映画『ヘイゼル85』は第39回東京国際映画祭コンペティション部門にて観客賞受賞!
2021年の第34回東京国際映画祭審査員特別賞受賞作『市民』(劇場公開タイトル『母の聖戦』)、2024年の第37回東京国際映画祭主演女優賞受賞作『トラフィック』(2024)のテオドラ・アナ・ミハイ監督の新作『ヘイゼル85』が、第39回東京国際映画祭コンペティション部門で上映されました。
作品レビューと併せて、映画祭に併せて来日したミハイ監督の合同取材の模様をレポートします。
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映画『ヘイゼル85』の作品情報

©Toon Aerts
【日本上映】
2026年(ベルギー・オランダ・ドイツ合作映画)
【原題】
Heysel 85
【監督・脚本】
テオドラ・アナ・ミハイ
【共同脚本】
ローデ・デスメット、イザベル・ダラス
【撮影】
マリウス・パンドゥル
【編集】
ベルト・ヤコブス
【音楽】
アンナ・カタリーナ・バウアー
【キャスト】
ヴィオレット・ブレックマン、マッテオ・シモーニ、ヨセ・デパウ
【作品概要】
1985年、ブリュッセルのヘイゼル・スタジアムで行われたサッカーのヨーロッパ・カップ決勝、ユベントス対リヴァプール戦の試合開始前に発生した「ヘイゼルの悲劇」を、『母の聖戦』、『トラフィック』のテオドラ・アナ・ミハイ監督が映画化。
ベルギーのテレビドラマシリーズ「警部ジェラルディ 孤高のブリュッセル捜査線」(2012~18)のヴィオレット・ブレックマンが、ブリュッセル市長の娘マリーを演じます。
2026年の第39回東京国際映画祭においてコンペティション部門上映され、観客賞を受賞しました。
映画『ヘイゼル85』のあらすじ

©Toon Aerts
1985年、ベルギー・ブリュッセルのヘイゼル・スタジアムで、サッカーのヨーロッパ・カップ決勝戦となるユベントス対リヴァプール戦が行われようとしていました。
チケットは完売し、キックオフのホイッスルが鳴るのを待つだけになっていたスタジアム。ところが試合開始直前で、サポーターの衝突をきっかけに暴動が発生し、39名が死亡、多数の負傷者を出す大惨事となってしまいます。
いかにして事故は起こってしまったのか。父であるブリュッセル市長の広報を務める娘のマリー、観戦していた家族の無事を探ろうとするイタリア人テレビレポーターのルカなど、様々な人物の視点から事の経緯を映し出していきます。
映画『ヘイゼル85』の感想と評価

©Toon Aerts
娘を誘拐された組織と対峙する母親を主人公とした長編デビュー作『母の聖戦』、続く『トラフィック』では、オランダで起こった絵画窃盗事件を軸に、東西ヨーロッパの経済格差事情を暴いたテオドラ・アナ・ミハイ監督。
実際に起きた事件をベースに独自の解釈を入れつつ、複雑な社会問題を描くことに長けた監督の最新作『ヘイゼル85』は、1985年のブリュッセルのサッカースタジアムで発生した、「ヘイゼルの悲劇」を題材としています。
作劇にあたりミハイ監督は、事件の詳細を徹底的にリサーチし、「闇チケットで入場したイタリア人とイギリス人のサポーターが混然一体となってしまった」、「老朽化で安全面が危惧されていたスタジアムで半ば強引に試合を行った」、「会場の警備に使う無線が使い物にならず、警察と憲兵隊の統率が不十分だった」といった様々な要因があったことに着目。
さらにこの事件で最も驚くべき点は、39人もの死者が出たにもかかわらず、試合が中止されることなくキックオフとなったという事実でしょう。
©Toon Aerts
もし試合を中止すれば、フーリガンと化したサポーターたちが「試合が見れない」とさらに暴徒化する恐れがある。彼らを沈静化するには、無理にでも試合をするしかない――この判断は、「毒を以て毒を制す」の考えに近いものがあります。
こうした事実関係をまとめた上で、監督は中心人物にブリュッセル市長の娘マリーを据えたドラマを構築。描かれるのは、市長、FIFA首脳陣、憲兵隊長らによる事件の責任転嫁、サッカープレイヤーのイタリア側とイギリス側も交えての根深い民族対立感情、倫理観が揺らぐ報道体制といった、現代にも通じる問題です。
登場人物の中で唯一と言っていい程、事態を客観視できているマリー。ですが周囲からは、「君は通訳だけすればいい」と相手にしてくれない。ある意味で彼女は本作を観る者のアルターエゴであり、ラストでの彼女の行動は、観る者の総意なのかもしれません。
「脚本をゼロから作るよりもチャレンジングな作業」とは?――テオドラ・アナ・ミハイ監督公式インタビュー

テオドラ・アナ・ミハイ監督/撮影:松平光冬
2026年10月31日の東京国際映画祭の公式合同インタビューに応じた、テオドラ・アナ・ミハイ監督。
本作の企画は元々別の監督が進めていたものの、スケジュールの都合で降板したことでオファーが来たと語ります。
事件については、出生国のルーマニアにいてまだ幼かったのでよく知らず、またサッカーにも詳しくないとして、オファーが来たことに当初は戸惑ったとか。ですが脚本の良さと、第二の故郷であるベルギーが舞台の作品を撮りたかったという強い思いから引き受けたそう。
ただ、監督するにあたって1つ条件を出したのが、脚本のリライト。脚本に手を加えて、自分にとって意味のある形でこの企画を扱ったと語ります。
「ゼロから企画を進めるよりも、膨大なリサーチ資料の中から取捨選択して構築する(=リライトする)ことの方が、大きなチャレンジです」
また、「作為的に作った映像が、本物の持つ力に勝ることはあり得ません」という意図から、スタジアムでの暴動の模様を俳優を使って再現せず、事件を伝える当時のアーカイブ映像をそのまま使用。
マリーが組織の中で無力な者としか扱われないという描写については、「80年代における女性の立場を表したかった」と説明する一方で、「私のキャリアを評価し、支えてくれたメンター(先生、師匠)の多くは男性でした。ですから私にとってこれは単なるジェンダーの問題ではなく、互いの『リスペクト』の問題です」と補足していたのが印象的でした。
まとめ

撮影:松平光冬
次回作として、亡き夫の弟と恋愛関係に陥っていく女性が主人公の作品を撮影中と明かしたミハイ監督。これまでのフィルモグラフィーからも予想できるように、何らかの社会問題を盛り込んでくるのは間違いないでしょう。
本作『ヘイゼル85』も含めた監督作すべてが東京国際映画祭のコンペ作に選ばれている実績からも、次回作への期待が高まります。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)































