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【ネタバレ】あんのこと|あらすじ感想と結末評価。元ネタの事件をキャストの河合優実×佐藤二朗×稲垣吾郎が熱演

  • Writer :
  • 谷川裕美子

孤独な少女の希望と絶望

映画『あんのこと』は、『SR サイタマノラッパー』(2008)『AI崩壊』(2020)の入江悠が監督・脚本を手がけた人間ドラマ。

ある少女の人生をつづった2020年6月の新聞記事に着想を得て撮りあげました。

主演の河合優実は本作で第48回日本アカデミー賞最優秀女優賞を、刑事役の佐藤二朗は優秀助演男優賞を受賞しています。共演は稲垣吾郎、河井青葉。

横暴な母によって幼い頃から売春をさせられ、薬物中毒になっていた少女が、生きる喜びに瞳輝かす姿が強い印象を残る一作です。社会の在り方にも目を向けさせられる本作についてご紹介します。

映画『あんのこと』の作品情報


(C)2023「あんのこと」製作委員会

【公開】
2024年(日本映画)

【監督・脚本】
入江悠

【製作総指揮】
木下直哉

【キャスト】
河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり

【作品概要】
『SR サイタマノラッパー』(2008)『AI崩壊』(2020)の入江悠が監督・脚本を務め、2020年に現実に起きた事件をモチーフに描いたヒューマンドラマ。

制作品には第75回カンヌ国際映画祭で「カメラドール特別表彰」を受賞した話題作『PLAN 75』(2022)(早川千絵監督)のスタッフたちが集結しました。

実力派として注目を集める『少女は卒業しない』(2023)『ナミビアの砂漠』(2024)の河合優実が、売春やドラッグに溺れ、荒んだ生活を送っている少女・杏を演じます。

人情味あふれる型破りな刑事・多々羅に『さがす』(2022)『爆弾』(2025)の佐藤二朗、多々羅の友人のジャーナリスト・桐野に『正欲』(2023)の稲垣吾郎。

河井青葉、広岡由里子ら演技派俳優たちが脇を固めます。

映画『あんのこと』のあらすじとネタバレ


(C)2023「あんのこと」製作委員会

売春や麻薬の常習犯である21歳の香川杏は、ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らしています。

彼女は幼い頃から母親に暴力を振るわれ、十代半ばから売春を強いられるという過酷な人生を送ってきました。

杏は小学4年生から不登校となり、12歳の時に母親の紹介で初めて体を売りました。

人情味あふれる刑事・多々羅との出会いをきっかけに更生の道を歩み出した杏は、多々羅や彼の友人であるジャーナリスト・桐野の助けを借りながら、新たな仕事や住まいを探し始めます。

しかし突然のコロナ禍によって3人はすれ違い、それぞれが孤独と不安に直面していきました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには映画『あんのこと』ネタバレ・結末の記載がございます。映画『あんのこと』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2023「あんのこと」製作委員会

桐野は、多々羅が薬物更生者の自助グループを私物化し、参加者の女性に関係を強いているというリークを得て、慎重に取材を進めていました。

やがて、多々羅に関係を迫られた女性から桐野に証言が寄せられます。桐野は事実を記事にしました。

多々羅のスキャンダルを知ってうろたえた杏は、何度も多々羅に電話をかけますが、取り調べ中の彼は電話に出ませんでした。

ある日、突然杏の部屋に、シェルターの隣人の女が押しかけ、幼い息子・隼人を強引に預けていなくなってしまいます。

杏は困りながらも子供の面倒を見始め、次第に愛情を感じるようになっていきました。

そんな中、彼女の母親が現われて、祖母がコロナにかかったので帰ってきて欲しいと泣きつきます。

断り切れずに杏が隼人を連れて実家に帰宅すると、祖母は変わりなく元気でした。母は強引に隼人を人質にし、杏に身体を売って稼いでくるように脅迫します。

仕方なく身を売って戻ってくると、隼人はいなくなっていました。泣き続ける子供に手を焼いた母が通報したため、子供は児相に連れて行かれました。

シェルターの自室に戻った杏は、クスリに手を出し、大事な手帳を燃やそうとします。しかし、途中で火を消して焼け残った一部を握りしめました。

そのまま、杏はベランダに出ていきました。

杏が飛び降りたことを知った桐野は自分が記事を書いたために杏が死んだのではないかと悔やみ、多々羅は涙を流します。

杏は、隼人に作ってやった食事について書いた手帳の切れ端を残していました。

隼人の母は、杏は自分たちの恩人だと語りました。

映画『あんのこと』の感想と評価


(C)2023「あんのこと」製作委員会

悲しい結末に胸揺さぶられる実話

コロナの時期に起きた実話をもとにした、胸痛むヒューマンドラマです。主人公・杏の置かれた悲惨な境遇に涙が出ます。

しかし、作中ではただ同情を買う存在としてではなく、生きることにまっすぐな希望に満ちた目をした少女として描かれています。

幼い頃から杏を暴力で支配し、12歳で売春を始めさせた人でなしの母。しかし、もしも生きていくの十分なお金があったならばどうだったでしょう。安心して暮らせる余裕があれば、そんなことする必要はなかったのではないでしょうか。

貧困のもたらす悲劇は社会全体の問題だと痛感させられます。

祖母の介護ができるようになりたいという思いから、高齢者施設で働く杏。夜間学校に通って勉強する頑張り屋。更生施設でも自身について正直に話せるようになります。

多々羅に心を開いた後、杏はクスリも売春もきっぱりやめ、これまでの人生を取り戻そうと純粋に努力を重ねます。

良くなりたい。成長したい。普通の生活がしたい。そんな思いが彼女の翼を大きく広げる原動力となりました。

お年寄りや幼い子供にやさしい杏。誰かに手を差し伸べることで、彼女自身が癒やされていくのが伝わってきます。

しかしそんな努力も空しく、再び母に腕づくで捕らえられてしまい、杏の心は壊れてしまいます。

包丁を手にして母に向かっても、結局母を刺せませんでした。幼い頃からずっと支配されて育ち、洗脳されていたからです。彼女の優しく孤独な心を思うと、胸が苦しくなります。

とうとう、シェルターのベランダから飛び降りてしまう杏。ベランダに向かう彼女の後ろ姿が脳裏に焼き付いて離れません。

個性的なキャストの魅力


(C)2023「あんのこと」製作委員会

真摯に懸命に生きる杏を体現するのは、最も注目を集める実力派、河合優実です。

薬物中毒の魂の抜けきった姿から、まだあどけなさを残す純粋さまで、あらゆる杏の表情を憑依させ、見事アカデミー賞最優秀女優賞を受賞しました。

虚空を見つめる表情は圧巻です。1ショットから杏の複雑な心情が伝わってきます。

杏を取り巻くキャストも個性派揃いで、人間くさい魅力に満ちています。

最も人間らしい強さと弱さを合わせ持っているのは、杏に助けの手を差し伸べる刑事・多々羅です。彼は薬物更生者の自助グループを主催しており、心から人々の社会復帰を望み、尽力していました。

しかし、実はグループを私物化し、参加女性に肉体関係を強いていたことがわかります。

彼は女性の物色が目的でグループを立ち上げたわけではなかったはずです。しかし、目の前にある誘惑にはとことん弱い男だったのでしょう。

実際にモデルとなった少女の更生に関わっていた刑事も性加害で逮捕されています。善と悪の二面性をこうもはっきり持つのは人間の悲しい性(さが)としか言いようがありません。

懐の深さがありながら、誘惑に抗えない人間くさい多々羅を、個性派の佐藤二朗が怪演しています。こちらも見事アカデミー優秀助演男優賞を受賞しました。

多々羅の疑惑を取材するために近づいた記者の桐野を稲垣吾郎が好演しています。刑事と孤独な杏と過ごす中で心が揺り動かされていく姿に胸打たれることでしょう。

演技派として知られる河井青葉が、杏の毒母で振り切った演技を見せ、杏の孤独を浮き彫りにしています。

まとめ


(C)2023「あんのこと」製作委員会

‟たしかに傍らにいた少女”を描くヒューマンドラマ『あんのこと』。

杏のような人はほかにもたくさん私たちの傍らにいたはず。それを強く訴えかける、入江監督の強い思いがにじみ出ています。

私たちは皆、コロナ禍を経験して、いつなにが起きるのかわからないことを実感しました。突然貧困に陥ることがあり得る恐怖にさらされたのは記憶に新しいことでしょう。

他者への痛みに目を向けたい、そして自分の経験したことを改めて胸に刻みつけたいと思わされる一作です。




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