Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

LGBTQ映画

Entry 2025/07/02
Update

映画『ハイポ』あらすじ感想と評価考察。《クィア・スリラー》はXYZ FILMS製作で監督自身の“病気不安症”経験をリアルに描く

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

クィア・スリラー映画『ハイポ』は2025年7月4日(金)より新宿シネマカリテで劇場公開!

本作が初長編となるアディソン・ハイマンが監督・脚本を手がけ、自身の体験を基に「Hypochondriac」=「病気不安症」を描いたクィア・スリラー。

「僕はママみたいに病気じゃない」……幼い頃、双極性障害を患う母親に、無理心中を図られた過去を持つウィル。成人し、親元を離れたウィルは同性の優しい恋人・ルークと幸せな毎日を送っていました。

しかし、接触を絶っていた母親から「恋人を信用するな」というメッセージが届き、次第にウィルは不安定になり、自分は重い病気を患っているのではないかという妄想に囚われていきます。

『ビバリウム』(2021)『神は銃弾』(2023)など、話題のジャンル映画を国内外に発信するアメリカの映画制作会社「XYZ FILMS」が解き放つクィア・スリラー。

孤独と不安に苛まれるスリラーというジャンル映画をクィアの主人公で描き出した本作を、ご紹介します。

映画『ハイポ』の作品情報


(C)2022 HYPOCHONDRIAC LLC. ALL RIGHTS RESERVED./Cinemago

【原題】
Hypochondriac

【日本公開】
2025年(アメリカ映画)

【監督・脚本】
アディソン・ハイマン

【撮影】
ダスティン・スペンチェック

【音楽】
ロバート・オールエア

【キャスト】
ザック・ビーヤ、デヴォン・グレイ、マデリーン・ジーマ、クリス・ダベク、ピーター・メンサー

【作品概要】
本作が初長編となるアディソン・ハイマン監督が、自身の体験を元に「Hypochondriac」=「病気不安症」を描いたクィア・スリラー。

『グッド・モウニング 人生最悪のハイな1日』(2022)のザック・ビーヤや主人公のウィルを演じ、恋人のルーク役には『NOPE/ノープ』(2022)のデヴォン・グレイ。

監督自身の体験に基づく本作は、2022年にSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)でのプレミア上映後、ファンタジア国際映画祭、フライトフェスト国際映画祭など世界有数のファンタ系映画祭で入選し、サンフランシスコ国際LGBTQ+映画祭(フレームライン)で審査員特別賞を受賞するなどLGBTQ+映画祭でも高い評価を受けました。

映画『ハイポ』のあらすじ


(C)2022 HYPOCHONDRIAC LLC. ALL RIGHTS RESERVED./Cinemago

幼い頃、双極性障害を患う母親に、無理心中を図られた過去を持つウィル。

成人したウィルは、両親の元を離れ陶芸の仕事をしながら、同性の恋人・ルークと幸せな生活を送っていました。

ある日、長い間接触を絶っていた母親から「恋人を信用するな」というメッセージが届きます。母からのメッセージに動揺したウィルは、その出来事を機に、精神が次第に不安定になっていきます。

そして、「自身の肉体は重い《病気》に罹っているのでは?」という妄想に取り憑かれていき、彼の背負う暗い過去が、《狼男》の姿となって再び心を蝕み始め……。

映画『ハイポ』の感想と評価


(C)2022 HYPOCHONDRIAC LLC. ALL RIGHTS RESERVED./Cinemago

クィアの映画監督であるアディソン・ハイマンの初長編作となる本作は、自身の体験を元に「Hypochondriac」=「病気不安症」を描いたクィア・スリラーです。

「病気不安症」は、自分の健康状態に対する不安から、些細な症状をきっかけに「自分は重大な病気にかかっているに違いない」という思い込みに囚われしまい、その状態が何ヶ月も続いてしまう心の病気です。

「僕はママみたいに病気じゃない……」

双極性障害を患う母親に、無理心中を図られた過去がトラウマになっているウィルは、家を離れ母親と連絡を経っていました。

母の存在を忘れ、過去のトラウマを封じ、乗り越えてきたはずのウィルは、再び精神的に追い詰められていきます。

母の存在に対する恐れは、自分が母のようになるのではないかという恐れにも繋がっています。重い病気に罹っているという妄想に囚われていく背景には、自分の精神に問題があることを認めたくないという思いもあるのです。

そのような精神的に追い詰められていくスリラーをクィアの登場人物で描いたことが、本作の魅力の一つと言えます。

20世紀の映画において、性的倒錯者として描かれてきたゲイから、『ブロークバック・マウンテン』(2006)では当事者が世間の差別から苦しむ姿を描くように変化していきます。

10年近く経った『君の名前で僕を呼んで』(2015)においても、主人公の初恋を通して描かれる性自認への葛藤と身近な存在へのカミングアウトへの怖さを中心に描かれていました。

そんななか、クィアの登場人物と世間の壁を主軸のテーマとして描くのではない映画も増え始めました。『ハイポ』もまさにその系譜と言えるでしょう。

クィアの当事者個人が、孤独やトラウマから妄想に取り憑かれていく姿をスリラーとして描いています。それは、スリラーというジャンル映画をクィアの主人公で描くという点においても意味があります。

全員がクィアの登場人物で制作されたミュージカル映画『ディックス!! ザ・ミュージカル』(2025)も、ミュージカルという映画のジャンルにクィアの可能性を広げた映画といえます。

LGBTQというカテゴライズ化された映画の枠組みを飛び越え、ジャンル映画とクィアの可能性を広げた『ハイポ』や『ディックス!! ザ・ミュージカル』(2025)のような映画は今後も増えてくるのではないでしょうか。

まとめ


(C)2022 HYPOCHONDRIAC LLC. ALL RIGHTS RESERVED./Cinemago

『ビバリウム』(2021)『神は銃弾』(2023)など、話題のジャンル映画を国内外に発信するアメリカの映画制作会社「XYZ FILMS」が解き放つクィア・スリラー『ハイポ』。

本作が初長編作となるアディソン・ハイマン監督が、自身の体験を元に「Hypochondriac」=「病気不安症」を描き、母との関係性だけでなく、恋人との関係性も描かれています。

孤独なトラウマを抱え、妄想に囚われてしまい他者との関係性に悩む姿は個人の葛藤であり、クィア映画が一つのジャンルになってきている昨今の中で、本作はそのジャンルの固定化したイメージに一石を投じる映画にもなっています。

クィア・スリラー映画『ハイポ』は、2025年7月4日(金)より新宿シネマカリテで公開!



関連記事

LGBTQ映画

中川駿映画『カランコエの花』で顧みるLGBT作品の系譜と2018年の現在

中川駿監督作品『カランコエの花』 (C)2018 中川組 2018年の米アカデミー賞にノミネートされた『君の名前で僕を呼んで』『レディバード』、外国語映画賞を制した『ナチュラルウーマン』など、LGBT …

LGBTQ映画

映画『ある少年の告白』あらすじネタバレと感想。同性愛の“矯正”治療をテーマに扱う問題作

同性愛の“矯正”治療を描いた問題作『Boy Erased(原題ボーイ・イレイスド)』 今回ご紹介するのは2019年度アカデミー賞有力候補、ラッセル・クロウ、ニコール・キッドマン、ルーカス・ヘッジズとい …

LGBTQ映画

映画『ユンヒへ』ネタバレ結末感想とラストの評価解説。韓国から小樽へ“手紙”がふたりの愛と人生を紐解く

韓国から小樽へ。心の奥にしまっていた恋の記憶を描き出すラブストーリー 韓国に住むシングルマザーのユンヒが受け取った一通の手紙。 手紙の差出人はかつてのユンヒの旧友であったジュン。20年以来の手紙には、 …

LGBTQ映画

LGBT映画『私の愛情の対象』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

ゲイの男性と普通の女性を通して、カップルとは何かを問いかけてくる作品『私の愛情の対象』。 いわゆるLGBT映画の1つで、主演はあの『アントマン』で一躍有名になったポール・ラッドです。 今回は、『私の愛 …

LGBTQ映画

映画『キンキーブーツ』ネタバレ感想と結末あらすじの解説。ドラァグクイーンと優柔不断な若社長が出会うハートフルコメディ

優柔不断な若社長×ド派手なドラァグクイーンのハートフルコメディ『キンキーブーツ』。 イギリスの田舎町の小さい靴工場の実話を基にジェフ・ディーンとティム・ファースが共同脚本。 『ロイヤル・ナイト 英国王 …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学