映画『悪い夏』は真面目な公務員が破滅へと転落するサスペンス!
第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人の同名小説を、『アルプススタンドのはしの方』(2020)の城定秀夫監督が映画化した映画『悪い夏』。
真面目に生きてきた気弱な公務員が破滅へと転落していく姿を描いたサスペンスストーリーです。
主人公の真面目な公務員を北村匠海、シングルマザーの愛美を河合優実、犯罪計画の首謀者・金本を窪田正孝、佐々木の同僚・宮田を伊藤万理華が演じています。
‟クズとワルしか出てこない小説”と言われる本作。ワルの世界にふさわしい気まずいシーンも激しい争いや恐喝場面もいくつかありますが、それでも主人公が気になりラストまで目が離せなくなる作品です。
本レビューでは、ネタバレありで原作との違いを解説していきます。
映画『悪い夏』の作品情報

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
【日本公開】
2025年(日本映画)
【原作】
染井為人『悪い夏』(角川文庫/KADOKAWA刊)
【監督】
城定秀夫
【脚本】
向井康介
【音楽】
遠藤浩二
【主題歌】
OKAMOTO’S
【キャスト】
北村匠海、河合優実、伊藤万理華、毎熊克哉、箭内夢菜、竹原ピストル、木南晴夏、窪田正孝
【作品概要】
真面目で気弱な福祉課のケースワーカーが、破滅へと落ちていく様子を描いたサスペンス。第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した染井為人の同名小説を、『アルプススタンドのはしの方』(2020)『嗤う蟲』(2025)などの城定秀夫監督が映画化しました。
主人公佐々木守に『法廷遊戯』(2023)の北村匠海、シングルマザーの愛美を『あんのこと』『ナミビアの砂漠』(2024)の河合優実、犯罪計画の首謀者であるヤクザの金本を『スイート・マイホーム』(2023)の窪田正孝、佐々木の同僚・宮田を伊藤万理華がそれぞれ演じています。
脚本は、『ある男』(2022)で第46回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した向井康介が担当しています。
映画『悪い夏』のあらすじとネタバレ

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
ある夏の日、市役所の生活福祉課に勤める佐々木守は、生活保護受給者の山田宅を定期訪問して、その後の就職状況などの聞き取りに行きました。
山田は腰痛持ちでそれが原因で就職先が見つからないと言います。毎日のように飲酒をし、パチンコもやっているようです。
ゴミ屋敷のような部屋のなかで、佐々木はため息をつき、「早く仕事を見つけるように」と言いました。
職場に戻ると、同僚の宮田から「職場の先輩・高野が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要しているらしい」との相談を受けました。
面倒に思いながらも断りきれず真相究明を手伝うことになった佐々木。その当事者である育児放棄寸前のシングルマザー・愛美のもとを訪ねることにします。
愛美は生活苦から友人の莉華に誘われて、いかがわしいキャバクラでアルバイトをしていました。その店へ高野が客として現れ、愛美のバイトがバレてしまったのです。
高野はその後愛美に肉体関係を求め、受給額から小遣いと称して3万円をピンハネしていました。愛美が断ろうとすると受給を止めると脅していました。
愛美はそのことを莉華に相談しました。莉華はヤクザの金本の愛人です。金本の配下には、佐々木が担当している山田もいます。
金本は高野の仕事を逆手にとり、ホームレスを集めて彼らに不正受給をさせその金を横取りしようと計画。愛美は高野を脅迫するために、彼との情事をビデオに撮りました。
高野はビデオを見せられて不正受給を手配するように金本から脅されますが、そんな時に、佐々木と宮田が愛美を訪ねて来ました。高野との関係を頑なに否定する愛美。
話の途中で愛美の娘と遊ぶことになった佐々木は、娘と「今度来るときにクレヨンを買って持ってくる」と約束し、その日は帰りました。
愛美はすぐに金本に、高野とのことを知った生活福祉課の人が自分を訪ねてきたことを知らせました。職場に知られたら自分の計画は出来ないとわかり、金本は計画は中止だと言います。
翌日、佐々木は愛美の娘へのプレゼントを持って、愛美宅へ行きました。不愛想ながらも応対をする愛美と佐々木になつき始めた娘に、佐々木は徐々に心の安らぎを覚え、次第に愛美に惹かれていきました。
どうしても高野が行ったことが許せない佐々木は、高野に「愛美とのことは知っているから、辞職しろ」と言いました。高野は離婚して辞職をしました。
映画『悪い夏』の感想と評価

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
真面目に生きてきた気弱な公務員・佐々木が、ひょんなことから破滅へと転落していく姿を描いた映画『悪い夏』。
この作品には、佐々木の職場の先輩・高野が生活保護受給者の女性に肉体関係を強要したり、生活保護を悪用しようとする裏社会の人間がいたりなど、本当にろくでもない輩ばかり出てきました。
また、佐々木が担当する生活保護受給者の山田は、ろくに仕事を捜そうともしないで受給金で遊びまわり、ヤクザの金本の手下となっています。
映画の中では、金本がオーナーとなっているキャバクラで、キャバ嬢が胸をもまれるシーンがあったりと、視覚的に気まずいシーンもかなりありました。
また、佐々木が愛美の事情を聞き出そうとしても核心に触れられなかったり、佐々木が犯罪に巻き込まれていく過程で、周囲に嘘をついたり誤魔化したりするところでは、佐々木の気弱かつ真面目な性格が、かえって状況を悪化させていく様子が浮き彫りにされています。
これらは、心理面において佐々木の弱さが出るシーンで、視覚的ではないのですが、ある意味気まずい場面と言えます。
そして迎える最悪のバトル。出そろった登場人物たちがそれぞれ自分の主張のために、標的とする人物に襲い掛かります。血みどろの殴り合いの果てにやっと騒動は収まるのですが……。
ラストシーンは原作と大きく違っています。原作では、佐々木は罠に陥って薬物中毒によって、生活受給者になっていました。事件と薬の後遺症で夏になると精神的な苦痛が蘇ってうつ状態になり、佐々木はまともに働けない身体になっていたのです。
それに反して、映画では、怪我から復帰した佐々木が、仕事を終えて、アパートの一室に帰る姿が映し出されます。
ドアの横には小さな子供用の傘がおかれ、それは愛美の娘のものと思われます。佐々木は愛美と娘と3人で幸せに暮らしているのではないかと、そんな明るい希望が持てるラストになっているのです。
原作とは180度違う佐々木の姿ですが、ワルとクズばかりの社会において少しでも明るい兆しが見えるラストシーンを用意したことに、監督の深い意図を感じることでしょう。
まとめ

(C)2025映画「悪い夏」製作委員会
城定秀夫監督が、日本の社会構造を皮肉に分析する染井為人の同名小説を映像化した『悪い夏』は、ふとしたことで闇落ちする公務員の姿を描いた作品です。
原作はラストの大バトルは映画よりも激しく描かれ、佐々木が堕ちる原因となる「薬物中毒」も映画ではカットされていますが、それでも社会の悪質な歪みを痛快に炙り出していました。
気弱な公務員・佐々木を演じる北村匠海や、ケースワーカーに脅されるシングルマザーの愛美役の河合優実のピタリとはまった演技が作品を盛り立てています。
「悪い夏」……。心の隙間に忍びよる‟悪”は、夏に限らずいつでもすぐそばにあるのかも知れません。落とし穴に堕ちないよう、用心が大切です。


































