人情と非情がぶつかり合う見応えある人間ドラマ
『七人の侍』(1954)の名匠・黒澤明が監督を務めた復讐劇。
汚職事件の隠蔽工作によって犠牲になった父の復讐を果たそうと、奮闘する男が描かれます。
主演は黒澤明作品常連の三船敏郎が務めるほか、志村喬、三橋達也ら名優が共演します。
上司の言うがままに命までも差し出す部下の役人たち。その悲劇をシニカルに綴る傑作の魅力をご紹介します。
映画『悪い奴ほどよく眠る』の作品情報

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【公開】
1960年(日本映画)
【監督】
黒澤明
【脚本】
小國英雄、久坂栄二郎、黒澤明、菊島隆三、橋本忍
【キャスト】
三船敏郎、志村喬、三橋達也、香川京子、加藤武、西村晃、森雅之、藤原釜足
【作品概要】
『七人の侍』(1954)の名匠・黒澤明による、黒澤プロ設立第1作。
当時社会問題となっていた政治汚職をテーマにした復讐劇です。
デュマの名作「モンテ・クリスト伯」を参考に、汚職事件の隠蔽工作により自殺に追い込まれた父のため、復讐に立ち上がる男をスリリングに描きます。
黒澤明作品で数多く主演を務める三船敏郎が、主人公西幸一を演じます。共演には志村喬、三橋達也、森雅之、西村晃ら名優が顔を揃えます。
映画『悪い奴ほどよく眠る』のあらすじとネタバレ

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土地開発公団の副総裁・岩淵の娘・佳子と、秘書・西幸一の披露宴が始まりました。
しかし、その直前に公団の課長補佐・和田が逮捕されたことにより、記者たちが押しかけ、披露宴は異様な空気に満ちています。
逮捕された和田に代わり、和田の上司の白井が披露宴司会を務めることとなりました。
公団のビルをかたどったウェディングケーキが運ばれてきました。その7階の窓にはバラの花が刺さっています。そこは、5年前に公団の課長補佐の古谷が飛び降り自殺した窓でした。
その頃、検察への謎の密告状によって、公団と大竜建設の贈収賄事件が摘発寸前まで進められていました。
映画『悪い奴ほどよく眠る』の感想と評価

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社会悪をリアルに映し出す傑作
政治汚職という大きなテーマのもと、黒澤明監督ならではの濃厚な人間ドラマが展開します。非情な結末が脳裏に焼き付く、衝撃的な一作です。
主人公の西は、汚職の罪を着せられて自殺した父の仇を討つために、公団副総裁の岩淵の娘婿となります。出世のために自分と母を捨てた父でしたが、自殺を前に自分に会いに来た彼の無念を思うと、息子として復讐に立ち上がらずにはいられなかったのです。
しかし、敵の岩淵はあまりにも非情な人間でした。しかも、自殺に追い込んだり、殺し屋を雇ったりする方法をとり、自ら手を下すことはしません。こんな男に、人情家の西が勝てるはずもありませんでした。
やがて大きな悲劇が訪れます。西の最期は、板倉の口から語られるにとどまります。私たちが目にするのは、割れた注射器、脱ぎ捨てられたコート、そして大きくつぶれた自動車と血痕。モノクロだからこそ尚更想像がかき立てられ、見ていないはずの西の鮮烈な最期が脳裏にこびりついてしまうのです。
共に行動していた和田、そして捕らわれていた守山の姿もなくなっており、彼らも消されただろうことが示唆されます。
やり切れない思いの中迎えるエンディング。一人生き残った岩淵は、上に立つ者との電話で、まだ明るい時間だというのに思わず「おやすみなさい」と言ってしまいます。しばらく眠っていなかったものですからと言い訳する岩淵。これからぐっすりと眠るのでしょう。
廃人になってしまった娘を悲しく見つめたのは恐らくはほんの一瞬のこと。自己保身に生きてきた男が、今更自分以外の人間をこころみる余裕などあるはずもありません。
しかし、気を抜けば簡単に消されるのは岩淵も同じです。獣となって罪を重ねて生きねばならない岩淵は、生きながらにして地獄に落とされたと言えるのかもしれません。
三船敏郎のあふれる色気

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黒澤プロ設立第1作である本作の主演を飾るのは、黒澤作品の立役者、三船敏郎です。
復讐と妻への愛の狭間で揺れる男を、あふれる色気で演じています。腹の底から出す野太い声は、三船の大きな存在感を実感させる魅力に満ちています。
主人公の西が抱える思いには常に「もどかしさ」がつきまといます。情に突き動かされて生きてきた西は、相手の命を奪えない自分の甘さに悩み、計略結婚したはずの佳子に愛情を抱いて苦悩します。
揺れ動く心情に苦しむ西の人間らしさがたまらなく魅力的です。
一人目の復讐相手である白井に対しては厳しい場面が続きますが、二人目の守山を監禁するシーンはとてもコミカルです。デュマの「モンテ・クリスト伯」を模倣して、自白と交換に守山に食事を与える姿がとても人間臭く描かれます。
戸籍まで交換してくれた無二の親友・板倉の存在も、作品に活気を与えています。こんな親友を持つことからも、西の温かな人間性と、情の厚さが感じられることでしょう。
わたし達がすっかり西の魅力の虜になったところで、彼は突然姿を消してしまいます。いつの間にか西という人間に惚れ込んでいたことに気づかされ、ただただ呆然とするしかない衝撃のラストシーンです。
まとめ

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黒澤プロ第1作を飾る、リアリティあふれる社会派作品『悪い奴ほどよく眠る』。
作品冒頭の結婚式シーンで登場人物紹介を見事にサラリとしてのける抜群の構成力や、人物を魅力的に描写する能力、そして観る者を引きつけて止まないストーリー。すべてにおいて、映画の真髄を見せるかのような傑作です。
150分という長い時間をかけて、西の人生を伴走したかのような思いになることでしょう。
また、自分の手を汚さずに人を抹殺していく岩淵の姿は、ボタン一つでミサイルを敵に撃ち込む権力者の姿に重なります。いつの時代にも存在する理不尽さに、胸を塞がれずにはいられません。



































