも垣間みえていたので、こうやってしっかり作っていってくれてるんだな、私たちをリードしてくれてるって思いました。

ー良い現場ですね。

池脇:本当に(笑)。

ーなかなかそういうことって、ありそうでないですよね。

池脇:ないですね。どっかでほころんだりすることって多いですし、良いもの作ろうっていうそれぞれの思いが強すぎるとやっぱりぶつかることも多くなったりします。

その中で、今回はみんながこう、距離を感じて、ちゃんと詰めたり離れたりっていうことをしてくれてたように思います。

(C)森沢明夫/双葉社 (C)2018「きらきら眼鏡」製作委員会

ーそんな現場で何か思い出はありますか?

池脇:何でしょうねぇ…。

今、ポッと思い出したんですけど、ある夜に橋の上で、私が明海くんにお盆休みどうするのって聞くシーンがあって、これはもう完全に内輪の話なんですけど、あの時集中豪雨で、雨がボンッと降ったり止んだりしていて、撮っては中断してと現場が結構バタバタしたんです。

だけど、そんな待ちの間もカメラマンさんがギャグ言ってくれたり、私が知らないうちに金井くんとカメラマンさんで漫才を用意していたりして(笑)。

それでカメラマンさんが「ね、金井くん」て言うと金井くんが「あ、そうですね」とか言ってやろうとすると「もうすぐ雨も止むからそろそろ撮りたいんだけど」みたいになって誰かが止めに入るみたいな(笑)。

私、最後まで見てないんですよね(笑)。

いつもそうやって場繋ぎで何かやってくれていて、金井くんも普段は静かなタイプなのに、それにちゃんと乗っかってコミュニケーションを一生懸命に取って何かをやろうとするんだけれども「え、え、、」って言ってる間に「ハイ撮りましょう」っていつも中断されてて、それを凄い思い出しました(笑)。

ーいつか全部観たいですね。

池脇:本当に。もう(ネタを)忘れてると思いますけど(笑)。

心を浄化させてくれる、じっくりと観られる映画

©︎ Cinemarche

ー最後に、池脇さんにとって映画『きらきら眼鏡』の魅力を教えてください。

池脇:心を浄化させてくれる映画だと思います。

人が亡くなったりという、本当はとても深い波はあるのですが、映画として観た時に、実はそんなに刺激的な映画ではないですから、じっくりと観られる映画ではあると思うんですね、静かだから。

だけれども、最後まで観てもらえたら、みんなが晴れやかな顔になって行くっていうのは最後の最後にわかってもらえると思います。

劇的に何かを乗り越えたりはしませんが、主人公の明海以外にも、(古畑星夏さん演じる)弥生さんもそうですし、結局私もみんなと関わって少し心がきれいになれる、救われる、本当に青空に登って行く、重たいものが取れるような、そんなところがこの映画の魅力だと思います。

映画『きらきら眼鏡』の作品情報

【公開】
2018年(日本映画)

【原作】
森沢明夫「きらきら眼鏡」(双葉文庫) 

【監督】
犬童一利

【キャスト】
金井浩人、池脇千鶴、古畑星夏、杉野遥亮、片山萌美、志田彩良、安藤政信、鈴木卓爾、大津尋葵、成嶋瞳子、菅野莉央、大西礼芳、長内映里香、山本浩司、モロ師岡

【作品概要】
森沢明夫の同名小説を原作に『カミングアウト』『つむぐもの』の犬童一利監督が新人俳優の金井浩人と演技派女優の池脇千鶴のダブル主演で映画化。

主人公の明海役を本格映画デビューとなる金井浩人、ヒロインのあかね役を池脇千鶴が演じ、あかねの恋人役を安藤政信、そのほか古畑星夏らが脇を固めています。

脚本は犬童監督と学生の頃から交友のある守口悠介が担当。またエンディング曲「Reminiscence〜回想〜」は柏木広樹feat.葉加瀬太郎&西村由紀江。

【あらすじ】

高校時代の恋人の死後、周囲に心を閉ざしたまま、駅係員の仕事でやり過ごすように日々を過ごす立花明海。

毎日、同じ落とし物を探しに来る訳ありの乗客に対し、冷たい対応を見せる同僚の女性駅係員の松原弥生がこぼす愚痴を、明海は上手く聞き流していました。

読書家である明海は、非番の日に立ち寄った古書店で『死を輝かせる生き方』という気になった本を購入。その本のページをめくると、ある一文が明海の目に飛び込んできました。

「自分の人生を愛せないと嘆くなら、愛せるように自分が生きるしかない。他に何ができる?」に線が引かれ、そこには「大滝あかね」と書かれた一枚の名刺が挟まっていました。

他人との関わりを避けてきた明海でしたが、名刺に記された人物に興味を抱き、その本を返すため会う約束をしますが…。

まとめ

©︎ Cinemarche

終始、和やかに明るく受け答えをしてくださった池脇千鶴さん。

時には屈託無く弾むように笑い、また質問に対しても真っ直ぐに向き合い、時に沈黙の熟考を見せて、確実な自分の言葉を紡ぎ出す。

相手をしっかりと見つめる眼差しは、インタビューにもあったように、誰と対峙しても誠実に存在し続ける池脇さんの姿勢そのままでした。

主人公の明海との関係性について伺った際、池脇さんが“素直に彼を傷つけたんだろうなって思います”と表現した言葉は、物事に真摯に向かう池脇さんならではの言い回しのように感じ、とても印象に残っています。

そして、現場を盛り立てリーダーシップを発揮してくれた、ベテランカメラマンさんとのエピソードでの池脇さんのカメラマンさんへの敬意と感謝の言葉には、ものづくりやそれに携わる人たちに向けられた、実直で、心遣いに溢れる池脇さんの人柄が色濃く滲み出ていました。

朗らかで何事においても分け隔てなく向かい合う、等身大の女優、池脇千鶴さん。

そんな池脇さんの魅力が詰まった映画『きらきら眼鏡』は、9月7日(金)TOHOシネマズららぽーと船橋での先行上映、9月15日(土)有楽町スバル座ほか全国順次公開です。

ぜひ映画館でご覧ください!

池脇千鶴プロフィール

1997年にオーディション番組「ASAYAN」の「第2回CM美少女オーディション」で、三井不動産の第8代リハウスガールに約8000人の中から選考され芸能界デビュー。1999年に市川準監督の『大阪物語』にて主演でスクリーンデビューを果たし、キネマ旬報日本映画新人女優賞などを受賞。2001年にNHK朝の連続テレビ小説『ほんまもん』のヒロイン役に抜擢、一躍有名俳優の仲間入りを果たします。2002年にスタジオジブリの長編アニメーション映画『猫の恩返し』の主役で声優を務めます。2003年に映画『ジョゼと虎と魚たち』で第18回高崎映画祭最優秀主演女優賞を受賞。2014年に『そこのみにて光輝く』でアジア・フィルム・アワード最優秀助演女優賞などの数多くの国内映画賞を受賞。

映画『きらきら眼鏡』公式HP

インタビュー/大窪晶
スタイリスト/関志保美、ヘアメイク/山田典良、写真/出町光識

ー衣装提供ー
・トップス (¥19,000)・パンツ (¥27,000)共にsneeuw
・イヤリング (¥13,000)・バングル (¥18,000)共に1DK Jewelry works
sneeuw
1DK Jewelry works


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